第7話 最後になにが残る
「こちらです」
森の中、いつも通り転送された俺たちはマークの後ろをついて歩く。
「ねえ我無、今日は何を賭けるのか先に決めておきましょう?」
「そうだなあ。最近新メニューが入ったって聞いたからなー。それを賭けるか!」
「あの新メニューね! ふふっ、今、たった一瞬で、この私の脳内には何千通りもの予想が弾き出されたわ。この勝負、この高位悪魔フォルナの勝ちよ」
(まだ捕食対象すら見つけてないのにどうやって予想を弾き出したんだか)
そんなことを話しながら森の中を進んでいると、後ろを歩いていたクノスのことが気になった。
俺とフォルナがこんな感じなのはいつものことだが、なんだかやけに静かだ。
「クノス、どうかしたか?」
「なあ、我無。やっぱり私には無理だ。血を見たら失神するなんて……とてもじゃないが我無のサポートはできない」
「なに言ってるの? 自信が足りないってことかしら? それなら、私が特別に悪魔パワーを少し分けてあげてもいいけれど……少しだけよ?」
「はは、自信がない……か、確かにそのとおりだ。今までもこの性格のせいでたくさん失敗してきたんだ。また、失敗したらと思うと、どうにもな……」
その性格で魔剣士やってるってことは、なにかそうせざる得なかった事情があるのだろう。
「なあ、クノス。俺は何度も言ってるが、そんなこと———」
「みなさん!! 急接近してきます!!」
マークの声に全員身構えた。
ものすごく大きい足音だ。
地面を使って巨人の手がドラムロールしているような。
それがこちらに近づいてくる。
まさか先に感知されたのか?
なぜ?
いつもは俺たちのほうが先に見つけるのに。
「ここは足場が悪い! 移動するぞ!!」
その足音の反対方向へ逃げるように移動した。
向かった先は木々が生い茂る平地。
障害物としては上等だ。
巨大化して的のでかいあいつにしてみれば、立地ではこちらが有利なはず。
「マークとフォルナは茂みに隠れてろ! クノスは俺のサポートをッ!?」
と言いかけた瞬間。
ケルベロスは真っ先にクノスの方へと向かっていった。
おそらくクノスを強敵として認知していたのだろう。
縄張りに入った瞬間にわかるよう、匂いを記憶していたのかもしれない。
「———!? ぐはっ!」
「クノス!!」
考え事をしていたのか、棒立ちになっていたクノスはケルベロスの鋭い鉤爪を食らった。
ギリギリ、その反射神経で鞘を前に出し、身体への直接ダメージは避けたようだが……。
「ぐっ」
その衝撃で弾き飛ばされ、木に背中を打ち付けた。
「「「グウォオオオオオオオオオーーーン!!」」」
雄叫びを上げたケルベロス。
次の標的は俺だ。
あいつは俺のことを舐めているのか、そういう縛りプレイでもしているのか。
いつもの小ブレスをゆっくり焦らすように吐いてくる。
風魔法ウィンドで体勢移動、シャキーンと展開した円盾でガードを繰り返しなんとか耐え凌ぐ。
「グルルルル?」
「グガアアア!!」
「グッググン!」
あいつら、完全に俺で遊んでやがる。
ローテーションで一頭がブレスを吐いて、もう二頭は会話を楽しんでやがる。
畜生ッ!!
だが、俺だって考えなしに移動とガードを繰り返していたわけじゃない!
「おい、クノス! 立てるか?」
「ご、ごめん……」
クノスの前まで移動した俺は、クノスを背にヤツと対峙している。
クノスは出血はしていないようだ。
「こんなざまだ。結局私なんて、戦闘じゃなんの役にも立たない。他の剣士はこうじゃない。私だけお荷物なんだ……」
「おい!! そんなこと言ってる場合じゃッ———」
ケルベロスが吐いた中ブレス。
あれは俺じゃ防ぎきれない。
後ろにはクノスがいるし……クソ。
「あっ———!?」
立ち上がっていたクノスに俺はダイブ。
そのまま風魔法で飛距離を伸ばし、攻撃をかわした。
しかし、二人分の重量を見誤った。
風魔法が弱すぎたのだ。
俺たちは体勢を崩す。
とっさにクノスの頭を盾で守った。
「が、我無、もういい。実験を続けて。私はリタイアする。もう気力が……」
「……さっきからよぉ!!」
「!?」
俺はクノスに背を向けると声を上げた。
これは怒りだ。
クノスへの怒りじゃない。
過去の自分への怒りだ。
「グダグダグダグダ、自分にできないことばっかならべて、他人と比較して、それでなにか解決するのかよ!」
「そ、それはそうだけど、で、でもどうしようもなくて……」
「人間どうしようもないことなんていくらでもあんだよ!! どう頑張ったって、改善しないことなんて、いくらでもあんだよ!!」
「それなら意味がない!! どう頑張っても!! ……解決しないなら、私はその程度の人間だったって……」
ケルベロスが大ブレスを放った。
俺はそれを、怒りの割には冷静に対処した。
自分の内面と会話しているような気持ちだったからなのかもしれない。
土魔法でできるだけ多くの壁を展開、それが駄目なら風魔法で対抗。
それも駄目なら、またクノスにダイブすればいい。
幸いなことにケルベロスとの距離は遠かった。
「ロックウォ―ル!!」
全面に歪な土の壁を無数に展開した。
我ながら酷いできだ。
全く形になってない。
だが、壁の役目は防ぐこと。
見た目じゃない。
「ウィンドボール!!」
ファイアボールの風属性版を放った。
上半身位の大きさ。全然威力は足りない。
だが、勢いが低減したやつのブレスの軌道をずらすには、これで十分だった。
『ワフッ!?』とケルベロスが驚いている。
軌道をズレたやつのブレスは俺とクノスの後ろで爆発した。
「が、我無。お前は凄い、成長できる。でも私は違う。この欠点は一生治らない。私はそちら側の人間では———」
「おいクノス!! お前さっきから! ごちゃごちゃごちゃごちゃ!!」
「!?」
絶体絶命の戦況の中、俺の大声に対しクノスは黙り込んだ。
「一生治らない欠点抱えて、悩みながら、それでも進めばいいんだよ!! 進むしかないんだよ!! 改善する必要なんて、ねぇんだよ!!」
「…………………………………………………………」
クノスからの返答は無い。
俺はダメ押しで口を開いた。
「そうすればきっと、できることだけが残るはずだろ?」
落ち葉が握りつぶされるような音がした。
クノスがいま後ろで、どんな顔をしているのかはわからない。
ただ、ふつふつと湧き上がる闘志を、俺は背中でヒリヒリと感じた。
どうやら渾身の鼓舞は成功したようだ。
「クノス、いけるか」
「……ああ」
ケルベロスは雑談をやめ、その6つの目をこちらに向ける。
三頭から黒天へと放たれる無数のブレス。
これはどう考えても俺じゃ無理だ。
でも!
