第19話 赤髪の二刀流
今日も昨日と同じように俺たちは護衛任務に就くために首都に向かう。
ちなみにセエレの古の転移魔法陣探しは、昨日から天使が首都にやってきている関係で難航中らしい。
いろいろな場所のセキュリティが強化されているとか。
でもあの人テレポートできるのにセキュリティとか意味を成すのだろうか?
もしかしたら瞬間移動を防ぐ結界とかがあるのかもしれない。
———
教会にたどり着いた俺たちは昨日のようにサングラスをかけ、ミナの四方を囲んだ。
360度肉壁の陣。
守りは完璧だ。
「もうこの護衛の仕方に関しては何も言いません。仕事のやり方までは指図できませんからね。でも、そのサングラスはどうにかなりませんか? 目立ちすぎですよ。これではまるで、私が超重要人物のようじゃないですか」
俺の後ろでミナがそう言った。
「でもミナ? このサングラスかっこいいと思わないかしら? 似合ってるでしょう?」
フォルナがミナに質問する。
「確かに似合ってますけど……」
「ミナ? 俺ももう会話に入っていいか?」
俺は恐る恐る背後の気配を探りながら聞いた。
一日や二日でミナからの好感度が上がるとも思えないが、何もしなければマイナスのままなのも事実だ。
ここで挽回しなければ。
「どうぞ? 何か意見があるんですか?」
あら? すんなり聞いてくれそう。
なんでだ?
いや、今は迷っている時間はない。
ミナの気持ちが変わらないうちに俺は切り出した。
「さっきミナは目立ちすぎるといっただろ? それが俺たちの狙いなんだ」
「つまり?」
「これだけ目立てば嫌にでも町の人たちからの視線が集まる。もし、ミナのことを狙う輩がいたとしてもこの聴衆の面前で犯行を行うはずがないだろ」
俺は昨日寝る前にベッドでひたすら頭をひねくり回して出したよさそうな言い訳を吐いた。
「ふーん。それで……?」
「そ、それで? えーと……そうだな。ほら、このサングラスにも理由があるんだよ」
「どんな?」
俺の脳内スーパーコンピューター『陰』はそのシステムをフル稼働させそれっぽい理由を導き出す。
頭は熱いが、人間やろうと思えばなんとかなるもんだ。
「ああ。この首都にはお偉いさんなんてたくさんいるだろ? 護衛の任務についている冒険者だって少なくはないはずだ。だから街の人たちにはそいつらの記憶は残らない。でもどうだ? そんな中でこんなふざけたサングラスをしてる奴らを毎日目にしていれば、否が応でもその記憶に残るだろ?」
まずい。この先考えてない。
記憶に残るからなんなんだ……?
「なるほど。記憶に残れば万が一私たちに何か異変があったとしても、街の誰かがその異変に気付いて通報してくれる可能性が高まると……リスクヘッジ。そういうわけですか」
ミナは口に手を当て思案顔でそう言った。
りすくへっじぃ?
うん。
そういうことだよー。
「その通り。よくわかったな」
キリッ。
どうよ! これが引きこもり生活で身に着けた体のいい理由作りのスキルだ!
