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【二章完】トライあんどエラーを拳で!?  作者:
第二章 弱小聖女編
16/49

第14話 この悪魔ぶっ殺す

 

 あれから数日たった。


『がむぅーがむっ!!いい加減にこのドアを開けなさいよ!!』


『そうだぞ!!もうあれから何日経ったと思ってるんだ!』


 ドンドンドンとドアを叩く音が聞こえる。


 そう。


 俺は今、絶賛引きこもり中だったのだ。


 あの日、ベッドに入ってサリナス様日記を読みながら思ってしまった。


 俺は一体、この世界で何をしているのだろうと。


 上空から落されて、ケルベロスのブレスに焼かれて、そいつに食べられて、さらに仲間の必殺技をこの身に喰らい、よくわからない筋肉半人半魔と肉弾戦をする始末。


 挙げ句の果てに『試験合格』とか言われ、長ったらしいこの世界の魔法についての説明受けて、実験があーだのこーだの。


『それって俺となにか関係あります?クソ野郎』って感じだ。


 これならまだ、魔王に苦しめられてる民のために魔王を討伐してきてくれって言われたほうがまた目標が明確でやる気が出るのに。


 衣食住は与えられていたとしても、俺はロリマッドサイエンティストに捕獲されてしまった哀れな実験モルモットなのだ。


 と、その結論に至った。


 だから引きこもった。


 元来引きこもり体質な俺はそもそも外に出たくない。


 外の世界、マジ怖い。


 ほんとに怖い。


 それに俺がこの世界で生きるモチベーションと言えば、堕天使サリナス様だけだし。


「強制的に動かされない限り、俺はこの部屋から一歩も出ないからな!!」


 扉の前にバリケードのように置いたベッドの上で俺は叫んだ。


 インドア舐めんなよクソ世界。


 俺はこの部屋の中で自給自足のサバイバル生活を送ってやる。


『何言ってるのよ!っていうか私のベッドその部屋にあるのよ!ここ数日、クノスと狭いベッドで二人で寝てるの!狭いベッドで!私が高位悪魔だってこと忘れてないでしょーね?』


 そもそもこの部屋にあるベッドだって狭いわ!


『そうだぞ我無!一日くらいなら引きこもってもいいが、数日は流石にきつい。早く出てこい!』


「い や だ ね」


 俺は語尾を強調して言い放った。


『このっ!フォルナさがってろ!こうなったらこの扉を斬る!』


 とうとう実力行使に出たか。


 だが。


「斬れるもんなら斬ってみろ。この屋敷はセエレの所有物だからな!斬った後にどうなっても俺は知らないぞ!!」


 俺はセエレを引き合いに出すことで絶対防御の結界を張った。


 我ながら情けない作戦だが、この結界だけはクノスであっても破ることはできまい。


『クッ、小癪ぅ。ずるいぞ!それはずるいぞ我無』


 と、クノスが扉の外で地団駄を踏む音が聞こえると。


 バゴンッ、バゴンッ、バゴンッ、バゴンッ、バゴーンッ!!


『『『ウガガガガガガガー!!』』』


 突如、


 ここ数日外から聞こえてくる謎の破裂音のような重低音が部屋に響いた。


 カーテンを完全に閉め切っているので外で何が起こっているのかはわからない。


 ならカーテンを開ければいいだろって?


 嫌だ。


 なんとなく想像がつくから、知りたくない。


『ねぇ、我無?あなた、私と最初にあったとき、あの地下牢で私に言ったわ。『現実から逃げても仕方がない。嫌な現実から目をそらして、逃避したって解決策は生まれない。まずは受け入れる。それが問題解決への第一歩なんだ』って。私、あの言葉を聞いてこう、なんていうか、そう、グッときたわ!ほら、今のあなたにこれを当てはめてみなさい』


 この悪魔、ポンコツの癖によく覚えてるじゃねえか。


 だがな!


「ああ、俺は確かにそう言った。そう言ったよ?だがそれはな!目の前に解決しなきゃいけない切羽詰まった問題がある時にだけ適応されるんだよ!!目の前に問題がないときは俺は好きに生きる!もし石油王に五億もらったら、一生働かないで永遠に家に引き込もる男、それが俺だからなあ!」


 俺は枕にしがみつきながら、大声で宣言した。


 強制労働反対!引きこもり不登校に自由を!!


