あるワームの生活 その3
「・・・くそ、なんだってこんな遠征に参加しちまったんだろうなあ、俺・・・」
焚火のわずかな火明かりの中、鎧を身に着け、直剣を携えた騎士の中の一人が胡坐をかきながらそうぼやいた。
「何言ってんだ、お前、出発する前はくすねた魔石を金にしたら朝まで酒飲んでやるぜ、なーんて息巻いてたくせに、、」
「・・・ちっ、うるせえなあ、誰だってこんな危険な任務だって事前に知ってたら行くわけないだろ」
それもそうだなと、会話を聞いていた騎士たちは嘆息した。。この話が騎士団の中で出たときは、皆こぞって遠征に志願したものだ。くじで選ばれときは喜んだが今では全員えらばれたことを後悔している。
「はぁ・・・グリード様はまーだ探索続ける気なのか?もういい加減、外の空気が恋しくなってきたぜ、、」
「さすがにグリード様もこのダンジョンには何のうまみもないことを理解しているだろ、それにわれらがアルナス副隊長が撤退を進言している最中だろ、グリード様が折れるのも時間の問題さ、」
ほかの騎士がそういうと、
「それもそうだな、それに俺たちも途中までは探索続行の意見がほとんどだったからなあこんだけ被害が出て、何の成果もないと、引けるに引けなくなってしまうグリード様の気持ち、俺にはわかるぜ。」
と、グリードを擁護する発言が多く上がった。冒険者で平民上がりのグリードはほかのいけ好かない貴族の騎士とは違い、誰にでも分け隔てなく接してくれるので部下からの信頼が厚いのだ。
「・・・そういうもんかね、ま、何はともあれ帰れるってんならオレ様も文句ねーけどな?」
そんな話をしていると、野営地の入り口に黒い影がさしかかった。
「・・と、噂をすれば二人が帰ってきたぞ!おーいこれからどうなりますかー?さすがに撤退ですよねー?」
この隊の中で一番帰りたがっていた男が駆け足で入口まで近寄って行った。
・・・そう、近寄ってしまったのだ。
びちゃ、という音とともに黒い巨大な何かが、入り口から入ってきた。
「・・・な、なんだ・・・おまえ・・・?」
入口に近寄った男がおびえながらそういうと同時に、黒い何かは、ぐぁぱぁ・・と音を出しながら先端の巨大な口を開くと男を頭から腹にかけて、ばくっ、と食べた。
残された下半身は支柱を失った柱のようにばたり、と大量の血を吹き出しながら前に倒れた。
「な、なんだこいつは!?」
死んだ男の近くにいた騎士が抜剣、すぐさま切りかかろうとするが、黒い何かの脇腹あたりから突如、生えてきた細い針のような長い触手に頭を串刺しにされ絶命。
この一部始終を見た騎士たちはすぐさま剣を抜き黒い何かを取り囲んだ。
「なんだこいつは!?こんな化け物、ダンジョンの中では一回も見たことがなかったぞ!?」
「くそっ、ケインとマイケルが死んじまった!くそったれめ!どうする!?逃げるにしたって出口はこの化け物の後ろだぞ!?」
「俺たちで何とかするしかないだろ!!少なくともアルナスやグリード様が戻ってくるまで何とか時間を稼ぐんだ!!」
騎士たちはじりじりと後退しながら黒い何かの行動を観察した。
黒い何かは串刺しにして殺した男をまじまじと観察し、おもむろに触手を口や耳の穴から突っ込んだ。しばらく男の死体をこねくり回したのち、今度は男の持っていた直剣や鎧に数本の触手を這わせ、重さや切れ味を確認しているかのようだった。
それを見たとき騎士たちは絶望した。もし、この化け物に知性があるならば最悪、誰一人逃れることはできないだろうと、知性なき獣であるならば対処の使用はいくらでもあったが、もし知性があるとすれば、この現状を打破する策は今のところ何一つとしてなかった。
「・・・な、なあ あんたこの場所の主だったのか?だとしたらすまないことをしちまったな、無断で勝手に使っちまって・・お、俺たちはすぐ出ていくからよ・・み、見逃しちゃくれねえか・・・?」
無駄だとはわかっている。しかし、もし知性があるならと一抹の望みをかけて1人がしゃべりかけると意外にもその化け物は反応を示し、しゃべりかけた騎士のほうを向いた。
化け物は、クルルルル・・と喉を鳴らすような音を出したのちおもむろに口を開くと、
「私の住処に何の用だ?侵入者ども」