第15話 クエスト受注!
俺とクノスはゴブリンウェイトレスからもらった水をちびちび飲んでいた。
ちなみに、この世界のゴブリンには黒ゴブリンと白ゴブリンがいるらしく、白の方は比較的人間に友好らしい。
さっきの受付のトランスもそうだが、この世界ではもしかしたら人間とモンスターとの垣根はそんなに高くないのかも。
「さあ見なさい。まずは私のよ」
フォルナが持ってきたクエスト表を自信満々に俺の前にかざした。
「クノス、悪いけど呼んでくれ」
「ああ。わかった」
クエスト『首都サナリア近郊の森に生息するブラッディベリーの採取』
クエスト報酬10万ドラ。
契約金500ドラ。
・血のようにドス黒いこのベリーを潰し、発酵させ瓶詰めしたワインはまさに極上の一品。クエスト報酬に追加でブラッディワインを一瓶プレゼント!
注意:ブラッディベリー生息地域には大型モンスターが発生しやすいため相応の戦闘力があるパーティを募集。
「お前、ほんっと欲望に忠実だな。このワイン飲みたいだけだろ」
「そうだけど? なにか問題あるかしら? 高位悪魔なんだから当然でしょう?」
悪びれもせずに腕を組むフォルナに俺はクエスト表を突き返した。
「却下だ。そもそもブラッディベリーがどんなものなのか知ってるのか?」
「知らないけど。そんなの聞けばいいじゃない? それにほら、契約金だってぴったりよ」
そのぴったりの契約金払ったら、俺とクノスは飯抜きになるんだが。
てめえをすり潰してワインにしてやろうか?
「はぁ。それと注意書きのところに大型モンスターが出るって書いてあるだろ。ってことは戦闘になる可能性があるってことだ。なんのためにこの第二集会所でクエスト探してると思ってるんだよ」
「なによ。けちね」
「おっ、お前コノヤロウ!! 樽詰めにしてやる!! その空っぽの脳みそ樽詰めにして蒸留させてやるっ!!」
「ま、待て、我無。こう見えてフォルナだって一生懸命探してきたんだ。許してやれ」
殴りかかろうとするとクノスに止められた。
ああいいぜ。許してやるよ。
だがな、俺は根に持つタイプだからな。
屋敷に戻ったら覚えてろよこのポンコツ悪魔。
俺は屋敷に帰ってからどんな仕返しをしようか考えながら、次にまのっぺの依頼を確認した。
クエスト『ゴールデンビートルの捕獲』
クエスト報酬1000万ドラ。
契約金1万ドラ。
・ゴールデンビートルとはとても希少な……。
「おい。ちょっと待て。色々ツッコみたいが、そもそも契約金が足りてねえ」
クノスの読み上げにストップを入れると、俺はツッコんだ。
「先程までは足りていたのですが。誤算でした。これもそこにいるしょうわる悪魔のせいです。所持金には余裕があるように計算したっていうからさっきたくさん注文したのに、まさかボスたちのお金も含めての計算だったとは。誤算でした」
「誤算でした。じゃねえよ! 五十歩百歩だからな? お前もちゃんと食ってるんだからな?食ってないの俺とクノスだけだからな?」
てめえのその角にぎりつぶすぞ?
「仕方がありません。別のクエストを持ってきます」
「もー持ってこなくていい! お前はそこにステイしてろ」
大きなため息をつくと本命のクノスの依頼の確認に入る。
どちらにせよ二人には期待していなかった。
マイナスがマイナスのままなだけだ。
ふぅー。
よし!
切り替えていこう。
クノス、頼んだぞ。
クエスト『きのこ狩り』
クエスト報酬日給10万ドラ
契約金100ドラ
・冒険者じゃなくてもできる簡単なお仕事。専業主婦のみなさんと一緒にきのこ狩りをしませんか?特別なスキルは不要。五体満足な身体があれば十分です。首都サナリアの夜をみんなで盛り上げましょう!
