第39話 これが精鋭?
俺たちは古びた部屋の中にいた。
転移したのだ。
窓は開きっぱなしで陽の光が差し込んでいる。
「クズね」
「さ、最低だ……」
「流石です! ボス!」
《変態じゃないの!》
転移早々三人から先程の行為についての意見を頂いた俺。
清々しい顔で返答した。
「なんとでも言うがいいさ。だがな、お前らもあんまり俺をこき使ってるとどうなるか……覚えとけよ」
大きな荷物を背負った俺からそれを言われた三人。
各々が反応を見せる。
フォルナは『この悪魔。そんなことしたら死刑よ』と蔑んだ目を向け、
クノスは『な、な、なにをするの...…?』と素の口調でもじもじしだし、
まのっぺは『望むところです!』とファイティングポーズをとり、
もう一人は《どうしてこんな男に依頼出したのよ》と怒った。
…………。
ん?
あれ?
なんか一人多くね?
「今なんか、誰かの声聞こえなかった?」
俺の問いに時間差でみんなも異変に気づき始めた。
きょろきょろ全員で顔を見合わせる。
まのっぺなんて指で何回も数えて人数が足りないことに頭を捻らせている。
《ここよここ! ここにいるでしょう》
その時、声がした方向へと全員が一斉に顔を向けた。
そこには……。
「ブレスレット?」
俺の腕につけたブレスレットだった。
「私よ私! テナーデン・メイデンよ!」
「あのぉー誠に恐縮なのですが...…どこのどちら様でしょうか?」
俺は間違い電話を掛けられた時の対応を見せる。
「察しが悪いわ! エイデン・メイデンの死んだ娘よ!!」
魂をブレスレットの石に閉じ込められた娘さんだった。
声が大きい。
「それにしてもあなた! さっきから見ていれば大人げないし、女性に不埒は働くし、それに———」
そこまで喋ったところで俺はブレスレットを右手で抑えた。
まだ掌の中でブルブル何かを言っているようだが今は無視。
しばし黙っててもらおう。
「おい。なんかこの魂喋ってるんですけど。死んでるんじゃないの?」
真顔で聞いた。
「私に聞かれても困るわ。専門家じゃないんだから」
フォルナも不思議なものを見る顔でブレスレットを見つめている。
「なんていうか...…思ってたよりも元気な死者なんだな...…」
クノスがぼそっと呟いた。
確かに、喋るとしてももう少しおしとやかでもいいと思う。
エイデンが言ってた虫も殺せないというお嬢さんというイメージはどこかに吹っ飛んだ。
しかしこのまま押さえていても仕方がない。
ブルブル振動しているブレスレットから手を離し、魂との会話を試みた。
《っぱあ! ちょっと無礼よ!無礼!この私を誰だと思っているの!私はね———》
また押さえた。
なんだろう。
とてもうるさい。
電池の切れないおしゃべり人形か、こいつは。
「おい。今から手を話すから。ゆっくり、そしてちょっと声を抑えて状況を説明してくれ」
俺は再び魂との会話を試みる。
《っぱあ! ……ふざけるんじゃないわよ! この不届き者!! 私の声を抑えて一体なにす———》
俺はまた押さえた。
「まのっぺ。このブレスレットの石、食べていいぞ」
「ほんとですか!!」
《!? わっ、わかった。わかったから...…その小さいモンスターに渡すのはやめて!》
うちの怪獣をけしかけてなんとか生意気な魂を鎮めた俺。
ようやく会話へと入る。
「それで、なんで喋れるんだ?」
《私にもわからないわよ。死んだと思ったらこんな石に閉じ込められて、なんだかよく分からない変態男の腕にはめられて...…私は今、命の危機を感じているのよ!》
「いやもう死んでますけどね」
《うるさいわね! とにかく、私の死体が腐らないうちに早く私を復活させなさい!》
最っ悪だ。
ただでさえ生存確率の低い地域にやってきてるっていうのに、腕には喋る生意気魂少女。
一体どんな罰ゲームだこれは?
