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魔王軍幹部は百合だらけっ!!  作者: 幻夢 霞
第一章 第二次侵略戦争編

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第9輪 ぐうたら者と聖職者③

〇魔王軍陣営

・リリィ(外見年齢:14歳くらい)

 リリィが納める魔族の住まう国、シルビオン王国の魔王。持ち前の明るさで皆を笑顔にし、シルビオン王国に住む魔族の幸せを願う心優しき少女。

 自分を討伐しに来た百合に一目惚れした。


・花園百合 (外見年齢:13歳くらい)

 異世界から勇者として召喚された少女。感情の起伏を表情にあまり出さない、無口系の少女。リリィに一目惚れした。


・エルトナ (外見年齢:20歳くらい)

 魔王軍四天王第四席。種族はエルフ。魔王領内をふらふらしていたが、路銀が尽きて魔王城へ3年ぶりに帰ってきた。女の子同士の恋愛を肴に酒を飲むのが大好きな残念美人。


・ナイト(外見年齢:18歳くらい) 

 魔王軍四天王第二席。種族はヴァンパイア。

 整った顔立ちと王子様のような言動から女性から大人気。ココナをお姫様のように扱う。


・ココナ(外見年齢:9歳くらい)

 魔王軍四天王第三席。種族はワーウルフ。

 ナイトにとってお姫様。ふわふわの髪と尻尾がチャーミングポイント。


・シスハ (外見年齢:16歳くらい)

 ミカリユ教の神官。不思議な力で他者の傷を癒せる。軍用魔導器の毒に体を蝕まれていたところをエルトナに助けられている。

「おっと、ここが私の部屋だよ。ここまでありがとう、()()()()()。」


 あれからも頑なに『()()()()()』と呼ぶエルトナにシスハは若干のあきらめを感じながらも、その生真面目さからエルトナを自室まで送り届ける。


 今から戻っても十分朝食まで間に合うだろうと算段を付けると、せめてエルトナをベットに寝かせてから水浴びに戻ろうと考えながら扉を開いて、そして絶句した。


「おや、どうかしたのかい?まるでこの世の終わりを見たような顔をして。」


 不思議そうにシスハを見やるエルトナの姿など一切視界に入ることは無い。シスハは目の前に広がる足の踏み場も見当たらない汚部屋に視線を釘づけにされていた。


 そこらかしらに脱ぎ捨てられた衣服に、転がる酒瓶。少女たちが頬を染めて見つめあう絵が表紙に描かれた本などが部屋の至る所に落ちているだけでなく、解き放たれた部屋からは澱んだ空気と酒の匂いが逃げ場を求めて廊下へと溢れ出す。


「なんですか、この部屋は・・・。まるでゴミ捨て場ではありませんか!人が住む場所とは信じられません!」


「なんだ、だから固まっていたのか。ふむ、さすがに何年も部屋を空けていたせいもあって埃がところどころ積もってしまっているね。()()汚れてはいるが、住むうえでは特に支障は無いから・・・うわっ!」


 シスハから離れてふらついた足取りで寝台へ向かうも、床に転がった酒瓶を踏みつけてそのまま前のめりに顔から埃と服の山に倒れこむ。


「けほっ、けほっ、大丈夫ですか!?」


 埃が激しく舞う中、エルトナはゆっくりと起き上がる。鮮やかな黄金色の髪は埃が絡んでくすんでしまい、せっかくの美しい顔も埃にまみれてしまっていた。


「流石に掃除でもするべきかもしれないね。いや、面倒だ。後でクロエに頼むとするかね。とにかく今は頭が痛いからね、寝床まで・・・いや、ここでいいか。」


 そういうや否や、エルトナは酒瓶を抱き枕のように抱えると服の山に横になってゆっくりと目を閉じた。


「エ、エルトナ様?いったい何を?」


「なにって、眠るのさ。二日酔いには吐いて水分を摂って眠るのが一番だからね。起きた時には幾分かマシになっているはずさ。そういうことでおやすみ、お嬢ちゃん。昼飯に起こしに来てくれると助かるよ。」


 それだけ言い終えると、エルトナは寝息を立て始めてしまった。


 一人残されたシスハはしばらく唖然とした表情で立ち尽くしていたが、時間が経つにつれて状況を飲み込むと、プルプルと震えだした。


『はぁ~。』と大きく息を吐きだすと、シスハは一人何処かへと歩き出した。シスハが去ってエルトナだけが取り残され開いたままの扉から廊下へと、エルトナの寝言が静かに漏れ出していた。