『な!?』


『なんって奴だ!?ここまでくるといっそ清々しいとさえ思えてしまう私はおかしいのか?』


 扉の向こうでズズッと後ずさる音が聞こえる。


「だから!俺をここから動かしたきゃセエレにでも頼るんだな!あいつが今どこにいるかは知らないが、あのロリガキがッ———」


 あともうひと押しで撃退できる、と思ったその時。


「ロリガキが、なんだって二号?」


 真後ろから俺の声を遮るようにそんな声が聞こえてきた。


 冷徹で凍てつくような声音だ。


 嫌だ。


 振り向きたくない。


『どーしたのかしら。がむぅー?ロリガキがどうかしたの?』


『おい我無!ロリガキがどうしたんだ?』


 お前ら、追撃するのはやめろ!


 ここにセエレがいるんだよ!


「ねぇ、二号。聞かせてよ。私が調査に行ってる間に貴方は何をしていたの?」


 俺は薄暗い部屋の中、後ろを振り向かずにこう言った。


「屋敷、警備員を、し、してました」


 まずい。


 もう、どこに飛ばされてもおかしくない。


 誰かパラシュートちょうだい。


「はぁ。こっち向いて」


「いや、でも」


「いいから」


 俺は恐る恐る、後ろを向いた。


 そこには薄暗い部屋の中でぼんやりと光る透き通るような白群色の瞳が2つあった。


 長いまつげに純白の肌、人形のように精巧な顔立ちをした少女が立っていた。


「まー。悪かったな、とは少し思ってる」


 そんな彼女は俺の前にしゃがみこむ。


「だから……」


 そして彼女は俺の手をぎゅっと掴むと、


「ゆるしてくれる?」


 上目遣いで俺を見つめ、そう、嘆願した。


 予想していなかった突然の状況に、俺の心臓はバクバクと鼓動を早める。


(クソッ!駄目だ我無、冷静になれ、深呼吸、こういう時は深呼吸だ!!落ち着けー、すていくーる。目の前にいるのは美少女だったとしても、こんなに簡単に許すなんて駄目だ!!……うっ、チクショぉ。こんな安直なシチュエーションでぇ?クソッ!!クソッォォ!!俺が、俺が童貞じゃなければこんなことには……)


「ま、まあ。そこまで言うなら?許すというかぁ?まあ、男ですし、こうなった以上文句は言わないというかぁ、なんというかぁ?」


「じゃあ、次も頑張ってくれる?」


 ぎゅっ。


「あ、はい。がんばります」


(オイィィィいいいいいいい!!何言ってんだ俺は!!)


 俺はちゃんと童貞だったみたいです。


「それならよかった」


 真顔で立ち上がったセエレは、瞬間移動で窓際まで移動した。


 いつもの塩対応に戻る。


 変わり身が早すぎて胸の鼓動が追いつかない。


 カーテンを開けると、俺をちょいちょいと手招きした。


「まぶしっ、どうしたんですか?」


「まず、あれ。なんとかして」


 窓から屋敷の庭を見下ろした。


 そこにいたのはまのっぺと数体のMK0.殺人ゴーレムだった。


 その巨体は一列に並べられ、


貫通咆(ペネトレーションロア)!!」


 ズキューンっとまのっぺから放たれた渾身のビームがその殺人ゴーレムたちの身体を貫いた。


『『『ウガガガガガガ』』』


 電源を抜かれてしまったように膝をつき庭に倒れるゴーレムたち。


 さらに辺りを見渡せば、同じように一列に倒れたゴーレムたちがそこかしこにいて……。


(やっぱりあいつ、やってたな)


 俺は予期していた光景に、だからこそ見たくなかった光景にひきつった笑みを浮かべた。


「あ!ボス―!!見てくださーい!たくさん、たくさん練習しましたよー!!」


 満面の笑みでこちらにぶんぶんと手を振るまのっぺ。


「あは、はははは、あはははは」


 俺はそれに苦笑いしながら手を振り返すことしかできなかた。


「首都から帰ってみれば、1,2,3……これは修理代かなりかかるね。二号、あなたとフォルナの食費、これからはもうマイナスだよ。借金だね、これは」


「あ、そすか……」


 俺は力なく答えた。


 もうどうにでもなれだ。


 元々マイナスから始まったような異世界ライフだ。


 俺にはこういうのがお似合いですよ。


 ははは。


『ねえ。がむぅー?今、食費がどうたらって言ってなかったかしら?そこにセエレがいるの?それなら私たちの食費上げてもらうよう言ってくれないかしら?次の新作メニューに食べたいものがあるのよー!っていうかそもそも高位悪魔に支払うべき額じゃないわよあれー!少なすぎるわー!』