注意:女性冒険者大歓迎。
「お、お前、またツッコミづらいクエスト持ってきたな……」
「ん? どうしてだ? 日給十万だぞ。危なくもないし、スキルも必要ないと書いてある。しかも場所は首都サナリアの中だ。遠出する必要もないじゃないか。すべての条件が合致している。我ながら完璧だ」
彼女は腕を組んでえっへんと満足げな顔を浮かべている。
なるほど。
このむっつり魔剣士、まだそちらには開拓できていないようだ。
それとも確信犯か?
「いいか。夜の街、きのこ、女性冒険者歓迎、身体、特別なスキルなし。この辺繋げてみろ。いつもお前が読んでる本からなら推測できるだろ」
「いつも私が読んでいる……? 夜、きのこ、きのこ、夜……身体……はわっ!?」
一気に耳を赤く染めたクノス。
彼女の頭の中でなにかが繋がったようだ。
こうしてむっつり魔剣士はまた一つ成長なされた。
「いいか。これからは気をつけろよ。なんのスキルもなしにこんな大金一日で稼げるほうがおかしいんだからな」
「うぅっ、うん」
頬を赤らめたままクノスは頷いた。
「っていうかこれ通報したほうがいいだろ」
結局三人のクエストはすべて却下。
ちなみに、俺たちによって通報されたきのこ狩りクエストは、通報されるのがこれで五回目だったらしい。
どこぞの冒険者が勝手に掲示板に貼ったりしてるんだろうな。
それにしてもその他の第三集会所ではなく『採取系』の第二集会所に貼ってるのがちょっと知性を感じて悔しかった。
———
俺たちは第二集会所を後に、第三集会所にお目当てのクエストを探しに行った。
第三集会所も第二とほぼ同じ作りだった。
ただこちらの方がクエストが多いような気がする。
冒険者の装備もフルプレートから身軽なものまで様々だ。
「もうこうなったら俺が探す」
「そうは言っても我無、あなた文字読めないじゃないの。どうやってクエスト探すのよ」
「文字読めなくてもお前らよりまともなクエスト持ってこれるわ!! お前らいちいち極端なんだよ!! いいか、無難なやつもってくればいいだけなんだよ!!」
そう言って俺はクエスト報酬と契約金の数字だけを見てクエストを探し始めた。
首都サナリアの文字は先程覚えたので、その場所のクエストが貼ってある掲示板の前に立つ。
(見た所クエスト報酬の中央値は多分10万ドラ付近、契約金に関してはかなりばらつきがあるが、おそらく契約金はクエストの重要度を物語っているんだろうな。でも、これはかなり依頼主の主観が入る。うーん、ってことは、やっぱり難しいことなんか考えず、一番報酬が低くて、一番契約金も低いやつを選べばいいじゃないか?……ん?これは……)
そうして俺は一枚のクエスト表を剥がし、みんなのところへと持っていった。
「どうよ!」
クノスの前にドンッとクエスト表を置いた。
「んーなになに」
クエスト『孫娘の学校までの送り迎えの護衛』
クエスト報酬450ドラ+護衛後の夕飯
契約金500ドラ
大事な大事な寵愛する孫娘の学校までの護衛を頼みます。首都サナリア内にある教会から、学園までの送り迎えです。報酬は高くありませんが、夕飯は提供できます。よろしくお願いします。
注意:女性比率が多いパーティー望む。孫娘を狙おうなどと思う不届き者には天使からの天罰が下るでしょう。
「な? ぴったりだろ?」
「面白みがないわ」
「報酬がしょぼいです。でも夕飯はありです」
俺は文句言ってる二人を無視して、机に肩ひじをつき、第二集会所から大事に持ってきた水の残りをすすった。
「確かに、条件と合致するな。問題ないが……しかしこれ契約金のほうが報酬よりも多いじゃないか」
