第25話 門出を祝して
私はパーティーメンバーとともに龍車の中で揺られていた。
パーティーメンバーがどうでもいいことでくだらない言い争いをしているのを聞いて、ふと、私に信じるべきものを与えてくれた人たちとの日々を思い出す。
幼いころに、ローおじいちゃんから私の聖女の力は大聖女に匹敵するものだと言われたことがある。
私自身は魔法の才能がまだまだ成長段階だし、自分が本当にそんな力を持っているとは思っていなかった。
おじいちゃん曰く、大聖女ともなると自分の人生を生きることはできない。
教会や天使との仕事で引っ張りだこで、自由な人生は生きられないそうだ。
だからローおじいちゃんからはむやみやたらにこの力を使うべきではないと、そう言いつけられてきた。
きっと彼は、私にはなるべく安全で自由な人生を生きてほしかったんだと思う。
あの日、両親が私と共に教会に残したクリスタルをおじいちゃんに渡したとき、私は自分の力が強まるのを感じた。
根拠はないけれど、なにかそれまで私の力を抑制していたものから解放されたような気分だった。
フォルナさんと我無を助けに行って、彼がとんでもない姿になっていたのを見た時は正直焦った。というか若干引いた。
だって、両腕が無くなって、地面に半目でよだれを垂らしながら『タスケテェ』って……本当にあの人には驚かされる。っていうか頭おかしい。
でも、あの人が非常識な人間であることはこの身をもって体験していたことなので私は思ったよりも冷静にその状況に対処することができた。
大聖女レベルの回復魔法。
それを発動することができたのだ。
不安?
それは不思議となかった。
だって、私はあの日、信じる人のためにこの力を使おうと決心したんだ。
自分の力を信じないで、どうして目の前の大切な人を救うことができるのかってはなし。
ボロボロになりながらも必死に戦って、我無はなんとか勝利した。
かっこよさとは程遠い無茶苦茶な戦い方だったけど、変態なりに頑張っていた。
そして私はその姿に今までのどんな出来事よりも強く胸を焦がされたのだ。
私が我無を背負って、みんなで事件現場を退散している時、私は前を走る三人を見て決心した。
この人たちみたいに我無を支えられる存在になりたいと。
結局最後、あの狼男が水の魔法で我無の身体を閉じ込めた時、私は何もすることができなかった。
まのっぺがいなければ、我無は窒息死していた。
私の人を癒す力が発揮されるのは人が傷ついた後なのだ。
前じゃない。
この力は大切な人が傷つくことを前提に成り立っている。
そのことをひどく痛感した。
だから、決心したのだ。
私は癒すだけじゃなくて、守れる強さも手に入れてみせると。
私の大切な人のために。
その時、アニスがよく私に音読させていたある本をふと思い出した。
『聖女治癒旅行』
一瞬で、これだ! と思った。
点と点が繋がって運命の道が開けたような気がした。
私は背負っていた我無の顔を覗いて、彼を地面にそっと降ろした。
彼には本当にひどいことをされた。
一人の女の子として、彼にやり返す権利が私にはあったのだ。
「これは仕返しですから」
そう言って……彼の頬に……。
「いつか、もっと強くなってあなたを守って見せますから。その時まで、待っていてください」
彼の普段とは違うおとなしい寝顔を見ながら、私はそう呟いた。
「みなさん!」
そうして私は我無を三人に託し、旅に出ることにしたのだ。
なんの事前準備もない。
唐突な出発。
でもいつだって何かが動き出すときは何の前ぶりもなく動き出してしまうものなのだ。
あの男が私にしたように……。
「ねぇ、ミナどうしたのさ。物憂げな顔しちゃってー」
外の景色を眺めていると、隣の席で揺られていたパーティーメンバーの女の子に声をかけられた。
「そうみえましたか?」
「うん。これは恋する乙女の顔だね~」
彼女は私の二の腕をツンツンしながらからかう。
「なーんてね。冗談じょうだ———」
「そうなんじゃないですか」
「え?」
彼女の顔が固まった。
「だから、そう見えたってことはそうなんですよ。きっと……」
『えええええええ~!!』と大声をあげて驚愕している彼女と、それを見て『なんだなんだ』と近づいてくるパーティーメンバーを横目に、私は外の景色を見た。
すると、私の髪は風に揺られ。
つい癖で、祈らずにはいられなかったのだ。
「今は亡き創造主よ。聖女の願いをここに届けます。祈りは翼を、翼は風を、風は祈りを巡らせるように……巡り巡って、またあの人に、会えますように」
神頼みってのも悪くない。
初めて、心の底からそう思えた気がした。
これにて二章完結です。
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