第37話 パトロン
朝食を食べた俺たち四人はセエレと共に『回生の石』依頼を出した資本家の家(セエレの屋敷よりもさらに巨大な屋敷)の前まで来ていた。
一体どこの国のどの地域にあるのかすら俺にはわからないが、そんなところまで一瞬で来られるのだからうちのボスはまったく便利である。
「今から会いにいくのは私たちの研究のパトロンになってくれる人なわけだから、あんまり失礼のないようにね」
俺たち四人の前を歩くセエレ。
違法実験のパトロンってなんかかっこいいーどんな人なんだろ、なんて思いながら俺はその後ろを歩く。
「ボス! 見てください! 門の上にドラゴンが乗ってますよ! 目がゴールドですよ!」
俺たちは屋敷の門の前まで来た。
豪華な装飾が施された門を見てまのっぺは驚く。
この場所にどんな人間が住んでいるかが一目瞭然だ。
門の前で立っていると、屋敷の使用人らしき人間がその門を開けた。
「どうぞ」
俺たちは手入れされた庭に興味を示すことなく屋敷の中へと入り込んだ。
おそらく庭の形にも何か象徴的な意味があるのだろうが、その意味を汲み取れる教養がある人間は俺たちの中にはいなかった。
「セエレ様と仲間の方達がお見えになりました」
俺たちを先導していた執事はそう言って部屋の扉を開ける。
「よく来たねセエレ君。さあかけたまえ」
部屋の中には二人。
一人はおそらく今回の依頼人であろう男。
高級スーツ一式を着込み、主人オーラを漂わせている。
ただその顔は少しやつれておりお疲れのご様子だ。
もう一人はキョンシーだった。
キョンシーだったと言われてもどういうこと?と思うかもしれないので少し補足。
スラッとコンパクトな身体に黒髪、オレンジ色の瞳。勝気な笑みを浮かべる美少女とキョンシーが合体しました……みたいな感じ。
あの中国衣装の名称がわかればよかったのだが、俺はそんなの知らない。
あ、ちなみに袖はちゃんとぶかぶかしてるぞ。
「失礼します」
セエレがそう言って座ったので俺たちも席についた。
「君たちが回生の石を回収に行く精鋭たちか……」
依頼人の男は俺たちを品定めするように眺めた。
精鋭と言われてしまっては俺もそれっぽい顔をするしかない。
ほんとは全然精鋭なんかじゃないんだけどね。
むしろその反対側の人間なんだけどね。
「自己紹介がまだだったな。私は依頼人のエイデン・メイデンだ」
「俺は我無です」
「高位悪魔のフォルナよ」
「クノスだ」
「まのっぺ!」
俺たちはそれぞれ簡単に自己紹介を行なった。
フォルナはいつも通り高位悪魔であることを誇らしげにバラしている。
でも今回の依頼人はそれを知っているので大丈夫だ。
セエレの実験に出資するのはこの人だからな。
「まさか、本当に高位悪魔が……よく召喚できたな……」
エイデンは落ち窪んだ目でフォルナを凝視した。
フォルナは腕と脚を組んで『そうよ』と小さく呟く。
こういう時は大きな声で自慢しない。
だが俺にはわかる、この悪魔の澄ました顔の奥に潜む巨大な虚栄心が……。
「一つ質問なんだが、君は死んだ人間を生き返らせることができるというのは本当か?」
エイデンは手を組んで深刻そうな表情だ。
対してフォルナはセエレの顔を見て話していいのかどうか伺い、『いいよ』と言われ口を開いた。
そこは許可制なのかよ。
「ええ。戦闘で亡くなった人間を生き返らせることは可能よ」
「それなら病死の人間は……」
「それは無理ね」
「そうか……」
分かりきっていたことを聞いたのか、フォルナの返答に対してエイデンが動じることはなかった。
「ねえ。そろそろ本題にはいってくれなーい?」
それまで黙っていたキョンシー少女。
つまらなそうな顔で言った。