 喜々とした声音でそう語るフォルナ。


(ごめんな)


 心の中でそう呟いた。


『ねぇがむぅー??聞こえてるのかしらー?』



 ———



 部屋から出てまのっぺのおでこを親指でぐりぐりドリルした俺は、ゴーレムたちが無残に散る庭に来ていた。


 円盾を右腕に装備して準備万端。


 さあ、どこへでも飛ばしてください。


「今から四人を『ギルド都市サークル』まで転送するから。そこで冒険者登録をして『首都サナリア』のクエストを受けて。依頼内容はなるべく期間が長いやつで、誰も受けなさそうなのがいい」


 なにやら分厚い本を持ってそのページをぺらぺらとめくるセエレ。


「その本はなんなんだ?」


 腰に純白の流魔剣を装備したクノスが聞いた。


「これは、私が転移魔法陣を刻んだ場所とその魔法陣を記録した本。私個人なら、魔法陣なしで行ったことある場所ならテレポートできる。でも長距離に、しかも正確に人を転送するとなると送り先に魔法陣が必要。……あ、あった」


 特定のページを見つけたセエレは、そのページを見ながら俺たち四人に掌を向けた。


「ちょっと待ってください。そのクエストってのはなんでもいいんですか?」


 俺たちの最終目標は龍封の地にいる幻のモンスターの角だ。


 そこにいたるための古の転移魔法陣とやらがその首都サナリアにあるんだよな?


 で、その転移魔法陣はセエレが探してくれる。


 それなら俺たちはまだ行く必要なくないか?


「ちょっと転移魔法陣探しに手こずってる。確かにあの首都にあるはずなんだけど、如何せん広すぎて。だからとりあえず二号達には先に滞在してもらって、できれば、できればだけど情報を手に入れてもらえたらなって感じ。あとは、ギルドから怪しまれないためのカモフラージュかな。適当な依頼受けて首都にいる理由を作っておけば、後でなんか言われても口実にはなるかと思って」


「はぁ。じゃあとりあえずは、セエレが転移魔法陣を見つけるまで首都の適当なクエスト受けてればいってことですね」


「そう。あと、首都で私を見かけても絶対話しかけないで。接触禁止。なにかあったらマークに言って。あと、変な問題起こしたりして悪目立ちするのもだめ。普通に、普通に冒険者やってればいいから」


 俺はまのっぺとフォルナのほうを見た。


 フォルナはまのっぺのせいで食費を削られてしまったので、彼女の角をこれでもかというほどにこすっている。火花が出そうだ。


 まのっぺは俺からの命令でそれを仕方なく受け入れているが、今にも魔法をぶっ放ちそうなほどにイラついているのがその目からわかる。


 そして、それを見ながらもじもじして興奮しているクノス。


 俺はその光景を見て思った。


(こりゃ無理だろ。絶対なんか問題起こるじゃん)


「善処します」


 俺はセエレのほうへと向き直りそういった。


「それじゃ転送する。転移先はギルド都市サークルのクエスト集会所近くの裏路地。あと二号、自分が転生者だってことは話さないほうがいい」


 チートスキルでも持っていれば別だが、今の俺が名乗り出たところで悪目立ちするだけだ。


「わかりました。ちゃっちゃと送ってください」


「それじゃいってらっしゃい」


 光の柱に包まれた俺たちは、こうして『ギルド都市サークル』へと転送されたのだった。



 ———



『ギルド都市サークル』


 国中から冒険者たちが集まり、世界中のクエストの受注から、物資の売買、装備の調達、情報収集まで、すべてがこの都市で完結できる。


 そのため、この都市は冒険者の間でこう呼ばれているらしい。


『世界の終着点』と。


「なんかかっこいいな」


 転送先の裏路地でクノスからこの都市について説明を受けていた。


 俺の勝手なイメージでは都市とか街ごとに冒険者ギルドがあって、そこでクエスト受注をしているのかと思ったが、そうではないらしい。


 もうこの都市にぜーんぶまるっと詰め込まれているらしい。


 各地のギルドの支部とは転移版と言われる文字を送り合える板で情報伝達をし、依頼があればこの都市にある三つのクエスト集会所のどれかの掲示板に告知されるそうだ。


 その仕分け方法は、討伐、採取、その他らしい。


 各地のギルド支部とこの都市は転移魔法陣で繋がれており、冒険者はそれを使って行き来をしていると。


 なんかよっぽど俺がいた世界よりも便利じゃね?


