第20話 男の習性論!?
まのっぺとフォルナ。
驚いたことに、時間通り待ち合わせ場所の転移神殿に二人はいた。
「あ! ボス―!!」
「私たちのほうが早かったわね。我無」
平然とした様子でそこに立つ二人。
見た目にも特に変化はない。
なにもなかったのだろうがどうしても疑ってしまう。
なぜならこいつらは犯罪を犯罪だと思わないタイプだからだ。
もしかしたら何かやらかしたのに、やらかしたと思っていない可能性もある。
なにせ悪魔と魔族っ子バーサーカーだからな。
「ちゃんとその加工屋には行けたのか?」
「もちろんです! 見てくださいほら!」
まのっぺはあの錬金ばあさんが継脈書と言っていた、まのっぺがいつもあの必殺ビームを放つときに使う本を俺に見せた。
その本の表紙。
その中央にはまのっぺが昨日俺とフォルナの金で買った石、錬金石が見事に加工され取り付けられている。
素人目でもわかる見事な仕事だ。
「それで、その錬金石の効果とやらは?」
「使ってみないことにはわかりません」
「まさかもう使ったりしてないよな? その辺でぶっ放してないよな?」
俺は最悪の事態を想定し恐る恐る聞き返す。
やりかねない。この子ならやりかねない。
「してませんよ。秘密兵器はその時まで隠しておくものですから!」
まのっぺはまんまるの目を鋭く光らせてそう言った。
なるほど。
彼女には彼女なりのポリシーがあるようだ。
「フォルナはどうだったんだ? 目当てのかっこいい武器とやらは見れたのか?」
首都まで転移した俺たちは学園まで歩く。
隣を歩くフォルナに俺は聞いた。
「それがね。それらしい武器は飾ってあったりしたんだけど、どれもピンとこなかったのよね。どれも普通の武器って感じで」
彼女は紫色の髪をなびかせながら不満そうに腕を組んでいる。
「オーダーメイド? の店ばっかりだったのよ。モンスターとかの素材からその都度作成するから在庫は無くて飾ってないんですって。まったく骨折り損だったわ」
つまり、武器の出来具合が素材によってまちまちだから見本みたいなのが飾れないってことか。
「でもね!」
あ、やな予感。
「工房屋のおじさんが『モンスターの素材なら何でも持ってくれば俺が何か作ってやる』って言ったのよ。オーダーメイドよ! オーダーメイド! この高位悪魔である私に相応しいとは思わない?」
「でもそれ、お高いんでしょ?」
「高くないわ! この私の美貌に免じて特別価格で作ってくれるって言ったのよ! どう? すごいでしょう? 悪魔的美貌で人間を惑わしてやったわ」
まあ、この人見てくれは本当に美人さんだからな。
そのおっさんがその美貌にやられても仕方ないとは思う。
見た目だけ拝めたおっさんは幸せもんだ。
中身は知らないほうがいい。
「それはいいけどさ。その金はちゃんと自分で出してくれるんだよな?」
「お金は自分で出すわ。今日だって夕飯はミナの家でもらえるじゃない。節約できてるからきっと出せるわ。それで、少しだけ問題があるのだけれど……」
俺はその問題とやらが聞きたくなくて目を逸らした。
逸らした先ではまのっぺがクノスに継脈書を見せびらかしていた。
『見てくださいクノス! これで大幅にパワーアップ! 敵を皆殺しですよ!』
『ふふふ。ああ、そうだな』
なーんてやり取りをしてる。
「で、問題ってなんですか?」
現実に戻る。
フォルナに目線を戻すと俺は聞いた。
「モンスターの素材よ。素材がないことには作れないでしょ? だから、明日モンスター討伐のクエストを受けに行こうと思うのだけどどうかしら? ほら、ミナの学校も明日は休みで暇じゃない? 一緒に行きましょうよ」
「いやだ。ひとりで行け」
「そんなこと言うんじゃないわよ。ケチ。この悪魔! ねえ、雑魚スライムの討伐とかでもいいからお願いよー。オーダーメイドやってみたいのよー」
フォルナは攻撃魔法を使えない。
だからモンスター討伐に一人で行くのは無理だ。
でも俺は行きたくない。
休みの日は家でゆっくり過ごしたい。
「まあ、そう言ってやるな。どうせ明日は暇なんだ。冒険者っぽいことをするのもありなんじゃないか?」
と、楽観的なクノス。
この人、さっきのレナとかいう人に対抗心燃やしてるんじゃないだろうな。
「ボス! それなら私もさっそくこの強化した継脈書の効果を試してみたいです!」
と、まのっぺ。
お前さっきの秘密兵器うんぬんのポリシーはどこ行ったんだよ。
「はぁ、わかったよ。みんながそこまで言うなら行くよ。でも、ちゃんと雑魚モンスタークエストだからな。変に欲張るんじゃないぞ」