「わかった。わかりました。それじゃとりあえず作戦会議するんでちょっと黙っててくださ———」
《そんなの無理よ! 私は魂だけの存在なのよ! もういつこの意志がなくなるかもわからないのに黙ってるなんて———!?》
外して落とした。
どこに?
俺はうるさいブレスレットを黙らせるある画期的方法を思いついたのだ。
ブレスレットはパンツの中にストンと落ちた。
「よっし。それじゃ作戦会議始めるぞ。まずは現在地の確認だな」
絶句してるフォルナとクノスの二人を無視して俺はリュックの中から地図を取り出し、机の上に広げた。
下半身では『なああああああああああ!!』という声が聞こえないでもないがそれも無視する。
「まず、セエレが書いた座標によれば現在地はここだな」
地図の印、セエレがつけたものと思われるそれを見て、努めて冷静に俺は述べた。
かなり古い地図なのか今にも破れそう。
「で、次は地形の確認だな。この地図によればここから西に川がながれてるみたいだけど...…クノス、何か見えるか?」
部屋の窓際にいたクノスに聞いてみた。
「う、うん。見てみる」
クノスは窓の外に身体を乗り出した。
そんな彼女の突き出された美しいヒップに感動を覚えていると、下半身から『まじで最悪、死ね...…』という声がしたような気がしないでもなかった。
「ちゃんと川が流れてた。場所はここで間違いないようだな。そして私達がいるのはどうやら塔の上のようだ」
クノスは窓の下を覗いていた。
俺は静かになったブレスレットをパンツの中から取り出し、再び腕につけ戻した。
ちょっとほかほかしてた。
「じゃあここは塔の中にある部屋の一室ってことか...…」
思案しているとまのっぺが俺の服をつんつんと引っ張る。
「ボス、見てくださいこれ」
彼女が指さした先には大量の本が詰め込まれた本棚があった。
どれも古びた背表紙でほこりをかぶっている。
この塔の所有者のものだろうが、そもそも所有者なんているのか?
いたとしてももう生きてはいないのでは?
俺は適当に一冊の本を抜き取ってみた。
が、やはり読めない。
もしかしたら日本語でかかれてるかもーなんて思ったがそんなことなかった。
「クノス、これ読んで見てくれ」
俺は本をクノスに投げ渡す。
それを見事にキャッチした彼女はページをめくった。
「……んー? これは私が知ってる言語じゃないな。何語なんだこれは……?」
彼女は頭を捻りながら窓の外から吹き付ける風に、艷やかな銀白色の髪をなびかせている。
水色の瞳を本に落とし、このワンシーンだけで映画がつくれそうな雰囲気だった。
「じゃ、フォルナ博士。読んでみてくれよ」
俺が言うと、クノスがフォルナに本を投げた。
彼女もそれを見事にキャッチする。
「博士って、まあ確かに私の知識量は半端じゃないけれど、おだててもサリナスは出ないわよ」
「いいから早く読んでくれ」
その知識量でその頭なら本当に悲しい。
が、やはり高位悪魔なだけあってその美貌はピカイチだ。
この人も本を読むだけで絵になるタイプの女性だ。
「えーっとなになにー。……あ、これは古代文字ね」
やっぱり昔の文字だったみたい。
古代の秘密が書かれてたりするのか?
