第13話 女湯覗くやつは俺から言わせてもらえばド三流
二章スタートです。
よろしくお願いします!
ケルベロス討伐後。
『臭すぎる、耐えられない』
と、セエレに言われた俺は脱衣所までテレポートさせられた。
モンスターの血肉が服やら身体やらに付着したのだ。
服を脱ぎ扉を開けると、屋敷にある大浴場に入った。
「あぁ〜」
首までたっぷりと湯に浸かった俺は今日一日の疲れを落とした。
やっぱり風呂はいい。
この世界にもあってよかった。
それにしてもこの浴場は広い。
多分ゴーレムたちも使っているのだろう。
「やぁば。なんか、眠くなって……」
急激な眠気に襲われる。
緊張の糸がプツンと切れたのだ。
そのまま俺は、眠気に勝つことができず目を瞑った。
———
『ここが大浴場か』
『なかなか広いじゃない? いつもはシャワー室しか使わせて貰えなかったから、なんだか新鮮ね』
『ボスは大丈夫でしょうか?』
『セエレが回収したと言っていたから安心しろ』
浴場に響く声に目を覚ます。
一体どれほど寝ていたのか。
普段は目覚めの悪い俺の覚醒スピードも、今この幸運的シチュエーションにアクセル全開ベタ踏み状態。
どうやら隣の大浴場にフォルナ、クノス、まのっぺが入ってきたようだ。
俺は目をつむり全神経を聴覚に回す。
浴場で女湯を覗くやつは、俺に言わせてもらえばド三流。
真の一流は『音』、それだけで事足りるのだ。
『ボスは生きてるんですね! 安心しました!!』
うん。
ボスは今生きてここにいるよ―。
『それにしても我無はちょっと抜けてるところがあるわよね。なんていうか無鉄砲っていうか、考えなしと言うか、多分ちょっと頭がよわいのね』
お前だけにはいわれたかねぇよ。
『そうか? 私はあの目の前のことだけに必死なところは凄いと思うぞ』
お! クノスの俺への印象は好感触か?
『へぇー、そういえばクノスは我無の言う事、結構素直に聞くわよね。相棒って感じがするわ』
『聞かない理由はないからな。まぁ、あの読み聞かせについては色々と言いたいことがあるが。わっ、私はああいった本には興味ないから! あれは我無に言われて仕方なく読んでるだけで……』
おい!
このむっつり魔剣士、なに俺を言い訳に使ってんだよ!
お前、あの本のシリーズ全巻揃えてんの俺知ってんだからな。
『じゃあ早速湯船にはいるわよ。私が一番乗りね』
『何言ってるんだフォルナ。湯船に入る前に、まずは軽く身体を洗うんだぞ』
『あら? そうだったのね。じゃあ、教えて頂戴クノス』
『クノス! まずは、どこから洗えばいいのですか?』
ゴクリ。
『そうだなぁ、私はまず頭からお湯を———っておいフォルナ! タオルで身体を隠さないとダメだ! はっ、はしたない!』
『えー? でもここには私達以外いないのよ? 別にいいじゃない? さあ、二人共もっと開放的になりましょう』
いいぞ悪魔もっとやれ。
『このしょうわる悪魔は品というものがないんですか? そんなに大きなものを自慢気に見せびらかして、下品ですよ。下品です!』
おいおいおい。
品がどーとか人の食べ物一方的に奪うお前が言うんじゃねぇ。
だが今はステイクール。
ステイクールだぞ、俺。
『私が下品? なるほど、こういう行為は下品なのね。わかったわ』
『違います。行為じゃないです。あなたの胸が下品なんですよ! っていうかそれずるいですよ!』
お前普通に嫉妬してるだけじゃねぇか!
『二人共それくらいにして身体を洗え。はやく入ろう』
俺も全面的に同意だぞクノス。
さあ! さあ! さあ!
俺は湯船にブクブク潜りながらその時を待った。
『ねぇ、なんだか感じない? 私はなにかとても下衆なオーラを感じるわ。悪魔だからわかるのよ』
この野郎、こんな時に限って悪魔設定活かしやがって...。
『隣は男湯だ。……まっ、まさか我無が入ってる!? それで私達の会話を聞いて……音、だけで……ッッ!?』
おーっとクノス御名答。
流石にこの中じゃレベルが違うな。
だが、それをどう証明する?