「もちろんよ。悪魔に二言はないわ。安心なさい」
フォルナは顎をクイッとあげると偉そうな目で俺を見下した。
実は俺も心の底から行きたくない、というわけではなかった。
冒険者っぽいことにはもちろん憧れはあるし、モンスターと戦ってみたくもある。
ただ、嫌なだけ。
このメンバーで行くのが。
———
話しているうちに学園の前まで来た。
今日は昨日よりも時間に余裕があるのでミナはまだいない。
「クノス。今日はミナにお前の冒険話を根掘り葉掘り聞かれるんじゃないか? どうするつもりだよ。血を見たら失神するんだ。碌な冒険話なんてないだろ?」
学園から生徒たちが出てくる中、俺たちは校門のそばでミナを待っている。
ミナは昨日からクノスの話を聞きたそうにしていたし、今日の夕飯時にでも聞かれるだろう。
だから俺は助け舟を出すことにした。
昨日今日とクノスにはギルド都市サークルの案内をしてもらったからな。
そのお返しだ。
「そ、そうとも限らないぞ? あるかもしれないだろ。思い出したら……きっと……多分……」
こりゃないな。
「俺にまで気を張るな。お前が血を見たら失神するどうしようもないむっつり魔剣士だってことはわかってる」
「うぅ、だから、そのむっつり魔剣士というのはやめてくれないか?」
「じゃあ、クノス嬢?」
「うぅぅ、いじめないで……」
クノスは剣の柄の先っぽを人差し指でくるくるしている。
「まあ、とにかく。それなら修練場での話なんかするのはどうだ? あのレナとかいう赤髪の人が言ってたけど、修練場でならお前は最強だったんだろ? 自慢できる話の一つや二つあるだろ」
修練場、おそらくモンスター相手ではなく対人で剣の腕を鍛える場所なのだろう。
「確かに、私は修練場では最強だった……そうか! その話なら盛り上がれるか!」
自分で最強っていうのね。
でもまあ確かに、クノスの剣の腕は相当なものだろうと素人の俺でもわかる。
だって剣を振ったら音が鳴るんだもん。
ズンッて。
「ああ、だから冒険者の時の話は先延ばしにして、その修練場での話をうすーく伸ばしてなるべく長く話してやればいい、だろ? 今日一日で語りきろうとするなよ」
「ああ! わかった。感謝するぞ我無!」
喜んだ顔でこちらを見たクノス。
俺なりの恩返しはできたはずだ。
後はお前のトークスキルしだいだぞ。
がんばれよ。
「あ! ミナがきましたよ!」
まのっぺの声に学園の中をのぞくと制服に学生鞄を持ったミナがこちらに歩いてきていた。
「おかえり。ミナお嬢様」
俺は近づいてきた彼女にそう声をかけた。
「だから……はぁ。もういいです。では、帰りもお願いします」
気だるそうにそう言ったミナを俺たちはまた取り囲んだ。
護衛任務開始だ。
———
護衛中。
しばらく歩いて。
「そういえば我無たちは私が学園にいる間、どうやって時間を潰していたんですか?」
背中からそんなミナの声が聞こえてくる。
これは俺に聞いているのか?
俺が答えてもいいのか?
「私たちとまのっぺはサークルって場所の工房区に行ってきたわ」
俺が悩んでいるうちに答えたのはフォルナ。
「ミナ! 見てくださいこれ!」
「え!? これってもしかして継脈書じゃないですか!」
まのっぺがミナに本を見せびらかしたのだろう。
後ろからはそんな驚きの声があがる。
「それだけじゃないです! ほら、この真ん中にいしころがついてますよね。これで大幅にパワーアップしたんです!」
「もしかして、まのっぺってとっても強いんですか?」
「当たり前です! 勇者を目指してますから!」
「勇者……ですか。ふふっ、なんかいいなぁ~。そういうの」
ミナは小さな声でそう呟いた。
あの教会でおそらくずっと聖女をやってきたミナ、彼女にも戦いとか冒険とか、そういうロマンへの憧れがあるのかもしれない。
「クノスは何をしていたんですか?」
「私は我無と一緒に集会所付近をぶらぶらしてたな」
「ギルド都市サークルの集会所ですか! あの国中の冒険者たちが集まるという。いいなぁ。でもなんでこの変態と二人なんですか?」
ジロ。
ミナからの強い視線を感じる。
なんでってフォルナとまのっぺと一緒に行動したくなかったからに決まってるだろ。
「なんでもなにも、私たちは仲間だからな。別に不思議なことじゃないだろ?」
「ま、まあ、確かにそうですね。変なことを聞いちゃいました。すいません」
「謝る必要はないぞ。私たちは仲間だ、そうだろう我無? 同じ屋根の下で寝食を共にする仲間だもんな?」
にやり。
あ!
