第34話 え、来年?
俺とアジ君はその幼女によって牢屋から解放された。
ぶっとい尻尾に青髪青目。
『ついてくるがよい!』とその尻尾幼女に言われ、俺たちは言われるがままにその後についていく。
「先輩、俺思ったんスけど。俺の出っ張りってなんなんすかね?」
隣を歩くアジくんが深刻そうな表情で俺に聞いた。
さっきの話の続きのようだ。
そんなに真に受けてもらっても困るのだが、まあこいつの人生俺と関係ないしいいや。
てきとー言おう。
「お前の得意なことはなんだ?」
俺は前で浮遊している幼女を見ながら言った。
彼女は自分の青い大きな尻尾にまたがってプカプカ浮いている。
尻尾の先の大きな鈴がシャンシャン音を鳴らしていた。
「俺が得意なことはもちろん煽りっすよ! 人を怒らせることに関しちゃ自信があります。まあ、先輩には全然効きませんでしたけどね。あんなの初めてでしたよ」
さも誇らしげにそんなことを自慢するアジ君。
コイツの人生なんて俺はしらないし、その特技で成り上がってきたのならそれがコイツにとっての才能だったということだろう。
才能に崇高も低俗もないからな。
貴賤はないのだ。
俺はその辺別に気にしないけど、ただ、
絶対友達にはしたくない。
「よし。それならその煽りがお前の出っ張りだ。これからはその才能を伸ばしてけ」
「いままでだって結構伸ばしてきたんスけどね? でもやっぱり最後には上手く行かないんスよ? これはなんでなんでしょう?」
そんなこと俺が知るか。
と、一瞥しようかと思ったが、そうすると会話が途切れてしまうので適当に考えてあげることにした。
「それはな。才能にも使いどきってもんがあるからだよ」
「使いどきっすか?」
「そう。やたらめったら使い回せばいいってもんじゃない。例えばよく切れる包丁があるとするだろ? その用途は色々だ。食材を切るもよし、縄を切るもよし、浮気した旦那の喉仏をかっ切るもよしだ。やろうと思えば大抵のものは切れる」
「そ、そうっすね」
「じゃあ、なんで人を刺し殺すのには使われるべきじゃないと世間では言われていると思う? それが可能なのに」
「うーん。それはやっぱり人殺しの道具じゃないからじゃないっすか? 人を殺すなら剣とか攻撃魔法がありますもん」
「そう。つまりだな。えーっと……」
つまりなんだ?
「そう! もちろん才能自体も大事なことは確かだが、いちばん大事なことはその才能を使いこなす人間の心だってことだ!」
そう。
こころこころー。
道徳の授業だいじー。
「心っすか……」
「その通り。つまり今まで自分の出っ張りを伸ばしてきたお前がどうして上手く行かなかったのか。それはお前の心とそれによってもたらされる選択が間違ってたからだ!」
「心と選択ッ!? ……なるほど」
アジ君の顔を見るとなにやら腑に落ちたような表情をしていた。
ここで俺はさらなる追い打ちをかける。
「よしじゃあアジ君。今からお前のその出っ張りを試してみろ!」
「わかりました! 俺の出っ張りを埋める溝を探してみせます!」
意気込んだアジ君は前をプカプカ浮いている尻尾幼女の前に立った。
「なんじゃあ?」
「おい! このデブ尻尾幼女! 鈴鳴らしながらプカプカ浮きやがって私かわいいアピールですかぁ? さっきから何も言わずに俺と先輩の前行きやがって何様のつもりだよ、あ? てめえのその尻尾切り取って丸焼きにして食———ッ!?」
ドガーン!!
