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【二章完】トライあんどエラーを拳で!?  作者:
第二章 弱小聖女編
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第17話 手より先に口を出すのはやめろ

 早起きして出発の準備を整えた俺たちは、屋敷の庭でセエレと向かい合っていた。


「なるほど。お金より信頼ね。それで、そのクエストでその信頼とやらは築けそう?」


 クノスから受注した護衛クエストの説明を受けたセエレが俺に質問した。


「もうバッチリですよ。任せてください!」


 昨日あんなことがあったが、俺はそう答えた。


 嘘じゃない。


 まだこれからいくらでも挽回のチャンスはあるはず。


 そういう気持ちで挑むのが大事なんだ。


 だからクノスとフォルナ、俺のことをそんな単色の目でじっと見るな。


「そう。まあ、よかったよ。変なクエスト受けてなくて。これなら目立つ心配もないし大丈夫そうだね。場所も私の今捜索してる範囲の反対側だしすれ違うこともなさそう。はいこれ」


 そう言ったセエレは腰につけるポーチのようなものを俺に渡した。


「その中にゴーレムを入れてあげて」


 それは昨日俺が要求したマークを入れるためのバッグだった。


「ありがとうございます」


「セエレ様から住処をいただけるとはこのマークなんという幸せ!!」


 喜んだマークがトコトコとセエレに近づく。


 すると、


「ちょっと、それ以上近づかないで」


「なぜでしょうか!?」


「とにかく、それ以上近づかないで」


 しゅんと落ち込んだマークは俺がつけた腰のポーチにのそのそと入り込んでいった。


 そりゃそうだろ。


 だってお前、昨日一日俺のパンツの中にいたんだから。


「それじゃ、クエスト頑張ってね。私もなるべく早く転移魔法陣探すから」


 セエレによって光の柱に包まれた俺たちは首都サナリアへと転移するのだった。



 ———



 教会前までやってきた俺たちは、ミナが出てくるのを待っていた。


 そろそろ登校時間だ。


「時間はちゃんとあってるよな?」


 四人で教会の周りの柵に寄りかかりつつミナを待つ。


「時間はあってる。あと五分ほどか」


 腕にはめた時計を見るクノスがそう言った。


「え? それって時計?」


 まさかこの世界時計まであるのか?


「ああ、セエレから支給されたものだ」


「フォルナさーん?」


 俺はフォルナに説明を求めた。


「この世界では時計は一般的に普及しているわ。まあ、冒険者稼業やってる人たちは腕時計なんてもってないけどね。だってすぐに壊れてしまうもの。そんなことよりもこれ三人にあげるわ!」


 そう言って解説のフォルナが俺たち三人に手渡したのはサングラスだった。


「え? なにこれ?」


 それを受け取った俺はフォルナに聞いた。


「昨日我無たちをここで待ってるとき私暇だったのよ。だからちょっと街に散歩にでかけたんだけれど。そこでサングラスを売ってたのよ。私はそれを見てピンと来たわ。護衛任務にはサングラスが必需品だってね。だから、それを売ってるおじさんになんとかただで貰えないかと交渉したんだけど……無理だったわ」


「そりゃそうだろ」


「でもね。ほら、そこで私の天才的デビルブレインがまた閃いたのよ。セエレがたまにサングラスしてるじゃない? だから、彼女に頼んで四人分分けてもらえばいいじゃないってことにね。それで———」


「それで頼んだらくれたのか?」


「そうよ! 『このかっこよさがわかるとはフォルナも成長したね』って言って喜んで四人分くれたわ!」


 四人分くれたのかセエレは。


 まあ、確かに俺の世界じゃSPがよくサングラスを掛けていたりするけど。


 でもあれは俺の世界の話であってこの世界でも必需品とは限らないのでは。


「クノスはどう思う?」


 俺はさっそくそれをかけていたクノスに感想を聞いた。


「サングラスは初めて掛けたが、確かにこれは相手に目線を悟られないという点でいいかもしれないな。凄腕の剣士の中には目線だけで相手の動きを読むものもいる。私はいいと思うぞ」