こいつさっき助け舟だしてやったのに、レナの時の仕返しをここでしてきやがった。
話がややこしくなるからやめろよ。
「寝食を共に……ですか? まあ、同じチームならそういうこともありますよね」
「ああ。同じ食卓を囲み、同じ屋根の下で眠り……そ、その、そ、添い寝……とかもするっ、するじょ?」
この女、冒険者時代の話をしなくてよくなったからってモテる美人お姉さんアピールしやがって。
でもぎこちねぇ。
ぎこちねぇよ。
最後まではっきり言えよ。
途中で恥ずかしがるな。
「そ、添い寝ですか? そっ、そうですか。添い寝ですか……」
それを聞いてミナはやけに深く考え込むような顔をした。
いや、厳密には添い寝してないけどね。
あと一歩のところまでだったけどね。
訂正したくなるができない。
どうして一度始まった女子トークにはこうも入りづらいのだろうか。
完全にタイミングを見失った。
何か見えない壁がそこにある。
この壁を破れないのは俺が引きこもりの童貞だったからか?
こんなことなら、実家のおばさんがよくしてたおばさんトークに入り込んで練習しとくんだった。
あの話の中に入れたら怖いもの無しだからな。
「あ、着きましたね。みなさん、今日も夕飯を食べて行きますよね」
「もちろんよ」
「もちのろんです」
「ありがたくいただくとしよう」
教会までたどり着くと食欲をそそるいい匂いがここまで漂ってくる。
その匂いについ俺の腹の虫は鳴き声をあげてしまった。
ぐ~。
「あ」
「まったく卑しい人ですね。我無もどうぞ。席はおじいちゃんの隣ですが」
ミナはジト目を俺に向けて言った。
「ありがたくいただきますっ!」
俺はミナに一礼した。
「ほんとですよ。私たちは生活費だけもカツカツなのでちゃんと感謝してくださいね……あっ」
っと、その時。
ミナの学生鞄についていたストラップ?のようなものが不意に外れて落ちた。
間一髪、お辞儀の姿勢のままだった俺は、その体勢からそのストラップを地面に落ちる寸前でキャッチすることができた。
「おっ、とギリギリセーフ。はいどうぞ」
ストラップを片手で掴んだ俺はそれをミナに渡す。
「あ、ありがとうございます」
受け取ったミナはすぐに振り返ると、家の中へと入って行ってしまった。
その日ミナの家で夕食をもらった俺たち。
夕食中は、明日モンスターの討伐に行くことや、クノスの修練場時代の話をした。
心なしかミナと俺たちの距離はここ二日でぐっと近づいたような気がする。
なんか食事中もやけにミナの視線を感じたような。
夕食を食べ終わるとそのままセエレの転移魔法陣で屋敷に戻り眠りについた。
その夜、屋敷の部屋で。
「我無! 明日はモンスター討伐よ。ちゃんと早起きしなさいよ」
二段ベッドの上からそんな声が聞こえてきた。
「あーはいはい。もし、起きなかったら起こしてくれ」
「ふっ、まかせなさい。全力で叩き起こしてあげるわ」
明日はこの世界での初めての討伐クエストだ。
「ねえ、もう明かり消して———」
「早く消せ」
一抹の不安と期待を胸に抱きながら俺は眠りについた。
———ミナ視点———
私は自室で我無が拾ってくれたストラップを握りしめていた。
「そういえばこんなものあったなあ」
それは私がこの教会に捨てられたときに一緒に置いていかれていたものらしい。
見た目は街の転移神殿にあるクリスタルを小さくしたような感じ。
普通のクリスタルだ。
おじいちゃん曰くこのクリスタルにはなにも魔力が込められていない。
でも、だからこそ意味があるとかなんとか言ってた。
鞄に取り付けるように言ったのもおじいちゃんだ。
正直私には理解できないし、理解したくもないので今までは何も考えてなかったけど。
なぜだろう。
我無にこのクリスタルのストラップが地面に落ちる寸前で拾ってもらったとき、不思議と安心した。
『あぁ、よかった』
って。
今までずっと教会でおじいちゃんと二人暮らし。
