第29話 お前人のこと馬鹿にしてんのか
とりあえず帰りのためにマークをバッグに入れて屋敷を出た俺たち。
街の転移魔法陣を経由してギルド都市サークルまでたどり着いた。
今はサークルの工房区に向かって歩いている。
セエレの瞬間移動を利用するよりも歩く距離の分時間がかかるので、俺のエクスカリバーはとっくに鳴りを潜めてしまった。
涙を拭け息子よ。
まだ、いくらでも機会は———。
「なんだか我無と二人っていうのも久しぶりね? 最初のころを思い出すわ」
と思っていたらフォルナに遮られた。
「……そうだな。あの時からもうどのくらい経ったんだ」
「私もそう思います。お二人とも」
バッグの中から喋り出したマークは無視して俺たちは会話を続ける。
召喚されて、強敵との激闘をして、聖女の護衛をして……下手したら一年くらい経っていてもおかしくない。
「そうね。もう一月くらい経ったんじゃないかしら?」
「濃」
全然経ってなかったわ。
「それで、そのオーダーメイド? で何を注文したんだよ。武器か? それとも防具とか?」
俺たちが採取した素材はスライムだった。
一体スライムからどんな装備が作れるんだって話しだが。
フォルナから聞いた話によると、そのオーダーメイドをしてくれた職人はかなりの腕利きだと評判らしいので、俺の頭じゃ想像もできない加工技術とかがあるのかもしれない。
「うふふ。それは見てからのお楽しみよ。でも、ヒントは与えてあげるわ」
「ヒント?」
「悪魔といえば……のあれよ」
(悪魔といえば……?)
俺の頭の中に浮かんできたのは、三又槍だった。
あのフォークを槍くらいに大きくしたような武器だ。
その武器が俺の脳内のフォルナに装備され『これが高位悪魔の武器よ? どぉー?』なんてセリフを吐いた。
三又槍が装備されれば少しはこのポンコツも高位悪魔らしくなるかもしれない。
「わかったかしら?」
腕を組みながら隣を歩くフォルナが聞いてきた。
「ああ。想像ついた。悪魔といえばのあれだな?」
「それなら賭けをしましょうよ」
「賭けぇ?」
まさかこいつそれが目的でここに俺を連れてきたんじゃ……。
「そうよ。我無が想像したものと実際のものがあたってるかどうかの賭けよ。また食費配分券を賭けましょうよ」
「でも最近はそれぞれ現金で給料もらってるじゃないか。お前だってちゃんともらってるだろ?」
屋敷を出て首都でクエストを受けるようになってからは、俺たちはちゃんと二人分のお金をセエレからもらっている。
だから、最近では食費配分券の出番は無かったのだが……。
「別にいいじゃない」
「まさかお前……俺の給料を自分の食費のために奪い取ろうとしてるだろ」
「そうよ。悪魔なんだから当然でしょう?」
俺はそのセリフを聞いて拳を握った。
この卑しい悪魔野郎、受けて立ってやる。
その身ぐるみ全部剥がしてやるよ。
「わかった。ただし、俺が勝ったらこの一週間お前には俺の部屋から出て行ってもらう。そして俺はぬくぬく引きこもりライフを送らせてもらう。それでいいだろ? こっちの方が条件的に不利なんだから」
「それでいいわ。勝負よ我無! そしたらこの紙にあなたが予想する装備を描きなさい」
フォルナはどこからか紙とペンを取り出すとそれを俺に渡した。
「ほんっと、こういうことに関しては用意周到だな……」
俺はその紙に先ほど思い描いた三又槍の絵を描いた。
俺の画力はなかなか酷い出来ではあったが、わからなくもないというレベルでそれは完成した。
他にも悪魔っぽい装備はあるのかもしれないが、目の前にいるこのポンコツ高位悪魔のことだ。
そんなに捻った注文はしていないだろうと踏んだ。
しばらく進むと工房区へと俺たちは入り込んだ。
そういえば俺がここに来るのはこれが始めてだ。
(初めてだよな?)
