第44話 雨と洞窟
なんとか入れそうな洞窟を見つけた俺はその中に入った。
といっても奥までいって未知のモンスターに遭遇するのは嫌なので入口付近で暖を取る。
雨は降っていたが幸い風はそんなに強くなかった。
「それにしても魔法ってのはほんとに便利だな」
ライターのように火の魔法を出すと、適当に拾ってきた枝に火をつけた。
湿っていた枝は風の魔法を吹き付けてカラカラに乾かした。
「この雨が止むまでは待機か」
俺は一瞬さっきの翼竜を一匹くらい狩っておけばよかったなーと思ったが、いや、あのモンスターを美味しく調理するスキルなんて俺にはないしなーとも思い、とにかく腹を空かせていた。
《彼女達は大丈夫かしらね?》
テナーデンは相変わらず俺の腕にひっついている。
そんなに俺のことが好きなのかな? と思ったが、そういえばこいつはブレスレットに閉じ込めれた魂状態だった。
「あいつらならなんとかやってるだろ。戦闘力だけなら俺より全然上だしな。ただ...…ちょっと癖が強いだけで…...。ちょっと頭の弱いぽんこつ高位悪魔に、血を見ると失神するむっつり魔剣士だろ? ......それにちょーっとだけ血の気の多い勇者希望の魔族っ子だ。…...うん。全然問題ないな」
《あなた、今、自分で言ってて問題大アリなことに気が付いたわよね? 途中から声が震えてたわよ…...》
いーや。
問題ないね。
あいつらならきっとやらかしてくれるはずだ。
ん? やらかして?
「ま、まあとにかく。あいつらの心配よりもこっちの心配の方が大事だ。あっちはフォルナがいるからな。死んでも最悪なんとかなる。それよりもここから目的地のダンジョンまではあとどれくらいかかるかわかるか?」
《流石に距離まではわからないけれど、でもあなたは川に落ちてから結構流されてたから…...もしかしたら目的のダンジョンまでかなり距離を稼げてるかもしれないわ》
なるほど。
不幸中の幸いというか、川に流されたことによって目的地には近づいていたというわけか。
俺はそんなことを考えながら記憶のなかにあったセエレから渡された地図を思い出した。
確か、目的のダンジョンは二本の川に挟まれた場所にあったからもしかしたら俺はその川の一本に落ちたのかもしれない。
ってことはダンジョンにたどり着くためにはこの川を下るだけで本当によさそうだ。
「とりあえず。今できることは何もないし、俺は寝る」
そう言った俺は硬い地面に身体を倒した。
快適なベッドとは言えないが、ひんやりしていてこれも悪くない。
仮眠を取るにはこれくらいでちょうどいいだろう。
《よくこの状況で寝ようと思えるわね…...》
「お前は死んでるから睡眠欲とかないだろうけどな。こっちは生者ですからね? ちゃんと睡眠欲も食欲も性欲も性欲もあるんですよ」
《それはそうだけど…...って、ん? 今性欲って二回言わなかった?》
「とにかく俺は眠りたいので寝る」
そう言った俺はまだ喋りだしそうな雰囲気があったブレスレットを外そうと手を触れた。
すると、
《外さないでよ…...》
と、ベッドの隣に寝ている彼女が「離れないでよ…...」と言うみたいなトーンでそんなことを言われてしまう。
俺も罪な男になったものだと思ったが、
よく考えてみたら今思い浮かんだたとえは完全に俺の脳内妄想だったし、言ったのも彼女じゃなくて腕についてる魂ブレスレットだった。
「ちょっと外してぽっけに入れるだけだよ。お前が喋ると腕に振動が伝わるんだよ。ブルブルって」
例えるならスマートウォッチの通知バイブルみたいな感じ。
《私……こわいのよ...…》
「急になんですか? 俺だってこわいんですけど? 洞窟で野宿してブレスレットに向かって独り言なんて...…はたからみたらヤバいやつですよ。これってちゃんと現実ですよね? ちゃんと会話してるよね? 俺の脳内———」
《そうじゃないの!!》
外の雷鳴が洞窟まで響くのと同時、彼女は叫んだ。
どうやら本気のようだ。
俺こういう真面目な話し苦手なんだよな。
「......こわいってなにが?」
それでも俺は、これ以上茶化しても意味ないなと思い聞いた。
《それは...…死ぬのが怖いのよ》
「死ぬのが?」
《誰だってそうでしょう? 私なんて二度死ぬ思いをするようなものよ...…》
そうか。
確かテナーデンは病死してそれから魂をこのブレスレットに移されたんだよな。
例えるなら少し強引な延命治療みたいなものか。
まあ、こっちは復活する手立てがあるだけまだマシともいえる。