あの生活も無駄じゃなかったんだな。
人生に無駄なことなんてなかったんだ。
「え? でもこれは私が———」
ギロッ。
俺は今にも口を出しそうなフォルナを睨んで黙らせた。
せっかくうまくいったんだ。
邪魔はさせない。
ついでにまのっぺのほうに目を向けると、彼女はいつかのノートにまたガシガシと何かを書き込んでいた。
「ちゃんと理由があったんですね。てっきり理由もなしに面白そうだからとかそんなくだらない理由でこんなことしてるのかと思ってました。ちょっと反省します」
ミナはやけに素直にそう言った。
でも、その口元はへの字だ。
認めなければいけないけど本心では認めたくない。
そんな顔。
なんかちょっと騙してるようで悪い気がするが、俺はもっと悪いことをしてしまっているので今更だ。
「でも、別にあなたのことを許したわけじゃないです。冒険者がクエストを真面目に受けるのは当たり前です。その行動に理由があるのも当たり前。調子に乗らないでくださいね」
また、あの冷たい目だ。
年下の子に睨まれるっていうのも悪くはないけど、できるなら仲良くしたい。
長い付き合いになるのだから。
「はいはい。調子に乗らないよう気を付けます」
「本当にわかったんですか?ちゃんとお願いしますよ」
上目遣いで睨まれたので、視線を外した。
そこからしばらく歩くと彼女の通う学園が見えた。
「ついたみたいですね。フォルナ、クノス、まのっぺ、ありがとうございます。帰りもまたお願いします」
『まかせなさい』『ああ』『りょうかいですっ』と、各々が反応。
俺は無しかよ。
「行ってらっしゃいませ! ミナお嬢様!」
俺は登校する生徒がいる前で大声で叫び、ちょっと意地悪した。
「そういうところですよッ」
グハッ。
俺は腹に一発強烈な拳を喰らった。
なんだか、昨日よりも気合が入っているような一撃だった。
俺も腹を押さえながらまのっぺと一緒に手を振り、ミナを見送った。
「我無、仲良くなれたようでよかったじゃないか」
ミナの後ろ姿が遠くなると、隣にいたクノスがサングラスを拭きながら言う。
「これで仲良くなってるんですかね? 女心がわからないので俺には判断しかねますよ」
俺は殴られた腹をさすった。
最初は痛かったのに今はなんだかポカポカしている。
これが聖女の力ってやつか?
「女心がわかってたら普通スカートはめくらないわよね。ま、今朝は我無にしては上々だったんじゃないかしら?」
こいつ偉そうに……そのうち絶対ボロ出すに決まってるのに。
いっそのことミナにそのまま浄化されろ。
「ボス! この後はどうするんですか?」
まのっぺはノートを開くと一生懸命に何かを書き込みながら俺に聞いてきた。
「俺はまたサークルで暇を潰すよ。お前たちも一緒に来るだろ?」
「私は昨日のばばあから工房区の加工屋? の場所を教えてもらったのでそこに行きたいと思います」
まのっぺはノートをバッと開いて俺に見せた。そこには同じ文章?のようなものが永遠と書き記されている。
「これはその場所の住所です。何度も書かないと忘れてしまうのでこうやってたくさん書きました!」
「へー、今一瞬そうなんだーと、思いそうになったけどさ。ノートなんだから一回そこに書き込めば覚える必要ないだろ」
なにやってんだこいつは。
「むっ? 確かに……?」
不安だ。
俺がついていったほうがいいのかな?
でも、正直ついていきたくない。
その加工屋でまたひと悶着ありそうだし、嫌だなぁ。
「あら、それなら私も一緒についていこうかしら?」
話しながらクリスタルのある転移神殿までくるとフォルナが言った。
そんなん駄目に決まってるだろ。
だって、マイナスにマイナスをかけたら……プラス!?
そうか!
フォルナがいればまのっぺに対するある程度の抑止力になる……か。
よし!
