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【二章完】トライあんどエラーを拳で!?  作者:
第一章 でこぼこチーム編
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第10話 「こんな勇者は嫌だ」年間最優秀賞受賞者はお前だ


「ここは……寝過ごしたか……」


 俺は無人駅の待合室、そのベンチの上に座っていた。


 窓の外には青い空と、もくもく入道雲、そしてきらめくコバルトブルーな海が広がっている。


 潮の香りがツンと鼻腔を刺激した。


 身につけた制服といつのまにか掛けていた眼鏡に若干驚きつつ、それをクイッとした。


 俺は目をつむり、波の音を聞き取ろうと耳を澄ます。


「我無……がむ?」


 心地よい声が鼓膜に伝わる。


 そっと目を開け、隣を見た。


「こんにちは、我無。どうでしょうか? 制服というものを着てみたのですが」


 そこに居たのは、制服に身を包んだ天使……いや、堕天使だった。


 夏によく似合うセーラー服、スカートの下からは瑞々しい太ももが覗いていた。


「とてもお似合いです。サリナス先輩。今日はもう補習は終わったんですか?」


「先輩…補習…なるほど、今日はそういう設定なんですね。……こほんっ、はい、なんとか、ギリギリでしたが」


 そう言って彼女は、はにかんだ。


 俺たちは公立伊勢海高校に通う学生だ。


 俺が一年で、先輩が二年。


 先輩とはこの無人駅で知り合ったのだ。


 俺たちはどんな関係なのかって?


 放課後、最初はぎこちない感じだったのが、回数を重ねるごとに徐々に話し始めて、いつからか同じアニメを見てるのが発覚して、会話が弾んで、連絡先を交換して……今は気負うことなくお互いの悩みや、楽しかったことをこの無人駅で共有する……そんな関係だ。


 あはは、なんだか自分で言ってて恥ずかしいな。


「電車が来たみたいです。我無、行きましょう。あっ!」


 駅のホームに向かう彼女は、足をつまづき、カバンの中を床に放り出してしまった。


「まったく先輩ったら、拾いますよ」


 俺は先輩のカバンの中身を一つずつ、丁寧に拾い上げる。


 おいおい、筆箱の中身まで出ちゃってるじゃないか。


 まったく、先輩はおっちょこちょいだな。


 ハハッ。


 シャーペン、消しゴム、教科書、ちょっとしたお菓子、コスメポーチ……。


「ん?」


 しゃがみこみ、バッグにせわしなくせっせこ落ちたものを詰める先輩。


 彼女に拾ったものを手渡していると、あるものが目に止まった。


「この写真は……誰ですか?」


 彼女の定期入れに入っていた一枚の写真。


 そこには、うちの制服を着た美しい女性の横顔が写っている。


 窓際で頬杖を付き、思慮深そうで浅い目を外に向けていた。


 ピントもうまく合ってないし、逆光だし、急いで取ったのだろうか?


「それは、三年のフォルナ先輩ですよ。我無もよく知っているでsy」


「うがっ!! し、心臓が……ッ!!」


 俺は心停止寸前の人みたいな形相で胸を押さえた。


 嫌だ、あいつのことはもう一ミリたりとも思い出したくないのに。


「あ、そろそろみたいなので、思い出してください」


「……はい」


 茶番しゅうりょう。


 まあ、こんな感じでいつも俺の目が覚めるまでサリナスと一緒に遊んでるわけだ。


 心の回復のためにね(涙)。


 サリナスが舞台設定、俺がランダムでそれに脚本設定、みたいなかんじ。


 俺は床に胡座をかき、眼鏡をぽいっとどこかに投げ捨てた。


「そういえばサリナス様、どうしてフォルナはあんなに角、角、言ってたんですか?」


 フォルナがまのっぺの角に興奮していた理由を聞いてみる。


 高位悪魔様があんなに興奮するなんて珍しいからな。


「それはですね。どうやらフォルナ様は契約で、角と翼を出しちゃいけないことになってるみたいなんですよ。悪魔だとバレると面倒なことになるかららしいです。でも、天使や悪魔にとって翼や天使の輪、悪魔の角はトレードマーク。いつもそこにあるはずのものなので、それが普段無いとなんていうか……うずうずするというか」


