あるワームの生活 その8
「っな!?もう、追いつきやがったのか!!」
アルナスはワームの姿を見ると素早く直剣を構えようとした。しかし、
「syaaaaaaaa!!!」
次の瞬間アルナスの目の前に鋭い牙をもった複数の小さいワームがよだれをたらしながら迫っていた。
「・・・っ!!」
喰われる!と思ったその時、
「止まれ」
その声とともにアルナスに襲い掛かろうとしたワームたちはピタリと動きを止めた。
その声の主である巨大なワームは小さいワームたちに
「そこにいる2体の人間は食べるな。でかいクマとクモなら好きに食べていいぞ。」
そういうと小さなワームたちはgyuwa!!と嬉しそうに返事をし、ダンジョンベアーと巨大クモの死体に身体を伸ばしていった。
「・・・さて、お前たち改めて取引をしないか?なに、別に取って食おうとしているわけではない。やろうと思っていたならあの場でお前たちを殺すことだってできた。」
「・・・取引だと?」
ごくり、と唾をのみ、全身から嫌な汗を流しながらあくまで平静を保つようにアルナスは聞いた。
「そうだ、そこの男にはいったが私は外の世界に行ってみたい。だからお前たちが私を出口まで案内しろ、本当はそこの男しか生かしておくつもりはなかったが今ならお前も見逃してやろう。受けるか受けないかは好きに選べ。」
構えている剣先がカタカタと震えている。なにも知らない状態の私だったら「何を馬鹿なことを」と言いい、この化け物に襲い掛かり、わけもわからず殺されただろうな、そんなことを考えながら同じく直剣を抜いて構えているコーギルをちらりと見た。
「・・・ふ、副隊長・・・」
「・・・・コーギル、お前はどうする?」
「お、俺は・・・」
コーギルは少しの間逡巡したあと、ゆっくりと重い口を開いた。
「正直、生き残れる可能性があるならもう、この話に乗るしかないと思います。今はグリード様や皆の仇としてこの化け物を見ることができない・・・ただただ恐ろしい・・こんなとこで死にたくない・・っ。」
コーギルは構えていた直剣を地面に落とすと膝から崩れ落ちた。その体は生まれたての小鹿のように震えていた。
「・・・そうか」
そうアルナスはつぶやくと
「わかった。その話、受けよう。」
といい、直剣を鞘に納めた。
「そうか、それは賢明な判断だ。安心しろ、私は約束は違えない。お前たちから何かしてこない限りは私も何かをするつもりはない。」
そういうと、ワームは食事を終え満足げに漂っていた小さいワームたちに「戻れ」と命令すると、小さいワームたちはするするとワームの体の中に戻っていった。
「・・・・・グリード様はどうなった?、結局あなたが殺したのか?」
アルナスがそうつぶやくとワームは
「ん?ああ、お前たちの中では一番力を持っていた人間か、そうだ。私が殺した。・・・自分で殺しておいてあれだが、あの人間にはいろいろと気づかされることがあった。お前が生きているのもあの人間のおかげかも知れんな。」
「どういうことだ?」
「ふん、自分の頭で考えてみろ、無駄話はここまでだ、私は一刻も早く外の世界を見に行きたい。」
そういうとワームはアルナスとコーギルの胴体にシュルシュルと触手を巻き付け、俵担ぎのような形で二人を持ち上げた。
「な!?」
「進路は短く簡潔にいえ、では、行くぞ。」
「お、おいまてって俺たち歩いて行け・・・う!?うわあああああ!!!!」
コーギルが最後まで言い切る前にワームは追う時と同じように高速で動き始めた。
「・・・・あれが外の世界か・・・なんとまぶしいのだ・・・」
あれからわずか数時間でおよそ人間が五日ほどかけて進む距離を進んだワームは少し離れた先にあるまばゆい光を放つ出口を見つめていた。そして、おもむろに抱えていた2人を地面に投げ捨て、
「どわ!?」「ぐえ!」
「・・・ここまでで十分だ、案内感謝する。あとは勝手にするといい。」
それだけ言い残すと出口へと向かっていきやがて二人の視界から完全にいなくなった。
「・・・俺たちは助かったのでしょうか?」
コーギルが恐る恐るといった感じにアルナスに尋ねた。
「・・・らしいな、あの化け物のいう通り、殺すならとっくに私たちは死んでいるはずだ。」
「そうですよね・・・はあ・・・生きて帰ってこれたあ・・」
コーギルは今までの疲労から解放されたかのように大きくため息をつくと地面に座り込んだ。
「おい、まだ気を抜くな、あの化け物がいなくなったといっても生きているのは私とお前だけだ。帰りの道中では何があるかわからんぞ。」
「っス、そうですよね、確かに気を抜いてる場合じゃない。早く王都に帰って報告しないとですね。」
「そうだな。」と適当に返事を返しつつ、二度とダンジョンには入るものかと硬く決心したアルナスであった。
「凄いな・・・これは・・・世界とはこんなにも広いものだったのか・・・」
ワームはふもとの洞窟の出口から抜けると真っ先に山の頂に上った。そこから見える景色は広大に広がる森林とはるかかなたの地平線には青い海が広がっていた。さらに、洞窟では嗅いだことのないようなさわやかな風のにおい、洞窟では見たこともないような空を飛ぶ鳥、そしてまばゆいほどに輝く太陽、すべてがワームにとって新しく、おさない子供のように地面を転がり体全体で喜んだ。
「やった!やったぞ!こんな世界が広がっていたなんて大発見じゃないか!ふふふふふ、今日が私の新たな生活の始まりの日だ!この世界に足を踏み入れた第一歩目の日だ!」
その日ワームは日が沈むまで山頂で喜びを爆発させた。のちに待つたくさんの出会いなど知る由もないまま。
ともかく、ここからワームの第二の生が始まったのであった。
とりあえず序章はこれで終わりです!
ブックマークしてくださった方、読んでくださった方、本当にありがとうございます!
これからも拙い小説ではありますが、頑張って執筆するので読んでいただけると嬉しいです!