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【二章完】トライあんどエラーを拳で!?  作者:
第二章 弱小聖女編
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第21話 そういう大事なことはもっと先に言え

 今日はフォルナのオーダーメイドとやらのためにモンスターから素材を取る。


 そのために四人でギルド都市サークルに来たのだが……。


「おはようございます。四人とも」


「なんでぇ?」


 セエレの転移魔法陣でギルド都市サークルまで転移した俺たち。


 第一集会所に向かっていたのだが、その道中にある転移神殿に見覚えのある人影があった。


 近づくほどに露わになるその人影の特徴は、真っ黒のストッキングにスカート、白と黒を基調とした服装に薄い桃色の髪、首には昨日俺が拾ったクリスタルのストラップをかけていた。


 そんな彼女の俺をじっと見つめる瞳は琥珀色。


 そう。


 そこにいたのは聖女姿のミナだった。


「もう一度言うよ。なんでぇ?」


「みなさんと一緒に討伐クエストに参加したくて……その、昨日言い忘れていたのですが、学園の課題なんです。モンスターの討伐クエストを受けることが」


 学園の課題?


 ほんとかそれ。


 学園ってのが一体どういうカリキュラムで運営されているのかわからないが、生徒にいきなりそんなことさせるものなのか?


 だとしたらかなりストイックだな。


 いや、モンスターが蔓延るこの世界の学校だ。


 そういうこともありえなくはない……か?