と、そこまで言ってアジ君は幼女の大きな尻尾によって壁に打ち付けられてしまった。
俺の目でも追えないほどの超高速フルスイング。
壁にめり込んだアジ君を見て、
(あーあ、アジ君が現代風味のおもしろオブジェになっちゃった……)
と、俺はそんな感想を抱いた。
「よかったなアジ君。ちゃんとハマる溝が見つかって」
「せ、せんぱ……い。ど、どうして俺は、こんな目に……」
壁にめり込みながらそんな言葉をアジ君は漏らす。
そんなの決まってるだろ。
「だから俺さっき言ったじゃん。才能はやたらめったら使えばいいもんじゃないって。俺がやってみろっていってもな? そこで鵜呑みにしちゃだめなんだよ。一回そこで自分で考えなきゃなんだぞ? 今使うべきかって。このおっちょこちょいが」
「そ……そんな理不尽……な……」
チーン。
アジ君はそのまま意識を失ってしまった。
「なんじゃあ? その生意気なガキは! 妾に対して不敬じゃぞ! ふけい! ふけい!」
ぶっとい尻尾揺らして先っぽの鈴をシャンシャンシャンと鳴らしながら幼女は言った。
「すいません。こいつはこういうやつなんです。寛容な心で許してやってください。よっと」
俺は壁から気絶したアジくんを取り出すと、それを背中に背負う。
「そういえばあなたは誰なんですか? どうみても只者ではなさそうですけど……」
その見た目、一人称、喋り方。
どー考えてもモブキャラじゃない。
そんな強キャラオーラ増々の幼女に俺は質問した。
こんな人に喧嘩売るなんてアジ君はまだまだ勉強不足だな。
「あー、そう言えば自己紹介がまだじゃったな! 妾は蒼龍! 蒼龍アムタムじゃ! 四龍と呼ばれる龍の一角じゃな! アムタムでよいぞ!」
シャンシャンシャンシャンシャーンとセルフで効果音を鳴らした幼女はそう名乗った。
蒼龍ってことはあの会議室にいた巨大な龍がこの幼女だったってことか。
いや、この幼女があの巨大な龍なのか?
順番がいまいち不明だが、まあそんなこと些細な問題だ。
だって、目の前にいる幼女よくみたらめっちゃかわいいんだもん。
しかも、龍なんでしょ?
年齢も俺より数千は上だろうし、こんなん合法ロリじゃん!
「俺は我無です。一応ここにはセエレって言う人の連れできたんですけど……」
「我無か! 面白い名前じゃな!」
いやアムタムも相当面白い名前でしょ。
「で? なんで我無は牢屋に入ってたんじゃ?」
「え? あなたが命令したんじゃないんですか?」
あれ? セエレはそう言ってたよな?
「…………」
アムタムは尻尾の鈴をシャンシャンシャンと鳴らしながら眉をよせて考えている。
一生懸命ふりふりしててかわいい。
シャーン。
「あ! そうじゃった! そうじゃった! 我無が壁を壊したからその罰を与えようと思ってたんじゃった!」
って、今までそれ忘れて俺たちの前を先導してたのかよ!
というツッコミは抑えた。
だってかわいいんだもん。
「で、その罰ってなんですか?」
「考えてないわ! あはははは!!」
元気よく笑うと俺に背を向けてまた進み始めた蒼龍アムタム。
四龍ってことはめちゃくちゃ強いんだろうけど、そんな感じは一切しない。
やはり一流の強者はその強さを隠すことができるということか。
「で、どこに向かってるんですか?」
「まずは腹ごしらえじゃ! 堅苦しい会議も終わったことじゃし! お前たちには最高級の料理を振る舞ってやるぞ!」
「やったー」
なんかこの人もう罰のこと忘れてそうなので俺は素直に嬉しがった。
なに?
もしかしてここって天国?
———
アムタムの後についてやってきたのはまばゆい光を放つ広い空間だった。
部屋の隅には宝石や金銀財宝の山が積み上げられている。
(多分ここはあれだ。RPGとかでラスボス倒した後に開く裏ダンジョンのゴールかなにかだ)
俺はそんな感想を抱いた。
そんな広い空間の真ん中には丸いテーブルと椅子が4つ。
俺たちはそこに座った。
ちなみに俺が背負っていたアジ君はとりあえず椅子に座らせた。
腰を逸らして、腹を天井に向けるようにして伸びている。
文字で例えるなら、『へ』。
「どうじゃあ? この金銀財宝は! 目がくらむじゃろう?」
尻尾を抱えて座るアムタムは自慢げな表情をしていた。
確かに、これだけの財があれば一生遊んで暮らしていけるな。
羨ましい限りだ、四分の一くらいくれないかなー。
そう思った俺はなにかの弾みで目の前の幼女が俺にこの財宝たちを分け与えることを期待してヨイショを始めた。
「いやーほんとに素晴らしいですよ! 一体これほどの財宝をどうやって集めたんですか? お話を聞かせてくださいよ」
まずはエピソードトークだ。
偉い人間ってのはそれまでの苦労話をするのが大好きだからな。
無論、目の前の幼女もそのはず。
「知りたいのかの、我無?」
「ぜひ! ぜひ!」
「知らん!! だってこれ集めたの妾じゃないもん!」
シャンシャンシャーン。
鈴が鳴った。
「……あ、そうなんですか……」
「お? もしかして妾をおだててこの財宝の一部でも持って帰ろうとでも思っていたのかの? 卑しい人間じゃのお我無は」
目の前の尻尾幼女はジト目で俺を見つめた。
「はい。おだてれば好意でもらえるかなーと思いました」
「や、やけに正直じゃの……」
ま、バレたならしょうがない。
もともとそんなに興味ないし。
もらえたら儲けもんくらいにしか考えてないからな。
「ほぉー。そんなお主に朗報じゃっ! 妾、お主を気に入ったからここにある好きな財宝一つ持ち出すことを許可しよう!!」
え? マジで?
