第26話 何がなんだか全然わからないんだが
三章スタートです。
よろしくお願いします。
「で、一応聞くけど。どうして護衛のクエストがこうなっちゃうわけ?」
俺たち四人は書斎で正座させられていた。
目の前の椅子に座るのはセエレ。
彼女は新聞を広げその一面に目を向けている。
「ど……どうしてこうなった……?」
俺は自分が置かれている状況に混乱していた。
ミナの復讐のために殴りこみに行ったところらへんまではなんとなく覚えてる。
でも、そこから先が酷く曖昧だ。
なにか母性の塊のようなものに抱き寄せられていた気持ちが湧き上がるが、それ以外何も覚えていない。
クノスに聞いても『お前は悪くない……お前は悪くない……』としか言わなかったし、フォルナに聞いても『まぁ、そういうこともあるわよ。誰だって昔に戻りたいと思うものよ』としか言わないし、まのっぺに限っては『ボス! またお馬さんやってください! 待ってます!』だと。
一体どういうことだ?
意味不明だ。
「ねぇ二号。聞いてる?」
「えっ? あ、はい」
「理由を聞いても?」
新聞越しに伝わるセエレの怒気。
俺の生体アラートは赤信号を発していた。
コードレッド。
コードレッドだ。
もしここで下手なことを言えばベランダから落ちたトマトみたいに俺はなってしまう。
(思い出せぇ、思い出せぇ……は!)
チカッ。
その時、俺の脳内に天啓が降りた。
この状況を打開する策だ。
「そこには一人の聖女がいました……」
俺は正座のまま語り出す。
重く深い……悲しみの連鎖を断ち切る話を。
「彼女は来る日も来る日もやってくる変態たちに頭を悩ませ、その人生には厚い雲がかかっていました。それだけでなく、その得意な力によって命さえも狙われていたのです。重く降りかかる雨に押しつぶされそうだった彼女……でも、ひょんなことからやってきた救世主たちによってその雲は掻き消されました。彼らは彼女にとっての憂いの元を、その根から取り除いたんです。二度と……このような悪夢が繰り返されないように……。そうですセエレ。それが俺たちだった……というわけです」
情に訴えかけたのだ。
どうだ?
許されるか?
「ねえ二号? 理由を聞いてもいい?」
あれ?
もしかして今ミュートされてました?
「私達は護衛の任務をしていただけだ。護衛対象の未来を守るために戦った。ただ、それだけだ」
しばらくの沈黙の後、口を開いたのはクノスだった。
そうだ、俺たちはミナという護衛対象の安全を確保するために戦ったんだ。
ちょっと業務外労働みたいな気がしないでもないが、きっと最終的にはああなっていたはずだ。
「他の二人は何か言う事ないの?」
やめて、そっちの二人に話を振るのはやめて。
「そうね。まあ、結果オーライじゃないかしら? 私達がやったってことはバレてないんでしょう? なら別に問題ないんじゃない?」
「この記事によれば、サングラスをした何人かと、ビリビリに服が破れた男を背負った女が逃げ出しているのを見たって目撃情報があるけど?」
ビリビリに服が破れた男ってのは俺のことだ。
ということはミナは俺を背負ってあの場所から逃げてくれたのか。
あとで礼を言わないとな。
彼女は今何をしているのだろう。
「それだけじゃ、私達だってばれはしないわよ」
「そうです。私達はちゃんと夜の闇に紛れて事を起こしましたから、セエレの心配には及びません!」
膝の上に拳をちょこんとおいて正座しているまのっぺが言った。
「でも、この記事にはサングラスを掛けたうちの一人には角と羽が生えており低身長で、子供の魔族だと推測されるって書いてあるけど……?」
だめだー。
夜の闇に紛れててもまのっぺの特徴が強すぎる。
そうだよなー、俺も一瞬思ったんだよ。
サングラスかけたところでこのバーサーカーには意味がないって。
なんなら身体全体にモザイクかけてもシルエットでわかりそうだもん。
漫画のキャラクターだよ。
「セエレの気持ちはわかります。でも俺たちはもうやってしまったんです。そして過去には戻れない。責任の追求はこの辺にしておきましょうよ。あとのまつりって言うじゃないですか」