「そこだよ。契約金が報酬よりも多いってことは、それだけ依頼主からしたら大事なクエストってことだろ? こんな達成するまでマイナスのクエスト、他の冒険者は受けない。俺たちの目的はお金を稼ぐことじゃないし、だったら首都サナリアでの情報を少しでも手に入れるために、報酬じゃなくて人に恩を売っておいたほうがいいと思ってな」
「なるほど。金よりも信頼ということか」
「そゆこと」
我ながら天才的チョイスだろこれは。
学園までの送り迎えなんて楽勝だろうし、モンスターと戦うわけでもない。
それにもし、暗殺者とかに狙われる超重要人物だったらこんな端金で募集するはずがない。
せいぜい、爺さんの行き過ぎた孫愛ってとこだろう。
適当にやってセエレからの連絡を待てばいい。
当たりを引いたぜ。
「みんなこれでいいな?」
「別にいいけれど」
「ボスが言うなら従います。夕飯も楽しみです」
「私もこれでいいぞ。それならこのクエストを受注してくる。みんなは待っていてくれ」
カウンターにクエスト表を提出し、こちらに帰ってきたクノス。
「クエスト受注してきたから、次は移動だ。みんなついてこい!」
そう言ったクノスの後ろをついて歩いた。
今からクエスト依頼主の元まで移動するのだ。
集会所から出て、3つある集会所から伸びる三本の道が繋がる場所まで来た。
そこには、円形の神殿があり中には大きなクリスタルが中央で浮かんでいる。
「ここから首都サナリアまで転移できる」
クリスタルから溢れ出るぼんやりとした光に包まれた空間でクノスが言った。
手のひらサイズの金属性の板を持っている。
「一体どういう仕組なんだ?」
「クエストを受けると、当該地域への通行券がもらえるんだ。あちらからここに戻ってくるのには何もいらないが、こちらから出向くのには通行券がいる。通行券をかざせば、その場所への転移魔法陣がこの空間に用意され、それで移動できるというわけだ」
ってことは普通の冒険者はこのギルド都市サークルから移動するのにクエストを受けないといけないってわけか。
ただで旅行はできないわけね。
でも、俺たちにはセエレがいるからそんなに関係ないな。
「じゃあ、いくぞ」
「ちょっと待ってくれ。なんだかすんなりここまで転移魔法陣を受け入れてきたけど、転移失敗とかって、ないですよね?」
そうだ。
なんだか便利だしいいよねって気持ちでここまで受け入れてきたが、こんな便利な装置、リスクがないはずがない。
いくらなんでもオーバーテクノロジー過ぎる。
「いや、失敗はあるんじゃないか? でも私は聞いたことないな」
「フォルナ?」
俺はこういうことに関しては物知りなフォルナに教えを乞う。
「転移の失敗確率は百万分の一と言われているわ。大丈夫よ。歴史的にも転移失敗なんてそうそう起きてないから」
「そうですよボス。各地に設置されている転移魔法陣は龍族が管理しているので大丈夫です」
みんながそういうなら信じるしか無い。
「クノス、やってくれ」
「ああ。転移開始だ」
クリスタルが輝きを増すと、空間中に魔法陣が浮かび上がり、俺たちは光の柱に飲み込まれた。
———
「終わったぞ」
クノスの声に目を開けると、そこは先程と同じ用な神殿だった。
「着いたのか?」
「ああ、ここは首都サナリアだ」
神殿から外に出ると、整然とした街並みが見えた。
規則正しく立ち並ぶ真白い建物に、どこか懐かしいような人々の笑い声。
この神殿はそんな街の中央部分に設置されているようだ。
神殿の周りをぐるぐると見たこと無い生き物に引かれた荷車が走っている。
「場所はこっちだ」
言われるがままに俺たちはクノスの後をついて行った。
「我無、さっき荷車を引いていたのは小龍よ」
「え? 龍?」
突然俺の疑問を補足するようにフォルナが言った。
こいつは気が利くんだか利かないんだか、よくわからん。
でもなるほど。
この世界では馬は人間の足から解放されたということか。
で、なんで龍なんだ?