「私たちの目的はとりあえず適当なクエストを受けて、この首都に滞在することだったな?」


 クノスは俺たちの前を歩きながら確認を取った。


「そう。だから、その三つの集会所?だったら、討伐以外の採取とかその他のクエストを受けられればいいんじゃないか?目立つのは控えろって言われてるし」


「そうだな。ならまずは第二集会所に行ってみるか。そこでは主に世界中の採取クエストを取り扱ってる。首都サナリアの手ごろなクエストも見つかるだろう」


 クノスの後をついて裏路地を抜けると、そこに広がっていたのはたくさんの出店と大通りを歩く無数の冒険者たちだった。


「おっ、おぉぉ!!」


 夢見ていた景色に俺は胸を高鳴らせる。


 冒険者たちは様々な装備を身に纏っていた。


 大剣、双剣、大盾、魔法の杖に、俺が見たこともない武器も確認できる。


 そして、どの冒険者の顔にも活力が溢れている。


 活気あふれる大通りだ。


「みんな、はぐれないようにしっかりついてこい!」


 俺たちは川の流れのような人ごみに、クノスを盾にするようにして侵入した。


「なんだかクノスの調子がいつもよりもいいわね。そう思わないかしら?」


 フォルナは俺の後ろをぴったり歩く。


 胸には角を持ち上げられたまのっぺが抱えられていた。


「先輩風吹かせたいんだろ。素直に聞いてやろうじゃないか」


 そう言うと、俺は今のうちにカッコイイ男心をくすぐるような装備をしている冒険者がいないかあたりを見回す。


 フルプレートとか憧れるよな。


「そういえばまのっぺはここに来たことはないのか?」


 フォルナに角を掴まれ、身体を前後左右にゆらゆら揺らしているまのっぺに質問した。


「人が多すぎです。来たことありますけど、よくわからないお姉さんに迷子センターに連れていかれましたよ!!むかついたので———」


「あー、その先はもう言わなくていいぞ」


 しばらく大通りを進むと、やっと人ごみを抜けることができた。


 目の前には巨大な建物が三つ。


「真ん中が第一集会所、主に討伐系クエストを扱ってる。右が第二集会所、採取系。左が第三集会所、その他って感じだ。冒険者の登録はどこでもできるから、さっそく、右の第二集会所に向かうぞ!」