もう全部フォルナに押し付けよ。
「わかった。それならまのっぺとフォルナは一緒に行動しろ」
『なんでですかボス!!』『やったわ』
「まのっぺ、これは命令だ」
「そんなぁ」
まのっぺを黙らせると、クノスが転移クリスタルを起動させた。
ギルド都市サークルまで転移する。
神殿から出ると、俺は今後の予定を確認した。
「それじゃ、まのっぺとフォルナは工房区でその……まあ時間までには戻ってこいよ」
いろいろ忠告してもどうせこいつらは覚えないし守らない。
だから、必要最低限のことだけを伝えた。
「ボスの命令なら仕方がないです」
「この私にまかせなさい。問題なんて起こさせないわ。状況分析を怠らずに、このデビルブレインとデビルアイとデビル———」
まあ、最悪なんかあったらこいつらはここにおいていこう。
迷子になって時間通りに戻ってこなくてもおいていこう。
我ながらナイスアイデアだ。
「それじゃクノス、俺たちは適当にその辺ぶらぶらしてるか」
「いいのか? あの二人を野放しにしても」
クノスは驚き顔で俺に聞いてくる。
なにいってんすか。
「マイナスかけるマイナスはプラス……ですよ」
「何言ってるんだ?」
うん。
俺にもよくわからん。
まあでも、なんとかなるでしょ。
だって、ただその加工屋?に行くだけでしょ。
よくよく考えたら子供のお使いレベルじゃん。
何も難しいことはない。
「クノス、考えすぎだ。ここはこいつらを信じてやろうぜ」
「信じる……?ま、まあそうだな。信じることも大事だな」
クノスも納得してくれたところで俺たちは二手に解散した。
信じるって言葉はまったく便利だぜ。
「それで、俺たちはどこに行く?」
隣を歩くクノスに俺は聞いた。
「そういえばまだ、第一集会所にいってなかったな。そこに行くのはどうだ?」
「おっ、いいっすねー」
第一集会所、そこは討伐系クエストを専門に扱っている場所。
ということはきっと、そこには冒険者らしい冒険者たちがいるに違いない。
フルプレートに身を包み、背中には大きな大剣。
そして、机の上にはたくさんの料理と積み重なったお酒。
それをガツリガツリと食いながら、今まで達成してきたクエストの話を仲間たちと『そんなこともあったなーガハハハ』と談笑するのだ。
きっとそういう光景が見られるのだろう。
そんな期待を胸に抱き俺は第一集会所に向かった。
———
第一集会所に着いた。
他の集会所と同じように開けっ放しの巨大な扉を通ると、外からでも聞こえていた喧騒がより一層強くなる。
『あっーもぉ! ちげえよ!! もっと右だ右!!』
『そこだ!! そこで技を放て!!』
『あっぶなーい!私の賭け金無駄にするんじゃないわよ!!』
集会所の中は大盛り上がりだった。
クノスと顔を見合わせると、俺はみんなの視線の先を見た。
そこには宙空に大きな映像が映し出されていた。
一階も二階も三階の冒険者もみな、身体を乗り出すようにその映像に食いついている。
「クノス? 説明できるか?」
「私にもなにがなんだか……一体この盛り上がりはなんなんだ?」
「そこにいると邪魔なのでこちらに移動を」
『『ひっ!?』』
思わず俺とクノスは声をあげた。
入口に立ち尽くしていた俺たちの床下、そこからぬるっとゴースト種族のトランスが出てきたのだ。
むにゅ。
「あっ」
と同時、クノスの普段の服装、白コートからはよくわからない柔らかい何かが俺の腕にあたった。
この人意外とあるんですよね。
「クノスちょっと近いぞ。俺は別にいいけど」
「なっ!! わっ、ご、ごめん……」
クノスの耳がカーっと朱色に染まる。
肌も髪の色もほぼ白に近いものなのでまったくわかりやすい。
「お二人ともこちらに」
トランスに案内されて俺たちは隅っこの空いている席に座った。
トランスが合図を出すと白ゴブリンが二人分の水をコップに入れて持ってきてくれた。