「言わないけど」
(えぇ、言わないぃ? この世界ではこのことわざないのかよ)
「はぁ。もういいよ」
新聞を閉じたセエレはそれを机の上に置いた。
「幸いこの事件に関係していた傭兵の証言によって、首都で発生していた誘拐事件や殺人事件と、この崩壊した館には関係があったことが証明された。だから、館をめちゃくちゃにした犯人探しにはそこまで人員は割かれないと思う。それに、首都の聖女や天使たちがこの事件の首謀者にお礼を言いたいってコメントもあるし」
傭兵の証言ってのは、おそらくあの建物の中に居た誰かが逃げ出して捕まったのかそれとも自首したのか……どちらにせよそいつがトー・アクネスの活動について何か証言したのだろう。
「問題はね。こっちだよ」
そう言ったセエレは新聞に触れると、その一面を俺の目の前にテレポートさせた。
「ふがっ」
風に飛ばされてきた新聞に顔を覆われるようにその一面が顔面にへばりつく。
「そこの記事、読んでみて」
言われた俺はその新聞を開いて読もうとする。
が、
「俺、字読めないんスけど」
俺は字が読めなかった。
俺が開いたページを横から覗きこみながら、代わりにクノスが読んでくれた。
「私が読もう。えーっと、開催が迫る『龍前会議』に向けて盟約締結者にして我が国の王『ゾ―キアス・ゴア・ナムカ』がその付き人の任を『戦略級魔導士瞬眼のセエレ』に要請することが明らかになった……って書いてあるぞ」
龍前会議ってなに?
なんだか重要な会議って感じがするけど、その会議に出席する王様によって今目の前にいるセエレが付き人に選ばれたってことはわかる。
セエレなんて瞬間移動できて重宝されるだろうし、その王様が要請するのも不自然じゃないよな。
でも、一体この記事と俺たちが起こしちゃった事件となんの関係があるんだ?
「この記事の何が問題なんですか?」
「問題はあの人が普段龍前会議に出席するときに付き人なんて従える人じゃないってこと。この事件が起こった直後に私を指名するなんて、絶対なにかある」
それってもしかして……。
「今回の事件の首謀者とセエレの関係がバレてる……とか?」
俺は恐る恐るセエレの顔を見上げながら聞いてみた。
セエレは今、サングラスはしていない。
この事件のせいでサングラスブームはどこかに行ってしまったのだろうか。
俺たちのせい?
「その可能性は高いだろうね」
「そ、その場合……俺たちってどうなっちゃうんですか……?」
廃棄処分なんてないよな?
ないよね?
「心配しなくても私が二号たちを処分するようなことはさせない。大事な実験素材なんだから、今回の事件でもかなりいいデータが観測できたし……」
セエレの目線の先には小型化したマークがバッテリーを切られたかのようにぐったりと座っていた。
今は充電時間なのかもしれない。
「ただ、させないっていうのと実際にされないかは別の話。流石に一国の王が潰しにかかってきたら私でもどうにもならない。あっちには統括委員会もいるし……」
「それならその護衛を引き受けなければいいんじゃないですか? 要請なら断る権利がこちらにはあるんですよね?」
そうだ。
嫌なことからは極力逃げてしまえばいい。
逃げられるなら逃げるべきだ。
「そうなんだよねー。それがまた厄介なんだよー」
セエレは頭を抱えている……わけではなかったが、座る椅子とともにグルグルと回っていた。
普段は感情が読み取りづらい彼女だが、今は年相応に悩んでいるように思える。
「召喚でもなく、任命でもなく、要請。こっちには断る権利がある。それが問題。だって断ったら断ったで何か隠し事があるんじゃないかと思われるかもしれないし、もしあっちが全部知っててやってるんだとしたらこの実験を潰すきっかけを与えることになるかもしれないし……」
『あーあー』言いながらセエレは椅子とともに回転している。
(なるほど、高度な頭脳戦ってわけね。俺には全然わかりません! ってか、そもそも俺たちの存在がバレるとセエレになにか悪いことってあったっけ?)
