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風を聴く者  作者: 李
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第2話 銀の王

ルガ・ヴォルーー

その名はまだ誰の口からも語られていなかったが,リィナはその姿を見た瞬間に悟っていた。


あれが,夢に出てきた”銀の獣”。

あれが,自分を呼んでいた存在-―。


銀の毛並みが朝の光に淡くきらめき,風にたなびくたてがみが

まるで光の奔流のように揺れている。

その瞳は,深く澄んでいて,それでいて刃のような鋭さを宿していた。


カイは言葉を失っていた。

リィナの隣で,ただ,手にした弓をわずかに震わせながら立ち尽くしていた。

「…こいつが,おまえを呼んでいたもの,なのか?」

リィナはうなずいた。

ゆっくりと一歩,また一歩と,銀の獣に近づいていく。

ルガ・ヴォルは逃げなかった。威嚇することもなかった。

ただ,静かに彼女を見つめていた。


ーーリィナ・エルン。

風を聴く者。魂に獣を宿す者よ。


言葉ではない”声”が頭の中に響く。

ルガ・ヴォルの声は,まるで彼女の胸の奥から聞こえてくるかのようだった。


ーーおまえに問う。

命を背負い,血を受け,この身と共に戦う覚悟はあるか。

風の声を聴き,我と共に在ることを望むか。


リィナの心が震えた。

それは恐れではなかった。

むしろずっと求めていた”何か”が,ついに形をもって目の前に現れたような,そんな感覚だった。


「…私は…」

言いかけたときだった。


バァン!

爆発音とともに地面が揺れた。鳥たちが一斉に飛び立つ。

森の先にある村の方向が白く煙っていた。

火の見やぐらが倒れ,村の入口の門が崩れ去っていたのが見えた。


「火が…村が!」

カイが弓を握り直す。

「リィナ,行くぞ!村が危ない」

リィナはルガ・ヴォルを見た。

そして,彼の銀色の瞳の奥にある,何か深い決意のようなものを感じ取った。

彼は頭を低くし,彼女の前にその広い背中を差し出す。

「…乗れって言ってくれているの?」

ルガ・ヴォルは,ただ静かに呼吸を整えるように,うなずく気配を見せた。

「わかった。――行こう,ルガ・ヴォル!」

リィナを乗せたルガ・ヴォルは一気に丘を駆け降りる。

その速さは風そのもの。草木の間をまるで流れる川のように進んでいく。

カイは,驚きに目をみはるが,慌てて獣の後を追った。


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