俺は記憶の片隅に引っかかっている何かに違和感を覚えながら周囲を見渡してみた。
(赤髪、二刀流……ん? まあいいか)
大通りにはたくさんの店が構えられている。
行き交う人たちを見れば、クエストを完了させたのか大きな袋を持った冒険者やせわしなく動くドワーフがいた。
そんな大通りをどんどんとフォルナは進み、俺はそれについて歩く。
「なあ、まだつかないのか?」
「この私のオーダーメイドなのよ? それ相応の職人に作ってもらったに決まってるじゃないの」
「お金は足りるのか? 大丈夫? 俺は一ドラも出さないからな」
「大丈夫。問題ないわ」
俺は自信満々なフォルナの顔を見て不安にはなりながらも、まあ何かあったら全力ウィンドでこいつを置いていこうと考えた。
しばらく進むと巨大な建物の前にたどり着いた。
その屋根からはもくもくと煙が上がり、中からは鉄を打つ音と熱気が漏れ出している。
「もしかして……ここか?」
「行くわよ」
その建物はあまりにも巨大……というかこの工房区で一番大きな建物だったので俺はますます不安になってきた。
フォルナの後について中に入ると、一番に目に入ったのは巨大な炉。
オレンジ色に輝くその炉の前では何人もの職人が鉄を打っている。
次に目に入ったのは天井の紐にとまる何百匹ものフクロウだ。
フォルナに手紙を届けたやつ。
俺にはあれがフクロウのように見えるが、もしかしたら違うのかもしれない。
ただわかることは、あいつらがここから製品が完成したことを伝える伝書鳩のような役割を担っているということだろう。
「なんだか凄い施設だな」
「そうでしょう? さあ、答え合わせの時間よ」
そう言ったフォルナは網目のカウンターのような場所に身を乗り出した。
「注文してたものを取りに来たわ。はいこれ」
フォルナは屋敷に来たフクロウから受け取った手紙を脇から手を出して受付の人に渡した。
闇の取引現場とかでよく見る渡し方だった。
受付の人……というか恐らく魔族の人は、六本ある腕を器用に動かしている。
その背後には無数のボタンがありそのうちの一つを押した。
「はいくるよー。注文番号666ね」
悪魔の数字だ。
「くるわ……くるわよ……」
ゴゴゴゴゴゴっという音が下から迫ってくるのを感じる。
俺はその音に固唾を飲んだ。
(一体どんな装備をコイツは注文したんだ……)
チーン。
到着音がなり、地下から網目のカウンターの下に物が届くと六本腕の魔族さんがそれをカウンターの上に置いた。
「さあ、我無。これが私のオーダーメイドよ!!」
「おま……これ……っ!?」
俺は手に持った紙に書いた絵とその物を交互に見た。
「ほら我無。その絵を見せてみなさいよ……って……ちょっと! あなた超能力者かなにかの!? そういう能力があるなら教えなさいよ! ずるいわ!」
俺の手に持った紙をフォルナが奪うと、俺はカウンターの上に置かれたそれを見て呟いた。
「こ、これ……ただのフォークじゃん」
そう。
目の前に差し出されたのは三又槍というにはあまりにも小さすぎる、イチゴを刺すので精一杯なサイズをしたフォークだった。
「製作者からコメントをもらってますけど、読みますか?」
呆れ果てた俺に六本腕の魔族さんが聞いてきた。
「あ、お願いします」
「『お姉さん。フォークの注文を受けたのは俺の長い職人人生で始めてだった。スライムの素材をなんとか加工して完成までこぎつけたが、これは俺にとっても未知の経験だった。新たなインスピレーションを得ることができたぜ。それに感謝して料金は七割引きだ。取説は受付のヤッコからもらってくれ。それじゃ』だそうです」
「……」
俺は無言でそのコメントを聞いていた。
職人に変なインスピレーション与えてんじゃねえよこの悪魔。
「はいこれ、代金よ」
フォルナは俺の絵を見てぶつぶつ文句を言いながら料金を払った。
「まいどー」
———
俺たちは施設から出た。
「それにしても我無、よく当てたわね? 一体どんな魔法を使ったのよ」
フォルナは受け取った黒光りするフォークを指で回しながらそんなことを聞いてきた。
(いや当たってないけどね。お前が持ってるのはフォークで、俺が予想したのは三又槍だけどね)
とは思ったが。
勘違いしているなら別にいいやと思ったので、俺はこのツッコミをグッと飲み込んだ。
「企業秘密だ。それよりもお前なんでそんなもん頼んだんだよ」
フォルナはフォークを器用に回す。
「私、閃いたのよ」
「閃めいちゃったの?」
「そうよ。スライムのように変幻自在なフォークがあれば、チョコケーキに新しい可能性が生み出せると思ったのよ!」
「全然意味わからないんだが」
どゆこと?