『ボスが隣にいるのですか!! ボスー!! 聞こえますかぁ!!』
「……」
『返事ないです。居ないみたいですよ?』
『まのっぺは甘いわね。あの我無よ。悪魔のような女の敵よ。いるに決まってるわ』
『ああ、我無ならいるな。そしていたとしても返事はしない』
ああ。
その通りだ。
おれは絶対返事しない。
疑心暗鬼の状態の中でむずむずしながら身体を洗うがいい。
『うーん。なんだかよくわからないですね。いるのかいないのかハッキリさせたいです。今からこの壁プチ貫通咆でぶち破ります』
お! そちらから壁を破ってくれるとはこれ好都合。
大義名分ができるじゃないか!
さあ、壊すのだ我が弟子よ。
楽園への扉を開くのはお前だ。
『ちょ、ちょっと待ちなさいまのっぺ。壁壊したら請求は私と我無の食費から引かれちゃうのよ?お願いやめて!』
「た、確かに……」
フォルナの言葉に俺はハッと気がつき、顔の半分をお湯に沈め熟考を開始する。
『しょうわる悪魔の言うことは聞きませんよ。私はボスの弟子ですからね』
究極の二択だ。
食欲か性欲か。
下手したら睡眠欲まで関わってくる。
セエレに女湯と男湯の壁を壊したなんてことが知れたらどうなるかわかったもんじゃない。
もしかしたら上空千メートルにテレポートさせられてスカイダイビングなんてこともあり得る。
もちろん、パラシュート無しで。
「…………」
(チクショォォォォォッ!! クソッ!! クソォォォォォォッ!!)
俺のソウルボイスは外に漏れ出さんとする勢いで叫ぶ。
三大欲求に全身プレスされ、湯船の底でブクブクした俺は苦渋の決断を行った。
「まのっぺ。俺はここにいるから。穴開けるのはやめろ」
俺は死んだ魚の眼でそう言った。
絞るようにして出した声にエコーがかかり浴槽全体に響く。
先程まで全開だった俺のキャリバーは鳴りを潜めてしまった。
気づかれてしまった以上、もう、意味がない。
それじゃあ意味がないんだ……。
『ボス!!』
『やっぱりいたわね我無。流石人間のクズね。あなたは最低、最低辺よ!』
『ああ。私も関心はしないぞ。女性に対する配慮が足りないな』
「はっ! なんとでも言うがいいさ。俺はもう出る。安心して湯船に浸かるんだな!」
『『??』』
ザバッ。
立ち上がった俺は潔く浴場を後にした。
颯爽退浴。
外で牛乳を飲みながら三人を待っていたが、なんだか出てくるまでやけに時間が掛かっていたことをここに追記しておく。
———
「全員席についたね。じゃ乾杯」
「「「か、かんぱーい」」」
「ボス! これ全部食べていいんですか?」
「い、いいんじゃないか?」
執事ゴーレムに案内された俺たちは大きな卓が置かれた部屋にいた。
目の前には豪華な食事が並べられている。
おかしい。
セエレが俺たちにこんな大盤振る舞いなんておかしい。
絶対なにかある。
とりあえずまのっぺに毒味させよう。
「ん? どうしてみんな手を付けないの? 食べてもいいっていったのに」
不思議そうにセエレが尋ねてきた。
(そりゃ普段あんな扱いされてたら信じられないだろ)
「ねえ、この料理食べた後に、お金請求したりしないわよね」
フォルナでさえこの疑いようだ。
上座に座るセエレはサングラスをサッと外すと言った。
「じゃあ、食べなさい。これは命令」
「やったわ! さあ我無、早く食べるわよ!!」
(高位悪魔様がこれでいいのだろうか)
俺は前に座るクノスと目を合わせると、おそるおそる食事に手を付け始めた。
「ここにみんなを招待した理由は、これからの実験の動きについて伝えておこうと思ったから。とりあえず、ケルベロス討伐おめでとう二号」