スカートからは健康そうな生脚が覗き、袖をフラフラ揺らしている。
「そうだったな。今回の依頼変更の理由について簡単にだが説明させてくれ」
立ち上がったエイデンは手を後ろで組んで歩き始める。
「実は一人娘がある病気で亡くなってしまった。単刀直入に言うならば私は娘を生き返らせたい。それが依頼変更の理由。回生の石が必要なのだ」
回生の石……なるほど死者を蘇らせる石ってことか。
エイデンは愛娘を甦らせたい。
そのために石が必要だと。
よくある話だな。
「理由は別にどうでもいいです。それよりも二号達に渡すものがあるんですよね?」
セエレは執事が持ってきたティーカップに口をつけて言った。
あまりにも無感情な返答に、俺はこの人は瞬間移動し過ぎて人の心をどこかの国に置いてきてしまったのかもしれないと思った。
「そうだな。時間が惜しい。リンファ君、彼にブレスレットを渡してくれ」
「はいよー」
リンファと呼ばれたキョンシー少女が袖の奥から取り出したそれを投げ渡した。
それは赤い宝石のついた金色のブレスレットだった。
「そのブレスレットの中にはリンファ君が私の娘の魂を入れ込んでいる」
「はーい。私、死霊屋ってのを生業にしてる魂ハンターでーす」
魂ハンターってなんだ?
という疑問はそのままに話は続く。
「君にはそのブレスレットを一緒に持って行ってもらう。回生の石を手に入れ次第そのブレスレットに触れさせてくれ」
「そうすればー、石の力で魂がひょいっと元の身体に飛んでって復活完了ってわけ。魂と体はセットだからね。磁石みたいに勝手に引き合うの」
俺は受け取ったブレスレットを見た。
中央にある宝石、この中に依頼人の娘さんの魂が入っているというわけだ。
……なんかやなんですけど。
「クノス。このブレスレットを君にプレゼントしよう」
落として割ってしまいそうで怖くなった俺。
責任をクノスに押し付けた。
「そんなプレゼント受け取っても嬉しくない。渡すならもっと違うものに……」
と言ってクノスは断った。
あーあ、女の子にプレゼント断られちゃったよ。
魂込めたギフトなのにさ。
「ボス! それなら私が! 私がはめてもいいですか!」
「「それはだめ」」
俺とクノスは同時に声を出した。
『むっ』とまのっぺは不機嫌になる。
こいつに渡したら多分5秒で魂がはじける。
「君たち……一応その中には娘の魂が入っているのだからそんな危険物みたいな扱いはやめてくれるかい?」
エイデンの顔は微笑んでいたが、声にはしっかりと怒気が含まれていた。
目が笑ってない。
その反応に対し俺はブレスレットを渋々左腕にはめる。
責任重大だ。
今の俺の腕には文字通り一人の人間の命がかかっているのだから。
「娘の遺体は氷漬けにしているとはいえ、早いに越したことはない。早速行ってもらえるか?」
どうやら娘さんの遺体はアイスタイムカプセル状態にあるようだ。
人を冷凍保存する魔道具とかマジックアイテムがあったりするのだろうか。
「わかりました。それでは早速二号達を行かせます」
セエレが立ち上がったのを見て俺たちも立ち上がった。
始まっちゃうよー龍封の地でのクエストが。
「くれぐれも娘の扱いには気をつけてくれ。魂だけとは言え、私の愛娘なんだ。とてもいい子で虫も殺せないような子だったから。丁寧に……丁寧に扱ってくれ」
「善処します」
最初から無碍に扱う気などなかったが、これで肩の荷がまた重くなってしまった。
早く退散させてくれーこれ以上プレッシャーかけないでー。
「それでは」
「ああ。健闘を祈る」
「じゃねー」
セエレの声にエイデンとリンファは挨拶を返し、俺たちはそのまま教会までテレポートしたのだった。
ブレスレットがブルブルと振動し始めたのも知らずに。