「「「はーい」」」


 開きっぱなしの大きな扉を通ると集会所の中に入った。


 第二集会所は採取系のクエストを主に扱っているからなのか、先程大通りで見たようなガチガチの装備に身を包んでいるものは少ない。


 その装備は必要最低限、身軽な印象を受ける。


 奥にあるカウンターを中心に円形の一階部分の壁には一面にクエスト表が張り出されている。


 例えるならワイドビューモニターみたいな感じ。


 クエスト板の上には名札のような物がついており、その名札によってクエストが仕切られているのがわかる。


 おそらく、地域ごとに仕分けされているのだろう。


「後ろの三人に冒険者登録を頼む」


 冒険者たちでごった返す食堂を通り抜け、俺たちはカウンター前までやってきていた。


 しかし、そのカウンターには人が居ない。


「クノス、誰もいないじゃないか。一体誰に話しかけてるんだ?」


「まあ、待て。そろそろ出てくる」



 数分後。



「なあ、全然出てこないんだが。俺はいいけどさ。もう、まのっぺとフォルナは勝手にあっちでご飯食べ始めてるぞ」


 後ろを見ると、備えられた大きな机に座り、注文した料理を食べ始めている二人が目に入る。


 相席した冒険者と話しながらなにやら楽しげだ。


「うーん。おかしいな。私が前に来た時はもっと早く出てきてくれたんだが……」


「出てくるってなんだよ。これだけの冒険者さばかなきゃいけないのに、カウンターに常駐してないって———」


「いつもいなくてすいません」


「「ひぃっ!?」」


 突如後ろから聞こえてきた声に俺とクノスはビクリと肩を震わす。


「いたっいいたいたいっ、おいクノス!俺の服を引っ張るな!」


「あ、ご、ごめん。つい」


 物凄い握力で服ごと俺の肌を引っ張っていたクノスの手を剥がすと、俺は目の前にいる幸薄そうなそいつを見た。


 っていうか本当に薄い。


 半透明で透けている。


 なんならその体の向こうにいる食事中のフォルナとまのっぺが見えるほどだ。


 顔に怪しげな仮面を被り、その表情は読み取ることができない。


 半透明のマントで体全体を覆っているので、その全容を掴むこともできない。


 コイツは人間なのか?


「少し失礼」


 そういった半透明仮面は、スライドするようにその場を移動。


「なっ!?」


 平然とカウンターの机をすり抜けてこちらに向き直った。


 すり抜けて、だ。


「ど、どどどど、どーいうことだこれ?」


「そちらの方は初めてで?」


「ああ、あそこで食べてる二人とこの男の三人の冒険者登録に来た」


「あー、そうですか。めんどくさ」


 半透明仮面の表情は伺うことができないが、気だるそうに書類をまとめ始めた。


 俺は静止したまま、そんなやつを訝しげな表情で見つめる。


「あの。いちいち説明するのめんどくさなんで。えーっと」


「クノスだ」


「クノスさん。その人に説明してもらえます?その間に書類まとめますので」


「わかった」


 そうして俺は目の前にいる半透明仮面についてクノスから説明を受けた。


 まず、やつはゴースト種族のトランスというらしい。


 ゴースト種族はその大半がモンスターとして認定されているが、中にはトランスのように人間に友好的な者もいるらしい。


 ゴースト種族の特徴はその実体を掴むことができないということ。


 剣士泣かせと言われる彼らにダメージを与えるには特殊なスキルや魔道具、もしくはアイテムが必要なんだとか。


 つまり、物理ダメージが効かないってことだ。


 ちなみにクノスの流魔剣は効果抜群らしい。


 とある冒険者がトランスを捕獲してこの集会所で働かせ始めてから、トランスは数多の美人受付嬢たちを蹴散らし、集会所の看板仮面の座を勝ち取ったそうだ。


 ゴースト種族のトランスは、荒くれ者が多い冒険者が集まるこの集会所でとても重宝されている。


 なぜなら、力のない受付嬢が止めることができない冒険者の乱闘も、大抵はゴースト種族であるトランスの力で収めることができるからだ。


「ってことは、このトランスって結構強いの?」


 俺は小声でクノスに聞いた。


「噂によると、S級冒険者チーム同士の乱闘をトランス一人で収めたことがあるらしいぞ。まあ、トランスは私の流魔剣とは相性悪いがな」


 自慢気にそう語るクノス。


 どんなことにも言えるが相性ってのがあるのだろう。


 流魔剣を使用できる者はそんなに居ないっていうし、普段のいざこざならトランスだけで事足りるのかもしれない。


「聞こえてますよ。お二人共」


「「げっ」」


「私は面倒なことは大嫌いなので、くれぐれもしょうもないことで、例えば、誰の剣が一番かっこいいだの、誰の筋肉が一番輝かしいだの、どの女の子の胸が一番素晴らしいだの……そのようなことで問題を起こすのはやめてくださいね。ほんとに」


(このゴーストも苦労してるんだろうな)


 伺い知れぬその仮面から漂う負のオーラを感じ取った俺は、


「もちろんです」


 そう答えた。


「書類の準備はできたので、あとはカードを作成するだけです。一つお聞きしたいのですが、あなたは人間、あっちに座る小さいのは魔族として、その隣に座っているグラマラスな女性の種族はなんですか?」


 ぎくっ。


 まずい。


 フォルナが悪魔だってことは黙ってなきゃいけないのに。


 何百人と冒険者登録してたら、見た目だけで種族判別なんて簡単にできるのだろう。


 嘘でごまかせるか?