セエレは上品にオレンジジュースを飲みながらそういった。
「どうも。っていうか、そろそろその実験とやらについて詳しく教えてくれませんかね?」
俺たちは今まで実験の詳細を知らされずにここまでやってきた。
実験の当事者である俺としては、外灯のない夜道を歩いているような気分だった。
実際は光のない夜の森を歩いて凶悪なモンスターに殺され続けてたんですけど。
今までは一日を生きるので必死でそこまで実験内容については考えてなかったが、一段落ついた今は知りたくて仕方がない。
俺はなんのために召喚され、なんのために死んだのか。
「まず、この実験まで至った経緯から話そうか」
「ボス!! このチキンとっても美味しいですよ!! やばいですよ!!」
「今大事な話ししてるからちょっと静かになー」
そう言って話し始めたセエレ。
その話をまとめるとこんな感じ。
この世界にある魔法は大きく分けて2つ。
スキルと四大属性魔法だ。
そして、この世界に生まれる人間にはスキルと呼ばれる先天的に特殊な魔法を持って生まれる者たちがいる。
スキルは四大属性の魔法を組み合わせれば再現できるものや、まったく再現性がないものもあるそうだ。
本当に多種多様で確認されているだけでも数千種類はあるらしい。
スキルについての研究をしていたセエレはある日、とある文献を読んだ。
その文献には転生者と呼ばれる不定期でこの世界に現れる者たちは、スキルしか使わないことが書かれていたそうだ。
その文献の著者が一緒にパーティーを組んでいた転生者によれば、頭の中でイメージすればどこからともなく声が聞こえてそれをスキルとして具現化していたらしい。
スキルは後天的に得られることなんてないはずなのに。
著者はそこから研究を続け、転生者に共通する点を見つけた。
どの転生者も龍脈の近くで採取できる魔素密度がとても高いクリスタルと同じ性質の武器や道具を持っていたそうだ。
元々、龍脈の近く、魔素密度がとても高い地域で生まれた子供にスキルが宿りやすいことがわかっていたこともあり、著者はある仮説を立てた。
スキルと龍脈には何らかの関係性があるのではないかと。また、転生者は固有装備を使用することでこの世界に存在するスキルをどこかから呼び出しているのではないかと。
セエレはそこから更に仮説を立てた。
この世界にはスキルと呼ばれる力が予め設定されているのではないかと。古の時代は、転生者のようにこの世界の住人も好きにスキルを呼び出すことができたのではないかと。
それが何かがあって、先天的な能力に成り下がり、現代では四大属性とその組み合わせの魔法が主流になってしまった。
それなら転生者を利用すればそのスキルについてもっと知ることができるのではないか。
そこで俺が召喚させられたわけだ。
「で、セエレはそのスキルについて知ってどうするつもりなんですか?」
「どうもしないよ。ただ、知りたい。それだけ」
なんとも研究者らしい。
でも、その知識欲のために人間が一人死んでるんですがね。
このマッドサイエンティストめっ。
「この祝いようからすると、実験は成功だったってことですか?」
「その通り。私の仮説は多分正解。この世界にはスキルと呼ばれる魔法があらかじめ設定されてる。そして、魔炉を持たない二号はそれを呼び出すことができる」
「その設定? ってのは一体誰がしたんですか?この世界の神とか?」
「神は死んだよ。龍族に滅ぼされたって言われてる。だから、設定した者がいるとすれば龍族だろうね」
俺はもうついていけませんという顔をした。
龍族って何?
神は死んだってドユコト?