やっぱ言ってみるもんなんだな。
「なんでもいいんですか?」
俺はウキウキ気分になりながら財宝に目を向けた。
黄金の剣に、煌めく宝石を施したネックレス、迷うな―どれにしようかなー。
「ま、持ち出した後の命の保証はないがな! あははは! だって、ここにある財宝は全部白龍のやつのもんじゃもん!」
「……ですよねー」
ま、そんなことだろうとは思いましたよ。
「あははははは!! ほれ、そうこうしている内に食事が来たぞ。これは本当にタダじゃ。遠慮するな」
仮面の尻尾執事達によって運ばれてきたたくさんの料理たち。
丸机一杯に置かれた皿の上には、匂いだけでよだれが止まらなくなりそうなほかほかお肉、健康的な色をした野菜、喉をスルッと通過しそうな飲み物がのっていた。
「たーくさんなのじゃ! たくさん食べて大きくなるのじゃ!!」
そう言って尻尾幼女は食事にがっつき始めた。
さすが龍、見事な食べっぷりである。
「じゃ。おれもいただきまーす!」
俺は未だにへの字で気絶しているアジ君を可哀想に思いながら料理に手を付けた。
うん。
そんな彼への罪悪感が消えてしまうほど旨い!
「ところで我無よ。お主、妾に聞きたいこととかないのかの? 自分で言うのも何じゃが、四龍と料理を囲む機会なんて滅多にないぞ」
器用に尻尾の上に皿をのせながらアムタムは言った。
『そうですねー。うーん。特に無いですね~』と言おうと思ったが、行き過ぎた謙遜と思われても失礼だ。
食事を提供してもらったなら、俺からは場を盛り上げる意思を提供しなくちゃな。
「うーん。じゃあ、どうして俺にこんな料理をタダで提供してくれるのか聞いてもいいですか? 俺一応この龍天宮の壁を壊した張本人ですよ。自分で言うのもアレですけど」
「そのことか! 別に壁なんていつでも直せるし妾は気にしておらんわ! 罰といったのは少しびびらせただけ! あははー! それよりも、あの眠たい会議中にお主が妾の眠気を飛ばしてくれたことに感謝しておるのじゃー! なんだか超重要な会議だったらしいからの」
当事者意識ねえーと思いながらも、何千年も生きる生物にとってはそんなものなのかも知れないとも思った。
空高く天空から下界を見下ろす龍にとっては、俺たち人類の一生なんて取るに足らない些細なものなのかもな。
「それならアムタムや他の龍のことを教えて下さいよ。伝説級の生き物なんですよね?」
ファンタジー好きとしてはこの話題は外せないな。
龍! ドラゴン! 伝説!
「そうじゃのぉー。妾は見たままじゃ。美味しい食べ物が好きで、面白い人間が好きじゃ! だから会議には妾が出席することが多いのお! いろんな国の面白い人間の話が聞けるからの。今回だったら、世界的大犯罪者が脱走したとか、龍封の地に自ら飛び出した馬鹿者冒険者とか、あとは……そう! 崩壊の魔女が復活するとかなんとか言っておったわ。なんだか今年は面白い報告が一杯じゃった!」
なるほど。
会議ではそういう世界情勢についての話がされていたのか。
で、この尻尾幼女アムタムは面白い人間を見つけるため、報告を聞きに会議に出席することが多いと。
「他の龍はどうなんです?」
「うーん。例えば白龍のやつはとにかく綺麗で美しいものが好きじゃのお。だから、ここにある財宝もあいつが勝手に集めてきたんじゃ。まあ、あいつのどうしようもない習性じゃな。たまに人間に化けて下界に降りているらしいが、ここ数百年はあってないのお」
やっぱり龍は人化することができるようだ。
まあ、そりゃ神を殺したっていわれる種族ですもんね。
人に化けるくらい容易いことか。
「じゃあ、紅龍は……」
「あいつのことは知らん。嫌いだから話したくない」
「あ、そっすか」
四龍と言ってもみんなが仲いいわけではないようだ。
それなら神を殺した話について聞いてみるか?
