表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【二章完】トライあんどエラーを拳で!?  作者:
第一章 でこぼこチーム編
13/49

第12話 拳で殴り合いしようぜ!!


「と、そんなことがあったんだよ」


 まのっぺを屋敷まで連れ帰ってきた俺は、食堂で事の顛末をみんなに伝えた。


「ふふんっ、やっぱり私の予想は当たっていたみたいね。ほら我無、なにか言うことがあるでしょう?」


「ありがとうございますフォルナ様。その慧眼、おみそれいたしました」


「いいっ、いいわ!! 最高に気分がいいから、もう一杯飲んじゃおうかしら!」


 空いたグラスをくるくると回すフォルナを、俺は適当に気持ちよくさせる。


 今はこいつに構ってる場合じゃない。


 それよりも。


「それでぇ? クノスさーん。あなたそういえば書庫でこんなこと言ってませんでしたっけ? 『魔女の復活? そういった終末論は昔からある。これだけ世界が平和になれば、そういったジャンルを人々が求めるのは当然だ』って、『そんなことあったら、さっきの読み聞かせをもう一回やってやる。まあ、そんなこと絶対あり得ないがな』って」


「そっ、それは! だ、だって……いるとは普通思わない。そんな組織、普通は思わないっ! 普通は思わないぞ!!」


 耳を真っ赤にしながらむっつり魔剣士は反論する。


「でも実際いたんだから、ここに証人だっていますし、信じる気になりましたか? 世間知らずのむっつり魔剣士さん?」


「そのむっつり魔剣士というのはやめて! わかった。信じる、信じるから、そ、その読み聞かせの件は……」


 そう言ったクノスは、机の上においてあった本を急いでポケットにしまった。


「はーいー? 人との約束反故にするつもりですかぁ?」


「————ッッッ」


 顔を限界まで赤らめたクノスは机に顔を突っ伏して耳を塞いだ。


 この元名家のお嬢様、動作がいちいちわかりやすくてイジりがいがある。


 俺は頭を抱え、足をバタバタさせるクノスを見ながら、食事に手をつけた。


 いつもと同じ定食なのに、なんだか今日はやけにうまいぜ。


 ほとんどを食べ終わった俺はとうとうメインディッシュの解体へと入る。


 俺は食事においては、楽しみは取って置く派だ。


 後味ってのは大事だからな。


「よしっ、今日はこのどっかの牛乳でできた特性プリンとやらで締めを———」


「ボスッ!!」


「ん? どうしたまのっぺ? ボスは今な、大事な作業に取り掛かろうとしてるんだ。プリンってのは奥が深いんだぞ。どうやって食べるかで味が大きく変わるんだ。特にカラメルソースの扱いは難しい。底にあるカラメルソースにスプーンが到達した瞬間にな、上まで染み込んじゃうんだよ。これだと、一部だけ味が濃くなって……」


「ボスッ!!」


「ん? なんだまのっぺ? 今まだ説明してる最中なんだが。続けるぞ。この一部だけ濃くなってしまうという現象を避けるにはな、真ん中、中央上辺りから攻めるんだ。そうすれば……」


「ボスッ!! そのプリン、もらいうけます!」


「なんで? ねえ、今の話聞いてた? 俺これでもかってくらい今から食べようとしているプリンについて語ってたんですけど、お楽しみ感情あらわにしてるんですけど」


「なんでもなにも教義なので!!」


 当たり前だろ、という顔をまのっぺはこちらに向けた。


「……ねぇ、それずるだろ」


 涙目になった俺は震える手でプリンをまのっぺに差し出した。


 ほろり、と頬を一滴の涙がつたった。


 ちきしょう!


 でも、教えなら仕方がない。


 仕方がない……のか?


「ありがとうございますボスッ!! あむっ」


 あ!


「なん……だ、と……ッ!?」


 このやろう今までの俺の話全部聞いておきながら一口で食いやがった!!