手に入る情報といえば教会にやってくる人の妬みごとや愚痴ばかり。
そんなことばかり聞かされて、私もどこか世間のことを知った気になっていたのかもしれない。
おじいちゃんに『将来のために学園に行きなさい』と言われたときは、わざわざ高い学費を払ってまで学園になんか行く必要ないと思ってた。
私にはこの力があるんだし、冒険者にでもなってその道で生きていけばそれでいいと思った。
でも、『冒険者にもいろいろいて、信頼できる人間ばかりじゃない』とおじいちゃんは深刻そうな顔で言った。
そんな顔は今まで見たことがなかったから、仕方なく学園に通った。
最初はお金持ちの女子ばかりの学園生活なんて楽しいはずがないと思ってた。
どの子も世間を知らないお嬢様ばかりで、私と話が合うはずがないとそう思った。
でも最近になって思う。
私は世間を知った気になっていただけだと。
彼女達には彼女たちの事情があって、例えば将来は嫁がされることが決まってるとか、親の仕事を継がなければいけないとか、ほとんどの子たちはこれから先の道が決められていて、そのために学園に通っていた。彼女たちの未来には既に塗装された道が引かれているのだ。
そんな女子たちの話題といえば、今だけの、つかの間の恋愛話だった。
どこどこの靴屋の少年とか、学園の帰り道にある魔道具店の店員とか、どれも将来を決められたお嬢様たちにとっては刹那的な相手との恋愛話だ。
だからその話題においては、彼女たちの食いつきはすごい。
ためしに最近の護衛の任務の話をしたら、男について彼女たちが詳しく教えてくれた。
曰く、男は好きな女にほどちょっかいを出したがるものだと。
曰く、男はエッチなことになると馬鹿になると。
曰く、男は大抵馬鹿なのでその行動にいちいち理由を求めていては疲れると。
曰く、馬鹿だからこそ、正直者の男が一番いいと。
他にもやけに具体的に、真面目な顔で彼女たちは語ってくれた。
あまりにも情報量が多すぎたので私はこれくらいしか覚えていないが、世間知らずだったのは私のほうだと深く反省した。
そして、今日の帰り道。
フォルナやクノス、まのっぺと話しながら我無の行動について学園の子たちの話を思い出しながら考えてみた。
驚いたことに。
すべて当てはまっていた。
あまりの的中率に、今日一日はそのことしか考えられなかったほどだ。
教会に戻ってきたときも、夕飯中にクノスが昔の話をしてくれていた時も。
私の頭の中はどこか上の空だった。
いちいち我無の方を確認して、彼の行動、その一挙手一投足が『お嬢様の男の習性論』に当てはまっていないかずっと確認してしまっていた。
「あれ……でもこの習性論によると我無は私のことが好きってことに……なる?」
曰く、男は好きな女にほどちょっかいを出したがるもの、この原則が正しいとすれば我無の行動にも納得が行く。
でも。
「いやいや、あの男はないでしょ。うん。ない。あっちがよくてもこっちには選ぶ権利があるはず……だよね?」
駄目だ。
考えれば考えるほどドツボにはまる気がする。
我無が私のストラップを拾ってくれた時の顔が頭から離れなくなってきた。
「あーだめだめ。こんなんじゃだめだ。もう寝よう。睡眠不足は判断を鈍らせる。うん。そうだ。もう寝よう」
部屋の明かりを消してベッドに入っても謎は深まるばかり。
どうすればこの謎を解明できる?
どうすればあの変態の考えていることがわかる?
「そういえば……明日討伐クエストを受けるって言ってたような……あ、これか」
私は閃いた。
明日はローおじいちゃんに嘘ついてギルド都市サークルに行こう。
そうすればきっと我無に会えるし、それでついでにそのクエストに連れて行ってもらえば、この謎だって解明されるはずだ。
「よし。やるのよ聖女。私ならできます」
ベッドの中で小さくガッツポーズすると、目を閉じた。
これで謎が解ける。
そうすればきっと頭の中からあの変態が消えてくれるはず。
この時はそう、思っていた。