 クノスは賛成のようだ。


 キョロキョロと辺りを見回している。


 少しぎこちないが似合っていないというほどでもない。


「ボス!! 見てくださいこれ!」


 目線を下に下ろすとまのっぺもサングラスをかけ、腰に手を当てそれを自慢してきた。


「意外と似合ってるじゃん」


 元からアウトローなイメージのあるまのっぺ、クノスよりも似合っている。


「私はどうかしら? ほら我無、感想を聞かせてみなさい?」


 そこにいたのはどこかのマフィアで姉さんと呼ばれていそうな雰囲気のあるフォルナだった。


 こいつもよく似合っている。


「しょうがないな。それなら俺もつけますか」


 サングラスを装備した俺たちは、門の前で手を後ろで組みながらミナを待った。



 ———



 護衛任務中。



「な、一体なんなんですか? これは……」


「こちら我無、前方に異常無し。オーバー」


「こ、こちら、くっ、クノス。こちらも異常無し、お、おーばー?」


「こちらまのっぺ。こちらも異常なしです。おば」


「こちらフォルナ。後方も、もちろん異常なしよ。オーバー」


 俺たち四人はサングラスをかけ、護衛対象ミナの四方を囲んで進んでいた。


 これで360度どこから攻撃が来たとしても俺たちが肉壁になることで防ぐことができる。


「ちょ、ちょっと、待ってください」


 制服姿のミナが俺たちの中心で言った。


 大統領の命令だ。


 俺は即座にそれを聞き入れる。


「護衛対象がトイレに行きたいようだ。全員止まれ」


 俺は全員に拳をグーにして止まれの合図を出す。


 全員は息ぴったりその場に止まった。


「違いますよこの変態!! なんなんですかこれはって聞いてるんですよ!! 街の人達がジロジロこっち見てるじゃないですか!!」


「俺たちはただ、依頼を遂行しているだけですミナお嬢様。さあ、はやく学園に行きませんと、遅刻してしまいます」


「こんなにガチガチに警備しなくてもいいんですよ! っていうかそのお嬢様っていうのはやめろ!!」


 ミナは後ろから俺の背中に強烈なパンチを食らわした。


 ぐっ。


 痛いけど死ぬほど痛いというわけではない。


 年相応なパンチ力だ。


「そのようなことを申されましても」


「敬語やめて!!」


 いてっ。


 今度は蹴りだ。


「そんなこと言ってもな、これが俺たちの仕事だから」


「はぁ。だからあんな依頼料で依頼するくらいだったら依頼しないほうがいいって言ったのに、あのジジイぃ」


 ため息とともに後ろからそんな愚痴が聞こえてきた。


 しかしそんなこと言われてもな。


 俺たちは俺たちの仕事をするまでだ。


「ゴウッ」


 手で合図を出すと、俺たちは学園に向かって歩みを始めた。



 ———



 学園に到着するとミナを見送る。


 校門の前にいるので、周りにいる学生の声がよく聞こえてきた。


『なにあの人達やばくなーい?』


『なにあのサングラス、不審者かな?通報するべき?』


『でも、あの剣士の人なんかかっこよくない?』


『ちょっと待って、あのお姉さんめっちゃ美人じゃん。しかも、あのちっちゃい子もまじかわいーんですけど?』



「あなたたち、まさかずっとここで待ってるわけじゃないですよね?」


 学生鞄を身体の前で持ったミナが言ってきた。


「当たり前だろ。時間になったら戻ってくる」


「そうですか。変な気を起こすのはやめてくださいよ。この変態が」


 俺を街の下水道から出てきたドブネズミを見るような目で睨みつけると、ミナはそう言って学園の敷地内へと向かっていってしまった。


 確かに俺は変態かも知れないが、未成年に手を出すなんてことはしないぞ。


 っていうか俺自身未成年だし。


「これからどうするのよ? 学校とやらが終わるまで私達暇よね?」


 自販具で適当な飲み物を買った俺たちはそれを飲みながら街を歩く。


「俺的にはこの首都の観光か、サークルの観光がしたいんだが、みんなはどうする?」


「私はサークルに行ってもいいぞ」


 サングラスを掛けたままのクノスがそういった。


 似合ってないわけじゃないが違和感がすごい。


「私もボスに着いていきます! 何か面白いことが起こりそうな予感がするので!」


 なにも起こらないぞー、観光するだけだからなー。


「私はどうしようかしら。あっ! そうだわ。昨日聞いたんだけれど、この首都に聖都の天使がやってくるらしいから、その子に一発喧嘩を売るわ! 今ならなんだか勝てそうな気が———」


