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【二章完】トライあんどエラーを拳で!?  作者:
第一章 でこぼこチーム編
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第3話 脱獄獣ケルベロスって字面からしてもう無理だよね

「浮いてる」


 最初に感じたのは浮遊感。


 お腹がふわっとする感じ。


 遠くに見えるのはたくさんの光が集まった町だった。


 セエレが町の近郊にケルベロスはいると言っていたから、あれが俺たちが居た町なのだろう。


 その町は山の麓にあり、山の頂上付近にはながーい階段の先に大きな屋敷が見える。


 その町の反対方向には、ひたすらに広がる森と山。


 森と山に点在する電波塔のような塔が特徴的だ。


 その塔は境界線を引くように並んでいて、そのてっぺんはぼんやりと紫色に光っていた。


「がむううううううううううううううッッ!!」


 隣で叫んでいるのは恐らく悪魔なのだろう。


 その魅力的な美貌と胸をあらわすならば、まさに魔性の女だ。


 しかし、泣き叫ぶ姿はとても格の高い悪魔とは思えない。


 多分、低位か中位くらいの悪魔だ。


 彼女から視線を離し、空を見る。


 うっすらとぼんやりした月が二つ。


 小さいのとおっきいの。


 まさに異世界ってカンジダ。


 下から猛烈な風をカンジル。


 月に照らされた地面がどんどんチカヅク。


 マズイ、死ぬ。


「んわああああああああああああああああ。助けてフォルナさまああああああああああ!!」


「むりむりむりむりこの高さはむりよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


(駄目だ受け入れろ我無! そうだ。俺は引きこもり彼女なし登校拒否童貞という人生を受け入れてやってきたじゃないか。これくらい、なんとも、ナイッ!)


 そう思った俺の頭は急速に回転した。


 スーパーコンピューター「陰」が稼働を始める。


 脳が必死でこの引きこもりを生き長らえさせようともがいているのだ。


 全意識を集中。


 引きこもりの呼吸だ。


(セエレから渡された円盾、色は赤、緑、黄、青これは恐らく四大元素、とするならばこの状況を打開するには……)


 シャキーンと円盾を展開。


 そして目一杯念じた。


(風風風風風風風風風風)


 イメージは両手から放出する体いっぱいを持ち上げるほどの風だ。


 フォルナも助けなきゃいけないから広範囲じゃないと……。


 いや、今はとにかく発動することだけを考えろ。


(風、風、風、風、風、風、風、風、風、風)


 ゲシュタルト崩壊を起こしそうなほど念じていると、盾縁に沿うように四方にあるT字型の緑色。


 その光が増した。


【スキルナンバー0040】


 俺の勘が言っている、今が発動タイミングだ。


「いッけええええええええええええええッ!!」


「ブレイクリミット!!」


 と同時、ファルナも俺に魔法をかけた。


 両腕から放たれた風の塊は地面でブワッと破裂。


 一気に俺たちの体を押し上げる上昇風が発生した。


「痛てぇっ!!」


「ぐひゃっ!!」


 トランポリンに跳ね返されるように宙を舞った俺達。


 木の茂みが良いクッションになってなんとか生き延びれたようだ。


 ひどい倦怠感に飲まれながら、いるかもわからない神に感謝する。


 あれ?


 でもなんかさっき、誰かの声が聞こえたような……。


「いや~お見事でございます。我無様」


 そう言ったのはセエレの屋敷にいたゴーレムだった。


 俺たちは執事服を着たその人型ゴーレムに木から降ろされた。


 どうしてゴーレムだってわかるのかって?


 顔を見ればわかる。


 どう見ても人間じゃない。


 人工物だ。


 顔のパーツは横棒、横棒、口って感じ。


 隣に目をやると、降ろされたフォルナは俺に背を向け涙目をごしごししている。


 あいつもなんとか助かったみたいだ。


 よかった。


 ってそんなことより!


