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016 新地

 アルバニスタ王国――王都。

 村から出発して二十日。ついに僕らは、王都に到着した。

 王都は人が多い。人口約二百万の大都市で、世界中の情報、流通、経済、人民の辿り着く場所。右を見ればずらっと立ち並ぶ屋台、左を見ればごった返す人混み。


「あっちいな……。相も変わらず人口密度が高い。加えてこの暑さじゃ、生鮮食品も駄目になってるだろうな」

「今その心配ですか副団長……。ひとまず今は、涼める中央広場へと行きましょう。日差しはどうにもなりませんが、噴水と小川が流れている分は多少マシかと」


 僕たちは、汗だくになりながら王都の大きく立派な街道を歩き切った。

 村を出発した頃はまだ春だったけど、一ヶ月程も経って夏の暑さが顕著になってきている。日差しは僕らを照らし、地面から放射される熱が、一回り身長の低い僕を熱する。


「ロティル、自分は本部に戻るとしよう。報告は諸々済ませとっから、お前は案内役として勇者たちを導け。ここから先は自分はつかねぇ」


 と言って、ジャスと複数の聖騎士たちは僕らと別れた。その他の聖騎士たちの中には旅の間に仲良くなった人もおり、暫しの別れを惜しみつつもその鎧の背中を見届けた。


「武闘大会は二日後から受け付け開始。その翌日から予選がスタートする。それまで時間がかなりあるから、各々自由に王都を散策してくるといい」


 ジャスに対しては敬語だが、僕たちに対しては冷たい物言い。やっぱり僕たち――特にクロエのことが嫌いなんだろう。

 宿を取りに行くと言って、ロティルは宿場街の方向へと歩いていった。


「んー、じゃあクロエ、自由行動だね。何処か行きたいところとかある?」

「水が美味しいとこ」

「そんなとこがあるんだ。じゃあ僕は、美味しいご飯屋さんがいっぱいあるって聞いてたから、そこ行ってみようかな」


 そう、今まで食べたこともない、知り得なかった素晴らしい料理がこの王都にはたくさんあるらしい。ちなみにこれは旅の途中に騎士の人たちから聞いたものだ。

 前世では食べられなかった数々の料理。病院食や流動食のような味気ないものじゃなく、さっぱりもこってりも自由自在な美味しい食事。

 ああ……考えただけで楽しみになってくる。


「じゃあ、三時間後くらいに中央広場で集合しようか」

「わかった」


 そして僕とクロエは一度別れることとなった。三時間後合流する約束をして。


 ――そして、それから三時間後のことだった。

 王都の各地を歩いて、僕は所謂美食と呼ばれる有名な料理を食べ歩いた。尚、ジャスや騎士さんたちに事前にお小遣いを貰っていたので、金銭には大して困ることはなかった。

 鶏肉の串焼き、ビーフシチュー、スムージー、BLTサンドイッチ、具材たっぷりの野菜スープ、フライドポテト、カニのアヒージョ、キーマカレー、ミートソーススパゲッティ、そしてアイスクリーム。

 もうお腹いっぱい。


 そうしたら――


「ヒヒヒッ、そんでそんでなぁ、――ん?」

「んだ、このクソガキ。邪魔くせぇな」

「このガキ、いい身なりしてんじゃねぇか、あ? 金も持ってそうだしなぁ。おいクソガキ、その財布寄越せば見逃してやらんでもないぞぉ? ヒャッヒャッヒャッ!」


 チンピラ三人組に絡まれました。

 アイスクリームを食べるために日陰で座ろうかと思って路地裏に入ったら、見るからに不良で下品そうな三人組が僕に向かって下卑た笑いを漏らしながら、話しかけてきたのだ。

 うーん、どうしよう。向こうはナタとか持ってるし、最悪怪我しても治るから強行突破もありなんだけど。


「おうおうおう、なんか言えよ。なんだぁ? ビビってチビッちまったか?」

「小綺麗な身なりに美形、財布持って一人で買い食いかよ。攫って身代金せしめるのもいいし、なんなら奴隷として売り払うのも手だなぁ!」

「ヒヒヒッ。そりゃあいいや。丁度つまんねぇと思ってたしなぁ、酒代もなくなってきたからなぁ!」


 僕は一切無反応だった。微動だにせず、三人の方に視線を向けながらアイスをただペロペロと。

 溶ける前に食べるとはわかってたけど思ってたより溶けるのが早くて、アイスを食べるのが難しい、ということのほうが今大きい。


「やめといたほうがいいかと……」

「あ? クソガキ如きが何生意気な口聞いてんだよ」

「一発殴ってわからせてやろうか?」


 などとふざけたことを抜かすチンピラたち。

 僕が敢えて警告を出すのは、理由があった。今現在の時刻は、集合時間から二十分も過ぎている。偶然よりも小さな確率かもしれないが、僕には確信があった。


「うがっ!?」


 ほら、来た。


「お前なんだ――がはっ!?」


 ドサリと重いものが地面に落ちる音。後方の二人が、数秒も経たない内に倒れた。前方の男は何が起こっているのか分からずにあたふたする。


「お、おいてめえ、何もんだ!?」


 ナタを手に握る男。だが奴が次に何か行動を起こす前に、顔面に痛烈な蹴りをくらい沈黙した。


「そろそろかと思ってたよ、クロエ」

「心配したけど、大丈夫そうでよかった」

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