 俺の仲間には学校に通ってたやつはいないし確かめようがない。


 全員アウトサイダーだ。


 もちろん俺も含め。


 現状確かめるすべはない。


「ってことはこれから俺たちと一緒にクエスト受けるってこと?」


「はい。そのつもりです。よろしくお願いします」


 ぺこりとお辞儀したミナ。


 俺はそれを見てクノスに小声で話しかけた。


「おい、どうするこれ?」


「追い返すわけにもいかないだろ」


「じゃあ、連れていくのか? 大丈夫なのか?」


「うーーん」


 クノスと俺が頭を抱えていると、彼女はどんどんと先に行ってしまう。


「第一集会所ってあそこですよね。さっそく行きましょう。早くクエスト受けてみたいです」


 職業体験始まっちゃったよ。


「ちょうどいいじゃない。人出が増えるのはいいことよ。サクッと討伐してサクッと帰りましょう」


 と、フォルナ。


 こいつ呑気なこと言いやがって。


「私もミナにかっこいいところ見せてやります!任せてくださいボス!」


 お前が一番任せられないのよ。


「とにかくミナを追うぞ。我無」


「そうだな」


 前を進むミナを追って、俺たちも第一集会所へと向かった。



 ———



 集会所の中に入った。


「おー。これが集会所ですか!」


 集会所の中に入るとミナの第一声があがる。


 言えない。


 実は俺も昨日初めてここに来たんだぞ、とは言えない。


「ミナ、冒険者登録の仕方はわかるか?」


 あたりを見回して興奮しているミナに俺は聞いた。


「はい。友達から聞きました。ここではゴーストが受付をしてるんですよね。わかります。大丈夫です」


 そう言ってミナは受付へと向かっていった。


「クノス、俺は心配だからミナについてく。お前はまのっぺとフォルナを頼む」


 さっそく席について料理を注文し始めている二人。


 俺は彼女たちを呆れ顔で見ながら言った。


 お前ら呑気でいいな。


「ああ。任された」


 二人の面倒をクノスに押しつけると、俺はミナの後を追ってカウンターまで来た。


「はぁ。冒険者登録ですか?」


 気だるそうにカウンターの床下から生えてきたゴースト種族のトランスが聞く。


「はい。登録お願いします」


 ミナは礼儀正しく言った。


 ゴーストを見ても驚かないんだな。


「あ、我無さんじゃないですか?お知り合いで?」


「ああ、なんでも学園の授業で俺たちのクエストに付いて行きたいんだと」


「……学園の……授業……?」


 トランスはその仮面をミナの方に向けるとしばしの間、硬直。


 何かを考えているようだった。


 そのトランスにミナは笑顔で微笑み返す。


 聖女の微笑み、それだけでトランスは浄化されてしまいそうだ。


「はぁ。そうですか。なるほどわかりました。それでは手続きをこちらの書類に」


「はい」


 ミナはカウンターの上で登録の手続きを行い始めた。


 ミナは大丈夫そうだと思った俺は、あいつらは大丈夫なのかと目線をもと来た場所に戻す。


 すると、ジョッキを片手にフォルナが掲示板の前でクエストを選んでいる様子が見えた。


 後ろにはクノスとまのっぺ。


 二人は『こっちのほうがいいんじゃないか?』とか『こっちです。絶対こっちのほうが強いです』とか言っている。


 強いほう選んじゃダメなのよ。


 クノス、なんとかしてくれ。


「登録完了です。冒険者カードは……あぁ、めんどくさ。我無さん。後の説明はお願いします。それでは」


 仕事を終えたトランスは早々に退場。


 冒険者組合は労働者に寄り添った働き方を推奨しています。


「できたか?」


「はい。この通り」


 ミナはうれしそうな顔でそのカードを俺の顔の真ん前にかざす。


「ち、ちかい」


「うふふ。これで私も冒険者の仲間入りですね」


 両手でカードを持ったミナはそれをじーっと眺めた。


 目が輝いてる。


 女の子でもこういうのに興味あるもんなんだなーとか思ってしまう。


「そのカード、無くしても再発行できるらしいがランクはリセットされるから気をつけろよ」


「わかりました。それではさっそくクエスト選びに行きましょう!」


「そうだな」


 ん?


「行かないのか?」


 その場に立ち止まったままのミナを見て聞いた。


「我無が先に行ってください。後ろを歩きますので」


 そうか。


 ここじゃ俺のほうが先輩だもんな。


 背中で語ってやりますか。


 まぁ、俺もこれが初討伐クエストなんですけど。


 そう思いながら俺はミナを引っ張るようにして歩き出した。


「見ての通り、この集会所は一階部分の壁一面を掲示板が覆っていて、地域ごとに依頼が張り出されるようになってる」


「ああ、本当ですね。掲示板の名札には各地域の名称が書かれています」


「まぁ、俺は文字読めないからわからないけど」


「え? 我無は文字読めないんですか」


「うん」


 この辺は嘘ついて後でボロ出すよりは正直に言ったほうがいいだろう。


 冒険者なんて文字を読めないやつらも結構いるだろうし。


「そうですよね。冒険者やってるんですもんね。それにちゃんと教育受けてたら初対面の人にあんなことしませんもんね。なるほど、我無が変態な理由がわかってきました。ちゃんと教えてもらえなかったんですね。世間の一般常識を」


 グサり。


 相変わらずミナの言葉は殺傷能力が高い。


 彼女は捨てられた子犬を憐れむような眼で俺をみている。


 だが、なぜだろう。


 最近耐性が出来上がってきたのか、今ではこの痛みも少しだけ心地いい。


 まるで的確にツボを押されているような。


「なんで、ちょっとうれしそうなんですか? 今のは普通に馬鹿にしたんですよ?」


「冗談を言ってもらえるほど仲良くなれてついうれしくてな。ありがとう、ミナ」


 主曰く、右のほほを叩かれたら左の頬を差し出せと。


 余裕のある対応、男にとって一番重要なスキルだ。


「そ、そうですか……」


 あれ?


 なんかミナの頬がちょっと赤くなってるんですけど?


「おい、熱でもあるのか?」


 俺はミナのおでこに触れて自分のおでことの温度差を測る。


 この世界にも体温計があればこんなことしなくていいのだが。


「———ッ!?」


「熱はないみたいだな。いくら護衛の任務外だからってな、お前に何かあったら困るんだよ。あの爺さんに呪い殺されるのはごめんだからな」


「ちょっ、ちょっと。あの……だっ大丈夫ですから。勝手に近づかないでください」


「本当に大丈夫なのか?」


 ここで嘘つかれてなにかあっては困る。


 俺はミナの目をじーっと見つめて問いただした。


「ただ、こ、興奮してしまっただけです」


 興奮?