「で、なんでみんなはあの映像にあんなに熱狂してるんだ?」
俺は一口水を飲むとトランスに聞く。
「賭けですよ。今、映写魔道具によってあそこに映し出されているのはこのギルドでも最上位クラスの冒険者『我王G』です。彼は龍封の地に自ら飛び出して今まさにドラゴンと戦ってるところなんですよ」
「自ら飛び出してっ!? げほっ、げほっ」
水を飲んでいたクノスが驚いて咳き込む、俺は背中をさすってやった。
「ええ。その場面を仲間が映写魔道具でこうやって映し出してるんです。映写魔道具はただでさえ莫大な魔力を使うというのに、こんなことのために使うなんてまったく私にはわかりかねます」
トランスはゲームのバグみたいに机の真ん中から上半身を出してそう言った。
すり抜けている。
多分、向かい合って話すよりこっちのほうが距離が近くて大きな声を出す必要がないとかそういう理由なんだろう。
『お前の最後の雄姿!! 俺がしっかりみんなに伝えるからな!! 爺!』
映像からはそんな声が聞こえてくる。
音声まで伝わるのかよ。
「その龍封の地ってのは簡単に行けるものなのか?」
「ん? ご存じないので? まあ、めんどくさいのでいちいち追及しませんが。あぁー、このあとの乱闘騒ぎを想像すると、それだけでめんどくさくなってきました。私はもう行きます。それでは」
そう言ったトランスは、説明もせず床下に吸い込まれるように消えた。
彼の代わりに説明したのはクノス。
「龍封の地は行こうと思えば誰でも行ける。別に大きな壁で仕切られているわけではないからな。だが、あの映像に映っているように一歩でも脚を踏み入れれば超高高度を飛んでいるドラゴンたちがやってくる。ドラゴンは龍族の支配下にあって龍封の地とこちらの門番のような役割をしているんだ。あいつらはとにかく強いし、相手によっては集団で襲ってくることもある。だから、龍封の地にでることは自殺行為なんだ。普通の人間はそんなことしない……が……」
クノスが映像に目を移す。
『ワシは黒龍に戦いを挑むためだけにひたすら強さを極めてきたッ!! 見ているか黒龍!! 手始めにお前らを皆殺しにしてッ! 親玉を引きずり出してやるとするのじゃああああ!!』
我王Gと呼ばれた筋骨隆々の爺さんは、とんでもなくバカでかい大剣を振り回しながらドラゴンと戦っている。
『おおおお!! すげえええ!! 二匹倒したぞ!!』
『ちくしょー負けた!! やっぱあの爺さん強すぎだろ! かっけえええ』
そんな言葉が集会所内から聞こえてくる。
「クノス的にはあの爺さんの戦闘力はどうなんだ?」
「剣技は荒い。だが、それを圧倒的な力とスタミナでカバーしている。見たところ勘もかなりいいようだ。ドラゴンの技をしっかり見切ってる。だが……」
『ぐはっ!!』
爺がドラゴンの尻尾に弾かれる音。
「分が悪いな。いくら個の力が強くても物量には勝てない」
真面目な眼つきでクノスは呟く。
映像に目を戻せば、何十頭ものドラゴンに爺さんは囲まれていた。
絶体絶命のピンチってやつだ。
この先どうなるのか気になる展開。
が、その時突然。
『盟約違反者発見!! 即刻拘束しろ!!』
『あっ!! おい、なにすんだ! 待て。今爺さんの最後がッ———』
プツン。
撮影者の後ろからそんな声が聞こえると、映像はそこで途切れてしまった。
『はああああああああ? おい!! どうなったんだ!! どうなっちまったんだよ!!』
『誰だ!! 統括委員会に通報した奴は!!』
『賭けは? 賭けはどうなるのよおお!!』
怒り狂った冒険者たちが一斉に騒ぎ始めた。
集会所内はもう収集困難なカオスな状態へと一変、ジョッキが飛び、人が飛び、魔法が飛び交った
と、同時。
冷気のようなものが集会所内に溢れ出た。
「はぁぁ。我無さんたちは早く帰ってください。魂を吸われたくなければ……」
