第11話 逃げるは恥だが俺は好き
まのっぺの後を追いかけ裏路地を走る。
目に入ったのは少女を袋に詰め、それを担ぐ人攫いの後ろ姿だった。
まずはアイツの動きを止める。
「ロックウォール!!」
そう考えた俺は地面に手をつき魔法を発動。
石でできた壁が奴の逃げ道を塞いだ。
サンドウェーブで沼を作ってもよかったが、下が地面ならまだしも、石畳でできたこの路地ではたぶん発動できない。
「よしまのっぺ、いいか。まずは敵の動きを止めて……ってあれ?」
人攫いの進行方向に展開した壁は、まるで小さな子供が積み上げたブロックを崩すかのように破壊された。
いや、通り抜けられたと表現したほうが近いかもしれない。
やつはまるでそこに壁など無かったかのように速度を落とすことなく進み続けている。
「ボス!! 相手の動きがまったく止まりません!!」
「わっ、わかってるよ。なんなんだアイツ、めっちゃ硬いのか? それともなんかの魔法か? とにかく、アイツが走るのをやめるまで続けるぞ!」
幸い、人攫いの走る速度はそんなに早くなかった。
まのっぺでも追いかけれるほどだ。
だが、
「ロックウォール!!」
ゴガンッ!!
「ロックウォール!!」
ゴガンッ!!
「ロックウォール!!」
ゴガンッ!!
「ロックウォール!!」
ゴガンッ!!
「なんなんだよあいつ!! 走る速度遅いくせに、全然止まらねぇ!!」
あーくそ、なんかイライラしてきたぞ!
無言で俺の壁壊すのやめろよ!
せめてなんか反応しろ!
「ボス! ビーム打ちますか?」
「ばか、ここでお前の必殺技使ったら、家ごとこの街をきれいに貫通しちゃうでしょうが」
どうする?
やつは俺の魔法じゃ止まらないぞ?
助けを呼ぶか?でもどうやって?誰に?
「ボス! こういう時はどうしたらいいんですか?」
まのっぺはいつの間にかメモ帳を取り出し、俺の教えを求めている。
「こうなったら、アレ、しかないな」
「アレ……ですか?」
物理手段じゃ止まらない敵、それを止める方法。
それは!
「現状俺が持つ情報をフル活用し、奴の目的を推測、そしてその推測から奴のツボを上手いことついてやる」
外れたときの恥ずかしさは尋常じゃないけど。
「おお!それはなんという技術?なのでしょうか!」
「人はこれをハッタリという」
「ハッタリで敵の動きを止める……と」
メモ帳にメモしたまのっぺはさておき、俺は前を走るやつに向けて声を出す。
意味ありげにね。
「魔女の復活……」
「!?」
やつの頭が若干ピクリと動く。
「その器となるべき者たちの回収……」
「!?!?」
少しづつ走る速度が遅くなる。
「影に潜み、世界を操る集団……そうなんだろう?」
意味ありげに、意味ありげに言うのが重要だ。
「……はッ、とうとう、俺たちに気がつく人間が現れたか…………」
徐々に走る速度を緩めた人攫いは、その歩みを止めた。
わーほんとに当たってた。
ほんとに魔女復活を目論む集団だったのか。
あとで、あのベストセラー本を紹介してくれたフォルナに感謝しないとな。
とにかくやつの動きは止まった。
ここからが本番だ。
俺はまのっぺに小声で指導する。
「まのっぺ、いいか、よく覚えとけ。人間なんてのは大抵他人に認められたくてしょうがないかまってちゃんばっかりなんだ。それは、裏で暗躍する秘密組織のメンバーだろうがかわらない。いや、そういう奴らほどかまってちゃんだ」
「ふむふむ、なるほど、人間はかまってちゃんばっかり……と」
「だからな、そういう奴らは本当は喋りたくって仕方がないんだよ。自分たちがいかに凄いことをやってるのかってことをな。だから、気持ちよくさせてやるんだ」
「敵をきもちよくさせる……と」
そこまで伝えた俺は、まのっぺにこれからの作戦を伝えた。
そして、フードを深くかぶる人攫いとの会話を始める。
「俺は近年増加している行方不明者、その要因を探っている者だ。ある人物の依頼でね。この街には瞬眼のセエレに話を聞きにやってきた」
もちろん嘘だ。
ある人物の依頼ってのがミソだよ。
あと、大物の名前を出すとリアリティが増すよ!