「白滅流……滅界」
クノスは走り、飛び上がった。
ブレスが空中で一列になる時、最高点に達し、速度がゼロになったその地点で、
彼女の刃が一瞬光った。
消滅するブレスの欠片とともにクノスは着地する。
「クノス!!」
「我無、私は血が無理だ。怖いもの無理だし、グロいもの無理だ。でも、私にできることは、あのブレスを止めるくらいは……それならできる」
「ああ、それで十分だ!! どうせ俺は死んでも生き返るしな!!」
前に立つクノスを見ると安心感がものすごい。
よし、これなら、大技いけるんじゃないか?
流石に危機感を感じたケルベロスは、三頭を一点に集中。
特大ブレスをこちらに向かって放った。
俺はそれを見て地面に両手を当てる。
現状、もっとも高威力のロックガン。
これをさらに限界まで、威力を高めてやつにお見舞いしてやる。
集中、集中、集中。
土魔法で形成した土に、風魔法を送りとにかく回転力をあげる。
脳が焼き切れそうだ。
自分の中に存在しない力を搾り切っているような感覚が襲う。
目の前ではブレスが放たれる音、それがかき消される音が繰り返される。
が、それは俺の問題じゃない。
俺はひたすら回転力を高めた。
そして……。
「クノス!!」
「わかった!」
「いっけぇぇえええええええええええええええええええええええ!!」
最後に強力なウィンドを送り、ロックガンを射出した。
それは目の前のクノスの横スレスレを通り、ケルベロスに向かう。
目で追えない速さだ。
それは、奴の三頭のうちの真ん中。
その頭を消し飛ばした。
「っしゃあああああああ!!」
弾け飛ぶ脳髄、首から溢れ出るドス黒い血。
俺の心は歓喜の色に染まった。
「クノス?」
「大丈夫。見てない」
彼女はケルベロスに背を向け、耳を塞ぎ、こちらを向きながらそう返事した。
(ははは、やってやったぜ!!)
「おい! 犬公!! てめえの大事な兄弟、俺がぶっ殺したからなあ? 肩がスースーするかもしれねえけど、二人で傷舐めあって、慰め合えよな!! まだ、二つ頭あるけどさぁ、二つあればまだ自分で自分の機嫌は取れるだろ? ははは。よっしゃ、次はゼロから新技食らわせてやるよ!!」
俺の脳内はドーパミンドバドバ状態。
サイコーッにハイってやつだった。
それもそのはず。
俺を散々痛めつけてきたケルベロスの頭を吹き飛ばしてやったんだから。
俺は両手を前に出し、新しい技のイメージを固める。
クノスの技がかっこいいと思ったから、俺も風魔法でソニックブームみたいのをだしたい!!
だしたいよー!!
よし、それでいこう。
(風風風風、衝撃を飛ばすイメージで……)
と念じていたら、円盾の様子がおかしい。
いつもと色が違う。
真ん中のクリスタルが無秩序に点滅を繰り返している。
【◼︎◾︎◼️◾️◻️】
(あれ?もしかしてこれやばい感じなのでは? 不具合か? 不具合なのか? ……あっ、これ、暴発ッ!)
前にいるクノスに被害が及ぶと思った俺は、咄嗟に腕を地面に向けた。
すると、地面に放たれる風魔法。
その衝撃で前方まで飛ぶ俺の身体。
きれいな放物線を描きながらケルベロスの前に着弾する俺。
きょとんとするケルベロスと俺は見つめ合った。
(…………そうだ! 拳闘士になろう!)
拳で戦う俺はモンクだ!
静の状態が維持できないなら、常に拳からゼロ距離で攻を発散し続ければいいんだ!
わー俺って天才だぁ。
「がむー大丈夫なのか?」
背中をこちらに向けて、状況が伺えていないクノスはそう言った。
いや、全然大丈夫じゃないです。
ケルベロス、近くでみるとめちゃでかいです。
ちきしょ!
やってやるよ!!
俺にできることを!!
「おらああああああ、ゼロ距離ファイアパンチィィ!!」
ボフッ。
ダメージは入ってるような気がするが、どうなんだろう?
もうどうでもいいや。
どうせ俺、死ぬんだし。
「あ、あ、ああ、っつちょっと、待ってください、お願いします!! 謝ります、謝りますからああああ、兄弟に花束おくりますからああ、だから、ひと思いににいい、頭から、がぶぶっと、ガブッとおねがいしますううううううううううううう、うがっんんnぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああうがっあああああああああああああああああああああんげっああああああ」




