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【二章完】トライあんどエラーを拳で!?  作者:
第二章 弱小聖女編
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第23話 拳で!?

 

「久しぶりですね。我無」


 目の前にいたのは堕天使サリナスだった。


 久方ぶりに見るその美貌はやはり言葉では形容しがたいものがある。


 それでも幾重もの言葉を重ね説明したくなるが、今はそれどころじゃない。


「ミナは、彼女たちは大丈夫ですか?」


「ええ。我無が身体を張ったおかげで二人とも無事です。アニスと呼ばれていた少女は両親が迎えに来て家に帰りました。ミナは……意識はまだ覚めませんが命に別状はないと牧師さんが言っていました」


 ほっと安堵し、俺は次に自分の心配をした。


 この空間にいるということは、俺は絶賛蘇生中。


 俺も命に別状はないということだ。


 いや死んでるけどね。


「よおおおおおおおおおお!! にいちゃーん。久しぶりだなぁ」


 と、その時。


 この神聖な空間に響いてはならない男の声に俺は耳を疑った。


 ここはサリナス様と俺だけの憩い空間なのに。


「なんで、お前がここにいるんだよ」


 天空から吊るされる檻が二つ、その中にいたのは俺が倒したトー・グリムスと凶悪なケルベロスだった。


『ガルルルル』『ガンガンガン』って感じで檻は揺れ動いている。


 グリムスは柵から顔を出した。


「なんでも、なにもっ———!?」


 言った直後。


 ガンガンガンガンッ。


 グリムスが説明する前に檻は形状を変え、その口を閉じた。


「うるさいので閉じました。私が説明すると、彼とあのケルベロスはフォルナ様が取り込んだのでここにいます。今は一千年の刑を執行中です」


 淡々と椅子に座るサリナス様が説明した。


 その両脇上には檻が吊るされていて、まるで地獄の番人のようだ。


 堕天使らしいといえばらしいが、やはりそれでも美しい。


 でも一千年の刑ってまさか、あの男とケルベロスはこの空間で一千年間閉じ込められるってことか?


 だとしたら、それは……。


 いいなぁ。


 じゃなくて!


「サリナス様、グリムスと話をさせてくれませんか? やつに聞きたいことがあるんです」


「それは別に問題ありませんが、聞き出したいことがあるなら私がなんとかしてもいいですよ?」


 そういったサリナス様の目は鋭く光った。


 サリナスはこの空間を支配している。


 だからおそらくグリムスから話を聞き出す方法などいくらでもあるのだろう。


「いえ、ありがとうございます。でも俺が聞き出さなきゃいけないんです」


「そうですか。それなら……」


 パチン。


 サリナスが指を鳴らすと、天からぶら下がっていた牢屋がこちらまで弾かれるように飛んできた。


 その扉は開き、中から慣性の法則に従ってグリムスが飛び出した。


「いってえなぁ」


 頭から地面に落ちた男は後ろ手を手錠で拘束されていた。


「おい、首都でお前と同じコートを着た連中を見た。心当たりは?」


「ある……が! 教えねえよ。だって、教えても俺に何の得もねえもんなあ?」


 心当たりはあるらしい。


 グリムスは憎たらしい顔を浮かべた。


「なら、どうすれば教えてくれる?」


「うっわ。そんな怖い目もできたんだなあ、にいちゃん。そうだなー。ここにいてもな、ほんと死ぬほど暇なんだよ。あそこにいる姉ちゃんは話しかけても無視だし、ケルベロスと話しても虚しくなるだけで———」


「さっさと言え」


「殴らせろ。それでいい。ただし、今回は兄ちゃんが気絶するまでずっとだ」


 グリムスの獣のような瞳からうちに秘められた暴力性を感じ、俺は久方ぶりに恐怖を覚えた。


 そうだ。


 こいつはそういうやつだった。


 痛いのは嫌だ……でも、今回の件は俺にも落ち度がある。


 確かにミナは生きているし、クエストが失敗になっても別に俺たちに大きな不利益があるわけじゃない。


 でも……俺は後味が悪いのは大嫌いだ。


 実験から解放されて悠々自適に引きこもり老後生活を送っている時、もしも一瞬でも、あの時ああしておけばよかったーなんて考えが、本当に、一瞬でもチラついたら最悪だ。


 だから、俺はそれを全力で阻止する。


 今までのように、俺は胸張って引きこもり生活したいんだ。


 だから俺は答えた。


「ああいいぜ。殴れよ。存分にな。でも、約束は守ってもらう」


「もちろんだ!! さぁ、はやく! この手錠を外してくれ!」


 グリムスはまるで餌を目の前にして待てを要求された犬のように興奮している。


 尻尾があればブンブン振られているところだ。


「我無、本当にいいんですか? その男の戦闘力は折り紙つきですよ」


「この世界では死ぬことはないんですよね。なら、問題ないです」


「その眼は……わかりました。貴方の覚悟は相当ですね。フォルナ様が気に入ってるのも頷けます。それでは解放します」


 そうして、闘技場に一頭の獰猛なライオンが放たれた。


 手錠を外されたグリムスは間髪入れずに俺の腹に右ストレートを打ち上げる。


「ぐはっ———!?」

(いきなりかよっ!)


