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【二章完】トライあんどエラーを拳で!?  作者:
第二章 弱小聖女編
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第22話 暗転

「なんであんなことしたんだろう」


 私は自室の机に突っ伏しながら呟いた。


 思い返してみれば、今日は人生で初めてのことばかりだった。


 ローおじいちゃんには学園の友達と遊びに行くと嘘をつき、我無達には学園の課題の一環だと嘘をついてしまった。


 一日に二回も人に嘘をついたことはない。


 ……たぶん。


 今まででもせいぜい一回くらいだったから二回も嘘をついてしまった私は悪い子だと思う。


 でも、だからなんだ。


 聖女の力は失われていないし、なんだか『してやった』、という気持ちの方が大きい。


 私は知らず知らずのうちにあの男に毒されてしまっているのかもしれない。


 いや、もしくは初めから私はこういう人間だったのかも。


 クエストはスライムの討伐だった。


 スライムにあんな習性があるなんて知らなかった。


 身体中ベトベトにされて最悪って感じ。


 髪の毛の間とかに絡みついて気持ち悪かった。


 でも、あのあたふたした感じとか、巨大スライムが爆発したのとか、


 なんていうかとっても……そう、刹那的な体験だった。


 帰り道でもなんだか心がふわふわした感じがして、不思議と楽しかった。


 肝心のあの男についてだけど、わかったことと言えばあの変態は本当に自分に正直な生き物なんだということくらい。


 文字が読めなくて、少しだけおせっかいで、お調子者で……。


 結局のところ、『男の習性』なんかで私に好意があるのかどうかなんてわからないよね。


 でも、少しだけ……ほんの少しだけ……我無がパーティーのみんなから頼りにされている理由がわかったような気がする。


「よし。それじゃ調査はこれでおしまい。我無は私に好意なんてもってなかった。終了」


 …………。


 あれ。


 なんだろうこの違和感。


 なんだか胸の奥に魚の骨が引っ掛かってるみたいな。


「いやいやいや。あり得ない。あり得ない」


 私は頭を振って、一瞬胸の内に芽生え始めていた感情の芽を摘んだ。



 ぽんっ。



「いや、咲くな、咲くな。やめろ」



 ぽんっ。



「ちょっと待って、やめてお願いだから」



 ボンッ!!



「じゃなくて!! 最悪だ。これじゃまるで小説に出てくるちょろいヒロインみたいじゃない。嫌だ絶対嫌なのに……なんで?」


 なんども頭を振ってかき消そうとしたが、私の心に咲いたその花は不屈の精神でもって根っこを抜いても茎を折っても咲き続けた。


 こんな時ばっか、聖女の回復力を活かされても困るのに。


「えぇ、明日からどんな顔して会えばいいの……これ?」


 私は自分の頬を触りその温度を確かめる。


 すると、あの男がギルドで私のおでこに触れたのが思い出され……。


「うぅぅぅぅ。なんで、なんでこんなことに……」


 頭を抱えて悩んでいると。


 突然、


 自室の鍵もついていない薄いドアが開かれた。


 バタンッ。


「大丈夫かミナちゃん! 一階までうなされるような声が聞こえたから儂は心配で……」


「ねえ!! 勝手に入ってこないでって言ったよね!?」


「今日友達となにかあったのか? 喧嘩か? 喧嘩でもしたのか? 殴るのはいいが、お嬢様っていうのはあとが怖い、その辺十分気をつけないとネチネチ攻撃されて———」


「そんなんじゃない!! もう、出ってって!!」


 私はドアをおもいっきり閉めると、害悪ジジイを部屋から追い出した。


 この人にはプライバシーという概念がないのか。


『あーそれと明日はちょっと買い出しに出かけるから、その間お前の護衛を我無殿達に頼んどいたぞ』


 明日は学園が休み。


 その代わり聖女としての仕事が教会であるから、その間の護衛だとは思うけど……なんでよりにもよって明日なの!