 リスみたいにほっぺた膨らませやがって!!


「お前んとこの教えはどうなってんだ、教えは!!」


 俺は口をもぐもぐさせるまのっぺのおでこをグリグリした。


「二号、さっきの話だけど」


「わ、びっくりしたー。急に出てこないでくださいよ」


 振り返ると、ワインのおかわりに行ったフォルナの席に突如としてセエレが現れていた。


 瞬間移動してきたのだろう。


 本当にこの人は神出鬼没だ。


「さっき話してた半人半魔の男、街の警備任せてるうちのゴーレムを倒して逃走したみたい。だから二号、もし次にそいつにあったら、殺すか拘束してつれてくるかして」


「そんな無茶なこと言わないでくださいよ。対人戦闘なんてほとんど経験ないんですから。今回上手く逃げ切れたのだって、幸運でしたよ」


「対人経験か。なるほど、考慮しとく」


「え? これちゃんと言った意味伝わってます? ちょっとまってください。嫌ですよ、俺、地下闘技場とかに連れて行かれるのは。嫌ですよ! 絶対嫌ですよッ!!」


 グラスにワインを入れたほろ酔いフォルナが戻った。


 するとセエレは一瞬で消えてしまった。


「よーしっ、今日は実験まで飲むわ。まのっぺ、その角触らせなさーいっ! って、あれ?みんなどうかしたのかしら?」


 まのっぺはその角を両手で覆って机の下に避難し、


 クノスは両耳を赤くしながら机に突っ伏し、


 俺は世界最強を決める地下闘技場に放たれてしまうのではないかという恐怖に身を震わせていた。



 ———



 森でマークと合流した俺たちは、今日も今日とて実験に向かう。


「みなさま、今日はなんだか森が騒がしいです。いつも以上に注意を」


 マークは目を点灯させながら周囲を警戒する。


「我無? 私、最近気がついたことがあるのよ」


「どうしたフォルナ?」


「私ももっと活躍できるんじゃないかってことよ。ほら、クノスは剣であなたを守るでしょ、それでまのっぺは強力な攻撃魔法を使えるし、高位悪魔である私にもなにかできることがあるんじゃないかって。痛覚無効とかどうかしら? これなら、死ぬ時痛くなくて済むわよ」


「死ぬこと前提かよ」


 なんかやだなぁ。


 気がついたら死んでましたとかなったら、それはそれで生への執着みたいのが薄れて俺が俺ではなくなってしまう気がする。


 っていうかそういう魔法使えるならもっと先に言えよ。


 なんだ?


 最近このチームでの戦闘中に役割がないのが自分だけだからちょっと妬いてるのか?


「フォルナ様、あなたはいつも俺を復活させてくれるじゃないですか。それだけで、十分。十分なんですよ。それにフォルナ様は悪魔なんでしょう?」


「……それもそうね。高位悪魔だから、そんなに人間の役に立ってもアレよね。私はいるだけで価値がある存在なんだから、それで十分よね」


「そうです。そのとおりですよ」


 適当にあしらった。


 この悪魔の場合頑張ったほうが空回りする、そんな気がするからだ。


「ボス! 今回私はどうすればいいでしょうか?」


「どうするもなにもなー。あのビーム以外に使える魔法はあるのか?」


「……まあ、あるにはあります。でもどれもぱっとしないし、ポリシーに反するのであまり使いたくないです。ほら、勇者なら一撃でズドンッとモンスターをやっつけたほうがかっこいいじゃないですか?」


「ポリシーってなんだよ。でもまあ……それもそう…なのか?」


 一撃必殺とか誰もが憧れるよな。


「この魔法はその点で凄いかっこいいです。ポイント高いです! 敵の脳天をズキュンっと撃ち抜いて、敵ののうずいをべチャリと地面にぶちまけて、その脳みそに言ってやるんです! これが勇者の力だ! 思い知ったか、たわけが!って」


「やけに具体的なセリフプランがあるんだな。でも、そのセリフはちょっと勇者っぽくないからやめときな」


「勇者か……私も幼い頃は目指していたものだ。修練場でも勇者候補だともてはやされたものだが」


 俺たちの先を進むクノスが懐かしそうに言った。


 勇者候補って何?


