第45話 ジョジョジョジョ―!?
《ここが...…ダンジョン…...?》
ずぶ濡れになった俺はたもや装備を脱いで絞っていた。
大量の水が垂れる音がダンジョン内に響く。
「どこからどう見てもダンジョンだろ? いかにもな雰囲気が漂ってるじゃないか」
ダンジョンの入口付近で雨宿りしながら俺は言った。
ダンジョンの奥へと繋がる一本の通路にはご丁寧にその両脇の燭台に青白い火がつけられている。
その怪しげな光はまるで俺たちを誘い込んでいるようだった。
こういうのって誰がつけてるんだろう。
この灯火がダンジョンが生きてる証とかだったら面白いよな。
「せっかく見つけたんだ。早速入っていこう」
《え? いきなり? ちょっと休憩とかしなくてもいいの?》
俺も休めるものなら休みたいところだが…...。
「万が一反対方向からあいつらが先に潜ってて危険な状態になってたら大変だろ? その可能性は大いにあるからな。早く俺たちも潜った方がいい」
そう。
万が一フォルナ達が先に反対方向から潜っていてピンチになっていたらまずい。
俺が先に潜って死ぬ分にはあとからきたフォルナによって蘇生ができるからまだ大丈夫。
だがその逆はないからな。
「心の準備ができててもできてなくても行くぞ」
《私なら落ち着いたからもう大丈夫よ。だからもう外さないでよね》
そんなツンデレみたいなセリフを吐いたテナーデンとともに、俺はダンジョンの中へと潜っていった。
ダンジョンの中は薄暗く、無造作に敷き詰められた石とそのボロボロ具合がこの場所の年季を感じさせた。
しばらく何もない通路をビクビクしながらも歩いていると、俺はあることに気がつく。
(そういえばフォルナは魔女の部屋にあったこのダンジョンの攻略本を持ってたよな...…ってことはもしかしたら結構早く進んでいるのか?)
仮にフォルナ達が先に潜っているとしたら俺よりも進むスピードは早いはず。
それならばこちらもすぐに追わなければ。
そう思った俺は走り出した。
「フォルナ達に追いつくために走るぞ。多少の罠は気にしてられない」
《そ、そうね! これでも魂だけになったせいか魔法なんかには敏感になってるからなにかあったら私が知らせるわ!》
心強い魔力感知センサーも手に入れたところで俺は意気込んでダンジョンの角を曲がった。
右へ左へ左へ右へ。
すると、
「あ...…」
「「「あ」」」
そこに居たのは開かない扉の前で右往左往している三人だった。
なんだこいつら...…こんな間抜けズラだったのか…...。
「が、我無...…」
「久しぶり」
クノスと目があった俺は挨拶を交わす。
彼女の口角は自然と上がった。
「ぼ、ぼ、ぼ、ボスぅぅぅぅ!!」
なんだかこの前もこんなことあったなあ、と俺に角ごと突っ込んでくまのっぺを見て思った。
俺は同じ轍は踏まない男。
闘牛に対し冷静な対処をした。
彼女の猛烈な突進を両手でガッチリと角をつかんで止めたのだ。
「さ、再開の喜びはこちらも同じだが...…少しは自重してくれないと…...」
止めた..….が、まのっぺの突進力はかなり強い。
やはりバーサーカー、筋力もなかなかのもので.…..。
「ぼ! ぼすううう!!」
「んなあああ!? お前力強過ぎ———って!?」
押された俺は床の石のズレにかかとを引っ掛けて尻もちをついてしまった。
その俺の上にまのっぺがのっかる。
「ボス―!! てっきりおぼれ死んでしまったかと思って心配しましたよー!」
抱きつくまのっぺの感触を上半身に感じながら、これは無理に引きはがす方が危険だと思い、そのまま立ち上がった。
しがみついたまのっぺに離れる気配はない。
今の俺の装備は装衣『まのっぺ』である。
その装備をしたまま俺は、扉の前で攻略本とにらめっこしているフォルナに話しかけた。
「よ、高位悪魔さん、元気してた?」
まのっぺ虫をひっつけたまま俺は聞いた。
「あなたもまだ生きてるとは相変わらず悪運の強い変態ね…...」
彼女もこちらをちらっと向いた。
「へへへへ」
「うふふふ」
《再開を喜んでいるところを邪魔して悪いのだけれど、その扉を開かないと奥に進めないのよね?》
俺がフォルナと不気味な笑みを浮かべているとテナーデンに止められた。
確かにその通りだ。
今はダンジョン攻略に集中しないとだよな。
「それで、お前たちはどれくらいここで立ち往生してたんだ?」
「そんなに長くないわよ。雨が降ってきたから私達も急いでこのダンジョンに入ってきたのよ」
雨が降ってきてからってことはほんの少し前か。
ってことは一時間も経ってないな。
「攻略本にはこの扉のことはなんて書いてあるんだ?」
「それが、さっきから探しているんだけどこの扉についての記述がないのよね。ほらちょっとこの扉さわってみなさい」
フォルナに言われたので俺は触ってみた。
そしてダンジョンの壁にも触れてみる。
「ね? 材質がちょっと違うでしょう? どうやら新設されたみたいなのよ」
確かにフォルナの言う通り扉の方は壁よりも新しい感じがする。
ってことは魔女が攻略した後に誰かが付け加えたってことか。
でも一体誰が?