「おい! お前のご主人さまは一体どんな頭してんだ! 危うく俺たち、床に落とされたトマトみたいになるとこだったんだぞ!! べちゃって!」


 俺は執事ゴーレムの首根っこを掴んだ。


 俺は怒っている。


 危うく異世界に来てたったの10分足らずでゲームオーバになるところだった。


「私のご主人さまの頭は青髪で、見事なキューティクルが———」


「そっちの頭の話じゃねぇ!! 頭の中身の話ししてんだよっ!!」


「私のご主人さまの頭脳は明晰で、天才的です」


(……だめだこりゃ)


 この短い会話で話が通じるやつじゃないと察した俺。


「もういいよ。とにかく次は気をつけるよう言っといてくれあのロリガキに。道で鉢合わせたら一発殴るくらいに怒ってるってなぁ!」


「かしこまりました。『ロリガキ、次道であったときは気をつけろ』ですね」


「いや、言い方……まあ、もうそれでいいや。そう伝えてくれ」


「かしこまりました」


 執事ゴーレムから手を離すと、はぁと大きなため息をついた。


 危うく死ぬところだった。


 もうあんな経験したくない。


 ぬくぬく屋敷で異世界スローライフが送りたい。


「それで、お前はなんでここにいるんだ? セエレのところにいたはずじゃないのか?」


 熱を冷ました俺は執事ゴーレムに聞いた。


「なんと!! 私をあの屋敷ゴーレムと見間違えたのですか!! 私はあんな喋れないポンコツ共とは違いますよ」


 興奮したゴーレムの目が赤色に変わった。


 感情表現機能がついているようだ。


「じゃなんなの?」


「あの屋敷にいるゴーレムをMk.1とするならば、私はMk.50、それほどまでに違うのです。あの脳筋ゴーレムはMk.0ですね」


 マーク50ってことはこのゴーレムはナノ粒子でできているのか?


 胸のリアクターを押せば瞬時に装備できて、中には天才富豪科学者が入っているのだろうか。


「屋敷にいる執事ゴーレムとは格が違うってことか。それで、なんでマークはここに?」


 マーク、マークうるさいのでこれからこいつのことをマークと呼ぶことにした。


「私はセエレ様から観測、回収、伝達を目的に作られました。よって、我無様が実験を行うのを私がサポートさせていただきます」


 なるほど。


 セエレは実験と言っていたがどうやってその実験を観測するのか疑問だった。


 このゴーレムを使って観測するってことね。


「それでは早速行きましょう。まだ近くにいると思います」


 そう言ったマークは森の中へと進んでいった。


「フォルナ、俺たちもいくぞ。立てるか?」


 あれだけの事があったんだ。


 フォルナだって女の子。


 まだ、心の整理が……、


「もちろんよ! 問題ないわ」


 スッと立って髪をバサッとしたフォルナは胸を張ってそう言った。


 流石は高位悪魔様だ。


 そういうところは見習いたい。



 ———



「暗いな」


 そう言いながら獣道を進む。


 道を進んでいる間、マークに魔法のことについて教えてもらっていた。


 セエレに簡単に伝えておくよう言われたらしい。


「魔法の大原則は攻・静・防の3つです。先程、我無様が放ったのは静無しの攻の風属性の魔法ですね」


「ごめん。ファルシのルシがコクーンで……な、なんだって?」


 全く意味がわからん。


 と思っていたら、後ろにいたフォルナが説明してくれた。


「静ってのは要は溜めみたいなものよ。魔力の調整をするって感じね。それで、その溜めた魔力を攻撃に転ずるのか、防御に転ずるのかで分岐するってことよ。まあ、静無し、つまり溜めなしでも発動できるにはできるわ。さっきの風魔法みたいにね」


「おおー」


 なるほど、つまり静=溜めを行うことで使う魔法の威力や範囲、射出の速度とかを設定するってことか。


 そして、静なしでも使えるには使えるがその場合はとても感覚的なものになる……みたいな?