 フォルナはサングラスをクイっとするとそんなことを言うので。


「お前も俺たちと一緒に来い」


 こうして俺たち四人は揃って、ギルド都市サークルの観光に出かけるのだった。


 首都サナリアに来た時と同じ神殿にある巨大なクリスタルを使って、俺たちはギルド都市サークルまで転移した。


 流石に荒くれ者の冒険者がたくさんいるこの都市で目をつけられると厄介なことになりそうなので、俺たちはサングラスを外した。


「それじゃ、クノス観光大使。俺たちにサークルの案内をしてもらっても?」


「もちろん。そうだな。集会所は昨日行ったから、あとは流通区と工房区があるがどちらに行きたい?」


 神殿から出たクノスが前を歩きながらそう言った。


「俺はどちらでも」


 本当にどっちでもいい。


 どうせ、明日もすることなくてここに来ることになるんだろうし。


「私は工房区ってとこに行ってみたいわね。かっこいい武器とかありそうじゃない?」


 サングラス外せって言ったのに、未だに気に入ってるのか外さないフォルナがそう言った。


「私は流通区に行ってみたいです! おいしい食べ物があるかも知れないですから!」


 まのっぺはお腹を擦りながら言った。


「クノス、近い方から頼む」


「それなら流通区だな」


『やったです』『なんでなのよぉ』と、まのっぺとフォルナが反応を見せる。


 街を歩いている間にクノスからこの『ギルド都市サークル』の説明を受けた。


 この都市は3つの区からなる円形都市らしい。


 1つ目が昨日俺たちが行った集会所がある集会区。

 2つ目が今から向かう主に物資の売買を行う流通区。

 3つ目が装備を作る職人たちがいる工房区だ。


 冒険者にとっての必需品が揃う冒険者を中心とした都市づくり、


 その結果生まれたのがこの『ギルド都市サークル』らしい。


 今の状態になるまで何百年もかかったらしいが、物資や人、情報の行き来がこの都市の中で完結するこのサークルは、冒険者だけでなく商人や職人の夢でもあったらしい。


 今ではこの都市に住むことができる人口も限界を迎え、何百人もの入居者待ちが起こっている。


 特に職人の入居者希望が多いらしい。


 冒険者が今からこの都市に住むにはとんでもない金額の家賃を払わなければいけないんだとか。


「今から向かう流通区は人外モンスターも多い。あまり驚くなよ」


「人外モンスター?」


 受付カウンターにいたトランスや白ゴブリンみたいなやつらのことか?


「流通区は来る者拒まずなんだ。貴重な物資を供給してくれるならそれが例えモンスターであっても構わない。だからここにはある程度の知性をもったモンスターがやってくることもあるんだ。彼らが暴れてもすぐに冒険者に殺されてしまうしな」


 やっぱりこの世界はモンスターに対してそこまで排他的ってわけでもないんだ。


 そんなことを話しながら流通区までやってきた。


 区画全体を覆っているのは超巨大な骨でできたアーケード。


 その屋根が区画全体に日が当たらないようにしている。


 そのためか、この区画は全体的に暗い印象を受けた。


 おそらく直射日光に弱い物資を守るための対策なのだろう。


「で、あのばかでかい骨はなんの骨なんだ?」


 俺は上を見上げてそう言った。


 その区画を覆う骨は本当に大きかった。


 俺は距離なんて測れないから具体的な数値は分からないが、多分小さな離島くらいだったらすっぽり収まるのでは?というくらいの大きさだ。


「あれは黒龍が倒したギガノトウルギガスって超巨大モンスターの骨です」


 まのっぺが小さな身体でその巨体を表すジェスチャーをした。


「なんですかその超強そうなモンスターの名前は」


 なんだよギガノトウルギガスって。


「黒龍がこの都市を作る初期段階で討伐して持ってきてくれたらしいわ。ま、それも記録が残ってるわけじゃないから本当かどうかはわからないけれどね。ただ、この区画を覆う骨だけは本物ね」


 その黒龍ってのは人間に友好的なんだか非友好的なんだかよくわからんな。


 怒らせなければ優しいやつなのか?


「でも、こんなバカでかいモンスターが普通にこの世界では跋扈してるってことか? それじゃ、気が気じゃないだろ。こんなのがいたら国一つ一瞬で滅びそうなもんだけど」


「ああ、でも実際こいつの姿を目撃した人間は今じゃ誰もいない」


「え? なんでだ?」


 もう絶滅しちゃったとか?


「こいつは龍封の地に住んでいると言われている。だからだ。あちらからこちらまで来ることはない」


 ………………。


 あれ?