「顎は狙わねえぜ! なるべく長く楽しみたいからなああ!!」


 クソッ!


 フォルナの支援魔法がないからめちゃくちゃ痛いし、こいつの動きも全然追えねえ。


「オラッ!! オラッ!! オラァァッ!!!!」



 ———



 その後。


 俺は何度も殴られた。


 顔面、腹、脇、腕、全身の各部位にダメージが蓄積されていく。


「ハハッ!! いいねええ! にいちゃんは最ッ高のサンドバッグだぜぇ!!」


 だが蓄積されるのはダメージだけではない。


 やつの大振り右ストレート、


 もう何回目かもわからないその攻撃に、


 俺はクロスカウンターを合わせた。


「———ッぐはッ!?」


 どんな馬鹿でも、たとえ攻撃が見えなくても、何度も同じ場所に同じ速度で拳を受けていれば、タイミングくらいは合わせることができる。


 驚愕したグリムスの顔を見て俺は言ってやった。


「別にぃ? 殴っていいとは言ったけどなぁ? 殴らないとは言ってねえからなああ!!」


「ハハハハハ!! 最ッ高で! サイコだぜええ!! やっぱりにいちゃんはそうでなくっちゃなあああ!!!」


 その後も俺は何度も殴られ、そして何度も殴り返した。


 一体どれほどの時間が過ぎたのだろう。


 地面に先に倒れたのは、


 俺だった。


「俺の勝ち!! ヒャッ——————はッ!?」


 両腕を上げて歓喜したグリムスだったが、その後一瞬で手錠をはめさせられ、その顔は見えない重力によって地面に叩きつけられた。


 と、同時。


 サリナスによって、意識を取り戻した俺は立ち上がりグリムスに質問する。


「や、約束通り、俺の質問に答えてもらうぞ」


 あーまだなんか頭がぐらぐらする。


 鼻からは血が垂れ落ちていた。


「いいぜ。約束だからなあ」


 グリムスは地面に膝をついたままそう言った。


 その顔は満足そのもの、下卑た笑みを浮かべている。


「首都にお前の仲間がいるだろ。俺はそいつらに襲われた。心当たりは? 名前は? どこにいる?」


 俺たちを襲った魔法士、あいつが着ていたローブはグリムスと同じものだった。


 ということはやつらのことについてグリムスは何かを知っているはず。


「そうせかせかするなよ。せっかく余韻を楽しんでるのによ。まあそうだな。首都で活動してる幹部といや一人くらいだ。トー・アクネス。あいつだな」


 グリムスは地面に胡坐をかいた。


「そいつについて知っていることを全部話せ」


 全部といっても恐らくすべては話さないだろうと俺は思った。


 だがその予想とは裏腹にグリムスはぺらぺらと喋り出す。


「はいはい。トー・アクネスは俺たちの財務担当? ってやつだな。拝金主義者で、なんでも金で解決しようとしやがる。俺はあいつのそういうところが嫌いでな。ま、とにかく兄ちゃんを襲ったのはたぶん使い捨ての傭兵だな。俺たち幹部とおなじローブを着ちゃぁいるが使い捨ての駒だよ。あいつはそういうやつさ」


 なるほど、嫌いだからぺらぺら喋ってくれちゃってるんだなグリムスは。


 拳を交えて、なんとなくこの男のこともわかってきたぞ。


「それで? 傭兵の数は?」


「そこまではわからねえよ。ただ、あいつのことだ。魔法使いと剣士をバランスよく揃えてると思うぜ」


「そいつは今どこにいる?」


「おいおい。まさか乗り込もうって気か?」


 俺は無言でグリムスを睨んだ。


「おぉー、やっぱにいちゃん頭のねじ外れてるぜぇ。でも、俺はそういうとこ嫌いじゃないぞ!」


「お前の好みは聞いてねえよ」


「おっとそうだったそうだった。場所は……」


 その後、俺はグリムスの土地勘が壊滅的だということを知った。


 あまりにも説明が下手糞なので、サリナスに紙とペンを出してもらい、そこに一緒に書き込んで、なんとか場所を把握した。


「で、ここに、そのトー・アクネスとかいうやつの隠れ家があるんだな?」


「ああ。隠れ家といっても隠れちゃねえけどな。あいつはそういうやつだ。頭の回転がはええのかなんなのか知らねえが上手くやってて———」


「余計な話はいい。そいつの弱点は? 攻撃手段は?」


「そうだなー。俺も直接戦ったことあるわけじゃねえからなんとも言えねえが、あいつのスキルは『鎖』、そして属性は水ってことは確かだな。とにかく、にいちゃんとは相性が悪いぜ」


 スキルが『鎖』で、属性が水……か。


 全然イメージつかねえ。


「相性が悪いってのはどういうことだ?」


「だって、にいちゃんインファイターなんだろ?」


 陰ファイター?


