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【二章完】トライあんどエラーを拳で!?  作者:
第三章 魂ブレスレット編
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第28話 バベルの塔

 セエレが古の転移魔法陣とやらとにらめっこしながら俺たちに再度説明してくれた。


 簡単に振り返ると、


 セエレは実験を継続するために莫大な金が必要だった。


 でも行っているのは悪魔が参加した非合法な実験。


 だから資金提供をしてくれる資本家も一筋縄ではいかない。


 その資本家の要望に応えるために俺たちはこの古の転移魔法陣を使って龍封の地とやらに行くことになっていたのだ。


「あーそういえばそんな話もあったな」


 俺は遠い目をして呟いた。


「クノスー、お前はこれ覚えてたか?」


「私は……わ、ワスレテタ……」


 と照れながらクノスは言った。


「俺もだよー。なんていうかさ、心のどこかでこのまま一生見つからなければいいなーって思ってたんだよな。でも人生そう都合よくいかないよなー」


 俺は椅子に座り顔を天井に向け、目だけ動かしてセエレを見つめていた。


 彼女はバッグから地図を取り出して古の転移魔法陣とやらに触れ回りながら『この記述なら転移先の座標は……』とか『なるほど。そういう仕掛けが施されているのか……』とか『そうかこことここに一定量の魔力を注げば……』とか言っている。


 彼女の研究者らしい一面が垣間見える貴重なシーンではあるのだが……。


「もどうでもいいや」


 俺の心はぐったりとしていた。


 だって? この古の転移魔法陣が見つかっちゃったってことは? 俺たちは化け物共がいる人類が立ち入ることは禁忌とされている龍封の地とやらに行って? そこで見たこともない幻のモンスターと戦って? 失敗したら死。成功したらこの実験生活続行……なんでしょ?


 わー。いいことづくめ……。


 んなわけあるか!!


 心のどっかで思ってたよ?


 このままグダグダこのパーティーで簡単なクエストこなしながらちょっと刺激のある日常過ごせたらそれでいいかなって?


 でももう無理じゃん。


 一気にハードモード突入じゃん。


「神様―聞こえてますかー」


 俺は教会の天井に向かって呟いた。


 その声は反響して俺の耳にカムバックする。


「俺の異世界生活サイコーにサイコですよー」


 涙を流して呟く俺に……。


「まあそう言うな。私と一緒になんとか頑張ろう」


 とクノス。


 こんな時でもやさしいね。


 このむっつり魔剣士は。


「私との生活は最高ですか! 嬉しいです!」


 とまのっぺ。


 お前との生活は最高じゃなくてサイコのほうだ。


「我無殿、人生は谷あり山ありですぞ!」


 と新聞にかじりつくロー爺。


 特にコメントなし。


 俺はまだ幸せなのかもしれない。


 この過酷な環境を分かち合える仲間がいるのだから。


 トホホ。


「よし。確認とれたよ。これは間違いなく内地の外。龍封の地に繋がってる」


「それで? 今から行くんですか? 早いほうがいいですもんね? 俺はいつでもスタンバイオーケーですよ?」


 俺は諦め気味にそう言った。


 諦観の構えだ。


「スケジュール的には龍前会議に出席するほうが先かな。依頼人にも転移魔法陣を発見できたって報告しなきゃだし」


「そすか」


「それじゃ、一旦屋敷に戻ろう。二号たちよくやった。ほめてつかわす」


 わーいセエレが珍しくほめてくれたーうれしいなー、


 とはならない。


 俺の今の感情は無だ。


 むっ。


「ロー爺さん、そんなわけで、俺たち帰るから」


「はい。頑張ってください我無殿。ミナも頑張っているようですし、この老骨は若者の活躍を応援しますよ。あー、あとこの教会は閉鎖するのでご心配なく」


「ども」


 こうして俺たちは幸運?なことに古の魔法陣を発見したのだった。


 思わぬ収穫、思わぬ終活。


 とりあえず今後の予定としては、セエレの付き人として龍前会議に出席することだ。


 その後に龍封の地での冒険が俺たちを待っている。


 いやぁー、まったく。


 腕がなるねぇこれは。



 それ以上に俺のストマックがキリキリとなってしまっていることは言うまでもなかった。



 ———



 屋敷に帰ってきたよ。


「それじゃ、龍前会議は一週間後だから。それまでに私はいろいろと手続きとか……まあとにかくその他諸々をやっておく。二号たちは適当に休んでるといいよ。今回は思わぬ収穫があったわけだし、これはボーナス休暇だね」