 この世界には魔王でもいるの?


 それとも何かすごい実績を上げた人間に与えられる称号だったりする?


「勇者候補って、クノスはそんなに強かったのか?」


「ああ、これでも修練場では負け無しだった。修練場では……な」


 これ以上質問すると思い出したくない過去を思い出させそうなので、俺は話題を変えた。


「そういえばクノスは、借金抱えてセエレに捕まるまで何してたんだ?」


「国を出て、冒険者になって、パーティー組んで、モンスター討伐に行って……それで……」


 どんどん険しい顔つきになるクノス。


 それを見て話題振ってるこっちが冷や汗かいてきた。


「わっ、悪かった。こっちの話題も駄目か」


 多分、血を見たら失神するからお荷物扱いされていたのだろう。


 容易に想像できる。


『この人魔剣士だって凄ーい』って言われながらパーティーに参加したものの、『なにこれ使えな、チェンジで』と言われるクノスの姿が。


 ふ、不憫だ。


「いましたよみなさん! ……ん? あれは……」


 マークが止まり、みんなを手で制止する。


「だが今は、私は私のままでいい。そう思えるようになった。誰かさんのお陰でな。だから、私はできることをするだけだ」


「ああ、今夜も頼むぜ、クノス」


 振り返ったクノスと目を合わせると二人でサムズアップした。


「いいわねぇ、私もそういう『頼んだぜ相棒』みたいなやつやりたいわ」


「ボスッ、私もこのしょうわる悪魔に賛同します。やりたいです。かっこいいです」


「はいはい、帰ったらやってやるから……って、ん?」


 適当に返事しながら、俺は正面を見つめた。


 そこに居たのはいつも通り、ケルベロス。


 と、一人の男だった。


「我無、あの男食べられてしまうんじゃないか?助けるか?」


「いや、ちょっと待て。あれは……おい、まのっぺ」


「ボス、アイツは人さらいですよ。今朝見た人さらいです」


 やっぱりそうか。


 服装、体躯、すべて合致する。


 トー・グリムスだ。


 でも、なんでこんな森の中に?


 街からこの森まではそこまで遠くない。


 逃げてきたってことか?