「龍族というのは古の大戦でこの世界を神から勝ち取った種族のことだ。彼らはその時から全生態系の頂点に君臨してる」
もうお腹いっぱいなのか、クノスは開いた本に目を落としながらそう言った。
でもそのブックカバーは薄すぎて題名が透けている。
俺には読めないけど、みんなには見えてるんじゃないか、あれ。
まあおもしろそうだからほっとこ。
「そ、多分そのときに世界の法則を作り替えたんじゃないかなーと思ってるけど、流石にそこまでは調べようがないから。二号だって、元の世界を誰が作ったのかなんて興味無いでしょ?」
「まあそうですね。どうでもいいすね」
俺も創造神よりも、なぜか俺のガチャだけ異様に排出率が低いソシャゲを作った制作者の顔のほうが気になるタイプだった。
「じゃあ、円盾についてるクリスタルってその魔素密度が高いクリスタルってやつですか?」
「そうだよ、普通のクリスタルとは違う特別なもの。龍脈石って呼ばれてる。二号が一生働いても稼げない額で買い取ったから、そのへんよろしく」
そのへんよろしくと言われても、失くしたら=死ってことなんですか?これ。
怖いから詳しく聞かないでおこう。
「俺思ったんですけど。そのスキルってのを俺は使ってるってことですよね。でも、普通の四大属性魔法も使える。この二つって何が違うんですか?」
その質問に答えたのはフォルナだった。
「簡単に説明するならスキルは才能、普通の魔法はコマンドってとこかしら。才能があればコマンドなんて無視して感覚的に魔法を出せるのよ。ぽんぽこぽんぽこね。でも、どうやってやってるのか自分でもわからないから人によっては調整ができない。それに他の人に教えることだってできないわ。でも、コマンドを知っていればそれを組み合わせたり、調節したりできるし、誰かに教えることもできるでしょう?」
(いや、お前ほんと説明だけは上手いのな)
例えばファイアボールのスキルを持ってたら、感覚的に一瞬で特大ファイアボールが出せたりするわけだ。
でも、普通に攻・静・防を意識しないと出せない人たちは発動まで時間がかかったり、なんなら才能不足で一生出せないこともある。
でも、その分調整や、応用を利かせられるってことか。
ん?
ってことはスキルも使えて四大属性も使える俺って実は凄いのでは?
「ちなみに二号は普通の魔法は使えてないよ。ぜーんぶ感覚的に使ってるね。どれもこれも四大属性魔法に酷似したスキルだよ。私は見ればわかる」
「え? でも、風属性のウィンドとか静だの攻だの防だのめっちゃ意識してやってましたけど?」
「いや。もともと二号には四大属性もこの世界でスタンダードな魔法の原則も関係ないから。そもそも魔炉もないし」
は?
「ってことは俺がめっちゃ無い頭使って『風属性のウィンドで静の状態を擬似的に作って威力を高めるー』とかやってたのって全部意味なかったってコト?」
「意味ないってことは無いけど、これからはそういうの考えなくてもいいよ。もっと感覚的にやっていいと思う」
道理でめっちゃ頭痛いと思ってたんだよ。
ほんとに無いもの絞り出してたってことか。
「じゃあなんで最初、マークにこの世界の魔法の原則の話なんてさせたんですか?」
そうだ!
必要無いなら最初から教えなきゃいいじゃん!
「白紙の紙に何か書けって言われても難しいかなと思って」
ごもっとも。
「それなら、俺に魔炉が無いってのはどういう意味ですか?」
魔炉=MPみたいなものだろうけど。
「そのままだよ。二号の体には魔素を生成して溜める器官がない。まあ、それが肝なんだけど」
「確かに、我無の中には何もないな」
とクノス。
「ボスの中身はからっぽです!」
とまのっぺ。
「そうね。言われてみれば我無の中身は———」
「それが肝というのは一体どういうことなんですか?」
俺はフォルナを遮って質問した。
「例えば、私達には味覚があるよね。でも、それは人によって違う」
フォークにいちごを刺したセエレはそれをパクっと口に入れた。
「大きくは遺伝に影響される。家族同士、食べ物の好みが似てたりするよね。それは血に刻まれた癖みたいなもの。取り除きたくても取り除くことはできない。そして、それをもっと大きな枠組みで見れば、この世界の住人全員が一つの大きな遺伝の集合体と捉えることもできる」
まあ、祖先を全部辿っていけば最終的にはどっかのアダムとイブにたどり着くもんな。
理屈は理解できる。
「ってことはチョコケーキが嫌いな人に、チョコケーキを好きになってもらうことはできない。舌が違うから。同じ食べ物でも感じる味が同じとは限らない。拒否反応が起こる」
「チョコケーキが嫌いな人なんて居ないわ」
フォルナはチョコケーキを食べながらムスッとした顔で言った。
「つまり、この世界の住人と俺の舌はまったく違うから、俺は好きにスキルを発動させることができると?」
生まれた世界が違うから遺伝的にまったく繋がりがないってことか。
「そういうこと。そのクリスタルを私も試してみたんだけど上手くいかなかった。それは多分私の舌のせい。四大属性を基本とする魔法習慣が何世代、何世紀分もこの身体に染み付いてるから外から与えられるスキルを体が受け付けないんだと思う。拒絶反応なのか、それとも別のなにかなのかはわからないけどね」
「なるほど。俺の舌はこの世界のものじゃなくて変な癖が染み付いてないから、拒絶反応が起きないと」
「多分ね。仮説の域をでないけど」
「じゃあ、俺は魔炉がないのに魔法を発動させられてるのはどういうことなんですか?燃料は一体どこから出してるんですか?」
それはつまりMPがないのに魔法を発動させているということで。
一体どこからMPを手に入れてるんだ俺は?