なんのために?
「それじゃ現状この扉を開ける方法はわからないってことか。それならクノスに斬ってもらえばいいじゃないか?」
まあ、理由なんてどうでもいいか。
俺たちはここを突破できればそれでいいわけだし。
「ああ、まあ、行けなくもないが...…斬ってもいいのか?」
「え? なんで?」
クノスはそんなことしてもいいの? という顔で聞いてきた。
「だってこのダンジョンのマスターがギミックや仕掛けなんかを用意してるんだろう? それなのに強引に突破するなんてなんていうか...…ちょっと悪いというか…...」
え?
もしかしてこの世界ってそういうダンジョンの流儀みたいなのがあったりするの?
『ダンジョンはダンジョンマスターに敬意を払って攻略すること』みたいな?
いやそんなこと言ってる場合じゃないだろ。
「そのとおーり!! 我こそがこのダンジョン! のマスターである!!」
そんな事を考えていると、自称ダンジョンマスターが床から生えてきた。
半透明の身体に伸びきった長い髭、特徴的な仮面をつけたゴーストだった。
それも見て驚いたクノスは『ひゃっ!?』と言って俺にしがみつく。
俺の装備はまた一つ増えた。
「待ちわびた! 待ちわびたぞ我は! この幾数千年...せっかく我がこのダンジョンを手に入れて手に塩を掛けて大事に育てて来たというのに!! なぜだ! なぜお前たちはまったくこのダンジョンにこないのだ!!」
ゴーストなのに顔が赤くなりそうな程に憤慨しているダンジョンマスター。
なるほど。
話を聞く限りどうやら、龍封の地が盟約によって内地と隔てられ立ち居入り禁止になる前からこのダンジョンのマスターをやっているようだ。
それはつまり無人島で飲食店を経営するようなもので……、
「ご愁傷さまです」
同情した俺はぽつり呟いた。
「なぜ同情!? と、とにかく!! 貴様らを苦しめるたくさんの仕掛けをこの先に用意してある!! どうだ? 聞きたいか? え? 聞きたいだろう?」
俺の周りをぐるぐると回るゴーストはもう話したくて仕方がないと言わんばかりの雰囲気だ。
鬱陶しい長い髭が揺れている。
数千年振りの会話なのだろう。
興奮するのも仕方がない。
だから俺は聞いてあげた。
「そうですね。あ、その前に一番手っ取り早くこのダンジョンを攻略する方法ってありますか?」
「一番手っ取り早く...…だと? 貴様!! ダンジョンの礼儀を知らんのか!」
知らんわ。
「ダンジョンとは謎解きあってのもの! その謎解きの先にバトル! そして仲間との深まる絆! そういったものを乗り越えて攻略することに意味があるというのに!! これだから若者は!! きいっ! それともこの数千年で世界は変わってしまったということか!?」
めんどくせぇ。
「それなら別に教えなくてもいいですよ」
「いーや教えてやる!! 我は怒ったぞ!! だから貴様にこのダンジョンの攻略法を教え! それが達成不可能なことであると突きつけてやる! どうだ? これで絶望感はさらに増すだろう?」
この人、数千年人とあってなかったせいかテンションがおかしいし、ちょっと頭イッちゃてるんじゃないか?
と思いながらも教えてくれるというので俺は黙って話を聞いた。
「まず! このダンジョンには核が存在している。周囲から魔素を吸収しダンジョンモンスターを生み出したり、このダンジョンを維持したりしている優れものだ! これも我がまだ生きていた頃に大金をはたいて修復したものでな。普通サイズのダンジョンでは必要ないのだが、このクラスになるとあったほうが便利になってくる。その核のお陰で我はこうして実体なき今も、ゴーストとなってこのダンジョンのマスターをしているというわけよ! ジョジョジョー!!」
笑い方もイッちゃってる。
笑い方ジョジョジョってなに?