龍族となにか関係があるとか?
「理由を聞いても?」
「ええ。元々あのちっちゃな龍は荷車を引くのが大好きなの。人間が頼まなくても勝手に荷車を引いてどこかに行ってしまうくらいにね。そこで、ああやって人間の荷車を引く手伝いをしてるのよ」
へえー。じゃあ結構友好的な関係ってことなのか?
あれ?
でも転移魔法陣とかあるなら、わざわざ荷車で荷物運ぶ必要なくない?
「なあ、なんで転移魔法陣があるのにわざわざ荷車なんて使うんだ?」
「龍族がいるからです」
そう答えたのはまのっぺ。
「大昔に龍族が言ったんです。転移魔法陣を使って物資を移動させるのはいいけど、必要最低限にして小龍たちに荷車を引かせてやってくれって」
なにそれめっちゃ優しいじゃん龍族。
なんかほっこりするんだが。
でも、
「そんなこと言ったって、人間口約束守らないだろ。転移魔法陣使ったほうが圧倒的に時間もコストも削減できる」
そうだよな?
「ええ、その通り。だから、昔龍族の言いつけを破って転移魔法陣だけを物資や人の移動に使ってた国があったわ。でもその国で生きてた荷車を引く小龍が文句言ったのでしょうね。怒った龍族の大元がわざわざその国に出向いて国の王様に言ったらしいわ。『転移魔法陣の数を減らすか、国を滅ぼされるかどちらかを選べって』」
「で、その王様はなんて答えたんだ?」
「それはもちろん。『転移魔法陣を減らして、これからは小龍に積極的に荷車を引かせます』って言ったわ」
「それが教訓になってみんな小龍に荷車を引かせてるわけだ」
納得した俺は腕を組んで言った。
めでたしめでたし。
「違います」
「え?」
するとまのっぺが否定した。
「その後、怒った王様が国に住んでた小龍を殺したんです。といっても一匹ですが。小龍はいきなりぽんって現れたりぽんって消えたりするので一匹しか殺せなかったんです。それで、それを知った龍族の大元の黒龍が、その国を跡形もなく消し炭にしたんです。はい おしまいです!」
「えぇ……」
龍族こっわ。
ってかその王様馬鹿だろ。
いやでも、一国を背負って転移魔法陣を使えば国が豊かになったのに、それを減らせって言われたら怒りたくもなるものなのか?
「ああ。それで大賢者ナジはこんなことわざをつくった。『小龍一匹に怒る者、黒龍に滅ぼされる者』」
そう、クノスが答えた。
多分、小さなことでイライラしてたら最終的にもっと大変なことが起こるぞってことなんだろうな。
っていうか大賢者ナジって誰だよ。
「なるほどね。それで小龍は大切にされてるわけだ。説明どーも」
「そうよ。だから、商人なんかは転移魔法陣をやたらめったら使うことはできないのよ。我無もイライラしても小龍にだけは当たらないことね」
そのイライラの原因、たいていお前だけどな。
それにしてもいろんな規制の仕方があるんだな。
かなり暴力的だけど、人間これくらいしなきゃ言うこと聞かないか。
人間よりも圧倒的に強い上位存在として龍が存在している。
それがこの世界なわけだ。
「話しているうちに着いたぞ。ここだ」
着いた場所は人通りの少ない薄暗く日の当たらない場所にある教会だった。
神聖さはこれっぽっちも感じない。
でも神様はその龍族に殺されたって言うし、この世界での教会の扱いはこんなもんなのか?
「よし! 入るか!!」
まあ、そんなことクエストとは関係ない。
ここから、俺のこの世界での最初のクエストが始まるんだ!!
そうして意気込んだ俺は、三人を背に教会の扉を開いた。