「…………」
「え?なんで、黙るんすか?」
セエレがケーキを口に運ぶ回数が増える。
「……そ、それは、うーん。よくわかんないんだよね。もしかしたらクリスタルに詰まってる魔素を媒介にしてるのかも知れないし、うん。多分そうだよ。かなり魔素密度が高いクリスタルだからね。そうそう切れることは無い。安心して、よかったね」
出処不明のMP。
よくある漫画とかの設定で、限界を超えたときの代償になるものが俺の頭に浮かんだ。
「それか俺の生命力みたいなのを削って、寿命を代償にしてる可能性も無いわけじゃないってことですよね?」
多分これだろ。
「鋭いね、二号は。可能性としてはあるかも。でも、可能性だよ。そんなの気にしてもしょうがないよ」
セエレはサングラスを賭けると俺の方を真っ直ぐ向いてそういった。
でも、透ける瞳は完全に俺から逸れてる。
(この世界に労災ってあるのかなぁ。俺もう魔法使うのやめよっかなぁ)
「実験の経緯はこんな感じ。じゃ、次の実験フェーズについて話すね。本題はこっちだから」
知りたいことはだいたいわかったので、俺はようやく本格的に食事に手をつけ始めた。
冷めたチキンにフォークを刺した。
冷え切っていたが、俺の心も冷えている。
ちょうどいい温度差だ。
「ボス!!」
「まのっぺ。お前ちょっと俺の部屋行ってサリナス様日記取ってこい」
「む! で、ですが———」
「いいから早く取ってこい」
まのっぺ教義を適当にキャンセルした俺はなんとか時間を稼いだ。
この間にできるだけ腹の中に入れておこう。
———
「次のフェーズっていうのは、これ」
セエレが取り出したのはクエスト表のようだった。
「『金持ち資本家からの依頼!? アジャムスの角の採取!! 伝説の怪獣の角を採取せよ!!』……ってなによこれ?」
そのクエスト表をフォルナが声に出して読んだ。
手書きで書かれたような文字とイラスト、その内容がなんだかひどく子供っぽくてかわいい。
「そのクエスト依頼だれが書いたんですか?」
思わず質問してしまった。
その資本家の娘だろうか。
「私だけど」
「「プッ」」
と、俺と目の前にいるクノスが同時に吹き出した。
なぜなら、それに答えたのはサングラス姿のセエレだったからだ。
セエレの中身がかなり子どもっぽいのはなんとなくわかってきた。
それを隠すために無感情サングラスキャラを貫いてるのかもしれない。
どちらにせよギャップがエグいぞこのロリボスは。
「次の討伐対象はそいつってことですか?」
「討伐の必要はない。角を採取してくればいいだけだよ」
「それなら簡単じゃないですか。倒さなくていいなんて」
ケルベロス、そしてトー・グリムスを倒した俺たちの強さは多分この世界でも平均以上なのではないだろうか。
俺は死んでも復活できるし、楽勝だろ。
「待て我無。アジャムスなんてモンスター、私は聞いたことないぞ」
訝しげな表情でクノスは言った。
「そう。問題はそこなんだよね。そもそもこのモンスターは存在するかどうかも怪しい存在。でも、資金提供してもいいって人がこのモンスターの角持ってくるならっていうからさ」
「ちょっと待ってください。存在するかどうかわからないとは?」
幻のモンスターってこと?
