第9輪 ぐうたら者と聖職者②
〇魔王軍陣営
・エルトナ (外見年齢:20歳くらい)
魔王軍四天王第四席。種族はエルフ。魔王領内をふらふらしていたが、路銀が尽きて魔王城へ3年ぶりに帰ってきた。女の子同士の恋愛を肴に酒を飲むのが大好きな残念美人。
・シスハ (外見年齢:16歳くらい)
ミカリユ教の神官。不思議な力で他者の傷を癒せる。軍用魔導器の毒に体を蝕まれていたところをエルトナに助けられている。
シスハが水をコップに汲んで脱衣所に戻ってくると、エルトナは息も絶え絶えになりながらも服を着ているところだった。意図せず着崩した状態のエルトナは、普段であれば見惚れるほど魅惑的なのだが、今目の前にいるのはただの酔っ払いだ。
もともと床にぶちまけられていた衣服全体に皺が寄り、そんな服を着ている本人も酔いの残滓でよれよれになっている。
「ごくっ、ごくっ、ごくっ。ぷはっ~。生き返るぅ~!助かったよお嬢ちゃん。」
シスハが持ってきた水を手渡すと、エルトナは喉を鳴らして一気に飲み干す。真っ青だった顔色も少しだけ朱色を取り戻して、血色がよくなった気がした。
「エルトナ様に何事も無くて安心しました。ですが、これからはもう少しお飲みになる量を制限したほうがいいと思います。飲みすぎは体に毒なのですから、もっと体をいたわってください。」
「いやはや、面目ないね。かといって少女たちの恋路を肴に飲む酒は私の人生にとって極上の楽しみでね、いつの間にか飲みすぎてしまうのさ。・・・うっぷ。」
「・・・。」
美麗な顔にまったく反省の色をみせないエルトナに、実はこの方、ダメな大人なのではないかという考えが浮かんだ。
しかし、自分は何て失礼なことを考えているんだ、と頭を振って浮かんだ思考を振り払う。
(そんなはずがありませんよね。先日披露した魔法への深い見識もさながら、魔族の皆さんからとても慕われているように見受けられました。きっと少しお酒の趣味が変わっているだけで、そんなことも霞むんでしまうくらいの魅力がエルトナ様にはあるのでしょう。)
シスハは一人で自己完結させると、着ていた服に手を掛ける。先日命を救われたこともあって、シスハの中のエルトナ像は立派な女性の形をしていた。
「おや、お嬢ちゃんはこれから湯あみかい?」
「いえ、幼いころからの日課で身を清めるために毎朝水浴びをしているんです。」
「精がでるねえ。この時期では水もまだ冷たいだろう。特に早朝では風邪をひいてしまわないかい?」
「寒くて辛いです。けれどその辛さが修行になり、私自身を強くしてより集中して祈りを捧げる糧となると信じています。決して楽をして身に付くものではないはずです。」
「見上げた精神だ。お嬢ちゃんという人間の一端が見えた気がするよ。・・・ところで、そんな話を聞いた後に頼むのは心が痛むのだけれどね・・・」
申し訳なさ気に頬を指で掻くと、顔をしかめながら困った顔をして笑った。
「実は頭痛が酷くてまともに歩けなくてね。水浴びの後で構わないから、私の部屋まで肩を貸してはくれないかな?ハハハ・・・うっ、笑うのは頭に響く・・・」
頭を抱えてうずくまるエルトナに対して、やっぱりこの方はダメな大人なのかもしれないと思うシスハだった。
「いやぁ、悪いねえ。なにも水浴びを後回しにまでしてくれなくともよかったのに。本当に心根の優しいお嬢ちゃんだよ、君は。そんなに人のために尽くしていて疲れはしないのかい?ランジアにいた時も誰かのためにこうして尽くしていてそうじゃないか。」
「とくに疲れると思ったことはありません。人は誰しも助け合って生きていくものです。私は自分にできることをしているだけに過ぎません。それに私には私にしか使えない能力がありますから、私は誰よりも人を助ける義務があります。きっとミカリユ様もそうお望みのはずです。」
シスハに肩を貸してもらい、鉛のように重く感じる身体を引きずって自室へと向かう廊下。いつもよりも長く感じる廊下をゆっくりと歩いていく。
肩を預けて歩くシスハに視線を向けると、身長差のあるエルトナに肩を貸すのが体勢的につらいのか、少し額に皺を寄せていた。
(このお嬢ちゃんはまじめでまっすぐだねえ。生まれつきなのか、はたまた取り巻く環境がそうしたか。クロエが今までの勇者たちから聞き出した話によると、ミカリユ教はまともな組織ではなくなっていたはず。よっぽど芯が強くなくてはその生き方を貫くのは難しいだろうに。)
そんなエルトナの視線が気が付いたシスハが、汗を滲ませながら怪訝そうに問いかける。
「どうかしましたか?」
「なに、お嬢ちゃんは実にできたお嬢ちゃんだと思ってね。」
「はあ・・・?・・・ところでエルトナ様、それを止めていただけませんか?」
「それとはなんのことかな?」
「私のことをお嬢ちゃんと呼ぶことです。私には父と母から与えられた『シスハ』という名前があります。きちんと名前で呼んでくださいませんか?」
真剣な眼差しで見つめるシスハに、エルトナは飄々とした様子で答えた。
「そうだね・・・お嬢ちゃんが私を認めさせられたら名前で呼ぶとしようとかね。」
「・・・なんですかそれは。」
どこまでも真っすぐで純粋な眼差しに、エルトナは何とはなしに少しだけ意地悪をしてみたくなったのだった。
皆さん、お盆休みはいかがお過ごしでしょうか?私は連日喉が痛いです。コロナかな?
実は『ぐうたらものと聖職者③』はまだ書き終わっていません。あとちょっとなのですが、なかなか納得いかなくて詰まっております。もう少しだけ妥協できれば良いんでしょうが、私の性格上難しいのです。
で・す・が、次回更新予定日は8/17(土)!予定どおり更新できるか、はたまたしれっと延長するのか、お楽しみに。