ごめんねロリボス。
「ハッ、ある人物の依頼……ねぇ。まさか、あいつらやっとこ動き出したってことか。こちとら大々的に広報活動してやってんのに、ちっと遅すぎやしねえか」
やはりこいつ、よく喋る。
俺の言葉から勝手に推測してくれる。
きっと今まで日の目を見ずにこうやってちまちま影で活動してたんだろうなぁ。
それで地味な活動に対し結果が出ないで、もやもやして、俺たちがやってることに本当に意味はあるのか、とか悩んでたんだろうな。
まあ、知らんけど。
「ああ、それで俺は独自調査の結果、ある推測にたどり着いた。それがさっき伝えたキーワードだ。魔女の復活、その器、影で暗躍する魔女崇拝組織……」
声のトーンを下げて、意味ありげにね。
キーワードを散りばめて繋げてもらおう!
「いやぁーあっぱれ。にいちゃんなかなか鋭いな。大体あたってるよ。だがなぁ、ちっと惜しいな」
「惜しい? まあ、それに関してはお前をここで倒して、拘束し、尋問すればわかることだ」
ここで、その惜しい部分に関して詰めちゃだめだ。
あくまで相手を気持ちよくさせなきゃいけない。
自然にね。
それで大抵こういう時、作戦を知ってほしくてしょうがない悪役が使う言葉がある。
「俺を倒して拘束? いや、それは無理だよにいちゃん。だから特別、冥土の土産に教えてやるよ」
ハイキター!
冥土の土産宣言!!
俺が中学生の頃、悪の組織に加入したら絶対使いたいと思っていたワードベスト10入り。
「なんだと?」
俺は内心ガッツポーズをしつつ、目を細めて聞き返した。
意味ありげにね。
もうちょっと声のトーンを下げたほうがいいかな……。
「俺達は確かに、魔女復活を目論んではいる。だがなあ、別に魔女を崇拝してるわけじゃねえ。俺たちが求めてんのは魔女の召喚する魔神の方だ。そいつに龍族を殺してもらって、龍封の地を開放する。ここまで言えばわかるだろ?」
ここで顎に手を当てて、
「……なるほどな」
と呟く。
まあ、全然わかんないんですけどね。
龍封の地ってなんなんですか?
情報少なすぎなんですけど。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
演技を続ける。
「魔神を利用して、龍族を滅ぼす? ……そして、龍封の地を解放……なっ、まさかッ? お前たちッ!?」
俺は迫真の演技を見せつけた。
頭の中にある点と点が繋がって一本の線になったときのあの驚愕顔だ。
まあ、俺の頭の中はからっぽなんだけど。
そんな俺の顔を見て、まのっぺはメモをがしがし取る。
「そのまさかだよ、にいちゃん」
そのまさかなんだぁ。
「龍封の地を開放し、龍族の支配からこの世界を解き放つ。そうすりゃ、今の生ぬるい世界は終わりだ」
「つまり……ッ!?」
俺は口を手で抑えた。
受け止めきれない情報が今にも口から溢れそうな感じで。
「ああ、つまり、真の意味で弱肉強食の世界になるってことだなあ!!」
そう言って人攫いは、これでもかといわんばかりに上半身のコートをバッサァァ! と取り払った。
目に写ったのは筋骨隆々、半人半魔な生物だった。
といってもその言葉から連想される醜い化け物というビジュアルではない。
半人半魔とは言うが、人間8魔物2くらいの割合で融合してる感じ。
男の子10人に聞き取り調査すれば8人はかっこいいと目を輝かせるくらいの見た目だ。
後ろ姿を見ていてガタイがいいとは思っていたがそういうことか。
おそらくこいつは甲殻モンスターかなんかの血が混じってるんだ。
その証拠に、強固な鱗のようなものが手の甲や額に見える。
「ぺらぺら喋ってくれてどうも、半人半魔さん」
「さっき言っただろう? 冥土の土産だと。顔も晒した以上、お前らは生きて返さねえ。俺の名前はトー・グリムスだ。あの世で俺に殺されたって自慢しといてくれよ?」
少女が詰められた袋を後ろに背負ったグリムスは戦闘態勢に入る。
武器は持っていない。
魔法使いか?
「まのっぺ? 準備はいいか?」
「十分です! ボス!!」
小声でまのっぺの確認を取った俺はシャキーンと円盾を展開した。
俺はじりじりと距離を伺う。
だが、相手も詰めてくる気配がない。
とりあえず相手に何かしら攻撃を出させないと、その後の動きを組めない。
「こないのか? にいちゃん?」
「グリムス、お前俺のこと誘ってるだろ?」
「ああ、誘ってるぜ。カウンタータイプなんでね。でもまあ、ここまで言って詰めてくることはないか、それならそれで……」
「いくぜぇ!! おらあああああああああ」
今、思い出した。
俺死んでも復活できるじゃん。
それなら突っ込むのが手っ取り早い。
少女も救出しなきゃだしな。
「くるかッ!! いいねえ。その度胸!!」
俺は両手から出したウィンドで一気に距離を詰める。
体格差はかなりある。
だからまずは。
「ファイアボール!!」
逆噴射ウィンドで急ブレーキ。
目潰しも兼ねた、ファイアボールを近距離で打ち込んだ。
「アブソードドーム!!」
が、俺のファイアボールは奴の周囲に展開されたドーム状のシールドに飲み込まれた。
「驚いたかにいちゃん。俺のシールドは魔法を弾くんじゃない。飲み込むんだぜ。そして、こんな使い方もできるッ!!」
シールドを展開したまま、一気に詰めてきたグリムス。
俺はウィンドで距離を取るが、足が奴のシールドに触れた瞬間、動きが止まってしまった。
足がハマって動けない。
「はい確保。残念だったなあ。にいちゃん。俺のシールドに触れると沼にはまったみてえになるんだ。あとは、ナイフでその身体をグサリ、グサリ、簡単なお仕事ってわけよ」
なるほど、このシールドは防御と拘束を兼ね備えているということか。
拘束したら、取り込んだ身体の部位だけシールドの中に入れて、ナイフで刺す。
なかなか凶悪だ。
だが、接近戦を俺に挑んだのが間違いだったなあ!!