 あー、そうか。


 集会所とか冒険者とかクエストとか初めてのことばかりだもんな。


 興奮するのも仕方がないか。


「確かに、この光景には興奮するものがあるよな」


 俺は冒険者で騒がしい集会所内を見回して言った。


「そ、そうです。その通りです」


 言ったミナは俺の先をスタスタ歩いて、フォルナの方へと向かって行ってしまった。


「俺のあとついてくんじゃないのかよ」



 ———




 掲示板前。


「フォルナ、どのクエストにするんですか?」


 掲示板の前でクエストを吟味しているフォルナにミナが声をかけた。


「そうねぇ。せっかくミナがもいることだし、高難易度なクエストを……ぐへぇっ!?」


「おい」


 腕を組んで掲示板を見つめていたフォルナをこちらに引っ張る。


 そして、小声で言った。


「ちゃんと雑魚モンスターのクエストにしろよ。今日一日で達成できるような」


「わかってるわよ。さっきのはちょっとした冗談よ。デビルジョークよ」


 お前の場合冗談に聞こえないの。


「一番弱いモンスターな。それで頼むぞ」


「わかったわ」


 掲示板に向かって行ったフォルナ、彼女は一枚のクエスト表を勢いよく華麗に引き剥がすと、それをクエストカウンターに持って行った。


 大丈夫かなぁ。


「これよ!!」


 戻ってきたフォルナのクエスト表をクノスが受け取り、みんなでそれを覗き込む。


「スライム五体以上の討伐。場所は……サークルの近郊か」


 クノスが読み上げた。


「大丈夫か? 近くに強力なモンスターが現れたりしない……よな?」


 文字が読めない俺はもどかしい気持ちで聞き返した。


「サークルの近郊には強力なモンスターは生息していない。だから、大丈夫なはずだが」


「そんなに慎重にならなくても大丈夫よ! ミナもいることだし、早く行きましょう」


「行きましょう!」


 張り切った様子のミナとフォルナはどんどんと進み、集会所の出口へと向かって行ってしまった。


「まぁ、やるしかないか」


 俺も腹を決め彼女たちの後をついて行く。


 すると。


「ボス!! 安心してください。もしなにかあれば、私がいっさいがっさいをかいじんにきします! せんめつ作戦です!」


 まのっぺは俺の隣を肩で風を切って歩きながらそんなことを言う。


 俺はそんな彼女を見て苦笑いしながら言った。


「ああ、もしなにかあったら。もう、全部めちゃくちゃにしてくれ……」


「はい!!」


 あははー、元気がよろしいようで。



 ———



 サークルを囲む巨大な壁を抜け、俺たち五人はスライムの発生地域まで来た。


 だだっ広い草原に大小さまざまな色付きのスライムたちが飛び跳ねている。


 なんていうか……牧歌的な光景だ。


 思わず力が抜けてしまう。


「それで、このスライムたちの中から五体以上討伐すればいいのか?」


 見渡せば目に入る範囲だけでも十数体のスライムたちが飛び跳ねてる。


 ぴょんぴょんぴょんって感じ。


 まあ近づいたらもっと大きいんだろけど。


「ああ、この中から五体以上討伐すればそれでクエスト達成だ」


 無害そうな色付きスライムを見てクノスは言った。


 確かに、見た感じ雑魚モンスターっぽくはある。


 でも、油断は禁物だ。


「マーク? とりあえず戦闘データ取るか?」


 俺はここ最近セエレの転移魔法陣を起動するときぐらいしか登場していなかったマークにそっと声をかけた。


 バッグの中がもぞもぞと動いている。


 ちなみに、こいつは普段セエレの魔力を使うのがもったいないという理由で必要な時以外は動かない。


 節約してるんだと。


「バッグの中からでもデータの収集は可能です。我無様、存分に戦ってください」


 そんな声が聞こえてきた。


「作戦はどうするのですか?いつもはどうやって?」


 ミナが後ろから質問する。


「いつもはそうだなぁ。どうしてるっけ?」


(いつもも何も俺たち四人が協力して倒した敵といえば、ケルベロスとトー.・グリムスくらいで……あれ? ちょっと待てよ)


 俺は目の前をぴょこぴょこ飛び跳ねているスライムと、今まで戦ってきた敵を比べてみた。


 どー考えてもケルベロスとかグリムスのほうがいかついし、強そうじゃん。


 っていうか、目の前のこいつら、あいつらに比べたらめっちゃ雑魚じゃん!!