「それで、魔法には属性があって基本属性は火、風、水、土の4つよ」


「凄い! 流石フォルナ様!」


 俺は素直に褒めた。


「うふふ、当然よぉー!」


 意外とやるじゃんこの悪魔。


 やっぱり高位悪魔っていうくらいだし、部下に教えることが多かったのだろうか。


 フォルナは教え上手だ。


「ち な み に、もう解除したけれど、さっき私があなたに使った支援魔法はどの属性にも属さないわ。まぁ、高位悪魔だから、既存の枠組みには囚われない……当然のことよ」


 フォルナはキリッとした目つきで自慢げにそう言った。


「おみそれいたしました。フォルナ様」


 俺は適当にあしらった。


 テキトーに。


「うふふ、高位悪魔なら当然よぉー! ちなみに———」


「はい。そして、攻・静・防と、各属性にはそれぞれ人によって才能がございます。魔法使いとしてのセエレ様は特に静と攻に優れております」


 それを聞いて俺は頭をひねる。


 そういえば、セエレは魔導士だっていってたよな。


 魔法使いと魔導士、なにか違いがあるのか?


 まあ、この辺は追々でもいいか。


 今の俺には関係ない。


 ちなみに俺が頭をひねっている間、フォルナが何やら自慢気に後ろでお話を展開していたが無視した。


「いました。あそこです」


 前を歩いていたマークが俺たちを手で制止した。


 俺はマークが指差す先を見る。


 月明かりを反射する湖、そのほとりに小さな子犬が居た。


 俺たちは茂みに息を潜めそれを観察する。


 大きさはトイプードルくらいで本当に小さい。


 だが、頭部が3つある。


 ケルベロスだ。


「どうする? あれを倒せばいいんだよな?」


「はい。セエレ様は転生者である我無様が、その円盾を使って戦闘するデータをご所望です」


 なんで俺のデータを? と思うが、今はそれどころじゃないな。


「そういえばフォルナ。お前の超悪魔パワーを使えば、ケルベロスなんて一瞬だっていってたよな? もしものときは頼ってもいいのか?」


「…………」


「ん? どうしたフォルナ?」


 彼女は黙って俺から目を逸らした。


 ちょっとだけ目が泳いでる。


「わ、私は攻撃魔法使えなぃゎ」


「え? なんだって?」


「だから! 攻撃魔法は使えないわ! 高位悪魔なんだから当然でしょ!」


「ばっか声抑えろ」


 フォルナの口を俺は急いで抑えた。


 フォルナは『むぐむぐ』言っているが、どうやらケルベロスは俺たちに気がついていないようだ。


 高位悪魔の当然ってのがわからない。


 あれか?


 金持ち喧嘩せずってやつなのか?


 フォルナはお金持ってなさそうだけど。


「ぷはぁ、私は別に嘘は言ってないわ。ケルベロスを倒せるとは言ってないもの。私が瞬殺できるのは聖なる力によって生み出されたものよ」


「でも、モンスターなんて大抵その聖なる力とやらによって生まれてはないんだろ?」


「ま、まあ……そうね……大抵はね」


 ひしひし感じてたが、この高位悪魔は使えない。


 ポンコツだ。


 攻撃面での支援は無し……か。


 俺は神妙な面持ちで湖の水を飲むケルベロスに目をやった。


(うーん、でもあれくらいの大きさのケルベロスならなんとかなるんじゃないか?)