 そう言ってセエレはまたどこかに消えてしまった。


 人生初のボーナス休暇がこんなにも嬉しくないとは。


「我無はどうする? 一週間の休暇だぞ?」


 クノスが聞いてきた。


「俺は屋敷でぐーたらしてるわ。動きたくないし、外出ても碌なこと起きないだろうしな」


 外の世界は怖い。


 ランダムイベントが絶えず発生している世界に、罰ゲームみたいなメンツと出かけるなんて頭がイカレている。


 馬鹿がすることだ。


 俺は絶対外にはでないぞ。


「ボス! 私はどうすればいいでしょうか?」


 まのっぺが聞いてきた。


「お前、なんか趣味とかないの?」


「趣味ですか……?うーん。経験値集め?」


 それ人殺しー。


「他には?」


「うーん。あ! そうです! ノリノリの曲を聞くのは好きです!」


 と言ったまのっぺがポケットから取り出したのは音楽を流せる魔道具だった。


(そういえばコイツ、牢屋でソロダンスしてたな……)


 もう異世界観がこれっぽっちもないそのアイテムを俺は覗き込む。


「一体どーいう原理なのよこれは」


「これはですね。魔祝職人という魔道具専門の職人たちが作った魔力を音に変換できる道具なんです! 私は職人じゃないので原理は知りません!」


 まぁ、俺もスマホの原理知らなくても使ってたしな。


「魔祝職人っていうのはなんなんだ?」


「魔祝職人は魔道具専門の職人です!」


「うん。それは今聞いたよ」


「えーと、彼らは日々技術を磨いて主には生活に役立つ魔道具を作ったりしているのですが、音楽を流す道具だったり、映写魔道具だったり、あの自販具だってそうですよ。他には朝起きる時に意識を強制的に覚醒させてくれるものや、夜寝るときに強制的に眠らせるものや、とにかくそういうものを作ってるんです!」


 強制的にってのがひっかからないでもないが、この世界では生活魔法ではなく生活魔道具が流行っているってことか。


「あ! そういえばこの街にも魔道具店があったような気がします。ボス! 私はそこに遊びに行ってくるとしますね!」


「気をつけて」


「はい!」


「いや、今のはお前にじゃなくて街の人に言ったんだ」


 元気よく行進を始めたまのっぺはそのままどこかに消えた。


 この街にはセエレのゴーレムが随所に配備されてるし、なにか問題があればセエレが対処してくれるだろう。


 してくれなかったとしても、してくれるということにしておこう。


「クノスはどうする?」


「私は……これといった趣味もないしな……」


「嘘つくなよこのむっつり魔剣士。いい機会だ。あの小説全巻読破すればいいじゃん」


「!? なっ! なぜ……文字を読めないはずの我無がそれを……」


 クノスの耳は一気にカーっと赤くなった。


 なぜってそりゃ……。


「あのねえ。いくら文字が読めなくても同じ題名の文字ばっか見てたらそれがシリーズ物だっていうことくらいわかるの。しかも俺は数字は読めるからな」


「で、でも私は、ちゃんとブックカバーをしていたはず……」


 どこからともなく小説を出したクノス。


 手に持ったそれを見て俺は……。


「透けてるのよ……それ……」


「あっ、あっ、あっ……あぇ……!?」


 クノスは本で口元を隠すとわなわなし出した。


(この人剣以外はてんでダメだな)


 耳から顔まですべてを真っ赤に染めたクノス女史。


 今彼女を時間差攻撃が襲っているのだ。


 なぜかって?