俺はそんな事を考えながら隣を見た。
するとそこには澄ました顔で目をつむりながら、いかにも話を聞いてますというふうに首を頷かせている女が居た。
数秒観察していると、その頷きのリズムが一定であることに気がつく。
(コイツ、寝てやがる……)
そうだ。
この女は悪魔だった。
フォルナの存在と彼女を実験に利用していることがバレるとまずいのだ。
「あーーもう!」
机に足を引っ掛け回転していた椅子をガシッとストップさせると、セエレは決心がついたかのように話し始めた。
「決めた。この要請に応じることにする。そして、二号たちも私の従者としてつれていくことにする」
『え?』
『なに?』
『めんどくさです』
『……ふがっ!?』
「こうなったら素直にさらけ出す方向で行く。変に隠すのはなし。でも、実験のことと特にフォルナが悪魔だって言うことは絶対秘密。みんなは私の助手っていう設定でいくから」
突如決まった会議への出席。
俺は別にいいんだけど、この悪魔が黙っていられるはずがない。
「セエレ、流石にフォルナを連れて行くのは危険では? この悪魔が黙っていられるはず無いですよ。事あるごとに悪魔自慢するんですよ。今回のクエストの時だって……」
俺はコクコクしているフォルナのほっぺたをペチペチしながら言った。
「え? 悪魔だってバレたの?」
セエレからの質問に俺は記憶を手繰った。
たぶん牧師のロー爺さんにはバレてると思う。
どうしてバレたのかはわからないが。
もしかしたらミナが、フォルナが冗談で高位悪魔だと言っていたことを喋ったのかもしれない。
ミナにはその判別がつかなくてもベテラン牧師ともなればそのきっかけさえあれば見分けられたのかも。
「はい。一名にはバレてるかも……知れないです……」
だから俺はロー爺さんのことをセエレに伝えた。
すまないジジイ。
恨むなら地獄で恨んでくれ。
「教会の牧師か……買収は難しいかも……他には?」
よかった。
一応殺しではなく買収の方向で行ってくれるみたいだ。
「他には……あ、冒険者登録のときにゴーストのトランスがちょっと気にかかってたような気がします」
そういえばトランスもフォルナのことをあのグラマラスな女性の種族はなんですか? とか聞いてきていたような気がする。
「あーあの看板仮面ね。そっちはなんとかなるから……それならその牧師とちょっと話しに行こうか」
「え? 今からですか?」
「なるべく早い方がいい。私は先延ばしは嫌い」
そう言ったセエレは転移魔法陣が記入された本を開いた。
俺たちを送るときにいつも開いていたものだ。
俺たちはその本を見て立ち上がる。
「フォルナは? 連れて行くんですか?」
「確かにこれで墓穴を掘るのもよくないね。彼女は置いてく」
「うーん……えーっと……なんだかよくわからないのだけど……私を置いていく気?」
未だに少しウトウトしているフォルナ。
今までの話は半分もその頭には入っていなさそうだった。
それなら黙ってろよ。
「ケーキの在庫食べてていいから」
「ん……ケーキ……はっ! それなら幸運を祈ってあげるわ! 悪魔だけれど……特別よーー!」
フォルナは調子良くサムズアップすると足早に書斎から消えていった。
俺はその後ろ姿を死んだ目で見つめていた。
まさかあの悪魔の耳は都合のいい情報と悪い情報をオートで仕分けしてるわけじゃないだろうな。
「それじゃ首都まで転移する。転移したら教会の場所まで私を案内して」
セエレが手をかざすと部屋一面が光の柱に包まれ、俺たちは転移した。