 いける。


「いつもはフォルナが後方支援、クノスが前衛、俺は前衛と中衛、まのっぺが後方からとどめを刺すって形だ」


 俺は自信満々に言った。


 そうだ。


 俺たちならやれる。


「なるほど。バランスはいいですね。私も回復魔法が使えるので前衛の二人をカバーする形で参加してもいいですか?」


「ああ。まあこの程度の敵に後方支援はいらないと思うけどな。もしもの時は頼んだぞ!」


 キリッ。


「え? 私の支援いらないってことかしら? これ私が受けたクエストなのに?」


 フォルナが不満そうな声で腕を組んで聞いてきた。


 フォルナが使える支援魔法といえば、リミットブレイクと痛覚無効。


 でも、あれ使われると戦った後に頭がなんかぼーっとするし舌も回らなくなるからなあ。


 頻繁には使いたくない。


「ああ。この程度の雑魚モンスターにフォルナの支援魔法なんて使うまでもない。だろ?」


「そ、そうね。確かにこの程度のスライム風情に高位悪魔の力は使う必要ないわね。あら、わかってるじゃないの!」


 この悪魔ちょっろ。


「ああ、だからどいつを倒せばいいか選んでくれ」


「そうね。それならあそこで飛び跳ねてる大きくて赤いの、あれを所望するわ!」


 フォルナの目線の先を追うとそこには赤いスライムが数匹、


 標的は決まった。


「クノス、二人でやるぞ。行けるか?」


 クノスは血を見ると失神するが、スライムならいけるだろうか?


「スライム相手ならなんとか……なる。うん、行けるぞ!」


 行けるらしい。


 スライム殺してもグロいことにはならないだろう。


「ボス!! 私はどうすれば?」


「まのっぺは最終秘密兵器だ。そこで待機してろ」


「最終秘密兵器……わかりました!!」


 この魔族っ子もちょろい。


「いくぞ!! クノス!!」


「ああ!!」


 そうして俺たちは意気揚々と標的のスライムへと走り迫った。



 ———




 戦闘開始。


「ホローガウジ!!」


 ウィンドで滑空しながら移動した俺は、ファイアで地面を抉り、グリムスを殴った時の魔法を、いやスキルを発動した。


 鋭石が俺の腕を高速回転して包み込み、俺の拳はさながら掘削ドリルになった。


 こいつで液状のスライムを削り殺す。


「おら!!」


 殴るとあっけなく目の前のスライムはぷっちんはじけ飛んだ。


 そのぷにぷにの身体が地面に巻き散る。


 まずは、一体撃破だ。


「クノス! そっちはどうだ?」


「見てくれ我無!! これが私本来の実力だぁ!!」


 ものすごいスピードで移動しているクノスは、スライムを一体、二体、三体、と次々と斬り殺していく。


 目にもとまらぬスピードで有象無象のスライムたちが地面に飛び散った。


「よっし。俺もやってやる!!」


 そんな姿に俺も鼓舞され、


 先ほどのスライムの殴った感触があまりにもやっこかったので、次はもっと手ごたえのあるやつを倒そうと先ほどのスライムよりも一回り大きなやつに向かって行った。


「おらっ!!」


 パチンッ。


 こいつもあっけなくはじけ飛んでしまった。


 あれ?


 もしかして俺って強い?