「ほら、よく瓶で飲むかグラスで飲むかで味の感じ方が違うって言うじゃない? だから、私もこのフォークをいろいろな形に変えてそれでチョコケーキを楽しもうと思ったのよ。そしたら、同じチョコケーキでも味の感じ方を変えて楽しむことができるでしょう? ねえ、これ凄い発想じゃないかしら? 私って天才的悪魔じゃないかしら?」
言わんとすることはわかる。
口に触れた時の感触とかによって感じ方が変わる……口当たりが違うってやつだな。
でもさぁ。
「なあ、お前の人生はチョコケーキを中心に回ってんのか?」
「そうよ」
言い切りやがった。
「まあいいや。とりあえず賭けは俺の勝ちだからな。この一週間あの部屋は俺の貸し切りだ」
「勝負は勝負だからちゃんと約束は守るわ」
俺は嘘ついてこの勝負に勝った。
が、その割には全然胸は痛まなかった。
勝負の相手が悪魔だからだろう。
「それよりも我無、さっそく私はこのフォークの実力を試してみたいわ! 屋敷に戻って実践よ!」
「代金は自分で払えよ?」
———
屋敷に戻ってきた。
セエレもまのっぺもクノスもいない屋敷の食堂で俺たちは向かい合う。
フォルナの前にはお皿にのった一切れのチョコケーキ。
俺の前には一杯の水。
彼女はケーキをじっと見つめていた。
「……いくわよっ」
「どうぞ」
俺は水を口に含みながらジト目でその光景を眺めていた。
チョコケーキ一つにここまで本気になれるなんてコイツは幸せもんだ。
そういうところは見習いたい。
パクッ。
彼女は目にもとまらぬ速さで口にケーキを入れた。
「どうだ?」
パクッ。
口に入れたものを飲み込むと第二撃が放たれる。
「こ、これは……我無、これは革命よ。私はとんでもないことをしてしまったわ」
彼女は口に手を当てて、この星に衝突する隕石を発見しちゃいましたみたいな顔で驚いている。
「なに? 味が変わったのか?」
「変わったなんてものじゃないわ。とても言葉では説明できないものよ。ほら、我無も食べてみなさい」
俺はフォルナにあーんをしてもらいそれを口に入れた。
「もう一口くれ」
「もう駄目よ。私の分がなくなるじゃない」
「おい、それだと比較できないんだが」
なにいってんだこいつぶん殴るぞ。
「確かにそうね……じゃあやっぱり知らなくていいわ」
そうしてフォルナはまたケーキを満足気に食べ始めた。
(マジぶち殺すぞ)
その後も満足気にフォークを進めて、半分ほどを残して彼女はフォークを置いた。
「我無、これは革新的な発明よ。神器と言ってもいいかもしれないわ」
「そすか」
俺は軽く流した。
「とっても気分がいいからサリナスにも食べさせてあげようかしら」
「!?!?」
「これから一週間引きこもるんでしょう? 流石に部屋の中で死ぬなんてことないでしょうし、召喚するわ」
フォルナは立ち上がり机の上に手をかざした。
するとそこに魔法陣が現れて……。
「高位悪魔フォルナが命じる。下僕召喚よ。サリナス、出てきなさい」
魔法陣が妖しい光を発すると、その下からこの世の生物とは思えないほどの存在力を放つ堕天使が現れた。
(現世バージョンサリナス様キタコレええええええええええええええええ!!!!)