「どうするのよ。敵なんでしょう?」


「ああ、バレたら厄介だ。いっそ、ケルベロスにやってもらうか」


 茂みの中に隠れ、俺たちは戦況を観察していた。


 ケルベロスは既に戦闘態勢。


 目の前にいる男に鋭い眼光を放つ。


 対して男はフードを深く被ったまま。


 逃げるでもなく、じっとそこに立ち尽くしていた。


 数時間にも思えるような沈黙が続いた後、先に動いたのはケルベロスだった。


 巨大なブレスを吐き、男の視界を奪う。


 小さくなりブレスに隠れるようにして男の死角に入ったケルベロス。


 そのまま接近して、3つの首で捕食にかかった。


 シンプルな攻撃。


 強敵に対し無理に巨大化して的を増やさないというのも合理的だ。


 だが、相手が悪かった。


「悪いな、わんころ。俺はカウンター型でね」


 グリムスはドーム状のシールドを展開。


 寸前のところでケルベロスの動きを止めた。


 シールドに頭だけ飲み込まれたケルベロスは、その牙をガチガチ鳴らしながら目の前の獲物に食らいつこうとする。


 だが、届かない。


 奴のシールドは沼のように、はまったものを逃さないのだ。


「匂いを辿って来てみりゃ大当たり。まさか、こんなところにここまで強力なモンスターがいるとはな。ちょうどいいぜ。こいつを使ってひと暴れすっか?」


 そう言ったグリムスは手をケルベロスの前に掲げ、


「エン・スレイブ」


 男の腕から放出された赤い楔がケルベロスの首に巻き付いた。


「成功だ」


 グリムスはそれを見て満足げな笑みを浮かべる。


「フォルナ、説明」


「エン・スレイブ。モンスターを使役するスキルよ。今みたいに楔を出して首を縛る。成功するかどうかは確率の問題ではあるけれど、熟練度によっても左右されるわ」


 フォルナはいつになく真面目なトーンで返答した。


「どうするんだ、我無?」


 恐らくやつはこのまま街に向かうはずだ。


 その目的が俺なのか、人攫いか、それともただの破壊行動なのかはわからない。


 ただ、ケルベロスを連れて街に向かえば、被害がでることは確実だ。


 街に住んでる人は俺とは関係がないし、俺はそこまでボランティア精神に溢れる人間じゃない。


 それに、多少の被害が出ても、屋敷にいるセエレがなんとかするかもしれない。


 でも。


「あの犬公、散々俺のこと殺したくせに、あの頑丈男にはすぐになびきやがってゆるせねぇ。それに、その犬公を簡単に使役したあの男もゆるせねなぁ」


 あの犬公をぶっ殺すのは俺達だ。


 それだけは絶対譲れない。


 それなら、アイツが使役された今、殺すチャンスはもう今夜しかないってことだ。


 やってやるよ。


 今夜、決着をつける。


「みんな、今から作戦を伝える。今夜ここで、決着をつけるための作戦をなぁ!!」


「前々から思っててんだが、我無は切れると口調が変わるんだな」


「そう? いつもこんな感じじゃないかしら?」


「それは、いつもしょうわる悪魔がボスを怒らせているせいでは?」


「そんなことないわよ……たぶん」


 指摘された俺は、冷静に作戦内容をみんなに伝えた。


 まず、クノスは囮となってケルベロスの相手。


 俺はグリムスと戦闘。


 乱戦になるのは避けたいからだ。


 その間まのっぺには魔力を溜めに溜めてもらう。


 そしてうまいこと一直線でならんだところでビーム発射、串刺しにして終わりだ。


 我ながら雑すぎる作戦だが、大筋はこんな感じ。


 というかこれ以外に勝ち筋が思いつかない。


「まのっぺ、美味しいところはくれてやる。だから絶対、なにがあっても外すなよ」


「もちろんです! ボス!」


「フォルナは俺に魔法をかけてくれ」


「何をご希望かしら?」


「痛覚無効を頼む」


「わかってると思うけど、痛覚無効であって、攻撃無効じゃないのよ?」


「わかってるよ」


「ちゃんと、心臓と頭は守りなさいよ。あと、一応リミッター解除の魔法もかけておくわ。これは強化じゃなくて、脳のリミッター外してるだけだからね、あんまり使いすぎると頭パカになるから気をつけなさい」


 そう言ったフォルナは怪しい光を俺に浴びせた。


「クノス、いけるか?」


「もちろん。あのケルベロスとは何度もやりあってる。今更怖気づいたりしない」


 全員と確認をとり、時期を伺う。


 なるべく、ギリギリまで時間を稼げた方がいい。


 まのっぺの魔法のためにも。


「ン? なんだ? さっきから俺たちを観察してるやつがいる? おい、そういうことはもっと早くご主人さまに言えよ。ったく、おーい!! いるんだろ、でてこいよ」


 気づかれた。


 が、まだ人数までは把握されてない。


 それなら。


「クノス、出るぞ」


「ああ」


 クノスと一緒に茂みから出た。


「おっ、二人か。って、あれ? おまえ、街に居たにいちゃんじゃねえか。なんだ? 俺のこと追ってきたのか? あの時は逃げたくせによ。あの娘はどうした?」


「あいつなら、お前のこと丘の上から狙ってるよ」


 ここは無理に隠さない方がいい。


 探られて本当の居場所がバレるほうがやっかいだ。


 情報を与えて撹乱する。


「丘の上、ねえ」


「それよりも、今朝の決着つけようぜ。半人半魔」


「決着? おいおい、見てもらったらわかると思うが、俺にはこのケルベロスがいるんだ。にいちゃんとわざわざ戦う必要なんて無い。そうだなあ。にいちゃんにはケルベロス、そっちの剣士は俺と勝負ってのはどうだ?」