 その後もクノスと一緒に数十体ほどのスライムを狩りつくした。


 辺りにはスライムの残骸がそこかしこに飛び散っている。


 そんなスライムの飛び散った部分を拾い集め、フォルナたち後衛メンバーのもとに持っていく。


「ほら、結構集まったぞ。これで十分だろ」


 拾い集めたスライムの残骸を俺とクノスはフォルナに渡した。


「どうも」


 それを受け取ったフォルナは難しい顔で何かを考えているようだ。


「おい、どうした?なんか浮かない顔だな?」


「うーん。あまりにも弱すぎてなーにか引っかかるのよね。今一所懸命思い出そうとしているんだけれど」


 すると、背後からもぞもぞと何かが動く音が聞こえてきた。


 見てみると、地面に飛び散ったスライムの身体が再集合して、小スライムになっていた。


「ファイアパンチ」


 飛びかかってきたそいつを軽く拳で殴った。


 そいつの破片が地面や俺たちの身体に飛び散る。


「うわっ。なんかベトベトするぞ」


 俺はそれを手で払いながら言った。


 周りの四人も見てみればまのっぺ以外は見事にそのベトベトを浴びていた。


(さっきも、今も、スライムが弾けるとその破片が身体に付着するんだよなあ)


 まのっぺにはそのべとべとがついてない。


 彼女はフォルナを盾にしてそれを防いでいたようだ。


「これ、洗って落ちるんでしょうか? うぇぇ」


 と、ミナ。


 ベトベトが身体の隅々、首から真っ白い腕から、太ももまでそこかしこに付着してしまっている。


「我無、こっちを見るな。こんな姿の私を、み、見ないほうがいいぞ」


 とクノス。


 その言葉を無視して彼女の方を見ると、べっとべとになった自分の身体を触りながらなんだかブツブツ呟いていた。


「フォルナ。お前がその詰まってない脳みそからやっかいなことを思い出す前に帰るぞ。こいつら再集合して復活するみたいだし、その前にさっさと退散しよう」


「再集合、復活……ええ。そうね。帰りましょう」


 思案顔で深刻なオーラを漂わせるフォルナ。


 その表情は真面目そのものだが、身体はスライムでべちゃべちゃだ。


 早く風呂に入りたい。


 平原とはさっさとおさらばして、来た道を帰ろうとした


 その時、


「いてっ」


 俺は何かにつまづいたのかその場にこけてしまった。


「もう。なにやってるんですか我無」


 ミナが手を貸してくれる、俺はその手を掴もうと……。


「ひゃぁっ!」


 ミナも同じようにこけてしまった。


 ミナの体重が俺の身体の上にのしかかる。


「お、おもい……」


「失礼ですよ! おもくないです! でも、なんで……?」


「おい、お前たちなにやって……ん?」


 ズルズルズル。


 こちらに向かってこようとしたクノスの靴。


 それが、じりじりと俺たちの後ろのほうに引っ張られている。


「おい……これってどういうあああああ!?」


「きゃっ!?」


「な、なんだこれは!?」


 突如、まるで俺たちの背後に蟻地獄が発生したかのようにまのっぺ以外の四人が後ろに引っ張られた。


 地面に生える草を掴むが、引っ張られるスピードはどんどんと早くなる。


「ボスたちー? どこ行くんですかー?」


 俺たちは地面を滑るように謎の引力に引っ張られ、


「フォルナあああ!?」


 俺は横を真顔で滑るフォルナに叫んだ。


「あ! 思い出したわ。スライムはわざとその粘着性のある身体をまき散らして、冒険者の身体に付着させるのよ。そうして、冒険者に付着した身体を再集合させることで……」


「お、お、お、お前、フォルナァ!! そういう大事なことはもっと早く思い出してくださいよおおお!!」


 俺たち四人の身体に付着したスライムの破片たちは、俺たちの身体ごと再集合を果たそうとしていた。


「えぇ? もしかして、あれに飲み込まれるってことか!?」


「我無! なんとかしてください!!」


 ミナは俺の身体に引っ付いたまま叫ぶ。


 スライムのベトベトのせいで俺の背中にミナはくっついたままだ。


 そして、横滑りする俺たちを待ち受けていたのは辺りの破片を集め、巨大化したスライムだった。


