022 警告
「……で、なんで黒猫がそこにいるの?」
「なんで、だろう……」
王都某所のカフェテラス。欧風のタイルの白亜の景色が、風情があって綺麗だ。そよぐ涼し気な風。仄かに香る紅茶のフローラルな香りが、幾らか気持ちを落ち着かせてくれる。
口腔に広がる、甘酸っぱいオレンジの味。
僕はロティルと一緒にお茶をしていた。ロティルは紅茶を、僕はオレンジジュースを、パウンドケーキを茶菓子にして楽しんでいた。
目的は雑談。お互いに二回戦に出場していたため、その結果と情報交換に。
ところが、「ハル一人だと心配だから」と言ってクロエがついて来てしまった。ロティルにどんな顔をされるか、どんなことを言われるのか想像さえも出来るけど、どれだけ言っても留守番しようとはしてくれないから、仕方なく黙殺することにした。
「……なにそれ」
不機嫌なご様子のロティルが、僕の膝辺りを指差して言った。
僕の膝の上なんて、くるまって僕の撫で撫でになすがままにされている黒猫姿のクロエしかいない。それ以外に何かあったんだろうか。
「……? クロエですけど」
「そんな黒猫?」
「ええ」
……あ、そうか。そう言えばこれまで一度もロティルは猫形態のクロエを見たことがない。戦闘の時も人形態だったし、遭遇した時もせいぜい人か巨大化の姿だったはず。旅の道中でも頑なにクロエと絡もうとしなかったから、この可愛い黒猫を見たことがないのだろう。
「……何しに来たわけ? 黒猫」
「別に。ハルがいろんなことに巻き込まれるから、ボディーガード」
「そう」
あまりにも険悪なムードに、パウンドケーキも味がしない。
「……正直嫌なんだけど、黒猫がいる状態でこんなこと報告するのも。一応、勇者殿の進展の一部として報告させてもらう」
めちゃくちゃ嫌そうだった。眉間にしわを寄せて紅茶を啜っている。口調も乗り気じゃなさそうだし、よっぽどクロエのことが嫌いなようだった。
「勇者殿は、勝てた?」
「クロエが全員倒しちゃいまして」
「……そう。私のほうは剣聖に当たって、ギリギリのところで負けてしまった」
ああ、クロエの前で言いたくないと言っていた理由がわかった。煽られるからだろう。
たしかいつかの戦いの時も、散々に挑発されてそれに激情して乗っては返り討ちにされていた。もともと売られた喧嘩は買うタイプの人なんだろう。
煽られるのが嫌なのは、確かによくわかる。メンタルに追撃をかけられると本当に嫌な気持ちどころじゃ済まないから。
「剣聖って、それだけ強いんですね」
「強い。あれは到底人間じゃない。そりゃ強いとは聞いてたけど……。正直あんな化け物は思わないよ」
呑んだくれの愚痴のように漏らすロティル。角砂糖を山程入れた紅茶を一気飲みするほど疲れているらしい。
剣聖がどれ程の人物なのか……逆に興味が湧いてきてしまった。
「クロエ、何も言わないよ」
「何も言ってないけど」
「言おうとしたら駄目。相手が悪かったんだから、煽ったらもう撫でてあげないからね」
「言おうとしないって。私でも剣聖の凄さは解ってるから。私でも勝てるか怪しいのに」
なら相当の強さだと見受けられる。少なくとも、クロエが本気を出さずに負けたデリアや目の前のロティルよりも圧倒的に強い。
クロエの本懐がわからない以上は、その強さを推し量れないけれど。
「ちなみに三回戦出場の人たちって誰か分かりますか?」
「結果が公表されていないから、まだ何とも」
二回戦で八人、三回戦では四人減って残りは四人。二試合の結果は分かっているから、後はもう二試合が分かればいい。
「勝ち上ってくるとすれば、ならばある程度の予想は立てられるけれど。カードは分かってるから」
実は僕、他のチームのカードを知らない。どうやらロティルは全て把握しているようだけど、僕の場合は自分以外のを見ていなかったからだ。
「第一ブロックが、《死神》ザウスVS《幸運の申し子》シャルド。第二ブロックが、勇者殿VS《蒼き光芒》デリア。第三ブロックが、私たちVS《剣聖》ロンド。第四ブロックが、《人形劇》ソナタVS《廻る円環》コルヌ」
彼女曰く、第一ブロックの両者はどちらもソロだし実力も拮抗していて一見判断がしにくい。シリアルキラーで戦闘力を鑑みればザウスが勝ちそうな気もするが、運次第なのでシャルドが勝つ可能性の方が高いのだと。
第四ブロックは、全く先が読めない。ソナタの戦力が未知数な中、二人チームであるコルヌがどう動くかが鍵になるため、勝負次第ではのコルヌの勝利が有力ではないか。
そんな予想に辿り着いていたそうだ。
「……剣聖に当たったら、まず勝てないと思ってもいい。何せ最有力の優勝候補、というか人類において数えるほどしかいない最上位者だから。厄災級の何かが起こらない限り、戦っても勝ち目はない」
と、天文学的な偶然にまで頼れと助言する始末だった。
「……ま、頑張りますよ」
「目標は今大会優勝。次戦からは方法も変則的になるから、頑張って」