「来い、まのっぺ!!!」
片足を引っ張られながら、俺は地面にドンっと手をついた。
そして、ロックウォールをまのっぺの足下から展開し、こちらに飛ばす。
シールドの外に出した上半身で、宅配されたまのっぺの角をキャッチした俺は、それをかかえ、シールドの中に自ら入り込み……。
「!?」
「喰らえ!! ゼロ距離魔族っ子固定砲台ッ!!」
「貫通砲!!」
こっそり魔法を展開させていたまのっぺに超至近距離特大ビームを発射させた。
もちろんちゃんと角度も計算済み。
真下からのこの角度なら街に被害は及ばない。
目の前を目一杯の光の柱が包み、奴の身体に直撃した。
しかし。
「……ハッ!! 残念、にいちゃん。威勢はよかった。が、もちろん、拘束した敵がシールドの中に自ら入って反撃してくることは多々ある。だから、もちろん対策済みだ。展開したシールドを、こうして自分の体に纏うことでな!!」
おそらく、展開していたシールドを一瞬で縮め、自分の身体の周囲に纏ったのだろう。
それで身体をまのっぺビームから守った。
その証拠に俺は拘束から解かれていた。
このまま、こいつを倒せればそれが一番良かったのだが。
「おい!! 少女!! さっさと走って逃げろ!! このおっさん、そんなに足はやくねえから!!」
「ん!?」
対策はあったとは言え、あの至近距離であのビームを食らうのは初めてだったのだろう。
そのため、グリムスは腕をクロスして反射的に自分の顔を守っていた。
腕をクロスするということは、片手で背中に抱えていた少女袋はストンと地面に落ちるわけで。
「あ! おいっ! 逃げんな!!」
サンタクロースばりに袋の口がゆるゆるだったのか、袋から転がり出てきた少女は走って逃げ出していた。
「ふっ、狙い通りだ」
「流石です!! ボス!!」
「にいちゃん、まさかここまで狙って……」
立ち上がった俺は膝を両手でパンパンと払い、一仕事終えましたって感じで余裕の笑みを見せた。
「ああ、その通り。これで気兼ねなく、お前と殺り合える」
俺は手をポキポキと鳴らす動作をする。
音はでなかった。
「……いいねえ。最近はこんなちまちました仕事ばっかでな。俺も本気でやりたいと思ってたとこなんだ。あんなガキもうどうでもいい。さあっ!! 二ラウンド目といこうぜ!!」
ポキポキと全身の関節を鳴らすグリムス。
俺はそれに対しじりじりと体勢を立て直し、ファイティングポーズをとった。
彼の言う通り二ラウンド目に入ろうという雰囲気を漂わせた俺は……。
ダッシュッッ!!
まのっぺを抱え、全力ウィンドで逃げ出した。
「……は!? え? にいちゃん?」
(ムリムリムリムリ、あんなに対人戦闘慣れしたやつに勝てるわけないじゃん!!)
逃げるでしょ。
逃げ一択でしょ。
裏路地を全力ウィンドする俺、ちょうどこちらに向かってくる数体のゴーレムが見えた。
「キョウリョクナマリョクハンノウアリ、キョウリョクナマリョクハンノウアリ」
MK.0殺人ゴーレムたちだ。
「ちくしょおお!! 騙しやがったなてめえ!!」
後ろからの悲痛な叫びに耳を塞ぎながら、俺は全力で逃げる。
すると、首にぶら下がったまのっぺからこんな発言が。
「ボス!! これは敗走なのでしょうか?」
「少女は助けたんだ。目的を見失うなよまのっぺ。逃げるのが大事な時もある」
「なるほど、勉強になります!! 逃げ腰が大事……と」
(ばか、俺はなるべくイージーゴーイングな生き方目指してんだよ)
そうして俺たちは無事少女を解放、屋敷に帰ることができた。