「禁断症状?」


「そんな感じです」


 なるほどね。


 それで、あんなに角に敏感になっていたわけだ。


 クノス談だが、この世界では悪魔や堕天使との交流は禁じられているらしい。


 それで、セエレはフォルナに角と翼を隠すよう命令したんだな。


 たぶん。


「我無、そろそろみたいです。準備はいいですか?」


「はい。もちろん」


 立ち上がった俺たちは、ホームに向かって歩き出し、始発電車に乗り込むのだった。



 ———



「起きたのね。我無。部屋はこの通り、隅々までピカピカよ」


 高圧的な口調でフォルナは言った。


 用意周到だなこいつ。


「おい、今回の死因についてなにかいうことあるだろ」


 掃除道具一式を揃え、机を拭いていたフォルナ。


 彼女は悪びれもせず、我を通そうとしている。


 このまま押し切ればいける、そう思っているのだろう。


「なあフォルナ様、これは前サリナスから聞いたんですが、あなた、こっそり俺のサリナス日記読んだみたいですね」


 ギクッとしたフォルナはそれを隠すように、ゆっくりと椅子に腰を下ろして足を組んだ。


 サリナス日記とは、俺がこの殺伐とした実験生活の中で、心の拠り所として作ったサリナスとの思い出の日記だ。


 そこには俺の幸せな日々が綴られている。


「そ、それがなにか? 私は悪魔なんだから、ぬ、盗み見くらい、しちゃうわよ? 別に悪いことした気はないわ。まったくね」


「なぜだ?」


「だ、だから、それは……」


「そこに正座」


 俺が床を指差すと、フォルナはそこにぺたりと両膝をつく。


「なぜですか?」


 フォルナを見下ろしながら俺は問う。


「だ、だって、最近サリナスが我無の話ばっかりして、私のこと敬ってくれないから……褒めてくれないから……な、なにしてるのかと、き、気になっただけよ!!」


 こいつなかなか謝る気配を見せない。


 悪魔プライドだけは一人前か。


 それなら……。


「そういえば最近、食堂にあるものが数量限定で入ったらしいんですが、ボルンってとこ特産の極上ワインらしいです。それで俺、あなたとの賭けで取っておいた、使ってない食費配分券を結構持ってるじゃないですか?」


「まさか……だめ、それだけはやめて……」


 正座するフォルナの目が徐々に涙ぐむ。


「だから、これから毎日食費の配分は俺が8でフォルナが2にします。そのワインの在庫が切れるまでなぁ!!」


「今回のことは謝るわぁ! この通りよ」


 高位悪魔様は見事な土下座をする。


 俺はその姿を見てフンッと鼻を鳴らした。


「我無? 許してくれたかしら? いや、別にあなたの顔色を伺っているとかじゃないのよ。そんなこと私はしないわ。悪魔だもの。ただ、ほら私たち二人部屋で生活してるわけだから、人間関係のほつれは……」


「おい!! ……もう怒ってないよ。禁断症状なんだろ?」


 俺は笑顔で返答。


「が、がむううぅ」


 フォルナも膝をついたまま涙目で笑顔。


 喧嘩するといつもこんな感じ。


「我無! 大変だ!! まのっぺが……って、一体この状況は……ま、まさかッ!?」


 バンッと扉を開けたのはクノスだった。


 今の俺達の状況(土下座したフォルナとそれを見下ろす俺)を見ると、口に手を当て早口でぶつぶつ喋りだした。


『これは一種のSMというやつなのか? 我無とフォルナの関係は私よりも長いということはいささかねじれた関係になっていてもおかしくないということ? いやでもそれにしてはどうして悪魔であるはずのフォルナが土下座をする側なんだろう…普通はSの側が悪魔になるはず…はっ、これはあの本で読んだマンネリ解消術? 攻めが受け受けが攻めにまわることで今までにない新鮮感を、未知の領域をあじわうことができる? さらに相手の立場に立つことでより理解も深めることができる…一石二鳥、一挙両得、それでこの土下座という状態へと至った…と』