「なんで! いつそんなこと頼んだの!」


『我無殿と同じ椅子で食べてたときに頼んでおいた。これでやっと儂もバーゲンセールに行ける』


 いつの間にそんなことを……。


『そういうことだ。ミナ。明日は聖女の仕事です。あの娘もくるのでしょう。早く寝なさい』


 急に牧師っぽく言うのが余計腹立つぅ。


「余計なお世話です!!」


 まったく、タイミングが悪いなーもう!


『思春期……か……』


「聞こえてますよ!!」


 近所迷惑になりそうなほどの大声をあげると、私はベッドにダイブした。


 最悪、ほんとに最悪だ。


 一体どんな顔で明日我無と会えばいいのか。


 わからない、わからない、わからない。


 ベッドにうつ伏せになった状態で私は全神経を脳に回して考えた。


「……よし、こうなったら無視だ。無視を決め込もう」


 顔を直視できないのなら無視すればいい。


 我無には少し悪いが明日だけ、明日だけだから。


 意志を固めた私は目をつむり枕に顔を埋めたまま眠りにつくのだった。


 眠るまで一時間位かかったけど。




 ———



 次の日、教会にて。


「こんにちはー」


「昨日ぶりです! ミナ!」


「汚れはちゃんと落ちたようだな」


 俺、まのっぺ、クノスは教会の扉を開き挨拶をする。


 今日はロー爺さんに頼まれていたミナの仕事中の護衛にやってきていた。


 教会にやってくる連中の中に変な奴がいたら追っ払ってくれという程度のもの。


 報酬はちゃんと出るというし、俺たちも暇なので了承した。


 ちなみにフォルナは昨日のスライムを素材として工房区のおじさんに提出してくるとのことで今はいない。


「こんにちは、まのっぺ、クノス。どうぞお好きな席に座ってくつろいでいてください」


 ミナは聖女服のまま俺たちを出迎えた。


 だが、


「あの……俺もいるんですけど」


「あ……あっ、ほんと……ですね」


 あれ? 目も合わせてくれないですけど。


 昨日はいい感じに楽しんでたように思ったんだけどな。


 まあ、あのベトベトようじゃ不機嫌になっても仕方がないか。


 俺も浴場であの汚れ落すの苦労したもん。


 髪の毛の長い女子なんてもっとイライラするよな。


「席はどうする? 万が一に備えて立って待機するか?」


「クノス、そこまでする必要はありませんよ。人もそんなに来ませんし、適当な場所に座っててください」


 まあ、あのロー爺さんがしたみたいに、もしミナにセクハラまがいのことをする俺みたいな男が来たら撃退すればいいだけだからな。


「それじゃとりあえず座るか。クノスが言う通り万が一、ということもある。席は……」


 俺はまのっぺとクノスに座る配置を伝えた。


「これならー!! もしなにかあってもすぐ対処できるだろー!!」


「その通りだなー!!」


「流石ですボス―!! ナイスアイデアですー!!」


 教会に俺たちの声が響き渡った。


 配置としてはクノスがミナに近い一番前の席、俺が真ん中、まのっぺが教会の入口に近い一番後ろの席だ。


 この配置の理由は、クノスはミナに何かあったときに最も素早く反応できるから一番前。


 俺はクノスが取り逃した変態を取り押さえるため真ん中。


 まのっぺは万が一教会から逃げ出したやつを出口から追い打ちするために一番後ろ、という感じだ。


「あの……一応ここは祈りを捧げる場所なので静かにお願いしますね」


 そう言うミナの顔は引き攣っていた。


 確かに、ミナの言うとおりだ。


 教会の中で騒がしいのは良くないよな。


