EX ある男の最期
「・・・・・ハァハァ、ゴホッゴホッ・・・待たせたな化け物よ」
グリードは口から血を吐きながら虚勢をはるように目の前の化け物をにらめつけながら言った。
体中が痛い。右足に2本、右腕に1本、左腕に2本、腹部に2本、右肩に1本・・・どれも深々と刺さっておる。特に腹部の2本はまずいところに当たったようじゃ・・血が止まらん・・・どうやらここまでのようじゃな。
恐らくもうあと何分たっていられるか分からないだろう。そんなことを思いながら、グリードはおそらく人生最後の一振りになるであろう次の攻撃のために身構えた。
「いや、よい。私としても面白いものが見れた。・・・お前、私にもあのような感情があると思うか?」
「・・・・・・は?」
唐突に放たれた化け物の質問にあっけに取られるグリード、だがその驚きは質問の内容というよりはむしろその姿に過去の自分が思い浮かんだからであった――
――「なあ!師匠!俺もあんたと同じくらい強くなれるのか??」
とある森の中討伐以来の帰り道、若き日のグリードは隣の男に向かってそんなことを言った。
「あぁ??そりゃおめぇ神鉱級になれるかってことか??ハハッ、どうだろうな、神鉱級の冒険者になるにゃ実力もそうだが神鉱石との適正がねえとなあ??」
グリードの横を歩く全身真っ赤なフルプレートのアーマーに身をつつみ、巨大な白く透明な岩のようなものでできた巨大なハンマーを肩に乗せた、身長は軽く2メートルは超えるであろう巨漢は野太い声で笑いながらそう言った。
「神鉱級って具体的にどうやったらなれるんだ?」
「はぁ~~~おめぇそんなことも知らずに聞いたのか?いいか?まず神鉱級になるにはダイヤモンド級になることが必須だ、そんでもってそこから、冒険者協会に一定の実力が認められたら中央本部にある適正装置みたいなんで神鉱石に適正があるか調べられて、それを通ることができたら晴れて神鉱級の冒険者の爆誕!!ってこったなぁ?」
「すっげぇ・・!俺も絶対神鉱級になってやるぜ!」
そう意気込むグリードの隣で巨漢の男は爆笑をし始めた。
「ダハハハハハハハハ!!!!おめえみたいな後先考えず敵に突っ込んでいく馬鹿が神鉱級になるだあぁ?絶対に無理だろ!いいとこ行けてプラチナ級までだな!」
「な!?う、うるせえ!おれはなるって言ったら絶対なるんだ!」
よほど悔しかったグリードがむきになってそういうと
「ハー、やれやれだぜ。いいか?まずは誰でもなれるブロンズ級、次に ‘冒険者もそろそろ板についてきたんじゃないか? シルバー級、ここで実力が伸びずに冒険者人生を終えるやつが大半だ、次に ‘よくぞここまでたどり着いた!ゴールド級!血のにじむような努力と一定の才能がなけりゃここにたどり着くのは無理だな。そして ‘選ばれしプラチナ級!抜群の才能がないとここに入ることはできない。冒険者の中でも一握りだ。そして ‘冒険者の頂点!ダイヤモンド級!プラチナ級の中でもえりすぐりの選抜された奴だけがたどり着ける頂だ。そして最後に神鉱級!神に認められしものだけがたどり着ける頂のさらにその先!世界で俺含め今は5人しかいなかったはずだ。全員が神鉱石と呼ばれる神の残滓で武装しているバケモノだ。んで?お前が世界で5人しかいない神鉱級の6人目になる?ダハハハハハハハハハハハハ!!!天地がひっくり返ってもないわ!!」
「けっ、好きに言ってろ俺は絶対になってやるからな!!」
「おうおう、何度でも言ってやる、お前には無理だ!もし本当に神鉱級になっちまったらお詫びに街中で裸踊りをしてやるよ!ダハハハハ!!」――
―― 「っぶ・・ぶわっはっはっはっは!!!」
「・・・・なにがおかしい?」
おっと、いかんいかん。こ奴の話を聞いていたら思い出し笑いをしてしまったわい。なつかしいのう、あの時の儂はこ奴と同じで、何も知らなかったのじゃな、・・・師匠よあなたのいう通り儂には神鉱級になるような才能がなかった。どんなに努力を重ねて神鉱石に認められることはなかった。ですが、それでもと、あきらめきれず、貴方のようになりたいと、騎士団に入った後も冒険者をやめることのできなかった儂は愚かでしょうか?・・・もしもここから生き残ることができても儂はずっと貴方というまばゆい光にこの身を焦がれ続けるのでしょうなあ。
ならばと、たとえ敵であり多くの部下の命を奪ったものであろうとも、自身のようにあこがれを抱くものにアドバイスの一つくらいはしてやろうと、グリードは今にも消えそうな儚い命の炎を絶やさないようにしながら、口を開いた。
・・・話すことは話した。儂の人生に悔いがないといえばうそになるだろうがそれでも死に花を咲かせるにはちょうど良いタイミングじゃ。
そんなことを思いながらグリードは再びハルバードを持つ手に力を籠め、全魔力と筋肉を使い、肉体に力を入れた。そして、素早く前方に足を踏み出すとワームに向かって接近、渾身の力を籠めハルバードを振り下ろした。それをワームは避けるでもなく接触部位を硬質化しガキイインと甲高い音を鳴らしながら受け止めると、鋭い刃の形状をした触手でグリードの胴体を真っ二つに裂いた。
「ごぼっ・・・」
口から大量の血を吐きながら崩れ落ちるとゆっくりと視界が暗くなってゆく。徐々に冷たくなっていく体を肌で感じながら、今までの人生の記憶が一気にフラッシュバックしてきた。グリードはゆっくりと口をゆがめると、
「ああ・・・たのし・・かった・・の・・う。」
そうつぶやくと彼は自身の長い人生に幕を下ろした。