 なんだかよくわからない結論に至った時、クノスの耳は既に赤く染まっていた。


 おーい。


 全部聞こえてますよー。


「クノス、勝手に興奮してもいいけど、鼻血出てます」


「あ、えっ、鼻血ッ……! はわッ」


「おいっ!!」


 自分の鼻血を見て失神したクノス。


 俺はそれを見事にキャッチした。


 何このむっつり魔剣士、いつのまにか自分でお湯入れて自分で沸騰できるようになってるんですけど。


 目覚ましい成長だなおい。


「はぁ、俺は復活したばっかだってのに、せわしないなまったく。よっと」


 俺はクノスをおもむろに自分のベッドに寝かせた。


「じゃあフォルナ、俺はちょっと寝るから、二度と俺のサリナス日記読むんじゃありませんよ。わかりましたね」


「わかったわ。悪魔に二言は無いから安心なさい」


 ほんとにわかったのか。


 まあいい、寝よう。


 クノスにはもうちょっと奥にいってもらってっと。


「二号。何してる?」


 ベッドに足をかけたその時。


 後ろを振り向くと、音もなくセエレが現れていた。


「いやぁ、ちょっと寝ようかと」


「じゃあクノスは邪魔だね。私がベッドまで送ってあげる」


 セエレがそう言った瞬間、クノスはパッと消えた。


 クソッ、もう少しでいざこざに乗じてクノスと添い寝できそうだったのに!!


 きいっ!!


「そういえば、マンドラ・ノルガール・ペゴアが街に脱走したけど、どうする?私は別にもうどうでもいいんだけど。とりあえず、伝えておく。それじゃ」


 彼女は円盾を渡すと、そう言って消えてしまった。


(まのっぺが脱走しようが、街に逃げようが、俺は別に構わないんだが……?)


「なんですって!? 角逃げちゃったの?」


「おい、角言うな」


「我無、私あの角味わちゃったら、もう他の突起物じゃ満足できないわ。なんとかなさい。これは高位悪魔の命令よ」


 フォルナは床に正座しながら真剣な目で訴える。


「いやだよ。おれもう疲れたもん。寝させておくれよ」


「ふふふ。それならいいわ。あなたのサリナス日記に書かれていた内容、印刷してこの世界にばらまくから。そしたら我無、あなた実験生活が終わっても、外に出られなくなちゃうけど、それでもいいかしら?」