深海のように深く凍てついたため息を吐いたトランスは、床下からエレベーターを上がるように這い出てきた。
猫背になって、騒ぎ立てる冒険者の方へと向かって行く。
俺はその光景に呆然とした。
「一体なんなんだよ。これ……」
何百人にも分身したトランスが、騒ぐ冒険者の口から魂のような白いものを抜き出すのを見ながら呟いた。
『なあああああああああ———!?』
『悪かった! 騒いで悪かったかななななn』
『来るな! こっちに来るなトランスうううううううう!?』
その光景は悪霊によって支配された地獄のようだった。
「我無、とりあえず出るか」
クノスに諭され、俺は口を開いたまま第一集会所を後にした。
———
集会所を出るとそこには仁王立ちをして腕を組むスタイルのいい赤髪の女がいた。
(また今度はなんですか)
敵意むき出しの鋭い碧眼。
その威圧感は凄まじく、殺気だけで人を殺せそうだ。
腰には二本の剣が刺さっている。
右と左、二刀流だ。
余りにも恐ろしい剣幕なので俺はクノスの後ろに隠れた。
「まさか。こんなところで会うとはね。クノス……」
どうやらクノスの知り合いらしい。
よかった。殺される心配はなさそうだ。
「……誰?」
おい。
「またそうやって興味のないふりをするのね。あなたはいつもそうだった。修練場を飛び出していった時もそう。私はね! あなたのそういうところが気に食わないのよ!!」
「……うーん?」
クノスの顔を見ると一生懸命に思い出そうとはしているようだ。
「私は修練場で最強だったあなたに勝つために『赤弐剣』として名をあげてきた。それだっていうのに……」
より一層、殺気のオーラを強めた彼女はとんでもない力で拳を握っている。
空間がギシギシと軋む音が聞こえた。
「なによ!! あなたはいつもそうやって! 何食わぬ顔ですべてを手に入れる!! 剣の腕だけじゃ飽き足らず、男まで見つけましたってわけ? ふざけるんじゃないわよ!! こっちは修練場を出てからひたすらに研鑽に研鑽を重ねてきたっていうのに、あなたは何? その男とイチャイチャしてましたってわけ?」
やっべー。
なんか勘違いしてぶちぎれてる。
「しかも、さっきなんて受付のゴーストを見て何が『ひっ』よ! その男の腕にしがみついたりなんかして!! あなたはそんな女じゃなかったはずよ!! この腑抜けもの!!」
いや、そっから見てたんかい。
「……腑抜けもの……あ、思い出した。お前は確か、修練場でいつも私の後をついてきていた……名前は確か、レナ、そうレナだろ!」
「ついてなんかないわよ!! あなたを倒そうと虎視眈々と狙ってたのよ!!」
レナと呼ばれた彼女はそう弁明した。
「とにかく、ここで出会ったのがあなたの運の尽きよ。さあ、私と勝負しなさい!!」
「断る」
クノスは即答した。
「はっ、私に負けるのが怖いのね? そうなんでしょ」
「いや、私は血を見たくないだけだ」
「なによ偉そうに! 私に勝てるってそう言いたいわけ?」
いや、彼女は本当に血を見たくないだけだと思いますけど。
だってこの人、自分の鼻血を見て気絶するむっつり魔剣士ですよ。
昔馴染みなのに知らないのか?
「白滅流の剣士はむやみに剣を抜かないものだ。そう教わっただろ」
「教わったからなによ。教えはただの教えよ。私は抜きたい時に抜くわ!」
よく見たらレナはその手を両方の剣にかけている。
鯉口が切られた状態だ。
おいおいまさかこんなところでおっぱじめる気じゃないだろうな。
あ、ちなみに俺も抜きたい時に抜くタイプです。
「ちょっ待てよ。とりあえず、どこかでいったん話し合おう、な?」
俺は勇気を出して二人の間に入った。
せっかくまのっぺとフォルナを隔離したのに、こんなところで面倒ごとはごめんだ。
「部外者は黙ってなさいよ! っていうかあなたは一体クノスのなんなのよ!!」
「一体何って……」
俺はそう聞かれ考えた。
俺ってクノスのなんなんだ?