希少種みたいな?
ってことは今回は探索がメインか?
「うーん。っていうか多分私の調べによるとこのモンスターは存在はしてるんだよね。多数の文献を読んだけど特徴が一致する記述はいくつかあった。ただ、その生息地域が龍封の地ってだけ」
「りゅ、龍封の地!?」
クノスは食べる手を止め、驚いたような若干引いたような顔でセエレのほうを見た。
「え? なんかまずいの?この流れまずいよね?」
俺はまためんどくさいことになったと思い食事に意識を集中した。
避けられないならせめて、意識を逸らすことくらいは許してほしい。
「そう。だからなんとかして龍封の地に出なきゃいけない。でも、あてはあるから安心して」
「安心するも何も、龍封の地に出るのは人類の禁忌だ。龍との盟約によって禁じられているはず……」
あー、龍との盟約によって禁じられてるんだー。
でもクノス、俺たちの上司はそんなルール気にするタイプじゃないぞー。
現に俺の人権守られてるようで守られてないからねー。
「それがどうかした? ばれなきゃいんだよ。ばれなきゃね」
ほら。
マッドサイエンティストだよ。
「えっ、でも……」
「でももなにも、そもそも悪魔との接触すら禁止されてるからね。クノスはもうルール破ってる側なんだよ」
「なに? 私は悪魔との接触なんてしてないぞ!」
「あれ? 私、高位悪魔だって言わなかったかしら?」
「え?」
「え?」
隣の席同士、クノスとフォルナは見つめ合う。
おい、これってまさか。
「てっきり、そういう『キャラ』なのかと……。角も翼も生えてないし、強力な特殊スキルを持っているだけかと思って……その、なんか、ごめんなさい」
クノスは申し訳無さそうな顔で謝った。
フォルナはそれに対し、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
(フォルナ、ぷぷぷる手を振るわせて涙目でこっちを見るのはやめろ。今に始まったことじゃないだろ、お前は本質的に悪魔っぽくないんだよ)
「そういうことだから。もうここにいる全員は運命共同体。死なばもろともだから」
いや、死んでるの俺だけですけどね。
あ! このチキン冷めててもうまいな。
まのっぺの言うとおりだ。
「なんとか龍封の地以外でどうにかならないのか? その辺にいるモンスターの角でごまかすとか」
隣に座るフォルナのグラスに申し訳なさそうにワインを注ぐクノスが言った。
「それは無理。相手はコレクターだからね。しかも、今はモンスターの素材集めに精を出してるみたいだからすぐバレるね」
どうして金持ちってのは収集したがるのだろうか、死んだらあっちに持ってけないのに。
あ、でも俺のジャージは持ってこれたな。
もうないけど。
「とにかくそういうことだから。まずは冒険者ギルドで登録して。クノス知ってるでしょ? 二号たちを案内して」
「いや、待て。資金が足りないというのなら私が実家に頼んでも……」
「研究費はかなりのまとまった額が必要。それにやってることは完全に非合法。そんなのに家族を巻き込んでもいいの?それにクノス、あなた一応私に借金あるよね」
「う、うぅ……わかった。大人しく従う」
こえー。
やってることヤクザじゃん。
マッドでヤクザなロリかよ。
設定盛りすぎ。
「ボス!!」
その時バンッと扉が開いた。
まのっぺがノートを持って戻ってきたのだ。
「おー、ありがとうまのっぺ」
まのっぺは『どうぞ』と言ってそれを俺に渡した。
すると彼女は卓の上に置いてあるセエレが書いた依頼書を見て……。
「ミッション完了です! それでは……ってうん? なんですか、この近所の子供が書いたみたいな———ッ」
俺は瞬時にまのっぺの口を塞いだ。
あっぶねー。
この魔族っ子、危うくセエレの仕掛けた地雷踏み抜くとこだったぞ。
そんなことしたら四肢爆散じゃ済まない。