 数十分後、一つの人影がエルトナの部屋の前に立っていた。


 その人物は静かに部屋に侵入すると、脱ぎ捨てられた衣服と酒瓶を踏みつけないように気を付けながら、何とか窓際にたどりつく。


 そして両手でカーテンを掴んで勢いよく開いた。


「んんっ、いったい何事だい?」


 突如差し込んだ朝日がエルトナの顔を鋭く照らし、穏やかな眠りから強制的に目を覚ます。朝日差し込む窓へ目を向けると、シスハがカーテンを紐で縛り付けて固定していた。服の裾も同様に紐で縛って短くし、口元は埃を巣こまないように布で覆い、傍らには箒などの掃除用具が置かれている。


「おはようございます。エルトナ様。」


 ニコッと微笑むシスハの額には笑顔とは裏腹に青筋が浮かび、背後から黒い圧力を発しているような錯覚を感じて、エルトナは冷や汗を額に垂らして後ずさる。何故だろうか。何も悪いことをした覚えがないのに、これから叱られることに確信が持てるのだ。


「お、お嬢ちゃん。いきなりどうかしたのかい?せっかくのかわいい顔がもったいないじゃないか。そんなんでは、お嬢ちゃんの信仰する神様も悲しむのではないかぃ・・・」


「エルトナ様?」


「あ、はい、ごめんなさい。」


 反射的に謝った。誰かに頭を下げて謝ったのは、長い人生で初めての体験だった。


「エルトナ様、私がどうして怒っているかわかりますか?」


「ぉ、お嬢ちゃんの水浴びの邪魔をしてしまったからかね?」


「違います。」


 笑顔で即答するシスハ。ふむ、どうやらこのお嬢ちゃんは笑顔で怒るタイプの人間らしい。怖い。怒られた経験なら何度かあるが、笑顔のまま怒られると、なんか、こう、すごみが増すのは何故だろうか。もし母親がいたらこんな風だったのだろうか、と心の片隅でふと思った。


 ふぅ、と小さく息を吐きだすと、シスハは落ち着いた口調で語りかけた。


「いいですか、エルトナ様。エルトナ様は魔王軍の四天王です。多くの方々の上に立ち、多くの人々の規範となるべき方です。お酒の飲みすぎや、その・・・女の子同士の恋愛がお好きなのは個人的な趣味なので口を出すつもりはありませんが、この部屋は駄目です。『衣服の乱れや身の回りの乱れは心の乱れ』なのです!」


「それはミカリユ教の教義ではなかったかな。私は無神教でね。」


「だ・と・し・て・も・です!常識的に、立場的に、健康的に、精神衛生上的に、この部屋はよくありません!さあ!早く掃除を始めますよ!」


「えぇぇっ!私もするのかい!?」


「当たり前です!ほら、起きてください!」


 まるで母親に叱られて嫌々部屋の片付けを始めるように、エルトナはシスハの指揮の下、しぶしぶ掃除を始めるのであった。




「どうして朝から掃除なんてしなくてはいけないんだ・・・」


 掃除を始めてからしばらく時間が経ち、エルトナはポツリとぼやいた。


「なあお嬢ちゃん、そろそろ一度休憩を挟んでもいいんじゃないかね。」


「駄目です。」


 ニコッと笑顔で即答するシスハだが、その眼は笑っていなかった。もうすでに朝食の時間になっているのだが、シスハは掃除を中断するつもりはないようだ。


(まあ、先ほどのことが原因なのだろうけどね。)


 不衛生な環境を長期間放置しておくと、当然別の生き物が住み始めるわけで。掃除がある程度進んだころ、シスハが持ち上げた酒瓶に()()()()()()()が住み着いていた。今までそいつとは無縁の生活をしていたのだろう、ガラス越しではあるが至近距離で見つめあってしまったシスハは、魔王城に響き渡るほどの悲鳴を上げた。


 悲鳴を聞きつけた魔王城の警備兵、何故か汗をかいている百合とナイト、寝間着のままのリリィとココナが何事かと駆け付けてきて、事情を聴くや否やそれぞれの反応を示し帰っていった。


 警備兵いわく、『エルトナ様のお部屋付近での虫の発見数が多い理由が分かった』と納得し、ナイトいわく、『エルトナさんが掃除が苦手なのは知っていたけど、これほどとはね。』と爽やかに笑い、ココナいわく、『きたない。』と一言だけ告げて(これが意外と胸に刺さった。)、百合いわく、『ん、人が住む場所じゃない。』と辛辣に言い放ち、リリィいわく、『あはは、いい機会だからシスハちゃんに綺麗にしてもらった方がいいと思うよ。』と苦笑いしていた。