チームメイト?
パーティーメンバー?
相棒?
そういえば最近クノスからの好意を感じるような、感じないような。
ってことは、
「俺はクノスの(実験)パートナー、ですけど?」
「なぁっ!?」
クノスは驚嘆の声を上げ、
「ふぁっ!?」
レナは目が点になった。
「ぱぱぱパートナー!? うそ、冗談よね? まさか本当にその……ぱ、パートナーってあの? 同じ屋根のもとで暮らしてたり……」
彼女の目は白黒する。
「しますね」
俺の返答にレナの体力ゲージがジリジリ削れる音がする。
「お、お同じ机で食卓を囲んだり……」
「しますね」
彼女は一歩後ずさる。
「い、一緒に添い寝したり……なんてことは……」
「もう少しでできそうだった」
「その件は私知らないのだが!?」
大声で喚くクノスを無視して俺はこのまま事態の収拾に取り掛かろうとする。
体力の削れた今なら押し切れるはずだ。
「まあ、そういうことだから。あんたのことはよく知らないけど、クノスの方が剣の腕も女性としても優っているということで。勝負をするまでもないってことで。わかってくれたかな?」
たのむ、もうこのまま引き下がってくれ。
「ぐっ。でも……それでもっ、負けないっ!」
(えぇ……)
往生際が悪いな。
なんかこの世界こういう人多いよなあ。
レナは歯を食いしばり言った。
「あなたたちが一緒に同じ食卓囲んでいようが!」
一歩。
「添い寝しながら甘ったるい会話していようが!!」
一歩。
「え、わ、私達はそんなことしてない!! 我無も真面目な顔で黙ってないでなにか言って!!」
クノスは顔を赤くして俺の目を見る。
「そんなことっ! 私の剣の腕には一切の関係がない!! つまり! ここで! 今っ! クノスと勝負して私は全てを手に入れる。そういうことよ!!」
キュイーン!
体力ゲージ全回復。
こりゃ駄目だ。
論理が破綻してる。
会話でなんとかなるタイプじゃない。
俺は一応努力したぞ。
もう知らん。
「さあ、クノス! これを受け取りなさい」
彼女は腰につけた剣の一本をシャキーンと引き抜くとクノスに投げ渡した。
「これは……私が修練場で使っていた……」
剣を受け取ったクノスはそれをまじまじと見つめる。
「あなたとの勝負のために私が修練場からここまでずっと、使い、磨きながら持ってきたものよ。おかげで私の剣と合わせて二刀流なんて呼ばれたけど、全てはこの時のために……」
え? ってことは何?
この人はクノスが修行で使ってた剣をずっとここまで持ってやってきたってこと?
しかも自分の剣と一緒に使いながら?
「どうして剣を渡す? お前は二刀流でやってきたんじゃないのか?」
クノスはその剣の柄を握る。
「馬鹿ね。剣ってのは片手で持つより両手で持った方が力が入るのよ。それに、その剣を持ったあなたに勝たないと意味がないのよ。ばか」
レナは若干頬を赤らめた。
あっれぇ?
この人もしかしてと思ったけど、これは。
「わからないな。私はお前に何をした?」
「それを今から、証明しようとしてるんじゃない」
ぐへぇっと一緒、レナの口元が歪むのを俺は見逃さなかった。
(ああ、この人あれだ。クノスの熱狂的なファンかなにかだ。目が推しに喰いつく野獣のそれだもん)
クノスはレナから受け取った剣を使い、片手で目にもとまらぬ素振りをシュバババっとした。
その素振りは空気を切り裂く音でしか認識できなかった。
「そこまで言うなら……受けて立つ」
クノスはその剣を居合の形で構える。
「そうでなきゃ、はぁ、こっ、困るわ! さぁ、見せて、あなたの剣技を……」
リナは両腕で斧を振るうような姿勢で剣を構えた。
そんな彼女の眼は血走っていた。
(しかもよく見たら髪型がクノスとお揃いじゃん)
髪色はクノスとは対照的な赤髪だが、髪型はショートのクラウンハーフアップだ。
「さぁ、聞かせて。剣銘の言葉を……」
剣銘の言葉ってなんだ?