 確か俺たちその龍封の地とやらに行くんですよね。


 実験資金を手に入れるために。


 すっごい嫌になってきたんですけど。


 やだ、聞かなきゃよかった。


 やっぱり世の中知らないほうが幸せなこともあるわ。



 ———



 説明を受けながら流通区をしばらく進んでいると、クノスが言っていたことがわかってきた。


 確かにここには人外モンスターが当然のように歩いている。


 巨大な熊みたいなやつとか、蛇みたいなやつとか、腕が六本あるやつとか。


 その全員がおじいちゃんみたいな籠を背負って歩いているので、最初こそ驚きはしたものの、今ではなんだかその絵面が面白い。


「見て分かる通り流通区ではこんな感じでそこかしこで取引が行われている」


 クノスが言うようにどこにいっても風呂敷を開いた人やモンスター達が取引をしている姿が目に入る。


「あっ、ボス見てください!」


 と、歩いていると急にまのっぺが走り出した。


「おーい。物は壊すなよ」


 俺たちはその後をゆっくりと歩いてついていく。


「おー? じょうちゃん、目がいいねえ。儂の商品に食らいつくとは……ってちょっと!本当に食ってるんじゃないよ!!!」


「おい! お前なにさっそく食ってんだ!!」


 まのっぺががしがしとかじっていた石のようなものを、おでこにデコピンして口から取り上げる。


「いぇた。え? これ食べ物じゃないんですか?」


「なにおまえ平然とぼけてんだよ! これどう見ても食べ物じゃねえだろ! っていうかかじるならせめて先に金を出せ!」


 俺はその石を元の場所に戻した。


「いやー、わしゃ長くここで店やっとるけど、商品に食らいつく子は初めて見たよ。あんたたちちゃんとその子に食わせてるんだろうね?」


 巨大なツボの上に座り、俺たちを見下ろす小さなばあさんがそう言ってきた。


 どうやらこの人も純粋な人間というわけではないらしい。


「ちゃんと食わせてますよ。むしろ食われてます。こっちが食べさせてほしいくらいです」


 俺はまのっぺを真顔で睨みそう答えた。


「そ、そうかい」


 ばあさんは巨大なツボの上に座りながらそのツボの中身をかき混ぜている。


 その中から漂ってくる匂いはどう考えてもおいしい食べ物の匂いじゃない。


 まのっぺの鼻は一体どうなってんだ。


「そいつは錬金石さ。いろんなモンスターの素材や植物なんかをこの壺のなかで混ぜるとできる石さ。装備なんかにくっつけて工房のやつらに加工してもらえばその装備に特殊な効果を付与できたりすんのさ」


「どうりで……」


「どうりでじゃねえだろ」


 美味しそうによだれを垂らしながら石を見つめるまのっぺを商品から引き剥がし俺は言った。


 錬金石か……。


 バフを加えることができるアイテムみたいなものか?


 でも俺武器使ってないしな、この盾に勝手に細工したらセエレに怒られるだろうし。


「で、その特殊な効果っていうのは例えば?」


 俺は並べられた様々な色を持つ怪しげな石を見ながら聞いた。


「そうだねえ。儂がお客から聞いた話じゃ、急に魔法の威力が上がったとか、剣の切れ味が落ちなくなったとか、死んだと思ったら錬金石が砕けて自分は生きていたとかそんな話は聞いたことがあるねえ」


「聞いたことがあるってどういうことですか?」


「いやぁ、この壺でいろんな素材混ぜてるとね。途中から何が混ざってるのかわからなくなってくるのさ。もう今月もこの壺の中に何が入ってるのか覚えちゃいないよ。だから、そこに並んでる錬金石の効果もわたしゃ知らないよ。あははは~」


 それでいいのかよ。


 このばあさんめっちゃ適当だな。


「そんなんで商売成り立つんですか?」


「さっきも言ったようにうちの錬金石を買った冒険者連中の中に少しでもとんでもない効果を出したやつがいりゃ、それがたちまち噂になって、それ以上の効果の錬金石を当てようとやっけになった冒険者でうちは儲かるって話よ!! はははっ~」


 射幸心をそそって商売してるってわけねこの錬金ばあさんは。


 確かに冒険者連中はそういうの好きそうだしな。


「そうなんですか~。いやー、面白いお話聞かせていただきました。それでは僕らはこの辺りで~」


 俺はそそくさとこの場を退散する準備に入る。


 長々と説明させてすまないが俺たちは錬金石を買いに来たわけじゃない。


「ちょっと待ちな!!」


「うっ」


 ばあさんが壺から取り出した棒から、よくわからない液体べシャッとを俺の前に飛ばした。


「老い先短いばあさんの貴重な時間奪っといて、話だけ聞いて帰るなんて、まさかそんな非道なことしないだろうね?」


 はぁ。


 仕方ねえ。


 一個くらい買っていくか。


「この中で錬金石買いたいやついるか? 一個だけだぞ」


 俺たちはばあさんを背に円陣を組み話し合う。


「私はいらないぞ。この剣はこれで完成なんだ。変なものはつけたくない」


 とクノス。


「私もいらないわね。武器持ってないし。よくわからない石には興味ないわ」


 とフォルナ。


「じゃあ、まのっぺいるか?」


「どうしてもとボスが言うのであれば、買います!!」


 決まりだ。


 まのっぺが買うことになった。


「ばばあ。この本にその石ころ?をつけることはできますか?」


 いきなりババアかよ。


 もうこいつどうなってんの。


 誰かコイツに首輪つけて。


「そいつは……継脈書かい?うーん。継脈書に錬金石をつけるなんて話は聞いたことないねえ。でも、あんた。一家代々伝わるその本に儂がいっちゃなんだが、錬金石なんてつけていいのかい?」


 錬金ばあさんは訝しげな表情でまのっぺに聞いた。


 継脈書ってのは一家秘伝のレシピみたいなものなのか?