 そうなるとまずい。


 クノスは鼻血を見るだけでアウトだ。


 それなのに対人戦なんて任せられない。


 まだ野性的なケルベロス相手の方が動きの読みやすさの点でいい。


 となると、俺はこいつからタイマン誘わないといけないってことだ。


 考えろ。


 ヒントはあるはずだ。


(拘束を兼ねた防御魔法、それに武器を持たない戦闘スタイル……そうか!)


「グリムスお前、ほんとは殴り合いでの勝負がしたくて仕方がないんじゃないか?」


 俺の推測に対しグリムスは。


「おおー、惜しい! でもそうじゃねえんだよな、にいちゃん………」


 一拍おくと、腕まくりをして言う。


「俺はさあ、一方的に殴るのが好きなんだよぉ」


 恍惚とした表情と鋭い瞳が月の光に照らされていた。


 その瞳の中にあるのは獣性そのもの。


 目の前の男から狂虐的な殺意を感じる。


 今の俺たちは獣二匹と対峙しているのだ。


 そう思うと、思わず足がすくんだ。


 最近、死への恐怖が薄れている気がする。


 でもそれと痛みを容認するのとはまた別の話だ。


「我無、大丈夫か?」


 クノスははケルベロスから目を離さずにそういった。


 俺は震える膝を右手で押さえ、左手を地面についた。


(……道はない、俺が受け入れるしか道はないんだ。それなら……やるしかないのなら、この状況を楽しんでやろうじゃねえかぁ!!!)