「ふんふん。なるほどなるほど。これは魔女の日記みたいね」
と、思ったら日記でした。
フォルナはページをペラペラと捲る。
「魔女って誰?」
「えーっと、あ、最後のページに書いてあるわね。『執筆者、魔女カノン』...…あ、崩壊の魔女ね」
「あー崩壊の魔女すか」
《ほうかいのまじょ!?》
うるさっと思ったらブレスレットが叫んでいた。
ほんとこの魂はせわしないな。
もう死んでるのに。
《じゃ、ここは崩壊の魔女の一室ってことなの?》
俺の左腕でブルブルと震えたブレスレット。
彼女の言うようにここに日記があるということは、昔ここが魔女のすみかだった可能性は大いにあるだろう。
「フォルナ。ちょっとこの部屋の本棚の本を漁ってみてくれ、もしかしたらダンジョン攻略に関する本があるかもしれない」
「わかったわ。任せなさい」
腰に手を当ててフォルナは本棚の本を見つめる。
大量にある本を前に、果たして彼女はどう戦うのか...…。
「そしたらその間、俺たちはこの塔を探索するか」
「ああ、わかった」
「了解ですボスっ! 探検ですね!」
フォルナをその部屋に残すと、俺たちはこの塔の内部を調査することにしてみた。
まずは扉を開けて部屋からでる。
すると目の前には階段が螺旋状で下まで繋がっており、上には続いていない。
ここで行き止まりだ。
ということはフォルナがいる部屋がこの塔の最上階ということだろう。
「暗いなぁ」
壁沿いに設置された松明には火がついておらず、階段の先は真っ暗で何も見えない。
これじゃ罠があったとしても気付けないな、
「それならこれを使うか?」
と思っていたらクノスが鞘から剣を抜き出した。
彼女の流魔剣は彼女の瞳と同じ色の光を発し、暗闇を照らした。
そうだった。
彼女は光の剣士だった。
「おおー便利だな、それ」
「ふふっ、そうだろ?」
自慢げな顔でクノスは笑った。
光に照らされた顔は、月を反射する水面のように美しく、気を抜いたらひょろっと恋をしてしまいそうになる。
そんな彼女の顔から目をそらすと、俺は頭を振って現在の目的を思い出した。
そうだ。
ここにはダンジョンを攻略しにきたんだった。
気を引き締めろ俺!
「よし! そしたらまのっぺ! お前に先陣隊長を任せる。クノスの剣の光が届く範囲で俺たちを先導してくれ!」
「わかりましたボス! 先陣隊長任されました!」
まのっぺは両腕をブンブン振って俺たちの前を行進した。
『ボスと冒険~冒険~』なんて歌っている。
これはそんなまのっぺを囮に罠を回避しようという作戦だ。
我ながらナイスアイデア。
俺たちは罠を回避できて、まのっぺは一番乗りで冒険を楽しめる。
みんなが幸せなルートだね。
《あなた...…本当に終わってるわね...…》
なんて呆れた声がブレスレットから聞こえてくるが、気にしない。
みんなが幸せならそれでいいだろ。
しばらく螺旋階段を降りていると、
「先陣隊長部屋を見つけました! ボス!」
と、先陣隊長が報告した。
そんな彼女の前には一枚の扉があった。
「報告ご苦労」
「やった!」
喜ぶまのっぺを横目に俺はドアノブに手をのばす。
「あ、ボス。私が開けますよ」
「お前の背じゃ届かないだろ。ここは俺に任せろ」
ノブに触れて手首を回した
と、次の瞬間……!?
特に何かが起こるわけでもなく扉は開いた。
クノスが剣で部屋を照らすと、作りはさっきいた部屋と同じようだった。
ただ、先程の部屋のように巨大な本棚はない。
窓が閉め切られているのか外の光がほとんど入っておらず中は暗かった。
なんだかカビ臭い部屋をまのっぺを先頭に奥へと進んでいると...…、
「……ん? .……っきゃあああああ!!」
「どうしたクノ……ふがっ!?」
隣を歩いていたクノスが叫びながら俺に抱きついてきた。
体重を載せられ俺は尻もちをついてしまう。
すると、辺りを照らしていたはずのクノスの剣が光を失ってしまい、視界はブラックアウト
した。
クノスが剣から手を離したのだ。
何も見えない。
ただ、柔らかいなにかが当たってるのだけは感じる。
「ちょっ、クノスさん! 見えない、何も見えない」
「ににに人形...…人形が...…たくさん...…いて...…」
どうやらクノスは人形を見つけて驚いてしまったようだ。
ここがホラーアトラクションならいい反応してくれますねーとなるのだが、一応俺たちは探索中なのであって...…。
「わかった。もう大丈夫だから、とりあえず剣で辺りを照らしてくれるか?」
「ま、まっくら闇はむり、むりぃ」
お、おぅ。
ここに来てまたクノスの弱点が一つ露見してしまった。
月明かりの元ならまだしも、完全な闇の中は無理なご様子。
それなら早く言ってくれよ。
「クノス、そういうことは先に言ってな」
「ご、ごめんぅ、つよがったぁ」
クノスは俺に抱きついたまま素の口調で素直な意見をこぼした。
それはいいんだけどね、このままじゃ俺たち闇の中なのよ。
「ボス! クノス! どこですかー? 見えますー?」
先の方からまのっぺの声が聞こえてきた。
「まのっぺこっちだー! どっかその辺にクノスの剣が落ちてないかー?」
「そっちの方角ですね。わかりましたー!」
まのっぺがいつもの調子で歩く足音が聞こえる。
この真っ暗闇の中でも活動できるとは大したやつだ。
それにしても...…。
さてこの状況。
どうしたものか。
真っ暗闇の中、俺の胸には両腕を巻き付けて全身で抱きついている美少女が一人。
今なら何をしても怒られないのでは?