「そんなこと言われてもな、俺は賢者じゃないしそれに対する答えなんてもってないぞ」
誰だって死ぬのは嫌だよね。
それが嫌じゃないなら生物として正常じゃない状態にあるといえる。
《そんなことわかってるわよ。だから離れないでって言ったんじゃない》
人肌恋しいってやつか。
「で、実際のところテナーデンは復活したいの?」
復活したらしたで三度目の死が待っている。
形あるものはいつか消えるのだ。
星だって消滅するしな。
《それはしたいわよ。だってまだやり残したことたくさんあるもの。食べたいものだってあるし、行きたい場所だってあるし、...…こ、恋...…とか? もしてみたいし…...》
俺は彼女の年齢がいくつかは知らないが、恋してみたいっていうことはそのくらいの年齢なんだろう。
あー俺も恋してぇ。
切実に。
《それに、自分で言うのもアレだけど、お金持ちの家にしかも美形で生まれたのよ? それなのに病気で突然死んじゃうなんてもったいないじゃない!》
「ほんと自分で言うのはアレだな..….。まあ、俺は正直でいいと思うけど」
彼女の清々しい意見が洞窟に響いた。
《だからこんなところであなたに死なれたら...…うっ.…..困るのよ......うっ...…うっ.…..》
「うぇっ? ちょっ、え? なに? な、泣いてるの?」
急に泣き出したテナーデン。
その声を聞いて、俺は驚いて身体を起こした。
ど、どうして?
今回の過酷な旅のせいで情緒不安定になったか?
それとも俺のせい?
ど、ど、ど、どうしたら.…..。
「あの、きゅ、急に泣かれても困るんですけど...…?」
クソッ!
実体の女の子の慰め方なら俺の脳内データベースに様々なギャルゲーからその方法が保存されていたのに!
目の前で泣いているのは魂だけのブレスレットだ。
どうすればいい?
ブレスレットを撫でればいいのか?
よしよしって?
《べ、別に泣いてないわよ...…うっ、うぅ、泣いてないぃ...…うっ…...》
「いやちゃんと泣いてるじゃねえか!!」
あーくそ!
どうすればああ!!
あーもぉーわかんない!
わかんないよー?
頭がクラクラしてきたよー?
頭がパンクしてIQ3になってさらに目が点になってしまった俺は、何を思ったのか、洞窟の中から雨が降る外へと飛び出していた。
必死に走る。
ただ走る。
《ちょっと...…なんで.…..うっ..….急に外に飛び出してるのよ…...》
「俺もよくわかんねえよおお!」
あーわかんない!
泣いた女の子をどう慰めれば?
そんなことを思いながら必死に走った。
しばらく走り、雨にずぶ濡れになってほんの少しだけ正気を取り戻した俺。
テナーデンから《うっ、うぅ...…なんで..….》と鼻をすすっているような俺に答えを求めているような、そんな声が聞こえた。
なんて返すべきかわからなかった俺はテンプレートのようなカッコいセリフを吐いた。
というかそれ以外出てこなかった。
「お、お前の泣き顔もこれで少しはマシになるだろ?」
いつだか読んだ少女漫画でキザな顎のやたら長い男が吐いていたセリフだ。
《私、魂だけだから泣き顔とかないけど..........》
クソッ!!
言わなきゃよかった!!
は、恥ずかしい...。
《ぷっ、あはははは!!》
今度は急に笑い出したテナーデンにとうとうこいつも壊れたかと俺は思った。
水が変なところに入っちゃたのかもしれない。
防水じゃなかったか?
「お前まで変になるのはやめてくれ!」
俺は叫ぶ。
《..….変になってなんかないわよ! ただ......」
「え? なんですー?」
《ありがとうって言ったのよ! この変態!》
(なぜ感謝?)
なぜかよくわからないが感謝された俺。
その理由を考えながら走っていると、崖際に石造りの神殿のような場所を見つけた。
人生をゲームに捧げてた俺にはそれがなんなのか一瞬でピンときた。
俺は飛んだ。
川の対岸に向かって全力ウィンドで勢いのまま。
「ちゃんとつかまってろよ!!」
《え? なに? きゃあああああ》
増水した川を高跳びのように飛び越えると、見事に着地...…することはなく。
雨で湿った地面をボーリングのピンのように転がって神殿の階段に頭をぶつけた。
「いだっ」
《ちょっと!? 大丈夫?》
俺は頭を振って顔を上げる。
目の前の崖にはむき出しになっている建造物。
「想定よりも早く目的地についたみたいだ」
そこにあったのは何本もの太い柱が支える石造りのダンジョンだった。