「貴方たちには数日中にこの国の首都に向かってもらう。私の調査によれば龍封の地と内地をつなぐ古の転移魔法陣がまだ首都のどこかにあるらしいんだよね」
「もしかして、それを探すのも仕事だったりします?」
俺はまのっぺが持ってきたサリナス様日記を開き、心の平穏を保ちながら質問した。
「と言いたいところだけど、二号たちがヘマしてばれるのは嫌だから、その辺は私が何とかしとくよ」
よくわかってるじゃないか。
俺たちに隠密活動なんて絶対無理だからな。
「ボス!! その食べかけのチキンをもらっても?」
「ああ、どうぞ」
「やったあ!」
俺は食べかけのステーキの皿を隣に座るまのっぺの前に差し出した。
「あと、一応我無の戦闘データはなんでも収集しておきたいから、こんなの作ってみた」
そう言ってセエレが卓の上に置いたのは人形だった。
フィギュアくらいの大きさだ。
その顔の作りは横棒、横棒、口って感じ。
どこからどう見ても美少女フィギュアではない。
っていうかこれ……。
「お前、マーク……なのか?」
「我無様! 見てくださいこの身体を!! わたくしはセエレ様によってグレードアップされましたよ!! 何たる光栄でしょうか!!」
いや、どう考えてもグレードダウンだろこれ。
ちっちゃくなっちゃってんじゃん。
「作った、といっても元の身体にあったコアをその小さいのに移しただけだけどね。戻そうと思えば戻せる」
セエレは卓に肩肘をついてつまらなさそうにマークを見ながらそう呟いた。
「なんと!! そのような必要はございませんよロリガキセエレ様! わたくしは新しく授かったこの体で目いっぱい任務に奉仕させて頂きます!!」
「わたしもそのつもりないから」
これあれだろ。
マーク厄介払いされてるだろこれ。
でも、ってことはもしかしてこれからの冒険にマークがついてくる感じ?
もう収拾がつかねえよ。
俺一人じゃ無理だ。
サリナス様ぁー助けてくださいー。
「現時点で伝えたかったことはこんな感じ。私は研究室に戻るけど、みんなは食べてていいよ。それじゃ」
そう言ってセエレは一瞬で消えてしまった。
ってことは、次は資金をゲットするために立ち入り禁止区域に侵入して、いるかどうかも定かじゃないモンスターの角を採取してくるってことね。
その間も俺の戦闘データはマークが収拾すると。
「それなら早速冒険者ギルドに行くとするか?」
隣でべろんべろんに酔っぱらったフォルナの頭を肩に乗せながらクノスが言った。
「フォルナがそんなんじゃ無理だろ。セエレは数日後に首都に出発だって言ってたし、今日ぐらいは全員休みでいいんじゃないか? 俺はできる限り外に出たくないし、今日は自室でぐーたらしてるわ。マークそれでもいいだろ?」
「問題ないかと思われます」
「そういうことだから、じゃ」
そう言って俺は席を立とうとする。
「お、おい。待て我無。こ、このフォルナはどうしたらいい?」
「お前が責任もって慰めろ」
「なっ、慰める!?」
多分俺が意図したものとは違う慰めをクノスは想像しているようだ。
その耳は一気に赤に染まる。
だが……。
(フォルナが部屋にいるとうるさいし、クノスにツッコむのももうめんどくさい。ほっとこ。俺はもう寝たいよ)
そう考えた俺は席を立った。
「ボス!!」
「なんですか?」
今度はまのっぺだ。
「私は何をしていればいいのでしょか?」
「そうだなー。必殺技の練習でもしてればいいんじゃないか?」
「なるほど……そうですね! 『勇者は一夜にしてならず』ですね!」
まのっぺは椅子からぴょんと降りて脇目も振らずにどっかに行った。
「うん。そうだぞー」
「我無様、私はどうすれば?」
おい!!
ここにいる奴らは全員俺に指示仰がなきゃ何も出来ないのか?
「俺の寝顔を記録に残したいなら俺の部屋に来い」
「わかりました」
そういった小型マークは卓から飛び降り、なぜか部屋の隅に開いていた小さな四角い穴からどこかに行ってしまった。
「記録しないのかよ」