 俺はトイプードルくらいのサイズのケルベロスを見て思った。


 頭脳明晰と言われるセエレが、戦闘経験のない俺とフォルナで丁度いい難易度だって言ってたし。


 ってことはおそらくあのケルベロスは幼体かなにかなのだろう。


 それなら俺でもなんとかなりそうだ。


 戦闘要員は俺しかいない。


 そのことを受け入れよう。


 と、思っていたら前方に動きあり。


 湖から巨大なワニ型モンスターが大きな口を開けて飛び出してきた。


「ギガントアリゲーターね」


 隣でフォルナが呟いた。


 ギガントアリゲーターの標的はぺろぺろと水を飲む子犬みたいなケルベロスだ。


 危ない! とつい叫んでしまう。


 そう思うほどの体格差だった。


 結果は見事丸呑み。


 ケルベロスは食べられた。


「おい。ケルベロス食べられちゃったぞ。どうする? 実験失敗か? 」


「いえ我無、違うわ」


 そう答えたのはフォルナだった。


 すると、ゴボゴボという音が聞こえてきた。


 湖に帰ろうとしたギガントアリゲーターの動きが止まった。


 やつの体の中が膨らんでいる。


 四肢を苦しそうに動かすギガントアリゲーター。


 数秒もしないうちにやつの体はバチンッと弾け飛び肉片が飛び散った。


 中から剥き出てきたのは俺が想像していた通りのケルベロス。


 巨大なケルベロスだった。


 血まみれになりながらワニを中身から食する番犬は、まさに地獄の門番と言われるに値する様相を呈していた。


「そういえば我無様、先程『暗い』とおしゃってましたよね?」


「急になんだマーク? 俺はもう帰りたくて仕方がないんだが。お家に帰りたくて仕方がないんだが」


 俺は震えながらそういった。


 モウカエリタイ。


 パパママタスケテ……。


「そういえばうっかり失念しておりました。私レベル、Mk.50ともなると点灯機能を装備しておりまして、ほら!」


「まっ、まぶしっ! っていうかお前!はやくそれ消———」


 マークの目から放たれる閃光に目を焦がす中、湖の方に目を向けた。


 そこにあったのは計6つの瞳。


 その全てがこちらをじっと睨みつけていた。


 動きはない。


 じっとこちらを伺っている。


 いきなり襲ってこないあたり、かなり賢いようだ。


「マークお前、とりあえずそれ消せ」


 パチッ。


 ライトは消えた。


 するとより鮮明になる6つの赤い瞳。


 やばい、ちびりそう。


 おしっこもれちゃうぅ。


 いっそのこと焦らさずにそのまま襲ってきてほしい。


 そう思っていると、『グルルルルルル』と一番右の顔が痺れを切らし始める。


 固唾をのみ、俺は思考を巡らせた。


(とりあえずさっき魔法は成功したんだ。俺にも魔法は使える。有効打になりそうな火の魔法、そいつを使おう)


 シャキーンと円盾を展開。


『グルルルルルル』と今度は一番左の顔が痺れを切らす。


(魔法の種類なんてわからない。と、とりあえず。ファイアボール。これでいこう。静の状態、つまり溜めれば溜めるほど威力は上がる。それなら、ギリギリまで溜めて一気に放出、これでいこう。よし、いける。俺ならいける)


 ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール、


 心の中で、何度も念じた。


 脳内シミュレーションは完璧だ。


『グルルルルルル』最後の頭が痺れを切らした。


(……くるッ!)


【スキルナンバー0020】


 再び俺の中に響く謎の声、


 そんなこと気に止める余裕もなく俺は魔法を発動した。


「ファイアボールッ!!」


 ぽんっ。


 すると、


 俺の手から放たれたのは、野球ボールくらいのファイアボールだった。


 ファイアボールを発動後、一生懸命溜めようとした。


 が、静の状態を維持するまでもなく放出されてしまったのだ。


 もう! この堪え性なし!


 対するケルベロス。


 3つの頭で一つの大きな紫炎玉をつくってくれた。


 彼は静の状態維持がうまい!


 俺のファイアーボールはその玉にプシュッ。


 飲み込まれてしまった。


 太陽にジョーロで水かけました、みたいな感じだった。


 そしてこちらに向かって直進してくる俺一人軽々葬れる大きさの紫炎玉。


「あぇ? ちょっとまてまてまてまてまてまてまてッッ———!?」


 それに俺は飲み込まれた。


 あー、神様。


 これが俺がしてきた怠惰な生活に対する罰だというならば。


 あなたは相当な鬼畜ですね。

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