第0話 異世界からのご挨拶(緊急)
拝啓
まのっぺが人のホットコーヒーを勝手に飲み干し、フォルナが寒いからと俺の部屋から毛布を持ち出し、クノスが寒空に頬を赤らめながら外で剣を振る季節となってきました。
お父さん、お母さん、ご無沙汰してます。不肖、息子我無です。
こうやって手紙を書くのは何年ぶりでしょうか。時間に余裕ができたので、久しぶりに書くことにしてみました。
さて、先に謝っておきます。この度は大変申し訳ございませんでした。どうやら僕は、そちらの世界での天寿を全うできなかったようです。
突然二人が交通事故でいなくなったあの日、まだ幼い僕は叔父さんに、「人生に予告編などない」と、言われたことを覚えています。
そして今、その言葉を痛いほど痛感しております。
部屋の中でぐーたらと自堕落な生活を満喫していたにも関わらず、いきなりこんな場所であんなことをする羽目になってしまったのですから。
朧気ながら夢見ていた異世界生活は、思っていたよりも簡単なものではなかったようです。
「あっ! お前! また勝手に俺のコーヒー飲みやがったなまのっぺ!! 飲むのはいいけど、全部飲み干すのはやめてくれっていつも言ってるだろうが!!」
こうやって手紙を執筆している今も、傍らに置いておいたコーヒーがマグカップごと持っていかれてしまいました。まったく手のかかる怪獣です。
この世界から僕は、男として、一人の人間として、人生の在り方を問われているのだと思います。
苦しいときもありますが、心配しないでください。
お父さん、お母さん、大切な人たちのことを思えば、どんなに苦しい状況でも頑張れます。
だから……。
「ねえ、我無~? 私がとっておいたチョコケーキ知らない? ……はっ! あなたまさか、私に内緒で勝手に食べたでしょ!! 言い逃れしようとしても無駄よ! ここにチョコケーキのカスが落ちてるわ!!」
「さっき頬っぺた膨らましたまのっぺが、お前のチョコケーキを俺のコーヒーで流し込んでたからたぶんそれだ。フォルナ、俺は今執筆中だから邪魔しないでくれ……」
「あらそう」
すみません。隣の悪魔がうるさかったですよね。
今度こそ大丈夫なはずです。
だから……。
「なあ我無? 新しく絵を描いたから見て欲しいのだが……あ、取り込み中か。すまない」
「…………」
空気が読める人間が一人はいて安心しましたか?僕は安心しました。
とにかく、これでもう邪魔は入らないはずです。
続けます。
天国にいる二人には、僕がこの世界で何をして、何を成したのか、すべてお見通しかもしれませんが、両親の名に恥じぬ人間として、真っ当で誠実な人間として、これからも邁進してまいります。
それでも心配ですって?
大丈夫ですよ。
僕は昔から、危機的状況を目の前にしたら、切っても切っても死なないプラナリアのような男だと言われてきましたから。
敬具
PS
天国からの幽霊的謎パワーで、おじさんとおばさんにPCの中身を削除するようそれとなく伝えてもらえるとほんと助かります。我無より。