「やってやるよ。俺が死ぬまで、殴り続けてみろよ、できるもんならなぁッ!!」


「お!」


「お前と俺で、タイマン勝負、やろうじゃねぇかあああ!!」


「いいねえぇぇ!!」


 コートを脱ぎ去り、逞しい巨躯を晒すグリムス。


 挑発は成功した。


 後はやることやるだけだ。


 俺は前傾姿勢からの両手ウィンドで加速、恐怖を取り払うように空気を切り裂いて滑空移動した。



 ———



 戦闘が始まった。


「ファイアッ!!」


 グリムスの半歩手前まで詰めた俺は右腕からファイアを繰り出す。


 やつはそれに対し防御姿勢を取るまでもなく、俺の腹部を殴り上げた。


「ぐはっ!?」


「シールド纏えるの忘れたのかにいちゃん? もっと、おもしろいこともできるぜ!!」


 腹部を圧迫した腕が引かれると俺の身体も引き寄せられる。


「俺のシールドは沼だ。つまり、それを纏った俺の腕に触れればッ!!」


 右腕一本で軽々と俺の身体を持ち上げたグリムスは、


 重力に歯を食いしばる俺をそのまま地面に叩き落とした。


「ありゃ?」


「予想済みだよ、ばぁか」


 が、俺の背中が地面に叩き込まれることはなかった。


 ファイアの魔法で奴の視界を奪ったときに浅い泥沼を作っておいたのだ。


 それがクッションになった。


「へえ、読まれてたか。やるなあにいちゃん。でも、その状態からどうすんだ?」


 現在、俺の背中は泥沼に押さえつけられている。


 奴の拳は俺の腹部に粘着したままだ。


「ロックガン!!」


 奴の体表に張られたシールドに粘着され、岩の弾丸は動きを止めた。


 やはり、この技でも奴のシールドは貫通できない。


「だから、無駄だっつの」


 沼から俺の身体を引きずりだしたやつは、左腕の強烈な一撃を放つ。


 その軌道は俺の脳天。


 すかさず円盾を展開し、それを防いだ。


「弾くのはいいが、どこまで耐えられる? 根性見せてくれよッ!!」


 ニヤリと笑みを貼り付けたグリムス。


 俺の身体は腹部に粘着した右腕一本で持ち上げられている。


 今のやつにとって俺は吊るされたサンドバッグも同然だ。


 空いた剛腕で何度も俺の円盾を殴る。


 何度も、何度も、何度も。


 痛みは無いが、脳が揺れる。


 このままでは気を失うのは時間の問題だ。


「ロックガン」


「だから、それは無駄」


 脳を揺らされながら、何度もロックガンを放つ。


 が、水中で発砲された銃弾が速度を失うようにそれは奴の表面で止まった。


「ロックガン、ウィンド」


 円盾にヒビが入りそうなほどに、ボコボコに殴られる。


 その間俺は、ロックガンにウィンドで回転を加えシールドを抉るように発射した。


「ったくー、威勢だけかよにいちゃん。もっと、ガツンと一発逆転な技はないのか、よッ!!」


 奴の粘着した右腕が俺から外れる、それほどの威力で俺の円盾は殴られた。


 十メートルは飛ばされた俺の身体は、地面スレスレを滑空し衝撃と共に不時着した。


 俺は朦朧とする視界を辿り、地面に両拳をつく。


「まさか、これでネタ切れじゃないよな? にいちゃん?」


 俺は頭を振り、意識を取り戻した。


 痛覚無効、脳のリミッター解除、身体が馴れてきた……これならいける。


「あぁ、もちろん。こっからだぜ!! シールドやろう!!」


【スキルナンバー0025】


 脳のリミッターが外れている今、確かに聞き取れた。


 俺はウィンドで再び接近。


 地面スレスレを低空飛行する。


「おぉ?また、目眩ましか?」


 違う。


「バーストッ!!」


 両手から放たれた爆発。


 それはやつと俺の間の地面をえぐり取り、大量の土石がやつを覆った。


「なんだこりゃ!?」


 奴のシールドは沼。


 大量の土石はその沼に付着し奴の視界を奪う。


【スキルナンバー0035】


 スローモーションで見える世界、すべての知覚が加速する。


「ホローガウジ!」


 宙に巻き上げられた大量の土石が俺の腕に吸い付くように巻き付いた。


 俺はそれをウィンドでひたすら回転させる。


 磨きがかかり熱を帯びた鋭石は、俺の腕を焦がすほどだ。


 だが、痛みはない。


 俺はウィンドで小ジャンプ、奴のシールドに拳を振り下ろす。


 その殺気を感じ取ったグリムスは土の付着したシールドを解除、それを身に纏った。


「さっきの目眩ましには驚いたが、解除しちまえばどうってことは……ッ!?」


 俺の拳が奴の顔面にミートした瞬間、俺はやつを殴り飛ばした。


 正確には削り飛ばしたのだ。


 飛ばされたグリムスは訝しげな表情とともにゆっくりと立ち上がる。


「なにをした?」


「簡単だよ」


 俺は腕の周囲を高速で回転する鋭石を見た。


 腕を自分の身体に少しでも近づけるだけで、こちらが負傷してしまいそうな鋭利さがある。


 例えるなら掘削ドリルだ。


「こいつで、削り取ったんだよ。お前のシールドをな」


「破れないなら削り取るってか? やるじゃぁねえか!!」


 先程よりも目を輝かせるグリムス。


 やつが放った右ストレートを俺は寸前で躱し、


「ッ!!」


 アッパーを奴の顎にクリーンヒットさせた。


「もう一発ッ!!」


 両腕で俺を掴もうとする腕をかいくぐるように後ろに回避、顎に右ストレートを打ち込んだ。


「ぐはっ!?」


 もう一発。


「ぐっ」


 もう一発。


「グぁ」


「もぉ、いっぱつぅぅぅッ!!!!」


「ぐ……かッ———」


 全発を顎に命中させると、グリムスはその顎から血を垂れ流し、その場に倒れた。


 まるで土砂崩れのようにして、巨体が土煙を起こした。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 ものすごく頭が痛い。


 やったのか?