 ぐぬぬ。


 おそらくフォルナはあの日記に書かれている内容が世に知れれば、俺は恥ずかしくて外に出れなくなると、そう考えているのだろう。


 日記には日本語で記述しているが、この世界には日本語が読める人もいるらしいし。


 確かに日記の内容は、人によっては鳥肌が立ち、頬が赤く染まり、二度と開くことの無いタンスの引き出しにしまい込みたくなるようなことも書かれている。


 が、


 別にそれが公開されても俺は前を向いて胸張っていきていく自信がある。


 それは問題ない。


 でも、この世界では悪魔や堕天使との交流には厳しい罰が下るという話をクノスにしてもらったし……クソ。


 それが本当なら、俺の老後生活に支障が……。


「わかった。見つけてくるから、公開するのはやめてくれ」


「ふふーん。我無、これが高位悪魔の 交 渉 術 よ」


 そう言って彼女は立ち上がり。


「さあ我無! 我が忠実なる下僕よ!! 角を探してきなさい!」


「あーはいはい、って、だから角って言うな」


 腰に手を当て見下ろすポーズを取るフォルナの命令に、俺は適当に返事をして部屋を後にした。



 ———



 屋敷から出たのはこれが初めてだった。


 特に外出する理由も余裕もなかったし。


 空を見ると明け方で、日が昇ろうとしているところだ。


 広い庭を歩いて、死ぬほど長い階段を降りるとやっと街に出た。


 探すっていってもどこから探せばいいのやら。


 こういう時は家出の理由から考えてみるか。


「多分、まのっぺはボスだと慕う俺を、あのビームで撃ち抜いたことを気に病んでるんじゃないか?」


 なんで、ボスだと慕われているのかは疑問だが。


「それで、屋敷に居られなくなって飛び出した」


 ってことは、まのっぺは今相当落ち込んでるはずだ。


 落ち込んだ人間が行く場所は、うーん。


 と考えながら歩いていると、ベンチで食事をしているまのっぺが目に入った。


(まだ屋敷から出て5分も歩いてないんですが……)


 彼女は地面につかない足をぶらぶらさせている。


 そして、頬をリスみたいに膨らませながらサンドイッチをぱくぱく食べていた。


 全然落ち込んでねぇじゃん。


「おーい、まのっぺ。なにしてるんだ?」


「あ、ボふ。すこひ、おちこんへたので、ゴクンっ、結界もなんか解かれていたので、外でお腹を満たそうと思いました」


 あー、落ち込んでたのね。


 魔族のことなんて一切分からないし、態度で判断するのはよくないのか。


 っていうか結界ってなんのこと?


 もしかしてセエレ、俺たちが脱走できないようにそんなもの張ってたりするのか?


「それ、美味しいの?」


「ボスも食べますか?そこの自販具で買えますよ」


 自販具!?


 異世界に自販機みたいなのがあるのか?


 自販機の魔道具バージョン!?


 と思いながらまのっぺの指差す先を見た。


 確かに自販機みたいなのが置いてある。


 なんか簡略化されたロゴで食べ物が表示されてる。


 そうか、今までずっと実験ばっかだったからわからなかったけど、別にこの世界の文明レベルが俺が居た世界よりも低い理由なんてないよな。


 まあ、文明レベルってやつを科学技術以外で測るとすればの話だが。


 この世界には魔法があるわけだし。


 まさか中に魔法使いが入ってて手動で稼働してるわけじゃ無いよな、と思いながら、まのっぺに頼んで一番安いやつを買ってもらった。


「まのっぺ、少し歩こう。お前の話を聞かせてくれ」


「わかりました。ボス」


 落ち込んだ人間をそのまま連れ帰っても意味ないし。


 せっかく外にいるんだ、散歩でもしながらリフレッシュしようじゃないか。


 清々しい早朝の空気を飲み込みながら、ゆっくりぶらぶらしよう。


 と思い一歩踏み出したところで。


「私は勇者になりたいんです」


「!?」


 本当に、ほんとうに唐突にまのっぺは語り出した。


 彼女は会話のテンポ感を考えないようだ。


 こういうのはもっと、ワンクッション入れてから会話を進めて行くのではないだろうか。


 とはいっても、エイリアンの気持ちを考えてもしょうがない気がするのでそのまま話を聞く。


「強力なモンスターを倒して、全生物からチヤホヤされて、美味しいものタダでたくさんもらって、まのっぺさん流石ですって言われたいんです」


「清々しいくらい欲望に忠実だな」


「だから、挑んだんです。瞬眼のセエレに。彼女に弟子にしてもらえばきっと勇者になれると思ったんです。交換条件は私が勝てば弟子に、負ければ実験体にするとのことでした」