「どどどどうすんだよこれええええ?」


「クソッ! ベトベトのせいで剣が……」


 クノスは剣を鞘から抜こうとしているが、スライムの身体の破片がそれを邪魔する。


 これ、もうだめじゃん。


 おわった。


 最終兵器起動させるしかねえ。


「まのっぺ出番だ!! 俺たちが飲み込まれる前にやれ!!」


「出番ですか!! 任せてください!! はああああ」


 継脈書を展開し、まのっぺは魔法を放つ。


「貫通咆!!!!」


 地面を這う俺たちの頭上を極太ビームが影を引きながら通過。


 轟音とともに巨大なスライムが爆散した。


『『『『びゃああああああああああ!!!!』』』』


 その爆風に飲まれ、俺とミナ、クノスとフォルナはぶっ飛ばされた。



『いだぁっ!』


『いたいっ!』


『うっ』


『ぐへぇっ!?』




「見てください!! ボス!!」


 地面に転がされた俺たち、まのっぺの声に頭をあげると、


「これが新しい力ですよ!!」


 まのっぺのビームが周囲にいた小スライムから中スライムまで連鎖するように貫いていた。


 その光景はまるで、一人の人間に落ちた落雷が、周囲の人間にまで感電しているようだった。


 どうやら錬金石の効果は連鎖攻撃だったようだ。


(こ、こいつ、とうとう大量殺人の力を手に入れてしまったのか……って!)


「おいミナ! 大丈夫か!!」


 俺は慌ててミナのほうを確認した。


 彼女は尻もちをついて、髪から下まで体中ベトベト。


(こりゃ、信頼は地に落ちたか……)


 今まで費やした労力を考え、がっくりと肩を落としていると。


「ぷっ。あははははは!!」


 驚いたことに、彼女はまるで歓喜の鐘を突いたかのような笑い声を出し、お腹を抱えて転がりまわっていた。


(えぇ? なんで笑ってるんすか?)


「お、おい……ミナ……?」


「ぷっ、いえ、私は大丈夫です。でっ、でもあまりにも行き当たりばったり過ぎて、おっ、面白くなってきちゃって……」


 俺は周囲を見渡した。


 すると、全身ベトベトになったクノス、へたれこんでいるフォルナ、高笑いしているまのっぺの姿が目に入った。


 カオス。


「ぷっ。ああ、確かにこれは傑作だな!! がはははー」


 そのシュールな光景に俺もミナと一緒に大笑いした。


 が、面白かったのは一瞬で……。


 サークルの街の中に戻ると。


『ねぇ、あの冒険者チーム見て……』


『ベットベトじゃない。女の子たち可愛そう……』


『初心者によくあるスライムの洗礼だな……』


『おい兄ちゃん! これ使いな!』


 俺は通りすがりの俺よりも背が小さい子供っぽい冒険者から投げ渡された瓶をキャッチする。


『それ使って洗えば汚れ落ちるから! ま、まあ、がんばれよ!』


「あ、ありがとね」


(あんなに小さい子供冒険者にまで同情されてしまった……)


「おいフォルナ。泣いてんのか?」


「なっ、泣いてなんかないわよ。ただ、穢された高位悪魔の尊厳をとっ、取り戻そうと……ひっく、してるだけよ……」


 俺は涙目で隣を歩くフォルナを見た。


 これじゃ尊厳もひったくれもあったもんじゃねえ!


「わかっただろミナ。俺たちなんてこんなもんだよ。大した力もない結成してまもない冒険者パーティーさ」


「はい。よくわかりました。とても、賑やかなパーティーだと言うことが……」


「ん? なんか言ったか?」


 後半部分がよく聞こえなかった。


「いえ、なんでも。あっ、我無、首筋に傷が……」


 背伸びしたミナは俺の首筋に触れると、その手から温かい光を灯した。


「治しました。私も活躍できてよかったです。さあ、クエスト達成の報告に行きましょう!」


「あ、ミナ! 今回のえむぶいぴーは私ですよ!!」


「それならまのっぺも早く行きましょう!」


 ベトベトになったミナはそれでもなんだか楽しそうに、俺たちの前を走っていった。


「なんか、あいつも変わってるなぁ」


 そんな後ろ姿を見ながら、ミナに直してもらった首筋の部分に触れ、俺はひとり呟いた。

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