「お前らー! 緊急の時以外は静かに待機してろーー!! ここは教会だからなー!!」


「わかったー!!」


「了解ですボス―!!」


 これで大丈夫だろう。


 休日の任務でも報酬が出る以上は気を抜くわけにはいかない。


 真面目にやるぞ。


「はぁ」


 その時ミナがついた大きなため息は俺たちの声よりも大きく、教会内にこだました。



 ———



 数時間ほど経った。


 誰も来なかった。


 そんな事だろうとは思っていたが、やはりこの教会にやってくる人はそんなに多くなかったようだ。


 この首都の転移神殿からここよりも大きな教会が見えたし、この街に住んでる大半の人はあそこに行くのだろう。


 その間。


 まのっぺはおとなしく彼女にとってのバイブルを読み、クノスは精神統一をしているかのように背筋を伸ばしてじっと座っていた。


 ミナはというと、教会の花に水やりをしたりガラスを拭いたり、細々としたことをしていた。


 手持無沙汰な俺はサリナス様日記でも持ってくればよかったなーと後悔しつつ、暇なのでミナを観察していた。


 護衛対象だし別に彼女のことをじっと見ていても何も問題はないはずだ。


 しばらくミナの動きを観察していると、何度か目が合った。


 目が合うたびに俺は何もやましい気持ちがないことを証明するためニッコリ笑顔で返すのだが、そのたびミナは眉間に皺をよせ難しい表情をし、少し経つと何かを思い出したかのように、にやりと冷笑を俺に向けた。


 俺の笑顔があまりにもぎこちなかったか、気持ち悪かったかのどちらかだと思う。


 こんな事ならもっと表情筋を鍛えておくべきだった。


 そんな笑顔と冷笑のラリーの応酬を繰り返していると、教会の扉が開いた。


「ミナお姉ちゃん!! 会いに来たよー!」


 身構えた俺たちの予想とは裏腹に、やってきたのは小さな女の子だった。


 まのっぺよりも少し小さいくらいの身長で、小さなバッグを持っている。


 その姿に安堵し、俺はまのっぺとクノスに『大丈夫だ』と手で合図を出した。


「アニスじゃないですか。今日も来てくれたんですね」


 アニスと呼ばれた少女は座る俺たちの横を通り過ぎミナのところまで走った。


「うん。ミナお姉ちゃんのその服装が確定で見られるのはこの日だけだからね!」


 少女はかわいらしく首をかしげると、『よっこいせ』と一番前の席に座った。


「今日は何の用ですか? 改宗ですか? 入信ですか?」


「じゃあ、改宗で———って、もー! 意地悪しないでよぉ!」


「うふふ、ごめんなさい」


 そんな二人のやりとりから長い付き合いだということがわかる。


 年季の入ったそのやり取りは、思わず笑みがこぼれるほどに微笑ましい空間を展開させていた。


「それで、今日は何をしに来たんですか?」


「今日はねーっていうか、今日もお願いごとだよ! 来年ね、ミナお姉ちゃんが通ってる学園に私も通うことになったの!」


「それはいいですね」


「でしょー。お母さんが言ってたんだ。私には魔法の才能があるんだって、すごいでしょ!!」


「ええ。アニスは凄いです」


(あの年で学園に入学ってことはミナの通う学園は小中高一貫なのか? それともあの少女の才能が凄くて歳とか関係なく飛び級入学みたいな感じか?)


 俺は教会内に響く二人のやり取りを黙って聞きながらそんなことを考えた。


「だからね、今日するお願いは……学園に通うことになったら友達がたくさんできるようになるお願いと、お父さんのお仕事が順調になるお願いでしょ、あと、お母さんの料理がもっと美味しくなるお願いに……あとは……」


