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021 単騎

「お、お前は一体なんなんだ……」


 デリアの疑問に応えるように、黒髪の人物は視線を二人へと向けた。


「ただの黒猫、だけど」


 長い漆黒の髪、頭についた二つの猫耳、スカートの上部から覗くしなやかな尻尾、そしてマイペースそうな口調。黒猫と言われたら納得してしまいそうになるが、ただの黒猫がこんなに強いはずがない。


「嘘をつけ、黒猫が音速を越えて移動できるものか。さては魔獣の類いだな」

「デリア、どうする? 私なら拘束魔法で動きを止められるけど」

「任せた。万が一外れても速さ勝負なら勝ち目はある」


 女性は上着の陰から、小型の魔法の杖を取り出した。先端をクロエに向けて魔力を充電し始める。


「遅い」


 とそんなことをクロエが口にしたかと思えば、デリアの視界から二人とも忽然と消え失せていた。

 ガサガサッと派手に揺れる付近の茂み。デリアが慌ててそちらに視線を向けると、気絶し微動だにしない女性が茂みに横たわっていた。


 デリアは本能で危機感を感じ取った。明確な殺意。最悪それだけで人さえ殺してしまいそうな、命の危険。腰に差してある鞘から剣を抜いたデリアは、背後をくるりと向いて剣を身体の前で斜めに構える。


「……どうしてわかった」

「殺気だよ。お前の尋常じゃない気配が集中してたところを防いだだけだ」

「この速さに反応出来るなんて、想定外。もっと本気出すよ」

「上等だ、やってみろ」


 クロエの鋭い爪と剣の刀身がかち合い、甲高い金属音を鳴らす。丁度剣を構えたところに、直後彼女の攻撃が叩き込まれたのだった。

 挑発に乗ったのか、クロエはまた黒い残像を残し姿を消した。


「グ――ッ!?」


 鳴り響く鈍い殴打音。デリアは身体をくの字に曲げ、うめき声を漏らす。その腹部には拳がめり込み、痛覚よりも先に衝撃が脳を揺らした。


(この女の攻撃、尋常じゃねぇ――!? 上位魔獣、いや、魔王軍幹部にも匹敵すると言われる災害級魔獣じゃねえかこれ!? 運だけじゃない、この実力で勝ち進んだんだこいつらは……)


 直後、目まぐるしく回る記憶と予想の数々を痛みが全て掻き消し、視界は暗転。脳内の策略も思考も全て真っ白に塗りつぶされた。

 彼の身体は力なく倒れ伏せる。青い閃光を放つとされた剣は真価を発揮出来なければただの鉄の塊であり、災害の前には無力なのだ。


「……な、なんということでしょう……! クロエ選手、あのデリア選手のパーティを以てしてもその快進撃は留まるところを知りません! たった一人でチームを壊滅させてしまうとは、なんという強さ、なんという速さなんでしょう!」

「この戦い、よく見ていたら分かると思うんですけどね。文字通りというべきでしょうか、手も足も出ていないんですよ。その存在を認知できず、気付けば一撃を食らって意識を飛ばされている。そんな速さで移動できて且つ一撃で気絶する程の威力の拳を持つとは、彼女は兵器か何かなんですかね。いずれにしろ、まだまだ本気の力ではなさそうですから、その底知れない力を想像すればかなり恐ろしいですよこれは」

「ここで二回戦第二ブロックは終了です! 勝者はハル選手とクロエ選手の第十二チームとなりました!」



  ❖  ❖  ❖  ❖  ❖


 ……知らないうちに試合が終わってた。なんで?

 クロエが奥に行き過ぎたせいで木々に隠れて見えなくなって、その後戦場と思わしき方向からなんか音が聞こえるなど思っていたら、実況による衝撃の報告。

 嘘でしょ。


「ただいま」

「何やったのクロエ?」

「別に何も。速さ比べしてきただけ」

「いや、速さどころか噂の青い閃光さえ見えなかったけど。まさか一撃……?」

「ううん、一撃目は防がれた」

「二撃目で倒してるじゃん……」


 呆れを通り越して怖さまで感じるほどだよ、これは。


「……どうだったの、《蒼き光芒》と呼ばれる剣撃は」

「そんなに。私のほうが速かったし、仲間みたいな人たちなんて何も出来てなかったし。大した事ないなって」

「嘘でしょ」


 二つ名付いてるし、あの激戦の一回戦を突破してきたかなりの猛者のはずなのに。確か新聞にもかっこいい場面の写真や華々しいエピソードや紹介文が書かれていたはずなのに。

 まさかこんな簡単に倒されてしまうなんて、本人たちも信じられないだろう。


「まあ、勝てたからいっか。さ、そろそろ案内があるはずだから帰ろう」

「うん」


 もう考えるのをやめることにした。最早彼女の強さは計り知れない。それがどれだけ想像を絶していようと、常識の範疇から逸脱していようと、僕の当然と彼女の当然は違うのだから。

 驚き慣れてしまった。


「勝者のお二人は、門へと向かってください」


 木々の隙間から覗く門の柵が開いた。恐らく、同時にデリアのチームメンバーの救出が行われているのだろう。


「行こうか」


 僕はクロエの手を取って、二人で並んで歩き出した。



  ❖  ❖  ❖  ❖  ❖


 橙色の髪の女性は、試合の様子を眺めながら僅かな笑みを浮かべていた。


「……戻ってきていたんだね。我が師匠、《春眠暁を覚えず》魔王デイブレイク」

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