023 激突
四回戦は総当たり戦だ。各々のチームで一人ずつフィールドへと入場し、遭遇次第交戦する。全滅した二チームが脱落し、最終的に勝ち進んだ二チームが決勝戦への切符を掴める。
そして、問題の進出チーム。見事なまでに、ロティルの予想通りだった。
《剣聖》ロンド・ミラー率いる四人の第一チーム。
《幸運の申し子》シャルド・ラドクリフ率いる単独の第八チーム。
《廻る円環》コルヌ・ハーヴ率いる三人の第二十三チーム。
そして、《無名の新星》である僕の第十二チーム。
今、その熾烈な戦いの火蓋が切られようとしていた。
「さあ始まりました三回戦。全三十二チームを駆け上がってきた四チームが、それぞれ一人ずつ出撃し戦いを繰り広げます」
「今大会最有力であり、歴代最強と名高い剣聖ロンド選手も勿論勝ち上がっていますからね。他国で開催された大会優勝者である勇者コルヌ選手も、そして奇抜な戦い方で予想を裏切る勝ち方で進んできたシャルド選手、完全にその実力が未知数なハル選手と、今回はかなりの実力者が揃っているように感じます」
「誰が勝つか、全く分かりませんね。それでは、残り数分で試合開始となります!」
その数分後……。甲高いゴングの音と観客の歓声と共に、クロエは駆け出していった。他のチームも出撃し、三回戦が開始したのだ。
今回のフィールドは、岩や木で作られた遮蔽物の多いフィールド。身を隠すところも沢山あり、内部に設置してある物資ならば使っても良いという特別ルールが存在する。
脱落した仲間の回復はNG。だから、無いとは思うがクロエが万一脱落した場合、僕一人で戦わなければならない。そうなれば絶望的だ。
一人の脱落者が出ると、フェーズが終了する。その時点で出撃している選手は交戦無しで全員待機場所に戻らなければならない。その際の回復や強化も、勿論NGだ。
人数が多ければそれほど時間がかかる。長期戦を覚悟しなければならない。
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クロエは遮蔽物に身を隠しながら進んでいた。猫形態であれば、目視も簡単ではない。代償としてスピードは遅くなるが、体力の温存も兼ねての策である。
「第一フェーズ出撃者は、第一チーム《黒雷》カル選手、第八チーム《幸運の申し子》シャルド選手、第十二チーム《夜は黒き始期の幻影》クロエ選手、第二十三チーム《曙を告げる水音》リゼ選手です!」
実況のアナウンスが鳴り響く。目標は、自分を除く三人。クロエは全員、最低でも名前は知っていた。
(リゼ・サンデルシア……。やっぱり、コルヌがいるってことは)
リゼは彼女の旧友であり、かなりの強者である。故に戦い方も強さも熟知していて、ある意味では一番対処しやすい人物ではあった。
(でも、やだ。ハルの出番がないように、カルかシャルドから潰そう)
――と、そんなことを考えながら遮蔽物の影を渡り歩いていたその時だった。
頭上に広がる青空に、不自然に浮き出た紫色のモヤ。やがてそれは円を成し、次第に複雑な模様を刻み始めた。
「範囲攻撃……!?」
すぐさまそれに反応したクロエは人形態になり、飛び退いて範囲内から外れた。
直後、轟く雷鳴と視界を眩く照らす無数の雷。あっという間に乱気流が形成され、先ほどまでクロエがいた場所は黒焦げになってしまった。
「あらら、適当に撃ったのにまさかいたなんてね。黒髪に猫耳、もしかして今大注目のクロエって選手かな?」
積み上がった木箱の上に座る少女。赤と黒をベースにした魔導士のローブに、身長を有に超える長さはある魔法杖。彼女は、《黒雷》カル。
「流石はデリアを倒した俊敏性。こりゃ、私じゃ勝てそうにないね」
クロエを取り巻くように展開する、沢山の黄色の魔法陣。
「元素魔法、『盲目強閃光』」
強い光が放たれた。クロエの視界が真っ白に染まり、眼球と脳に強い痛みを覚える。平衡感覚が鈍くなって、足がふらつき始めた。
「じゃあね」
その言葉だけを残して、カルはクロエの意識の範囲の外へと逃げていった。
(……ッ! 逃さない)
まだ目は見えない。耳鳴りはするし、頭痛もする。だが、猫故か神経だけを研ぎ澄ますことは出来る。気配を必死に探り、ふらつく足を強く踏み切った。
「カル、ここで退場して」
「……まさか」
カルの居場所を補足したクロエはすぐさまそこに移動して、彼女がその気配を察知する前に強い蹴りを放った。横脇腹を深く抉るその蹴りは、彼女の小さな身体を地面へと叩きつける。
「痛たたた……。多重詠唱の結界を軒並み破壊するほどの威力、化け物じゃん……」
まるで平気なように強がってはいるが、肋骨が数本折れ、地面に衝突した際左腕が折れたことは本人が一番解っていた。
「今降参するなら、この程度で済むけど」
「フフフフフッ……。降参、かぁ」
ニコリと不敵な笑みを浮かべたカル。そして次の瞬間――
「形勢逆転、かな」
「なかなか、ね」
目の前のカルが忽然と蜃気楼のように消え去って、同時にクロエの首の後ろに、カルの杖の先端が突きつけられた。




