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「それでね、ジークは薬で辛い体なのにね、私に自分の嫁になる気は無いかと言ってくれたのよ。自分はただの騎士だけれどって!自分が何とかするからって言ってくれたの!辛い体なのにっ!」


 嬉しそうに語るアーシャにミナはお茶をテーブルに置いてうんざりしながら頷いた。


「その話、まだします?もう聞き飽きましたよ」


「いいじゃない!何度しても!私とっても感激したの」


「良かったですねぇ。明日姫様と第三王子の婚約の調印式ですけれど、お相手変わったと聞いておりませんが……。本当にジーク殿は自分が何とかすると言ったんですか?」


 ミナの言葉にアーシャは自室の天井を見上げる。


「言っていたわ!」


「本当に?ジーク殿は仕事の手柄を上げたくてそう言っただけじゃないんですか?このまま第三王子と結婚すればジーク殿の昇進が決まるとか」


「だって、自分はただの騎士だけどそれでもいいかって言ってくれたのよ」


 あの日の言葉が嘘だと思えずアーシャはミナを睨みつけた。

 

「女盗賊を数人で偵察に行ったりしているから、本当は昇進目当てじゃないんですか?第三王子から逃げられないようにしているだけかもしれませんよ?」


「後でお兄様達と会うからその時聞いてみるわ。確かにミナの言う通り明日が調印式ですものね。ジークに何かあったのかもしれないわ」


 明日を楽しみに生きてきたが、さすがに何の変化も無い。

 相手が変わったなどという話も出ていない。

 浮かれていて絶対に大丈夫だと思っていたが、何も状況が変わっていないことに焦りが出てくる。



 もやもやした気持ちのままアーシャは兄が待つ部屋へと向かった。

 たった数日であるがジークが傍に居ないのが不思議な気持ちになって立ち止まった。


 シャーロットやマレーンのお気に入りの侍女や騎士が居なくなったことで廊下を行き交う人は気持ち少くなったように感じる。

 それでも、アーシャの事を見てコソコソ噂話をするような侍女は一人も居ないことに気づく。


「ずいぶん過ごしやすくなったわね」


 田舎の館ほどでないが、城の中は少し前よりだいぶ良くなっているようだ。


 そんなことを考えながらアーシャは兄と会う部屋へと向かう。

 ドアの前には騎士が立っており、アーシャを見ると笑みを見せた。


「ドウラン様とマーガレット様、いらっしゃってますよ」


「ありがとう」


 騎士が開けたドアを軽くお礼をしながらくぐり、中へと入る。

 部屋の中心に置かれた大きな机に窓を背にして二人は並んで座っていた。

 アーシャが部屋に入るとドウランとマーガレットは笑みを見せて迎えてくれる。


「お久しぶりね。調子はどうかしら?」


 アーシャは二人の前の椅子にテーブルを挟んで腰を下ろすとマーガレットが美しい笑みで聞いてくる。


「お陰様で、元気です。マーガレット様、ご体調はいかがですか?」


 アーシャが聞くとマーガレットはお腹を軽く摩った。


「そうねぇ。お腹も変化なしだけれど元気いっぱいよ。嫌な奴も居なくなったし!」


 確かにエリザベスが居なくなったことは嬉しいが、アーシャの気分はそれどこではない。

 モジモジしながら兄とマーガレットをチラリと見た。


「あのね、お兄様。明日なんだけれど、何か変わったりした?」


「心配するな。変わりなく順調に進んでいる」


 穏やかに言うドウランにアーシャはがっかりした気分になる。

 第三王子野との結婚は変わらず進んでいるという事だ。


「お兄様、お相手って第三王子?」


 俯いて小さく言うアーシャに首を傾げつつドウランは頷いた。


「そうだが?」


「あのね、私、第三王子様と結婚したくないんだけれど……」


 勇気を振り絞って言うアーシャの言葉を聞いてお茶を飲んでいたドウランが噴き出した。

 飲み物が器官に入りゴホゴホと咽ているドウランの背を摩りながらマーガレットが眉をひそめた。


「どうしてかしら?」


「第三王子が嫌っていう訳じゃないの。ただ、好きな人が出来てしまって……」


 真っ赤な顔をして言うアーシャにマーガレットは目が落ちるのではないかというぐらい開いて驚いている。


「はぁぁぁ?一体誰なの?」


 突っかかってきそうな勢いで聞いてくるマーガレットをドウランが咳き込みながらも止めに入る。

 今更、第三王子以外の人と言うのはどうかと思ったがアーシャも譲れない思いがある。


「その、ジーク……なんですけれど……。女盗賊を捕まえた時に、ジークが自分と結婚する意志があるかと聞かれて。私、ジークと結婚できると思ってその気になっていたんだけれど、お相手が変わったと言う話も無いし。ジークが何とかするって言ってたから、どうにかなると思って……」


 小さい声でボソボソと言うアーシャの話を聞いてマーガレットは机を力いっぱい叩いた。

 

「なるほど!話はよーくわかったわ。すべてはジークが悪い」


 咳き込んでいたドウランがアーシャに向き直った。


「アーシャ、知らなかっ……」

「ドウラン様は黙って!あのバカなジークがすべて悪いのよ!明日、あのバカがどうするか見てやるわよ」


 マーガレットの迫力にドウランは思わず頷いている。

 アーシャは二人のやり取りを見て不安になってくる。


「あの、私はどうしたら……」


「大丈夫よ。第三王子の顔を見て嫌なら私に言ってちょうだい。私の可愛い弟ですもの、アーシャちゃんが嫌だって言っている事は伝えてあげるわ」


「当日なんて!失礼になりませんか?」


 そんな話は聞いたことが無い。

 不安そうなアーシャにマーガレットは自信満々に頷く。


「大丈夫よ。私の母国ですもの、あちら側が怒ったりすることは無いわ。アーシャちゃんが嫌なら断ってくれていいの。弟はねぇ、ウチの両親だって期待してなんていないのよ。当日に嫌だって言われても”やっぱりね”って感じだから気にしないで」


 マーガレットに断って大丈夫だと言ってくれてホッとしてアーシャは笑みを見せた。


「ありがとうございます。もしかしたら、ジークに何かあったのかもしれないし。信じたくないけれど、もしかしたら私勘違いをしていたのかもしれないし……。明日、もしかしたら状況が変わるかもしれないですし」


「そうね。たとえジークが何とかしていても、アーシャちゃんが嫌になる可能性もあるし!嫌になったら遠慮なく言ってちょうだいね!嫌な相手と結婚する事は無いから!」


 マーガレットにはっきり言わてアーシャは不安が少しだけ軽くなった。

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