この世界では龍が神を殺したと言い伝えられている。
この人に聞けばそれが本当のことなのかどうか分かるよな。
「下界では神は龍族が殺したって言い伝えられてるみたいですけど、それって本当なんですか?」
「あー、その話か……人間によく尋ねられるお話、妾的ベストスリーに入るやつじゃな」
やっぱりみんな聞くんだ。
「ズバリ言うとじゃな……それは妾にもわからんのじゃ!」
「え?」
「なにせその話が広まり始めたのは妾が生まれる前、まだ四龍が黒龍のやつしかいなかった時代だからの。その真相を知っているとしたらやつしかいないの」
四龍っていうくらいだから全員同じ年齢だと思ってたけど違うのか。
「その黒龍はいまどこに?」
「知ったところで人間には到底会える場所じゃないのお。やつはずーっと星にも届かんとする高度を飛行しているからの。この惑星を永遠とぐるぐる回ってる変わりもんじゃ。滅多に降りてこないの」
オゾン層にでも住んでいるのだろうか。
レッ◯ウザかよ。
「そんな所を飛んで何をしてるんですか?」
俺はオレンジ色の飲み物を口に含んだ。
口の中でシュワシュワ~っと弾けて炭酸みたいだった。
「やつは目がとんでもなくいいからのお。空から人間を観察して探しとるんじゃ……それを真似しだしたのがあの紅龍のやつで!」
ドン! シャーンと尻尾が机を揺らした。
「あいつ! 黒龍の真似をして人間観察して、気に入った人間には『勇者』なんて称号を与え始めたのじゃ! あーやじゃやじゃ、あいつのそういう上からなところが妾は大嫌いなのじゃ!!」
そう言ってアムタムはグラス一杯の飲み物を一気に飲み干し、尻尾の上にのった料理を流れるように飲み込んだ。
この世界での『勇者』ってのはそういう意味だったのか。
魔王を倒す者ではなくて紅龍に気に入られた者。
それが勇者になるわけね。
「ちなみに……アムタムは今何歳くらいなんですか?」
幼女に年齢を聞くのは失礼かもしれないが、目の前にいるのは龍なので問題ない。
「千を超えた辺りから数えてないわ! 意味ないしの! あはははは!」
先程の不機嫌はどこかに飛んでいった。
「やっぱりかなり長生きなんですね……」
「お? お主も永遠の命を欲する口か?」
「俺は嫌ですよ。永遠に生きるなんて。ほどほどに生きて眠りながら平和的に死にたいですね……」
「最近はそういう人間も増えてるらしいのお。昔は誰も彼もが永遠の命を欲したものじゃが……そういえば、長生きといえば賢者ナジなんてのはエルフの中でも相当長生きじゃと聞いたな。あいつは妾よりも長生きなんじゃないかの?」
でた賢者ナジ。
誰なんだよ、と思っていたが長生きのエルフらしい。
いつか出会うこともあるのだろうか。
「龍以外でも長生きするもんなんですね」
「もちろん。命を生き永らえさせる方法なんていくらでもあるからのお。まあ、それ相応のリスクもついてくるわけじゃが……そういえばお前の国の王様もあれは肉体は見た目相応じゃが、魂の方がかなり年いってるのお」
言いながらアムタムは、ハムをペロッと飲み込んだ。
「え? 魂が?」
どゆこと?
王様ってあの人のことだよね。
「会議で会う度に気持ち悪いと思ってたのじゃ。あれは転生術の一種か何かじゃな。自分の子孫の身体を乗っ取って魂を繋げておるのじゃろ。まーなんでそんなことしてるのかは知らんが」
(え、じゃああのおっさん中身はクソ年取った爺さんだったってことなのか? でもなんでそんなことを……王様にも色々あるのか? 王様っていうくらいだし結構欲深いのかもしれない。それとも王家にだけ紡ぐことを許されたこの世界の古の記憶があるとか……)
勝手な妄想は膨らむばかりだが、あんまり詮索しないでおくことにした。
こういうのは知らないほうが身のためだ。
「いやー、お話ありがとうございましたアムタム。料理もご馳走様でした。それじゃ、俺は帰るんで」
いつの間にやら机の上の料理が無くなったところで俺はそう言った。
ほとんどはアムタムが食べてしまったのだ。
「帰るのはいいのじゃが、どうやって帰るのじゃ?」
「そりゃもちろんセエレの瞬間移動で……ってあれ?」
そう言えばセエレとの連絡手段がない。
マークも今回は連れてきてないし、俺どうやって帰るんだ?
「アムタム様? そういえばセエレには俺の身柄を確保していつ頃返すっていったんですか?」
「んー。なんて言ったっけのお? たしかー、あー、来年?」
「来年?」
「そうじゃ」
「一年後?」
「そうじゃ?」
「一年間ここにいる?俺?」
「うーん。そうじゃな」
漠然とし過ぎだろ、龍の時間感覚。