俺は今にも骨が砕かれそうな力で締め付けられながら、脳をフル稼働させ思考をクリアに考えた。
(この真っ暗闇の中なら...…ふがっ、美少女の身体を弄っても……ふがっ、も、もんだいないのでは? …...も、問題はどこに触るか...…ふげっ、首筋、肩、に、二の腕...…お尻、いや、ふ、太ももというのも捨てがた、ぐ.、ぐぐぐg!?)
「ク、クノスさん...…ギブ...…ギブです...…もうこのままじゃ俺の命が...…」
俺の脳内ではパラダイスな妄想が繰り広げられていたが、現実はハブに絞め殺されようとしているマングース。
もたない、いくら俺の妄想力が豊かでもこれ以上は脳に栄養が...…。
《ちょっと!! この男の心拍数が一気に上がったと思ったら一気に下がり出したわよ! あなた締め付け過ぎよ!!》
「え?」
ブレスレットが叫ぶと、クノスは少し力を抜いた。
よかった。
心拍数を図れる魂ブレスレットに救われた...…。
「ご、ごめん...…我無...…」
「は、はあっ! て、天国の先にあるのが地獄だとは思わなかったわ...…」
俺は緩まった腕の中で深呼吸した。
危なかった。
美少女に絞め殺されるのはちょっと俺にはレベル高すぎた。
「あ、ありがとうございます。魂ブレスレット」
《その変な呼び方はやめて。私にはテナーデンって名前があるんだから》
「ありがとう。テナーデン」
俺はブレスレットをなでるようにして感謝した。
「ボス! クノスの剣がありました! そっちに持っていきますね!」
なんとかまのっぺから剣を受け取ったクノスはそれに魔力を流し、光の剣で辺りを照らした。
「みんなありがとう」
立ち上がったクノスは恥ずかしそうな表情で言った。
剣の柄を両手でにぎにぎしている。
「なんとかなったし結果オーライだ。でも、クノスが驚くと光がなくなるってのは結構致命的だな、どうする?」
同じく立ち上がった俺は肩を回す。
「私は怖いものを見ると驚いてしまうので...…その、目を瞑ってていいならなんとかなるんだが...…」
「え? でも目を瞑ったら上手く歩けないだろ?」
俺はクノスの目を見つめて、それじゃ本末転倒だろと質問した。
「手、手を...…つないでくれれば...…なんとか...…」
目をそらすクノス...…。
俺はそれを見て...…。
テンションがあがった!
やったー!!
おいおい、美少女の手を握っちゃっていいんですか?
龍封の地でこんなイベント起こしちゃっていいんですか?
いいんです!!
なぜなら彼女がそれを望んでいるから!
俺はただ、その要望を受け入れるだけ...…。
「あ、いや。...…やっぱり服につかまるからいいや」
「…………」
クノスは俺の服の袖をちょこんと左手で掴んだ。
「まのっぺ。俺たちの先導を頼む」
「りょうかいですボス!!」
目を瞑ったクノスと先導するまのっぺに挟まれ、俺は塔の探索を再開するのだった。
《ねぇ、あなたたちが精鋭って話はどこ...…?》
ブレスレットから漏れるそんな声には気づかずに。




