あるワームの生活 その5
「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
洞窟中に激しく響き渡る雄たけびを上げながらグリードはワームに向かって突撃した。まずはアルナスがワームの後ろで倒れているコーギルを回収できるようにワームに隙を作らせる必要があった。
ハルバードを大きく振り上げるとワームの体を右から斜めに斬り裂くように振り下ろそうとした。
「・・・!?」
しかし突如として全身に鳥肌が立ち何かが来ると本能で感じたグリードは今まで取っていた攻撃行動をすべて回避行動に切り替え左側に飛び込んだ。
次の瞬間、ドゴォォンという大きな音とともにグリードが立っていた場所には腕ほどの太さはある触手が伸び、さらにそのうしろの壁には直径50センチほどのクレーターができていた。
「ほう・・今のを避けるか」
ワームは感心したようにグリードのほうに向きなおった。
(なんという攻撃じゃ・・速すぎて見えなかったわい、それにあの攻撃、おそらく予備動作が必要ないのじゃろう・・ここで出し惜しみしていては即あの世行きじゃな、)
グリードはワームと向き合うと入口で様子をうかがっていたアルナスにアイコンタクトを送る。
アルナスは小さくうなずくとコーギルのもとへまっすぐに走っていく。
ワームが一瞬アルナスのほうへ注意を向けた瞬間、グリードが手のひらに乗るような小さい布のきんちゃく袋のようなものをワームに投げつけ、ハルバードを持って再び突進してきた。
(なんだ・・?これは)
ワームが行動をとろうとした瞬間、きんちゃく袋はまばゆい光と激しい音を出しながら爆発した。
「うおどりゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
ワームがひるんだ一瞬のすきにグリードは今度こそ自身の渾身の魔力を乗せたハルバードをワームの胴体に叩き込んだ。
ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!
洞窟内が揺れるほど大きな衝撃音とともにワームは反対側の壁まで吹っ飛んでいった。
「グリード様!やりましたね!早くここから脱出しましょう!」
アルナスがコーギルをおぶり嬉しそうに駆け寄ってくる。
「・・・いや、まだじゃ」
「え?でも、あの攻撃を食らって」「っ!!アルナス!!」
瞬間、グリードがアルナスを突き飛ばすと同時に立ち込める砂埃の中から無数の針のような触手がグリードを襲った。
「グ、グリード様!!!!!!!」
グリードの体にはいたるところに触手が突き刺さっていた。半数は鎧が守ってくれたが、もう半数は鎧を貫通しいところどころから出血をしていた。
「ぐふぅっっ!!・・・・ハァハァ・・・儂は大丈夫だ。作戦に変更はなし。行け、」
「で、ですが・・・・」
「行けっっっっ!!!!!!!!!!!!!」
グリードは察した。この傷では自分はもう助からないであろうことを、死ぬまでに少しでも時間を稼ぎ、二人の部下の命を救わねばならないことを。
「・・・ッ、貴方の部下であれたことを誇りに思います。グリード様」
アルナスは震えた声でそれだけ告げると急いで出口へと向かっていった。
「・・・・・ハァハァ、ゴホッゴホッ・・・待たせたな化け物よ」
砂埃がはれて現れたワームは最初に見たとき同様傷一つない状態であったが、グリードを見るその瞳は少しだけ異なっていた。
「いや、よい。私としても面白いものが見れた。・・・お前、私にもあのような感情があると思うか?」
突然、ワームはグリードに向かって質問をした。
「・・・・・・は?」
「あのようにこれから死にゆく誰かのことを思い、涙を流す感情が私にあるとは思うか?私は生まれてからずっとこの洞窟で過ごしてきたが、貴様らのように血のつながっていない同族のために、涙を流す奴は初めて見た。」
グリードは目を丸くしたかと思うと血だらけの状態で腹を抱えて笑い出した。
「っぶ・・ぶわっはっはっはっは!!!」
「・・・・なにがおかしい?」
ワームは訝しむようにいった。
「いや、何、貴様のような化け物からそのような人間臭いセリフが聞けるとは思わなかったからのう・・、そうだな、まずは人という生き物を知るところから始めるのはどうじゃ?今目の前で会話しているこの死にかけの爺の種族はいったいどのような生活をし、過ごしているのかをよく観察するといい。そうすれば、おのずと答えにたどり着けるかもしれんぞ??」
「・・・・そうか、よくわからぬが、答えてくれたことには感謝する。」
「ふん何事も経験じゃよ経験、頭の中でとどまっている知識よりも実際に経験したことのある知識のほうが有用なのじゃよ、・・・それにしてもまさか魔物に感謝される日が来るとは夢にも思ってみなかったわい。ゴホッゴホッ!・・・お前さん、儂を殺したらあの二人も殺しに行くのか?」
ワームは少し考える仕草をしたのち
「・・・いや、最初はそのつもりだったが気が変わった。人間は喰っても大しておいしくないしな。」
「そうか・・・ゴホッゴホッ!!それじゃ儂も安心して逝けるのう・・・はぁ・・・よし、では我が人生最後の戦いのつづきをするかの」
そういうとグリードは再びハルバートを構え闘気をみなぎらせた。
「まだやるのか?このままおとなしく緩やかに死んでいったほうがいいかもしれないぞ?」
「バカをいうな、儂は生涯現役じゃ。戦いで死ぬことにこそ価値を見出すのよ」
「・・・やはり人間の考えていることは難しい。」
そういうとワームは右の触手を2メートルほどのするどい刃へと変化させた。
・・・そこから先、会話は必要なかった。
グリードはだんだんと助走をつけてワームに接近、生涯最後の一振りに自身のもつ文字通り全身全霊をこめてハルバードを振り下ろした。
ザシュッッと肉の斬れる音が洞窟内に響き渡ったのち再び静寂が洞窟内を包み込んでいった。
光魔石・・・まれにダンジョンからとれる光を吸収することのできる石。光りを十分に吸収したのち保有者が石に魔力を流すと強い光と音を出して爆発する。少量の魔力で起爆することができるので使い勝手はよいが、流通量が少ないので値段が高い。