 勝ったのか、俺は。


 ぼやけだす視界に思わず目を瞑った。


 と、次の瞬間。


「あのときの続き……第二ラウンドだぜ、にいちゃん」


 突っ伏していたグリムスに俺は足を引っ張られ、思いっきり投げられた。


 反射的に歯を食いしばったことに感謝するほどの、物凄い重力が俺を襲う。


「いいぜ、いいぜ!! 俺をここまで一方的に殴ったやつは兄ちゃんが始めてだ!」


(限界が近い、もう時間がないか……)


 刹那的にそう思った俺は、グリムスに全力でタックルを食らわした。


 ドスッと巨大な山脈のような身体にぶつかる。


 俺の両脚では一歩も動きそうにない。


「おいおい、あせんなって、夜はまだまだこれからだぜ」


「あせってねぇよ。なんたって、地獄までの片道切符だからなぁぁッ!!」


 筋力で駄目なら魔法で。


 俺は全力ウィンドで奴の身体を一気にその場から押し出した。


 前傾姿勢でひたすら前に。


 向かう先は直線上。


「まのっぺ!!」


 俺は魔法を準備していたまのっぺに合図を出した。


「継脈展開ッ!!」


「クソッ、おッ、おいッ!! 何する気だ!! とまれ———グハッ!!」


 ドスンッと、ケルベロスにぶつかった。


 危機を察知したグリムスが俺の頭を殴るが、痛みはない。


「クノス!!」


 意地でもグリムス離さない俺は、そのまま今度はクノスに合図を出した。


「白滅流……断界!!」


 彼女が横薙ぎにすると、その刃から斬撃が飛んだ。


 彼女と対峙していたケルベロスの右側面の足は見事に輪切りにされ、その場に血を吹き出しながら体勢を崩した。


「———ッッ!?」


貫通咆哮(ペネトレーションロア)ッッ!!!!」


 タイミングは完璧だった。


 ピカッとその場が一瞬の光に包まれ、


 闇を焼き尽くす光線がグリムスとケルベロス、


 そして、俺を包んだ。



 ———



「起きたわね我無。喜びなさい。今回は死んでないわよ」


 目を開けると、しゃがみこんだフォルナが俺を見下ろしていた。


「そこに倒れてる人が、ビーム受ける寸前にあなたを蹴り飛ばしてたわよ」


 フォルナの目線を追うと、そこには焼けただれたグリムスが倒れていた。


 なんていうか、焦げてる。


 フォルナがグリムスに近づくと、右手をそっと向けた。


 すると、魔法陣がグリムスを覆う。


 その魔法陣から無数の鎖がグリムスの身体に巻き付き、彼をそのまま魔法陣の中に引きずり込んでいった。


「このケルベロスはどうしようかしら? やるだけ、やってみようかしら」


 上半身をごっそりまのっぺの光線によって抉られたケルベロス。


 まるで、チョコの型を切り取るかのようにその体にはトンネルが開通していた。


 その威力から察するに、焦げているだけで済んだグリムスの耐久力はかなりのものだということがわかる。


 先程と同じ動作で、同じ魔法陣、それにケルベロスの死体も飲み込まれてしまった。


「ほい、ほまへ」


「どうしたのよ我無、そんな顔しちゃって。私は高位悪魔なんだから、下僕を増やすのは当然でしょう?」


 俺はこの時初めて、この女が悪魔であるということを強く認識した。


「っていうか舌回ってないじゃない。もう喋らないで眠ってなさいよ。このまま屋敷に戻ったら盛大に打ち上げをしましょう。そうね。私は高級ワインを飲むわ! その間、まのっぺの角をスリスリして……」