「そりゃまた容赦ないなあの人。で、負けたと」


「はいボス。全く歯が立ちませんでした。それで牢屋に閉じ込められて、少し考えたんです。そして、思い出しました」


「なにを?」


「私が勇者を目指すきっかけになった本です! それがこれです!」


 それはまのっぺがずっと大事そうに持っていた分厚い本。


 俺が聖典だと思っていたものだった。


 その本の表紙裏に付録のような形で、本がくっついてる。


 おそらく、魔法発動の際に利用するページとはまた別なのだろう。


「私にとって、ここに書いてあることは教えであり教義なんです。だから、これを何度も牢屋で読み返してました」


 自分にとっての聖書、バイブルか。


 俺もそういうの持ってたし、気持ちわかるなー。


 この世界ではサリナス日記に当たるな。


「それで、この本に書いてあるんです。『勇者にとっての師匠とは、とてつもない魔法をつかうものでもなければ、巨大な岩を一刀両断する剣士でもない、力と勇者の格は比例しない』と」


 おーなかなかいいこと言うじゃないか。


「『それは、黒髪黒目の人間だ』、と」


「は?」


 いまなんて?


「『黒髪黒目の人間は異世界からの転生者である可能性が高い。彼らは独特の感性と考えをもっており、なにより勇者である僕の師匠が転生者だ。だから、師匠にするなら黒髪黒目一択だ。これは実体験だから間違いない』と書かれてるんです! 証拠もちゃんとあります!」


(おい。それ書いたの誰だよ)


 と思いながらその証拠とやらを見る。


 写真が載ってた。


 確かに日本人っぽい顔のおっさんと剣を持った白髪の少年が写ってる。


 でもなんかこのおっさんどっかで見たような、日本人だからか?


「勇者の師匠がそうなら間違いないと思っていたところに、ボスが現れたんです! もうこれは運命だと、黒龍が落とした涙だと思ったんです」


「まさか、それで……」


「はい! だから、ボスはボスなんです!! それなのに私は、ボスの足を引っ張ってしまい、えーっと、いかんのねん? でいっぱいなんです。あ、そのパンもらってもいいですか?」


 お腹をすりすり擦りながらまのっぺは言う。


「え? いやだけど、まだ食べてるし」


「でも教義なんです!!」


「えっ? あ、そうなの? じゃあはい、どうぞ」


 突然の気迫に思わず従ってしまった。


「感謝します!! ボス!!」


 その本の作者にあったらしばき倒してやる。


 そう俺は決意した。


「なるほどな。だいたいわかったよ。まのっぺの信じるものに対してとやかく言うつもりはない」


「わ、わかっへもらへましたか、ボふ!」


 まのっぺは口に俺が食べかけてたパンを頬張りながら言った。

 飲み込んでからしゃべれ。


「それに、お前のビームで俺が死んだことも別に怒ってない。あれはフォルナが悪かったしな。ちゃんと後で謝るよう言っておくよ」


「感謝します、ボス!!」


 勇者を目指す魔族っ子、いいじゃないか。


 ちょっと、頭のネジが外れてる気がしないでもないが。


 まあそれも人間基準、しかも現代日本基準の話だしな。


 信じるもののために黒髪黒目の俺がボスでなければいけないというなら、それくらい受け入れてやろうじゃないか。


「私、前にも腕試しに貫通咆を放って、街のじゅうよう? な建物を壊して、指名手配されたことがあるので、ボスも怒ってないか心配でした! でも、きゆうだったみたいです!! ボスは懐が広いです!!」


 前言撤回こいつ相当やばいわ。


 う、うけいれなきゃ、い、いけないの?


 おれ?


 このバーサーカー、『教義なので』とか言ってこの街破壊したりしないよね?


 俺はまのっぺを言葉にできない複雑な感情で見つめていた。


「きゃあああああああああ!!」


 と、突然。


 悲鳴が人通りの少ない道に響く。


 俺たちは揃ってそちらを向いた。


「トーナァァァァ!!」


 悲痛な叫びを挙げる少女に、路地裏に逃げ込むローブを着た男と、その脇に抱えられたトーナと呼ばれた少女。


 わかりやすい誘拐イベントが発生していた。


 そして、その光景を見ていた勇者志望のまのっぺが何もしないはずがなく。


「ああ、もうクソッ!! 受け入れる。受け入れてやるよぉ!!」


 俺はまのっぺの後を追うようにして、走り出していた。

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