 俺はいつ引きこもり専門格闘家になったんだ?


「好きで接近戦をやってるわけじゃない。ただ、感覚的にこっちのほうが力が出る気がするんだよ。魔法の威力とか」


「いーや。いろんなやつらと戦ってきたから俺はわかるぜ。兄ちゃんは接近戦闘向きだ。拳で戦うんだよ! 拳で!」


 えーいやなんですけど。


 なんで、剣と魔法の世界に来てまで拳を使わなきゃいけないんだよ。


 でも、俺よりも圧倒的に対人戦闘経験が多いグリムスが言うのならそうなのか?


「遠距離魔法の威力が途中で落ちるような経験したことねえか?」


 グリムスは質問してきた。


 遠距離魔法の威力が落ちる……そういえばロックガンとかも威力が途中で落ちるからウィンドで底上げ、みたいなことしてたな。


「それが?」


「そりゃつまり、にいちゃんの魔炉が弱いってことだ。魔炉が強けりゃ強いほど、この世界に魔法を顕現、持続させる力も強くなんだよ。俺はからっきし魔法の才能はねえから人の魔炉の強さなんてわからねえけどな」


 なるほど、俺には魔炉がない。


 だから魔法を発動させてから、それを持続させる力が弱いってことなのか?


 例えるなら、ファイアボールを放つことはできるけど途中ですぐにしぼんで飛距離はだせないみたいな?


 それが理由で、すぐに魔法を出してそれを相手にぶつける接近戦闘の方が向いてるってことか。


 持続力よりも瞬発力。


「理屈はわかったよ。それで相性が悪いっていうのは?」


「あいつは見えない透明の鎖を使う。だから、とにかく近づくのが難しいんだ」


 透明の鎖?


 それがスキルってことか。


「どうすればいい?」


「だから、今から稽古をつけてやるよ」


 二カっと笑ったグリムスは立ち上がる。


「稽古? なんでお前がそんなことを?」


「俺はトー・アクネスが嫌いだ。にいちゃんがぶちのめしてくれれば気分がよくなる。逆に、強くなったにいちゃんがトー・アクネスと戦って負けても、それはそれで気分がいい。まあ、俺的にはどっちが勝ってどっちが負けてもいいんだが……今の気分的には、にいちゃんに強くなってもらいたいなぁ、と思ってよ?」


 男に微笑みを向けられても全然うれしくないんだが。


 っていうかなんなんだこいつは。


 究極の気分屋なのか?


 それとも、サリナス様に脳内をいじられて俺のことが好きなツンデレ半人半魔になってるとか?


 ……気持ちわる、想像しただけで吐きそう。



 確認のためにサリナスのほうを向いたが、彼女は椅子に座って優雅に紅茶をすすりながら、心配そうにこちらに目を向けているだけだった。


「まぁ、なんでもいいけどさ。そいつをぶちのめせるようになるってんなら。頼むよ」


 今は少しでも力が欲しい。


 稽古をつけてくれるなら喜んで受けよう。


 と、思ったら。


「うっそぉぉぉぉーーー!!」


「はぁぁぁぁーーーーー!?」

(なんだとおおおおおおおおおおおおお!?)


「バーカ!! 俺がそこまでするわけねえだろ! 俺はお前のママンじゃ無いんだからな! おんぶに抱っこなんてそんなわけねえだろ!! アハハハハハッ」


 この野郎ぉ!


 今マジでぶっ殺したいんだが?


 堪忍袋の尾がぶちぶち千切れてるんだが?


 許さえねえ、ちょっとだけこいついいやつかもと思った乙女の純情返せ!!


「我無、そろそろ時間です」


 サリナスの声に俺は握った拳をグッと抑え込んだ。


「まあ、せいぜい頑張れよにいちゃん。そんでまたここで会おうぜええええええ———ッ」


 パチン。


 サリナスが指を鳴らすと、グリムスは檻の中に吸い込まれその檻ごと闇の彼方へと消えてしまった。


 やつの遠吠えが耳に残った。


 この怒りの矛先はトー・アクネスに向けることにした。


 悪いけど、これからすることは八つ当たりだから。


 そんな思いを抱いていると、俺の目の前は真っ白になった。

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