 だってこの人、事あるごとに暇になったらその本開いてましたから。


 食後、街角、路地裏……うん。


 今思い返せばいろんな人がジロジロ見てたな。


 それに対してクノスはにやにやしながら幸せそうに本を読んでた。


「とにかく。透かせるのはその頭だけにしといてくれよ。むっつり魔剣士さん」


「なっ! なんで言ってくれなかった! 我無ぅ!!」


 真っ赤になったクノスに肩を揺らされながら俺は答えた。


「だって、そっちの方が面白そうだし」


「———ッ!!」


「ぐへらっ!?」


 クノスに剣の鞘でボコボコに殴られた俺は、床にへたり込み彼女の後ろ姿を見送った。


「よし。怪我という大義名分も得たところで、早速引きこもりますか」


 俺は四肢を粉砕された状態のまま、床を這いつくばりミミズのようにして自室へと向かった。



 ———



 部屋に戻った俺は重大なことを忘れていたことに気が付いた。


「あら、我無お帰りなさい。どうだった?」


 そうだった。


 このポンコツ高位悪魔の対処を忘れていた。


 どうしようか。


 実は山のてっぺんでチョコケーキのなる木が発見されたとでも嘘言って追い払おうか。


「実はですね。いろいろあって。あの山の頂上でチョコケーキがなる木が発見されたらしいですよ。行ってみたらどうですか?」


 俺はその嘘を実行した。


「ねぇ、流石にそれが嘘だってことくらいわかるわ。っていうかいろいろってなによ」


「チッ」


 やるじゃん。


「俺たちには休暇が与えられたんだよ。一週間のな。だから俺はこの部屋で一週間冬眠することになった。早く出てけ。ゲラウェイ」


 俺は親指で出口を指した。


 出てけ悪魔。


 悪霊退散。


「なによそれ。意味わからないわ。だってここは私と我無の二人部屋じゃない。なんで私だけが出ていかないといけないのかしら?」


 彼女は机の上でケーキをパクパク頬張りながら言った。


「お前がいるとな。こっちだっていろいろとやりたいことができなくなるんだよ」


「だからいろいろってなによ」


「そりゃいろいろだよ……」


「もっと具体的にいいなさいよ」


「じ、自家発電とか……?」


「自家発電? 電気を溜めてどーするのよ」


「未来への投資だよばかっ。みなまで言わせんなっ!」


 もう!


 この悪魔ほんとデリカシーないんだからっ。


「とにかくな。お前がいるとこっちは不都合なの」


「そんなこと言っても私はどうすればいいのよ」


 フォルナはポケットに手を入れてジト目を向けてきている。


「またクノスの部屋に行けばいいだろ。隣だしすぐじゃん」


「嫌よ。だってベッドは二人で使うには狭すぎるし、上ではまのっぺが寝てて毎朝あの角で突っつかれるのよ。触るのはいいけれど刺されるのはいやよ。それにいつの間にかシーツが爆散してることもあったわ」


 あいつ寝相も悪いのか。


 凶悪だな。


 っていうかシーツが爆散ってなに?


 燃えたの?


「そう言われてもこっちだってもう爆発寸前なんだよいろいろと」


「なんだかわからないけれど、したいならさっさとすればいいじゃない。いいわよ別に、復活させてあげるから」


「……ん?」


 俺は閃いた。


 そうか。


 俺としたことが、今までこんな固定観念に囚われていたなんて。


 住民がその場から退去しなければそこに建物を新設してはいけない、そんな固定観念に囚われてしまっていた。


 そうじゃない。


 発想の転換、コペルニクス的転回、太陽は俺。


 追い出せないなら追い出さない。


 いっそのことそこにたてはじめてしまえばいいのだ。


 俺の、天まで届くバベルの塔を。


 そして目の前の悪魔をその住人にしてしまえばいいのだ。


「フォルナ、俺は今からバベルの塔の建設に入る。どうするかはお前の自由だ」


 そうして俺はズボンに手をかけ、神への挑戦とも言える所業へと身を乗り出した。


 バベルの塔、建設開始ッッ!!


 のはずだったが……。


「あ、ちょっと待ちなさい。手紙が来たわ」


 部屋の窓をコンコンと口先で叩く鳥がいた。


 ヘドウィグ?


 と一瞬思ったが違った。


 真っ黒いフクロウだった。


 悪魔なのにカラスじゃねえのかよ。


 とツッコミを入れたくなるがそれどころじゃない。


 既に煉瓦は焼かれ、積み上げられようとしていたのだ。


「えーっとなになに? ……あっ! 私のオーダーメイドが完成したらしいわ!」


 ぱあっとフォルナの顔は輝きだした。


 オーダーメイド?なんだっけ?


 いや、今はとにかく建設に集中しないと……。


「我無! 一緒にいきましょう! オーダーメイドを見に行きましょうよ!」


「いや待て。もうすぐ俺のオーダーメイドなエクスカリバーが焼きあがるから……」


「何言ってるのよ! さっさと行くわよ!!」


 フォルナは俺の腕を掴むと強引に俺を引きずって連れ出した。


 さっきクノスにダメージを負わされたせいもあって抜け出せない。


「ま、まってくれ!! まだ、給料が……給料が未払いなんだよおおおお!!」


「何言ってるのよ! さっさと行くわよ!!」


 斯くして、神からの使者によって俺のバベルの塔もまた、完成には至らなかったのである。


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