第31話 たっかい
首都サナリアにはミナの護衛クエストで何度か来たことがあったが、その首都の中心にそびえ立つ旧王城と呼ばれる場所には初めて来た。
護衛中何度も目に入ることはあったが、あまりにも異質な建物で、フォルナに解説させると一体どれくらいの時間がかかってしまうのだろうと思い質問するのはやめていた。
「わ、たっけ」
ボキャブラリーの貧困な俺の口から出たこの言葉からわかるように、そんなこの旧王城を一言で表すならば……高い。
いや、もちろん工事費が高そうというのもあるのだが、そびえ立っているという言葉がここまでしっくりくる建築物を俺は見たことがないというレベルで高いのだ。
もちろん俺が元いた現代世界ではブルジュなんちゃらとか上海なんちゃらとかそんなに高くして何がしたいの? 最上階までエレベーターで昇るたびに耳がキーンってならない? という化け物レベルの建築物があったが、今目の前にある城はそれと同じくらいの高さだ。
「これが旧王城。一応王様はここに住んでるけど今は昔ほどは活用されてないね」
目の前を歩きながらセエレは語った。
今はその旧王城の前に構えられた大きくて古びた門へと向かっている。
「ボス!! 私は凄いことを思いついちゃいました!」
隣で興奮しているまのっぺ。
「どうした? そんなに興奮して」
「これだけ大きな建物なら根本をごっそり削って倒せば、この首都ごととんでもないことに———」
「おい、それ以上先は言うな。今から王様に会いに行くんだからな」
めちゃめちゃ不謹慎なことを言い出したまのっぺを俺は止めた。
確かに、彼女の言う通りこれだけ巨大な建物が倒壊すればその破壊力は計り知れない。
最終バトルとかで主人公が利用するギミックとして存在していそうだ。
「で、どうしてこんなに高いんですか?」
俺は質問してみた。
門まではまだ距離があるし聞いてみよう。
「それは龍族と交流するためだな」
語り出したのはクノス。
いつもだったらフォルナがこういった解説はしてくれるのだが、非常に、ひじょ~うに残念なことに今の彼女は声が出せない。
それでも、口をぱくぱくさせているフォルナを見て、コイツは本当に喋りたがりなんだなと思った。
「龍族はその格が高ければ高いほど、高い高度を飛ぶようになる」
なにその頭悪い格付け。
対流圏、成層圏、中間圏で棲み分けしてますってか?
龍族の社会めっちゃ縦社会じゃん。
「だからこの旧王城は、そんな龍族と交流する際に龍族の側の地上に降りてくるという負担を少しでも減らすために建設されたんだ」
龍族は生態系の頂点にいるっていうし、そんな強い奴らを無下にしないための誠意の現れってわけか。
多分、この国だけじゃなくて他の国にも高い建築物があったりするんだろうな。
「な、俺思ったんだけど、こんなに高い建物作らなくてもその辺の標高が高そうな山に昇って交流すればよくない? それだと危険だから駄目なのか?」
俺の質問に答えたのはセエレ。
「この旧王城ができる前はガラトガ山脈に登ってその頂上で交流してたらしいけどね。でもそれだとあまりにも王様とか国のトップが死ぬ確率が高すぎるってことでこの城の建設が始まったらしいよ。龍族も喜んで協力したらしい」
喜んでって、龍族はやっぱり人間に好意的なんだな。
なら最初からそうしてやれよと思わなくもないが。
「もう一つ質問です。転移魔法陣は使えないんですか? 山の頂上に設置するとかできなかったんですか?」
そうだよ。
転移魔法陣なんて便利なものがあるならそれを利用すればいいじゃん。
「転移魔法陣にもいろいろあってね。山の頂上のような魔素の乱れが激しいところには設置できても起動しなかったり誤作動が起きたりすることがある。どこにでもってわけにもいかない」
転移魔法陣のプロフェッショナルであるセエレがいうならそうなんだろう。
そんな話をしている間に門の付近までやってきた。
そこにはたくさんの人だかりができており———。
「うっわ、めんどくさ。あれは記者だよ。私が話すことなんてないのに」
セエレがその光景をみて呟いた。
確かに、カメラみたいな道具を首にかけているものやメモをスタンバイしている人が何人か