 そんなこんなで、このお嬢ちゃんはきっと掃除が終わるまで手を休めることは無いのだろう。確実に身から出た錆なのは自覚しているが、それでもきついものはきついのだ。


「あれ?このあたりだけ片付いていますね。」


 乱雑な部屋の視界の端、ある一画だけ他の場所とは違って明らかに最近人の手が入っている場所があることにシスハは気が付いた。そこにはエルトナがいつも腰に差している刀が専用の台の上で清廉に佇み、その下には古びてよれてしまっていてところどころ汚れてはいるものの大事にされていることが一目でわかる一冊の本があった。


 シスハが吸い込まれるように手を伸ばして、あと少しで触れそうになった時、不意に耳元で囁く声が聞こえた。


「それには手を触れないでくれるかい、お嬢ちゃん。」


「ひゃん!」


 いつの間にか息のかかる距離まで詰めてきていたエルトナに驚き、シスハは背筋をピンっ、と跳ねさせてのけ反る。


「おっと、驚かせてしまったみたいだね。だがね、それは私にとって大事なものでね。他の誰かには触れて欲しくはないんだ。別にお嬢ちゃんに限った話というわけでもなくて、リリィたちにも触らせたことは無いのさ。だから気を悪くしないでくれ。」


「わ、私こそ大事なものとは知らずにすみませんでした。」


 エルトナはゆっくりと刀と本に近づくと、掃除のせいで薄く積もった埃を優しく払う。まるで壊れ物を扱うような手つきから、よほど大切なものであることが見て取れた。


「ふっ、じっと見つめてそんなに不思議かい?私が物を大事にして」


「そ、そんなことは・・・。と、ところでその本は何が書いてあるんですか?」


 今までの部屋の様子から図星だったシスハは慌てて話題を変える。そんなシスハの様子を苦笑しながら、エルトナは穏やかに語る。


「くっくっく、いいさ、この本は人生の転換点となった男の本でね。共に過ごした時間は短かったけれど、彼はいつもこの本を『この本を読まずに生きていくは人生の損だ。お前さんも読んでみろ。』と口うるさくてね。あの頃は鬱陶しいこと極まりなかった・・・。実は私の刀もその男の持ち物だったんだ。まさか私の生きる意味を()()とは夢にも思わなかったよ。」


 思い出をなぞるように懐かしんでいるのか、柔らかな口調で語る。刀を手に取ると少しだけ刀身を鞘から抜いて、鞘に戻す。鞘と鍔がぶつかる心地よい音が部屋に静かに響いた。


「・・・大切な方だったのですね。」


「そんな大層な間柄ではないよ。友人でも家族でも、ましては恋人でもない、ただの頑固者と頑固者が自分の主張をぶつけ合っただけさ。・・・それにしても・・・」


 エルトナはジッとシスハの顔を覗き込む。


「なっ、何ですか?そんなに見つめられるとなんだか気恥ずかしいです。」


 同性であるせいか何となく照れくさくて、シスハは頬を染めて顔を逸らした。


「・・・お嬢ちゃんみたいな堅物な()から『ひゃん!』なんて悲鳴が聞けるなんて、意外に可愛いところがあるじゃないか!はっはっはっはっ・・・は。」


 2人の背景に百合の花が浮かぶ幻覚が見えそうな空間は一言で凍てついた。それどころかシスハから発せられる不可視の圧力でだんだん重苦しくなる空気に、エルトナは確かな危機感を覚えた。


「な、な~んて、冗談さ。お嬢ちゃん一度落ち着いて・・・」


「エルトナ様。」


「はい。」


 即座に正座したエルトナ。シスハは、すぅーと大きく息を吸うと、引き攣った笑顔で魔王城中に響き渡る大声を叫んだ。


「早く部屋の片づけをしてください!終わるまでごはん抜きですからね!!」


「は、はいぃぃぃぃぃぃ!!」


 結局エルトナが朝食?を食べれたのは夕方のことだった。

 幻夢霞です。

 『第9輪 ぐうたら者と聖職者』はいかがでしょうか。実はかなりお気に入りのお話です。楽しんでいただけましたでしょうか。

 この話はこの先で話を進めていくにあたって、シスハのキャラが全然読者の皆様に伝わっていないのではないかと思って作った話です。これで少しでもシスハの人となりが掴めたなら、好きになってくれたのなら幸いです。

 近いうちに有栖とランジア王国側のくそ野郎(皆様もう忘れているはずのあいつです。)にもスポットライトを当てたいと思っております。どうぞお楽しみに。

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