あるワームの生活 その1
ある暗い暗い洞窟の中、一匹のワームが生まれた。
そのワームは外見ではほかのワームと変わらず、体全体がまっくろで全長が30から40cm、先端が大きな口と鋭い牙になっており人間が襲われたら腕を食いちぎられそうな強靭なあごをもっていた。
しかし、中身は他のワームと大きく異なり黒い魔力を持ち、考える力、それこそ人並みの知性を持ち合わせていた。
そのワームが生まれてすぐに感じたこと、それは空腹だ。腹の底から無限にわいてくる食欲という名の欲求は生まれてから10秒もたっていないワームに腹の中を満たせ、命を奪えと催促してきた。
すぐさま本能で黒い魔力の使い方を理解したそのワームは自身を中心に黒い魔力を展開し1~2メートル内にいた同族のワームおよそ20匹ほどを地面からはやした真っ黒な棘で刺し殺した。そして手ごろなところにあった同族のワームの亡骸を一心不乱に食べ始めた――
(私は何者なのだろう?)
どれほどの時間が過ぎたのだろうかあれからひたすら周りにいた同族たちを食べ続け、気が付けば自分と同じ姿をした生命はいなくなっていた。そして多少空腹が満たされたそのワームはそんなことを考えながらほかに食べられる生き物がいないか移動をしていた。
同族を捕食する過程でそのワームにはいくつか分かったことがあった。まずそのワームは体を様々な姿かたちに変化させることができ、体の表面の硬さを自在に調節できるという点、そしてそのワームは食べれば食べるだけ自身の命の塊のようなものが強化されていく感覚があるという点だ。
(私はこの世界を何も知らない。知るためにはやはり、まずは強くならないと。)
いくら自身がほかの同族とは異なるとはいえ種族の差を埋められるほどの力を持っているかと言われれば持っていないと言わざる得ないのが現状だ。
やはり強くなるためにはこの広い洞窟の中にいる強個体を倒すのが一番手っ取り早いだろう。
そんなことを考えながら移動をしていると前から2メートルほどの大きさの巨大なクモが出てきた。
(これは・・・幸先がいいな)
見るからに強そうな体格、鋭い6本の脚、鋭い牙を持ったクモだがそのワームにとっては自らが強くなるための糧としか見ていなかった。
そのワームは素早くクモに近づくと体の真ん中くらいの場所から先端を硬質化させた鋭い触手をクモの頭部めがけて伸ばした。それを頭部だけ右にずらし最低限の動きでよけたクモは伸びきった触手を前足で切断した。
(・・・・・ッ!!)
直後、鋭い痛みがそのワームの全身を駆け巡った。素早く背後に後退したワームはしかし、すぐさまクモが口から放った白い粘着質な液体によって地面にとらえられてしまった。
(これはまずいっ!)
この機を逃さんとばかりに接近してしてくるクモに対してそのワームは体と地面をつないでいる接合部を素早く切断、素早く左によけクモの強烈な前足による攻撃を回避すると同時にクモの右足三本を鋭い触手を横一線にして切断、
「キイイイいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
甲高い悲鳴を上げながらバランスを崩し倒れるクモを体からはやしたもう一本の鋭い触手で今度こそクモの頭部に突き刺した。
クモは頭部を突き刺してもしばらく暴れていたが、次第に動きが弱くなっていきやがて完全に生命活動を停止させた。
(これは・・なかなか危なかったな・・)
油断していたわけではないが一歩間違えれば死んでしまうような状況だった。とそのワームは反省した。切られた触手はしばらくビチビチと地面をはねた後、黒い煙となって消えていった。触手自体は切られてもすぐに再生することができるが切られた瞬間に自身の命がわずかだが減った感覚があった。おそらく無限に再生するわけではないしあまりにも多くのダメージをもらいすぎるとこの体は消滅してしまうだろうとそのワームは考えた。
(まあ、まずはともあれ生き残るためには喰わねばな)
そう考えるとそのワームはクモの死体に向けて大きな口を開いた。