 それからも、少女はたくさんのお願い事を並べていった。


 年相応な欲張り具合に思わず俺は吹き出しそうになる。


 そんな少女が座る一番前の席の反対側に座るクノスの肩もプルプル震えているのが見えた。


「相変わらず容赦のない量ですね」


「だって、制限とかないんでしょ?」


「ないですけど。でも、やっぱり願い事を聞き届けてくれる天使さんも願い事は少なくて軽いほうが飛びやすいと私は思いますよ」


「たしかにー、いちりあるね。それならそうだなー、うーん……」


 少女は十秒ほど考えて答えを出した。


「わかった! それなら、ミナの幸せが続きますように……かな!」


 俺の涙腺はもうこの時点で崩壊していた。


 なんて心の優しい少女なんだ。


「どうして私なんですか? ここはあなたのお願い事を言う場所ですよ?」


「だって、今日のミナお姉ちゃんの顔、前よりもずっといいもん! 前まではなんだか疲れてる? みたいな顔で、私それが心配なのもあってここに来てたんだよ。だけど、今日のミナの顔は今までで一番きれいで、輝いてるよ!」


「アニス……」


 アニスゥゥゥーーー!!


 どうしよう、お兄ちゃんはもう涙ちょちょぎれだよ。


「それに、私にだってちゃんと考えがあるんだよ。ミナが元気で幸せならそれだけ私のお願いも届きやすくなるでしょ? ぎぶあんどていく? だよ!」


「ええ。その通りですね。それでは一生懸命に祈らせていただきます」


 少女の願い事を聞き入れたミナは振り返り、正面へと歩いていく。


 彼女は教会内の大きな鐘の真下で片膝をつき手を組んだ。


 祈りのポーズだ。


 すると、彼女が膝をついた部分からおぼろげな光が溢れてくる。


 なんの光だ?


 と思い身を乗り出すと、どうやら魔法陣がこの教会内全体に敷かれていたようだ。


 ステンドグラスと相まって、幻想的で、それでいて優しい、心温まる光が俺たちを包んだ。


 そして、ミナの祈りが始まる。


「今は亡き創造主よ。心優しい少女の願いを、ここに届けます。祈りは翼を、翼は風を、風は祈りを巡らせるように、巡り巡って、かの少女もまた、幸せになれますように……」


 ミナが祈りを唱えて数十秒後、


 まるで誰かがその祈りを聞き入れた事の合図のように『ブワァッ』と魔法陣から光の粒が溢れ出た。


 その粒たちは教会全体を満たすかのように天へと昇って行く。


 俺は珍しいその光景に目を凝らした。


 すると、無数にある光の中に他の光とは違うまるで生きているかのような動きをする光が見えた。


 もしかしたら、精霊……とかなのかもしれない。


 いや、今はそういうことにしておこう。


「お終いです。どうでしたか?」


 立ち上がったミナは少女に感想を聞いた。


「とってもよかったよ! 今までで一番だったかも!」


「それはよかったです。帰りは一人でしょう? 送っていきますよ。どうせこの後は誰も人来ませんので」


「え! いいの?」


「はい。優秀な護衛さんたちがいますので、ですよね?」


 言ったミナは俺たちを見た。


 俺たちは目を合わせる。


 答えは当然……。  


「もちろん」


「ああ」


「友達の友達は、友達みたいなものです!」


 そうして俺たちは教会を出た。


 三角形の中心にミナとアニスを挟むようにしてクノスが先頭、俺とまのっぺがサイドバックを固めた。


 教会の敷地から出ると、門の隣でフォルナが待っていた。


「お、お前……まさか、泣いてたの?」


 その目は赤く充血しており、頬には涙が流れた痕がついていた。


「馬鹿ね。高位悪魔の私が泣くわけないじゃない。ただ、この鋭敏すぎるデビルイヤーで中の声を拾ってしまっただけよ!」


 この人本当に悪魔なのか?