「問題ないです。これ人から奪ったものなので」


「そ、そうかい」


 あ。


 聞きたくない。


 も―聞きたくない。


 その継脈書とやらがなんなのか気になるところではあるが、それ以上にこいつが今まで積み上げてきた悪行を俺はもう知りたくない。


 世の中には知らないほうがいいこともある。


 今はぐっと好奇心を抑えるのだ。


「んーでも面白い試みだねえ。あんたがいいって言うなら。儂が特別に腕利きの工房屋に話をつけといてやるよ。その中から錬金石を選びな。特別に半額サービスだ!」


「やった!!」


 なんかよくわからないが頭を抱えているうちに半額になってる。


「それじゃ、この石ころでお願いします!」


「ほう、選んだ理由を聞いてもいいかい?」


「いい匂いがしたので!」


 そうしてまのっぺは最初にかじっていた錬金石を選んでいた。


「あのぉ、ちなみにお値段の方は?」


 俺は恐る恐る聞いた。


 こういう値札がついてなくてオーダーメイド的な商品は大抵高いと相場が決まってる。


 耐えられるのか俺の財布のひもは。


「そうさねぇ」


 そう言った錬金ばあさんは、壺の中身をかき混ぜるのをやめた。


(おいちょっと待て。このばあさん今俺達の身なり見てここで値段決めてないか?)


 俺たちを舐め回すように見るばあさんを見てそう思った。


「すーっ、よし! 4万飛んで3万ドラだ!!」


 このババア!


 ニアミスじゃねえか!


 なんだ? 相手の所持金がわかる錬金石でも持ってるわけじゃねえだろうな!


 昨日と同じように俺たちにはセエレからそれぞれ1万ドラずつ支給されている。


 ってことは、


「まのっぺと、俺と……クノスかフォルナ? どっちか足りない分出してくれるか?」


 俺は腕を組んで周りを見回していたクノスとフォルナに聞いた。


「えー? 私は嫌よ。この後ご飯食べるし、1ドラも出したくないわ」


「私は別にいいが。しかし、全額というのは、昨日もまともに食べていないのに……」


 クノスはしぶしぶお金が入った袋を開ける。


 クノスさん。


 あんたは昨日食堂で残りもん食べてますけど、俺はフォルナの飲みかけ牛乳半分だけなんすよ?


「クノスでお願いします。しょうわる悪魔に借りを貸すのは嫌なので」


 とまのっぺが俺に向かって小声で呟いた。


『!!』


 するとフォルナの頭にあからさまにビックリマークが二つ出現した。


「しかと今、このデビルイヤーでキャッチしたわ!」


「げぇっ」


 フォルナは下卑た笑みでクノスの袋を開ける手を制止した。


「クノス、ここは私が全額出すわ!」


「ほ、本当か!」


「ちょっと待ってください! そんなぁ、ボス! ボスなんとかしてください!」


「もうお前らなんでもいいからさっさとだせ! 錬金ババアがもう、こくこく寝始めてるだろうが!!」


 そうしてまのっぺ、俺、フォルナの三人で合わせて3万ドラを支払った。


「まいどぉ~。はははっ~」


 遠くで笑う錬金ババアを背に俺たちは流通区を後にする。


「なあ、クノス。悪いんだけど……」


「この後のご飯代だろ? 三人の分も私が出すさ」


「クノスさ~ん。ありがとうございます」


 ああー、ほんとクノスがいてよかった。


 じゃなきゃ俺は早々に破滅だ。


 このぽんこつ悪魔ととんでもバーサーカーによって。


「それでぇ、まのっぺー? 私が代金払ってあげたんだからぁ? なんでも言う事一つ聞くのよぉ?」


「むっ! いやですよ! なんでもはずるいです。聞くとしても少しだけです!」


「それならその角触らせなさ~い!!」


「ぎゃあああああああああ」


 後ろで騒がしい二人。


 俺はそんな二人をここではぐれたことにして置いていこうかと迷いながら、集会所に向かった。



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