いる。
龍前会議はこの世界にとってそんな一大イベントなのだろうか。
「どうするんですか?」
「じゃ、みんなこれつけて」
(またこれかよ……)
セエレからサングラスを渡された俺たちはそれを装備した。
「みんなは私の周りを囲む形で歩いて、門は勝手に開くから止まる必要はないよ」
俺たちはその指示に対し、初めてとは思えないレベルの動作でまるで事前に打合せされていたかのようにすんなりとフォーメーションについた。
「なんか手慣れてるね」
「なんででしょうね」
セエレを中心にしたその陣形で俺たちは記者の人ごみのなかを突っ切る。
『あ、おい! セエレが来たぞ!』
『龍前会議にこの国の戦略級が出席するというのには何か意味があるのでしょうか?』
『最近民衆の間でも話題になっている魔女の復活との関連は?』
『現在この首都に聖都から天使が滞在していることの理由を……』
『冒険者情報部のナナカです。少し質問を……ぐへっ!?』
俺たちに気付いた記者たちがぞろぞろと俺たちの周囲を囲みだす。
「おいお前ら道を開けろ! セエレ様のお通りだぞ! このハイエナどもめっ!」
「そうです! 道を開けろー! このはいえなめっ!」
俺たちはパパラッチから主人を守る護衛のようにして記者たちを撃退しながら進んだ。
セエレに言われた通り止まることなく進み続けると、門が勝手に開き俺たちを招き入れた。
守衛の人が記者たちを抑え、俺たちはなんとか人ごみを抜けることができた。
「ふぅ、なんとかなりましたね」
「みんなありがと。礼を言うね」
あのマッドで極悪非道なセエレが感謝だと……!?
いや、落ち着け俺のデータ怯えるんじゃない。
そうだ。
俺たちは感謝されるようなことをしたんだ。
「はい。これくらい当然ですよ」
落ち着いた俺はセエレの後をついていくように旧王城の入口へと向かって行った。
旧とつくだけあって今はそれほど整備もされていないのか苔やツタがその外装にこびりついている。
その外観からこの首都の中でも古い建物だということが伺えた。
「よくきてくれました。瞬眼のセエレ」
俺たちを出迎えたのはぴしっとスーツを着たイケオジだった。
ガタイがよく、貫禄がある。
金髪に赤い瞳、左耳にクリスタルのピアスをしている。
この場所の執事か何かだろうか。
「お久しぶりです。ゾ―キアス・ゴア・ナムカ様……えーっと……」
その男性に向かって一礼したセエレが挨拶をした。
あれ?
この名前って……確か。
「畏まる必要はないよセエレ君。君にはそういうのは期待していないからね」
「そうですか。王」
おぅ。
この人が王様でした。
いや、全然俺のイメージしてた王様と違ってわからなかったわ。
なんか王様と言ったらもっと、赤いマントつけてなんか高級そうな杖とか持って、もっと偉そうなもんだと思ってたわ。
「後ろにいるのは? 君の知り合いかい?」
王様が俺たちを見てセエレに質問した。
今目の前にいるこの人には実験のことと、フォルナが高位悪魔だってことがばれるとまずいんだよな。
そのことに注意して会話を進めていこう。
「はい。彼らは最近雇った私専属の冒険者です。主には雑務や私の手の届かない範囲のことをやってもらっています」
セエレが王様の質問にそう答えた。
いつも通りのトーンだ。
彼女はこの国の王に嘘をつくことに一切ためらいがないようだ。
流石は俺たちのボス、肝が据わっている。
「なるほど。君が冒険者を雇うなんて……意外だなあ」
王様はまじまじと俺たちのことを見つめた。
探りを入れているのだろうか。
なんか王様って肩書きだけで緊張しちゃう。
そんなに俺のこと見ないでっ。
「後任の育成も兼ねてるんですよ。私もいつ死ぬかわかりませんからね」
「はははっ、君が死ぬなんてそれこそあり得ない話だろう。しかし、そうか。後任の育成か。君もそういうことを考える年頃になったということかな?」
「ええ。そういうことです」
軽い冗談を混ぜて空気を濁したセエレ。
王様も軽く笑い緊張がほぐれた。
しかし、そういうことを考える年頃とは...セエレは一体何歳なんだ?