 悩んでいると、口を開いたのはクノスだった。


「色々と面倒なことがあってな。彼女の種族は明かせないんだ。その辺適当に誤魔化してくれないか?」


 おいおい。


 正式な手続きなのに誤魔化しなんてしてもらえるはず無いだろ。


「わかりました。では、人間ということにしておきます」


「え?いいの?」


 俺は驚きの顔で聞き返す。


「いいもなにも、めんどうなことはごめんなので。それに中には自分がどの種族かわからないなんて人も結構いるので、その辺は問題ありません。ただ確認しただけです」


 納得した俺がまのっぺとフォルナを呼ぶと、俺たちは書類に簡単なサインをし、正方形の魔道具の上に血を一滴垂らした。


 すると、その魔道具の口からカードが三枚出てきた。


「それが冒険者カードです。なくしても再発行できますが、その場合はランクが初めからになってしまうので気をつけて。普段だったらここから詳しい説明を始めるところですが、めんどくさいのでクノスさんにお任せします。それでは」


 そう言ってトランスは虚空へと消えてしまった。


「クノス―もう終わったぞ」


 俺は血を垂らし初めたところから、後ろを向いていたクノスに呼びかけた。


 こいつは登録する時一体どうしたのかと疑問が残る。


「終わった?」


「終わったよ」


「それなら早速クエストを探しにいくぞ!冒険者についての説明は探しながらする」


 クノスの後を歩き、何枚にも横に繋がる掲示板の中、一枚の掲示板の前にたどり着いた。


「これが、首都サナリアの依頼が貼られた掲示板だ」


 その掲示板に貼られているクエスト表の数は、首都ということもあってかほかの掲示板より若干多い気がしないでもない。


 クエスト探しなんて胸躍るワクワク展開なのだが、ここで問題が。


「なあ。俺文字読めないからさ。適当に良さそうなの選んで持ってきてくれよ。その間に俺もご飯食べるとするからさ」


 そう。


 俺は文字が読めない。


 だからこの掲示板の前に立っていてもなんの意味もないのだ。


「任せなさい、我無。私がこのデビルアイでピッタリのクエストを精査してあなたのもとにお届けしてあげるわ」


「がんばれーデビルアイー」


「ボス!!私も好きなクエスト選んでもいいですか?」


「いいぞー。好きなクエストもってこいー」


「やった!」


 どうせこの二人は俺が注意しても碌なクエスト持ってこないからな。


 持ってきた時点で弾き返してやる。


「クノス。頼んだぞ」


 さっそく散らばってクエスト表探索に出た二人をよそに、俺はクノスに言った。


 っていうか、フォルナが見てるのさっそく違う地域の掲示板なんだが。


 アイツのデビルアイには一体何が見えてんだよ。


「ま、任せろ」


 不安げに答えたクノスにすべてを預け、俺は適当な席についた。


 メニュー表どこかなーと探していると、タキシードのような服装を身にまとった小柄な男が近づいてきた。


 彼は長い鼻の上から目を隠すように顔の半分をマスクで覆っている。


 横からは緑色の尖った角が見えた。


 俺は机よりも少し低いくらいのその身長の男に声をかけられる。


「お見受けした所、ここは初めてのようですね」


 格式張った口調だ。


 つい俺もつられて敬語で話してしまう。


「そうなんですよ。ここって食事できるんですよね。メニュー表とかってあります?」


「こちらをどうぞ」


 机の端からひょこっと出てきた手から俺はメニュー表を受け取った。


 文字は一切読めないが、数字の読み方くらいならクノスから教わっていたのでわかる。


 ちなみに俺たちはセエレから今回の出張分の食費をもらっている。


 この国のお金の単位はドラなのだが、一ドラを日本円に換算すると……いや、引きこもりの俺がそんなのわかるわけないじゃん。


 考えても無駄だ。


(とりあえず一番安いのを注文するか)


 選んだメニューを指さした俺は、それを男に見せた。


「これ、お願いしたいんですけど」


「むむっ。お客様。本当にそれでよろしいので?」


「え?」


「冒険者たるもの。しっかりと栄養のつくものを食べなければいけませんよ。そんな安メニューでは出る力も出ないというもの。本日のおすすめなんてどうでしょうか?」


 いや、俺だって好きでこんな安メニュー頼むわけじゃないですけどね。


 お金がないんですよ。


 お金が。


「あの、俺お金が———」


「本日のおすすめは、先日A級冒険者パーティー『海戦』が捕獲してきた。世にも奇妙な珍魚ですよ!第一集会所の巨大な生け簀に泳ぐ珍魚を、泳いだまま捌いた文字通り生きたままの海鮮丼が提供できます」


 なにそれどゆこと?