剣士の名乗り、みたいな?
なんかかっこよくてすっごい気になるけど、もうとても俺が間に入れる空気じゃない。
だって、ほんとに二人の間で空気がバチバチ鳴ってるんだもん。
「白滅流クノス。白龍の力を盟友のために使うことを誓う……」
「同じく白滅流レナ。白龍の力を盟友に……いいえ、私の欲望のために使うことを誓うわ……」
二人が名乗り終えると、永遠にも感じるような沈黙が場を包んだ。
逃げ出したかったが、俺の身体はピクリとも動くことができなかった。
「——————ッ!!」
「はあああああああ!!」
剣と剣、
剣士と剣士が交錯し、
決着がついた。
この一瞬の間に常人には理解できない剣戟のやり取りがあったのかもしれないが、
俺は常人だからわからない。
「終わりだ」
「———くっ、流石ね。圧倒的才能……あなたはやっぱり、私が認めた女よクノス」
(ぜーんぜん。わかんないんだけど。どっちがどうしてどうやって勝ったんだ?これ?)
「もう懲りただろう。ほら、剣を返す」
そう言ったクノスはリナに剣を投げ渡した。
「まだ、温かい……」
「今何か言った?」
「いえ! なんでもないわ!! 悪いけど私が懲りるってことはないの。久しぶりにいい刺激になったわ。やっぱりモンスター相手じゃこの刺激は味わえない……クノス!!」
二本の剣を鞘に戻したリナは腕を組み再び仁王立ちのポーズを取る。
「せいぜい! 私がまた戻ってくるまでに、そこにいる腑抜けた男と……そのっ、あの……」
「イチャイチャ?」
俺は補足してあげた。
「おい!!」
「そう! イチャイチャでもなんでもしているがいいわ!! でもね! 男! もし、クノスを堕落させるようなことをしたら私はあなたを叩き斬るから……よく覚えておきなさい! この腑抜けモノ!!」
(うわっーおっそろしい眼つき。ちょっとちびちゃった)
「それじゃあ私はもう行くわ。クノス!」
「まだなにか?」
「あなたの剣は……あなたの剣は相変わらず生意気よ!!」
捨て台詞を吐くと、颯爽とリナは第一集会所の中へと入って行ってしまった。
(あの中トランスのせいで地獄みたいになってるけど、あの人大丈夫かな)
「はぁぁ」
かっこいい捨て台詞を残したレナがあの中でどうなったのか想像を膨らましていると、クノスは大きな溜息をついた。
そんなクノスに俺は言う。
「いい友達を持ってるんだな、クノス」
まあ、俺だったらあの人は友達に選ばないけどな。
っていうかこれどんなエンカウントイベントだよ。
「あれがか? はぁ、そうなのかもな。あいつはいつもことあるごとに修練場で私の後をついてきて、ついてくるだけで直接的に剣を交えたことは無かったんだが、まさかあんなに強かったとは思いもしなかった」
俺はその言葉から勝手に脳内でレナの行動を補完する。
(ってことは多分、その修練場とやらでクノスの剣の才能に憧れるか惚れるかして、ずっと推し活動をしてたけど、なんやらあってクノスが修練場をでてからはその思いが爆発。実力行使にでるようになった。みたいな感じなのかな?)
「まあ、ちょうどよく時間も潰せたし転移神殿に向かってみるか」
「ああ。フォルナとまのっぺが先に待ってるかも知れないしな」
「あははー、それはない」
そんな冗談を交わしながら俺たちは首都までの転移神殿に向かうのであった。