やっぱりずっと一人でいるのは精神衛生上よくないんだな。
俺も気をつけよう。
「で? その核はどこにあるんですか?」
「はっ? この生き急ぎものめ! 核を壊せば確かにダンジョンはクリアだ。モンスターも発生しなくなる。その核の場所はな..….」
ダンジョンマスターの仮面がくるくる回転する。
「核の場所は?」
「ぴったりこの方角だ!! ジョジョジョー! なんだ? 地図でも書いてやると思ったのか? そんなことするわけ無いだろう? ジョジョジョーン!!」
仮面の回転がぴたり止まると、ダンジョンマスターはそう言って二本の腕でダンジョンの核がある方向を指さした。
それは目の前の扉からちょっと斜め下へ向けての角度だった。
どうやらダンジョンの深部に核はあるようだ。
その動きを見ると、俺の装備、装衣「まのっぺ」はゆっくりと俺から離れて動き出す。
「それよりも! そこに行き着くまでの絶望的な道のりを教えてやろう! それを聞いて怖気づいて帰っても構わないのだぞ! ジョジョジョ―!!」
高笑いするダンジョンマスターはその後も息を切らさずダンジョン解説をする。
まのっぺの動きを見た、俺とフォルナとクノスは自然と彼女にスペースを開けた。
俺の装衣『まのっぺ』は、自分がやるべきことをキッチリ把握しているようだ。
「まず! 待ち構えるのは命一つじゃ到底脱出できないほどの迷路! 出現モンスターこそ弱いが知恵と勇気を試される! ここを攻略できれば中級ダンジョンマスターを名乗っていいだろう! …...だが? 次に待ち受けるのは実力勝負の強力なモンスター達! ここでは付け焼き刃など通用しない! 真っ向から挑みパーティーで力を合わせ攻略に向かうのだ! そ、そうすれば...…はぁ、はぁ、はぁ」
ゴーストなのに息を切らしたダンジョンマスター。
俺はここぞと言わんばかりにまのっぺに命令を出した。
「あっちだってよ」
「りょーかいですっ!!」
「はぁ、はぁ、まだ解説の途中なのだが———」
「貫通砲ペネトレーションロア!!!!」
直後、ダンジョン内を強烈な風圧とともに極太のレーザー光線が一直線に貫いた。
突貫工事とはまさにこのこと。
奥のほうでパキンッ! となにか硬いものが砕けた音が聞こえると、
「は? な...…え?」
ダンジョンマスターは耳が遠くなったじいさんみたいな声を上げた。
彼がそんな声をあげるのも無理はない、だって今、目の前で、自分のダンジョンが一瞬でクリアされてしまったのだから。
「まのっぺ。ちゃんと挨拶しとけ」
「ダンジョンマスター! 貴重なお話ありがとうございました!」
まのっぺはきれいに45度お辞儀をする。
貴重なお話をしてくれたおじいちゃんには、それがどれだけ心底つまらない話だったとしてもちゃんとお礼は言わなきゃいけないよな。
さよならだ。
ダンジョンマスター。
「な...…え? わ、我がなぜこんな目に? …...な…...なぜだあああああああ!?」
叫んだダンジョンマスターは彼のダンジョンに心地いい叫び声を響かせてドップラー効果と共に消えてしまった。
ダンジョンクリアである。
「よっし。なんかよくわからないけどこれでダンジョンクリアだな! まのっぺよくやったぞ」
「やった!」
まのっぺはキャッキャと喜ぶ。
今回に関しては彼女のお手柄だ。
《容赦がなさすぎるわ......》
若干引き気味にテナーデンはそんな感想をこぼした。
いや確かにあのダンジョンマスターの気持ちもわからんでもないよ。
でもさ。
それ俺たちと関係なくない?
———
突貫工事が終わったダンジョンを俺たちは進む。
まのっぺが開けた大穴を斜め下へと降りているのだ。
「お前らーもしかしたらまだ生き残りとかがいるかもしれないから気をつけろよー」
ダンジョンマスターが消えたということは核はもうないだろうが、油断は禁物だ。
階層になっていたダンジョンを串刺しにした大きな穴を降りていく。
なんだか蟻の巣をホースの水で強引に水没させてしまったような静けさだったが、安全第一だ。
ダンジョンの流儀とやらはまた別の機会に学ばせてもらおう。
そう思いながら降りていると、核と思われるものが砕かれている場所までやってきた。
ここがゴールのようだ。
「よし。そしたら手分けして回生の石を探し出して、テナーデンを復活させるぞ」
頷いたみんなと一緒に手分けしてその部屋を捜索した。
だが、出てくるのは宝箱に詰まった宝石やクリスタルなどで回生の石..….それらしきものは見当たらなかった。
しばらく捜索したところでこの部屋にはもうなにもないと結論づけてフォルナに聞いてみた。
「その攻略本にはなにか書いてないか?」
「ちょっと待って。....…確か最後の方に...…あっ、あったわ! 読むからみんな集まりなさい」
攻略本を開いたフォルナの周りをみんなで囲む。
そこから始まったのは崩壊の魔女が大昔にこのダンジョン攻略をした後のお話だった。