 生きたまま捌くならわかるけど、泳いだまま捌くってなに?


 めちゃうまそう。


 いやーでもでも、お金が、お金がないんです。


「ですから。俺にはお金が———」


「それならこちらなんてどうでしょうか?最近話題沸騰中のソロ冒険者「赤弐剣」が討伐した野生のギガントラックラビット。このウサギの右足を食べれば幸運に恵まれるという噂があるとてもとてもレアな一品ですよ。なぜか、男の冒険者がこの料理を沢山頼むのですが、お客様もぜひ」


「あの!俺お金がっ———」


 いい加減にしてくれ、と張り上げた声は遮られる。


「がむぅー、見て頂戴いいのを選んできたわよ」


「ボス!!私も見つけてきました」


 大声でやってきたのはクエスト表を持ったフォルナとまのっぺだった。


「二人はお知り合いで?」


 メニュー表を持った男は訝しげな表情を浮かべる。


「あ、はい。一応パーティーですが」


「お二人には先程の代金をまだ支払ってもらっていませんので、その辺り早急にお願いします」


 あいつらまさか無銭飲食したのか!?


 もうそれほんとに犯罪者なんだが……。


「ちなみに、お値段の方は?」


「二人で、1万9500ドラです」


 約2万ドラ。


 俺たち四人がセエレからもらった食費が今日一日で1万ドラずつ。


 ってことは、あいつら自分達の所持金ギリギリのラインじゃねえか。


 攻めたな。


 しかも、一食でほとんど使い切るバカがどこにいんだよ。


「おいお前ら。さっさとさっき食ってた飯の代金払えよ」


 席についたフォルナとまのっぺに俺は若干キレ気味で言った。


「え?だってもうお金払ったわよ」


「そうです。もうお金全部払いました」


 ん?


 お金払ったのか?


「あの、こいつらもうお金払ったって言ってるんですが」


「ええ。お二人で二万ドラ払われました。それにプラスして1万9500ドラ未払いということです」


 ってことはなにか?


 俺たち四人の残高、4万-2万-1万9500=500


 ってコト?


「おいお前ら一回表出ろ。グーで殴るから」


「なんでかしら?クノスと我無のお小遣い合わせればギリギリ支払えるじゃない。ちゃんと私その辺りも計算したのよ。このデビルブレイン で ね 」


「『でね』じゃねえよ!!おまえ真性の馬鹿なのか、真性の悪魔なのかどっちかだな!!お前のその計算だと俺とクノスがほとんど食べれなくなっちゃうでしょうが!!!」


『 で ね 』のところで頭を指でトントンとしてたのがめちゃくちゃ腹立った。


 この悪魔ぶっ殺す。


「え?ちょっと、待ちなさい……4万、2万……で、えっと、そうしたら、えーっとこうして……あら、ほんとね。我無とクノスの分が殆どないわ。あっ、えーっと……その…………ふんっ。これが『悪魔の 謀 略 』よ?」


「お前が陥れてんのは仲間なんだよ!!このポンコツ高位悪魔がぁ!!」


「ま、まってくださいボス!!こんな聴衆の面前で殴ってはボスの評判が!!」


「お前も同罪だからな!!なに私は悪くないですみたいな顔してんだ!!」


「でも、教義なので」


「ぬあああああ!!もおおおおおおおお!!」


 俺が頭を抱えながら叫んでいるとクノスがやってきた。


「どうした我無、そんなに癇癪起こして。確かに二人が持っていったクエストは適切じゃないかも知れないが、あ、そこのゴブリンさん、私にもえーっと、1500ドラのこのメニューをひとつくれ」


「大変申し訳ございませんが、お客様にそれを支払うお金はないようです」


「へ?」


 こうして俺とクノスは二人で1万9500ドラを支払った。


 掌の上に残った五枚の硬貨を見つめ俺はため息を漏らす。


 そんな俺を見たゴブリンウェイトレスから、俺とクノスは情けの水をコップ一杯ずつもらったのだった。

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