「ほおい!! ふらふをはへるのは、ヤメロ!!」


 やはり悪魔、戦闘後のフラグ立てにも迷いがなかった。


「え? なに? もう全部スッキリ終わったわよ。敵もケルベロスもみんな戦闘不能なのよ。ここにはもう敵は居ないわ。そんな警戒しなくて……も……」


 俺の方を向いたフォルナはその場で硬直した。


 こいつがわかりやすいフラグ立てたせいだ。


 俺も倒れながら後ろを見ると、そこには無数のモンスターたちが目を光らせていた。


 この森の頂点に君臨していたケルベロスが死んだ今、


 次の王を決める戦いが始まろうとしていたのだ。


「ほまえ!! くのふをせおってにへろ!!」


「クノスを背負って逃げろですって?この高位悪魔がモンスターを前に逃げるなんて———」


「いいから、ボスの命令を聞いてください! このしょうわる悪魔!」


 クノスはケルベロスの足を切断したとき、その血しぶきを見て気絶していた。


 フォルナはそんな彼女をしぶしぶ背負う。


「我無、後でちゃんと復活させるからそこで待ってなさいよ」


「ボス!! 私はボスが死ぬまでお供しますよ! 残りの魔力でなんとか———」


「ひいんだ、はのっぺ。ほまえも、いへ」


「で、ですが……」


「 い へ 」


「ボ、ボス……私は、ボスの弟子でほんとに良かったです」


 涙を流しながらまのっぺはそう言い、フォルナと一緒に森の中へ逃げ出した。


「………………」


 感動的な逃走劇を演出したはいいものの、よだれをたらすモンスターたちの前に残されたのは満身創痍の俺。


 できることは一つしかなかった。


「まあああああああああああああふ!! はふへてえええええええ!!」


 彼女達を見送ると、ジリジリと近づいてくるモンスターの足音に助けを呼んだ。


 マーク!


 マークがまだ近くにいるはずだ!


 たすけて!


 たすけてマ―――――ク!!


 しかし、その声は届かず。


「「グルルルルルル」」

「「グギャン、グギャン」」


(ちきちょー!! 今回は上手く生き残れたのにぃぃッ!!)


 覚悟を決めた俺は、そっと目を瞑った。


 身体はもうピクリとも動かない。


 もうだめだこりゃ。


「「グルルルルルルルルーーーーッ!?」」


「「グギャン、グギャン、グッーーー!?」」


(……ん? あれ? うめき声が消えた?)


 今にも襲い掛かってきそうだったモンスターたちの声が突如消えた。


 おそるおそる目を開くと、そこに居たのは……。


「おつかれ二号」


 つまらなそうな顔をしたセエレだった。


 無表情でそういった彼女は俺に手のひらを向けた。


 すると彼女が指にはめた指輪が光った。


 なんだか身体がぽかぽかする。


 多分回復のマジックアイテムかなにかなのだろう。


「あ、あ、あ、お! 戻った!」


「あなたは使用試験に合格した。屋敷に戻ろう。色々話したいことがあるんだよね」


 試験?


 試験って一体何のことだ?


 いや、それよりも今は。


「セエレ様、そんなことよりもさっきのモンスター達はどこに?」


 俺が聞くと、背中側に俺を壁にするようにスッと回ったセエレ。


 彼女は人差し指を空に向けた。


「え? 上?」


 数秒後、数体のモンスターが暗闇から地面へと落下してきた。


 ベチョッ。


 グチョッ。


 グシャッ。


 俺はそのぺちゃんこになったモンスター達の血を全身に浴びた。


「次は落ちてくるって、ちゃんと言ってくださいね」


「留意しとく」


 こうして、今までで一番長い夜は終わりを迎えた。

最終話が思っていたよりも長くなってしまいました。すいません。

これにて一章完結です。

面白かったら評価と感想、作品の応援よろしくお願いします!

明日から二章「弱小聖女編」スタートです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