 合流したフォルナを入れて俺たちは二人を護衛した。


 しばらくすると、アニスがこんなことを言い出した。


「あ! そういえば忘れてた! この本をミナに読んでもらおうと思ってたんだった」


 そう言った少女はバッグの中から一冊の本を取り出した。


「え、今ですか? もう暗くなってきたので次の機会というのは……」


「やだやだー、今読んでよ! ほら、あそこにちょうどベンチがあるじゃん。ほんと、ちょっとだけでいいから」


「でも、それもう何回も読んだじゃないですか」


「おねがーい!!」


 しょうがないなという顔をしたミナは俺のほうを向いて言った。


「あの、恥ずかしいので、ここで待っててもらってもいいですか?」


「でもそれじゃ護衛が……」


「目に見える範囲に、あの椅子にいますから、お願いします」


 ミナにじろっと睨まれてしまった俺はしょうがなくその願いを了承した。


 読み聞かせくらいで恥ずかしがるなんて、クノスなんてもっと凄いことしてたのに、と思いつつも目に入る範囲なら大丈夫かと思った。


 少し離れた場所に座ったミナとアニスから目を離さないように俺はクノスに聞いた。


「あの本ってなんていう本なんだ?」


 ミナが少女を膝の上にのせて本を読んでいる姿が目に入る。


「あれは『聖女治癒旅行』じゃないか?」


 クノスも同じように彼女たちから目線を外さずに言った。


「どんな内容なんだ?」


 解説したのはフォルナ。


「『聖女治癒旅行』はね、その昔、大聖女と呼ばれた少女がなぜか勇者の冒険者チームから追放されてしまって、その腹いせに勇者なんて必要ないと思わせるくらいに国の治安を守ろうと決意するお話ね。最初は圧倒的な治癒魔法しか使えなかったんだけど、旅をしていくうちに強力な攻撃魔法も扱えるようになって、旅先の問題をどんどん解決していくっていう王道なお話ね」


 なるほど、そのお話の語り手にあの少女は聖女であるミナを選んだってわけか。


 ぴったりじゃないか。


「ああ。だが私はこのお話、個人的に気に食わないところがあってな。最終的には聖女と勇者が……おいっ!! 我無!!」


 クノスの大声に俺はハッとして彼女の目線の先を追った。


 そこには見覚えのあるコートを着た男が路地角から魔法を放とうとしているのが見えた。


 その標準はミナとアニスで……。


 俺は両手ウィンドで一気に加速。


 クノスよりも先にミナの元まで滑空するように飛んで行った。


 コート男から魔法が放たれる。


 俺はシャキーンと展開した丸盾を合わせそれを間一髪のところでガードした。


「クノスはあの男を!」


「わかった!!」


 走り去った男をクノスは猛スピードで追いかけていった。


 あの速度なら捕まるのは時間の問題だろう。


「が、我無、大丈夫ですか!」


 座る二人に覆いかぶさるような形でガードしたので、ミナは下からそう言った。


「ああ。俺は大丈夫だ。それよりも移動するぞ。立てるか?」


「は、はい。行きましょう」


 震える少女の手を取りミナは立ち上がった。


 これは計画的な襲撃……ではないはずだ。


 ミナがこの場所に来ることはさっき教会で決まったことだし、予期できるものはいない。


 ということは突発的な、偶発的な襲撃ということだ。


 他にも、敵がいるとは考えづらい。


 と、そんなことを頭で考えていると、視界の端に一瞬何かが見えた。


 光だ。


 俺の動体視力ではそれがなんなのか判別することすらできなかった。


 だがこの状況でこちらに向かってくる光など、直感でなんなのか大体想像できた。


 だから、俺は身体全体でその光の方角へと二人を守るように背を向けた。


 グシャッ。


 赤い。


 目の前の二人に血が飛んだ。


 直後俺の心臓を赤く光る矢が貫いたことを認識し、とてつもない痛みが胸を襲う。


(こ、こんなことならもっと、胸筋を……)


 胸板の厚さを後悔してももう遅かった。


 消えてしまった矢の先をたどると、俺と同じようにアニスに覆いかぶさっていたミナの肩からも血が溢れ出しており……。


(———ッ!?)


「我無!!」


「ボス!!」


「まのっぺ、ミナを……教会……に……」


 冷えた血液が俺の身体を満たすと、俺の視界は暗転した。

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