これは王様ジョークなのか?
「挨拶をしても?」
「その必要はありません。彼らには遊び半分で見学にこさせただけですから。気に障ったなら返しましょうか?」
「……遊び半分ねえ。そんなこと言って許されるのは君くらいのものだよ。まあ、要請したのは私だし文句を言える立場にはないがね」
「それにほら……龍天宮が近づいてきました。早く行きましょう」
その時、俺たちを何か巨大な影が覆った。
何事かと思いセエレが見つめる先を見ると、そこには旧王城のてっぺんに向かって巨大な宮殿が近づいていた。
例えるならば天空の城だ。
空中に浮いたそれはゆっくりとその巨大な影を伸ばしながら進んでいる。
「ば、ば、ば、ばる……」
「ん? どうしたんですかボス?」
「い、いや。なんでも。本当に空飛ぶ城はあったんだなあと思って」
俺はその空飛ぶ宮殿を見つめながらこれがファンタジーかぁ、と久しぶりに自分がいる世界が異世界であることを再認識した。
一体どんな原理で浮いてるんだろう。
人力だったら面白い。
「それでは早速いくとしようか。めんどうな会議の時間だ」
そう言って旧王城に向かって歩き始めた王様の後を俺たちはついていく。
「そういえば、なぜ私が今回に限って君に付き人なんて要請したのか、その理由を聞かなくていいのかい?」
セエレの隣を歩く王様が質問した。
俺はその会話に聞き耳を立てながら王城の中を見回す。
中では何人ものメイドや執事たちが行ったり来たりをしている……というわけではなかった。
っていうか誰もいない。
歴史を感じる装飾や調度品が並べられているのは確かだが、なんというか人の気配がまったくない。
旧王城というくらいだし今はほとんど使われていないのだろう。
「私はそういうのには興味がないので……」
王様に対してもそっけなく答えるセエレ。
変に墓穴を掘らないようにそうしているのか、それとも素なのかは俺にもわからない。
「ボス! 人っ子ひとりいませんよ? なんででしょう?」
流石に耐えきれなくなったのか、まのっぺが俺にそんなことを聞いてきた。
俺に聞かれても困る……と思っていると、
王様が前を歩きながら答えてくれた。
「昔はここに王族が住んでメイドや執事なんかで溢れていたらしいが、今じゃみんな聖都のクリスタルパレスに住んでいるんだ。あっちのほうが安全だし清潔だからね。だから、今ここにいるのは私一人というわけさ」
「へー、一人は寂しいですか?」
まのっぺが聞く。
王様と普通に会話できるなんてこいつ凄い。
「そうでもないさ。一人のほうが都合がいいこともある。だろう?」
笑いながら王様は振り返り俺のほうを向いた。
え?
そういうことなの?
この王様こんなでっかい城の中でそういうことしてるの?
でも、そうだよなー。
こんな広い空間と王様の権力だろ?
酒池肉林は不可能じゃないか……。
「そうですね。わかります」
俺はてきとーに答えた。
果たして王様が考えていることと低俗な俺が考えていることが一致しているかはわからない。
が、こういう目上の人を相手にするときは適当に相づちしてればなんとかなるだろ。
「そうか。わかってくれるか」
ほらね。
「それでは今から最上階へと上がる。セエレ君はこれが二度目だったかな?」
「そうですね。転移魔法陣を使ってですか?」
「もちろん。階段を使っていたら何年かかるかわからないからね」
巨大なエントランスホールの中心までくると、そこにはこれまた巨大なクリスタル。
転移神殿にあったものと同じものだ。
王様がなにやら鍵のようなものをそこにかざすとクリスタルが輝きだし、床に巨大な魔法陣が広がった。
「ではこの世界の頂上に行くとしようか」
王様が呟くと俺たちは『世界の頂上』とやらに転移した。




