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024 一変

 杖の木の破片が宙を舞う。信じられないように目を見開いたカルの顔。無表情のクロエ。クロエが放った上段回し蹴りが、首に突きつけられた大きな魔法杖を粉砕した。


「やっぱり……規格外」


 カルは右手のひらに魔力を集中させ魔力弾をクロエに向けようとするも、一回転したクロエの蹴りによって腕の骨を折られ、痛みに顔をしかめる。


「……降参。これ以上は無理」


 骨折した両手を投げ出し、壁に背を預け座り込んだカル。諦めたようにそう宣言した。


「第一チーム、《黒雷》カル選手が何と降参しました! よってこれにて第一フェーズは終了です!」


 実況の声が響き渡る。クロエは身体から力を抜いて、カルを置いてハルの待つ待機場所へと向かっていった。


「……一つ、聞いてもいい?」


 立ち去ろうとするクロエの背に、カルの声。


「貴方はこの戦いに勝って、何を目指すの?」

「……」


 きっと、ただの好奇心で聞いたに違いない。不自然に脈打つ鼓動を抑えながら、クロエは背を向けたまま口を開いた。


「私にとって、幸せな未来」

「……夢があるね。頑張って」


 そしてクロエは立ち去った。敵からの称賛を背に。



  ❖  ❖  ❖  ❖  ❖



 ――やばい。やばいやばい。

 想像以上にクロエが強すぎた……。

 魔導具で中継映像を観ていたけれど、やはり第一チームは強い。最初に出撃してきたということは、多分カルは四人の中で末端の位置にいる。それに若干ながら苦戦を強いられるほどだった。

 魔法も凶悪そうなものばかり。黒雷たる所以が、用いる魔法ではっきりとわかった。


 だがそれ以上に、だ。

 クロエが強過ぎる。

 開始数分で運良くも悪くも遭遇し、食らったら死にかけない魔法を高い反射神経で避け、閃光による目潰しの中でも蹴りを確実に叩き込んだ。


「ただいま」

「お、おかえり……」


 完全に無傷な様子のクロエが、今帰還した。


「ど、どうだった?」


 思わずそう質問することも気が引けてしまう。

 いや、クロエが強いのは分かりきってたことだ。よく考えてみれば国を守護するような立場の聖騎士、しかも序列入りしてる人に恨まれて勝負挑まれてこてんぱんに返り討ちにしてるんだから。

 剣聖のチームの最弱を倒すくらい、彼女にとっては造作もない。そうに違いない。


「なんか、期待と違った」

「……弱かったの?」

「うん」


 弱かったらしい。そりゃ、戦闘開始からどころか試合開始から間もなく一人脱落したんだ。僕はそこの圧倒的なスピード、ということに気づいていなかった。


「《黒雷》カルってさ、クロエ知ってそうだったよね。どんな人なの?」

「カルは……」


 ボトルに入った水をたちまち飲み干すクロエ。袋入りの氷を目に当てて、先ほどの目潰しの痛みを治していた。


「……少なくとも、大会参加者の中では頭一つ抜けて強いと思う。降参って手段がなかったら、危なかった。あれは七人構成の剣聖パーティの中でも三番目くらいに強い。だいぶ前に一回遭遇して、ネチネチとした戦闘してきたから、かなり厄介」


 ……どうやらかなりの強者らしかった。上位四名が参戦しているとしても、そのうちの上から三番目。強さとしては中堅どころでも足りないくらいだ。

 それに、そんな人が三番目。二番目と剣聖はどうなっているんだとある意味で心配になるほどに、想像以上の強豪が揃っていたのだった。


「ま、こうして無事に倒せたんだし、これで四人のうちの一人は落ちた。あとは三人。問題は剣聖だけど……。クロエ、頑張ってくれる?」


 僕はクロエの隣に座り、彼女の頭を優しく撫でてあげた。隣に寄り添い、少しでもクロエの力になれれば。


「……ん。元気出た。これで頑張れる」

「無理しないでよ。正直勇者になれなくても、クロエの無事が僕にとっては大事なんだから」


 クロエが立ち上がった。その頬が赤く染まっていたような気がするが……。気の所為だと思う。


「もうすぐ始まるね。頑張って」

「うん。頑張る」


 僕は精一杯の笑顔で、クロエを送り出した。

 彼女は出入り口へと向かっていく。その背中が何処か頼もしい。


「三回戦第二フェーズ、間もなくスタートです!!」


 そんな実況のアナウンスが聞こえてくるとともに、彼女の姿は眩い外の光の中へと消えていった。



  ❖  ❖  ❖  ❖  ❖



 橙髪の女性は、静かに笑みを浮かべた。

 予想通り、計画通り、想像通り……。いや、それ以上に。彼女の内で、その存在は高まりを見せていた。


「嗚呼……。愛しき私の姫……」


 恍惚とした表情で、両手を頬に当てる。いつもは冷たい肌も火照ったような感覚で、堪えきれない感情に揺さぶられる。


「名前は……確か“ハル”、だったっけ。フフッ、フフフフフッ! なんて甘美な響きなんだろう……。いつかこの手であの清らかな肌に触れ、彼女の腕に抱かれる日がくる……」


 彼女の身体は、ドロドロと溶けていった。たちまち半透明の橙色に変わり、身体全体が粘性体へと変化していく。

 そして人間の形を保ったまま、彼女は真の姿を現した。


 スライム。ぷよぷよとした変幻自在の身体を持つ、魔物だった。

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