第6輪 運命の出会い③
12/31~1/1の期間に間違えて原稿を載せてしまった時より、内容の修正と追加あります。その期間に読んじゃったよ、という方も読むこと推奨です。
百合がナイトを壁に叩きつけて抜けた扉の先は、どうやら中庭のようだった。中庭には豊富な種類の草花が花壇に植えられ、花壇以外の場所にも多くの花が咲き乱れている。まるで庭園のような中庭の中心には白色のテラスが上品に溶け込んでいた。
百合は中庭を一人歩く。早朝のせいか足元の草花は朝露で濡れていた。
「痛っ。」
草の葉で切ってしまったのだろうか。痛みを感じた場所を見ると僅かに血が流れている。大した怪我ではなく治療の必要もないと思った百合は、テラスの奥に見える魔王城の中でも最も大きい棟に繋がる扉を目指す。荘厳たる佇まいの扉は魔王の居場所に繋がっていることは想像に難くなかった。
百合がテラスの付近まで到達すると、不意に頭上から声がかかる。
「問題の勇者がこんなガキだったとはな。」
百合はすぐさま上を見上げると、テラス付近に生えた巨木の枝の上に褐色の肌をした女性が立っていた。
「だれ?」
「何故答える必要がある。そんなことはどうだっていい。それよりも、お前は何なんだ。今までの勇者やつらとは強さの格が違いすぎる。ランジアはまた新しい勇者の作り方でも考えたのか?」
クロエは冷たい視線で百合を観察する。背中に自身と等身大の大剣を背負っていることを除けば、見た目はいたって普通の少女であり、部下からの報告にあったような圧倒的強さを感じるような覇気も無い。
「あなたが答えないなら私も答える必要は無い。」
「はははっ、確かにその通りだ。悪かったな。私はクロエだ。」
「そう。私は百合。中学生。あなたも四天王なの?」
「さあな。それは自分の眼で確かめるんだな!」
何の前触れもなくクロエは隠し持っていたナイフを数本投げつける。百合はとっさに横に転がりナイフを回避してクロエを見上げる。
「何をすっ!」
『何をするの』と、文句を言おうと口を開く百合に追撃に投げられたナイフが眼前に迫っており、百合は首を捻ることで紙一重でそれを避ける。
「ほう、これを躱すとはな。ここまでできる勇者はお前が初めてだ。だからこそ不自然だ。どうしてランジア王国はこいつのような勇者を呼ばなかったんだ?」
「いきなり何をするの。」
「まあいい。それを考えるのはフィオの役目だ。」
百合の問いに答えることは無く、クロエは新たに取り出したナイフの刃を指でなぞる。何度かナイフをくるくると回したり、木の葉をちぎっては百合に向かって落とす。クロエの意図が分からずに、百合は警戒しながら大剣を抜こうとした。
「あれ?うまく体が動かない・・・。」
大剣を抜こうと動かそうとした腕は持ち上がらず、次第には足の感覚も麻痺していき踏ん張りが着かずに膝をつく。
「やっと効いてきたか。」
「何を・・・したの・・・?」
呂律もうまく回らなくなってしまった百合の声はか細い。それでも気合で声を振り絞る。
「『答えてやる義理など』・・・と言いたいが、死にゆくお前への手向けとして教えてやる。今お前の体は私の毒に侵されている。」
「どう・・・して?」
「不思議だろうな。私のナイフは全て避けていたのに、何故毒に侵されているのか。何時毒を受けたのか。・・・最初からだ。仕掛けた罠にかかるかは半分賭けだったが、お前がこの中庭に入ってきた時、私の描いた通りの道を歩いてくれて助かったよ。」
(中庭から?)
毒によって意識が朦朧とする中、百合は必死に中庭に入ってきたことを思い出す。中庭に足を踏み入れてから、特に変わったことは無かったはずだ。早朝のせいか土が少しぬかるんでいて、それから・・・。
(あっ・・・。)
百合は草で足を切ったのを思い出した。いや、あれは本当に草だったのだろうか?
「何か思い当たる節があるようだな、勇者。そうだ。この中庭の至る所に毒を塗った刃物を草の中に隠してある。お前が来るまでに間に合わせるのは少々骨が折れたがな。」
『ずるい』。そう言おうとしたが、百合の口はパクパク動くのみで言葉が出ない。
「どうやらもう話すこともできないようだな。それにしても毒の効き目が遅い。これも他の勇者にはなかったこいつ特有の才能なのか・・・。まあいい。面倒ごとはフィオのやつに任せるか。」
眼下で地に伏してもがき苦しむ百合を見て、もう少しで絶命しそうだと判断したクロエは百合の傍に降り立つ。クロエの予想通り百合は瀕死の状態だった。
「こいつはあとで部下に回収させるか。ったく、こんな朝っぱらから迷惑な奴らだ。」
百合に背を向けてぶつくさと文句をいうクロエの背後で百合の身体から光が発せられる。清らかな光が百合の身を包むと、先ほどまで百合を蝕んでいた毒による苦痛が消えていった。
「おい。私だ。勇者は始末した。後で回収しておけ。私はナイトの援護に行く。」
「りょーかーい。でもさー、たいちょー。なんかうしろ、ヤバげじゃね?」
クロエが通信魔法を開くと、目の前に通信先の部下が映る。つまり、部下にとってもクロエが映っている。そして、クロエの後ろには拳を振り上げた百合の姿が映っていた。
「なに!?」
「さっきの、分!」
振り下ろされた拳がクロエの背中に突き刺さり、クロエはテラスに向かって吹き飛ぶと、テラスは崩壊し崩れ落ちた。
「ふう。死ぬかと思った。・・・さっきのは何だったんだろう?」
薄れゆく意識の中で死を覚悟した時、体の中から温かいものが溢れると、不思議と先ほどまでの苦しさが嘘のように無くなっていた。原因不明の現象に首をかしげながらも、百合は地面に落ちた大剣を拾うと魔王城本棟へ続く扉に向かおうとした。
「・・・どういうからくりだ。お前は確かに毒で死にかけていたはずだ。」
百合の一撃でのしたと思われたクロエはテラスの瓦礫にもたれ掛かるように座っていた。どうやら百合から受けたダメージがよほど効いたのか身動きの取れないようだった。
「ん。私にもわからない。・・・もう行っていい?あなたの話し相手をしている暇はない。」
「行けるものなら行ってみろ。毒の刃で再び同じ目にあうといい。」
扉に続く道には草花が地面を覆っており、どこに毒の塗られた刃が隠されているのまったく見分けることが出来ない。百合は少しだけ考え込むと、先ほどまでクロエがいた巨木に近寄って大剣を構える。
「だったら道を造ればいい。」
百合は言うや否や大剣を大きく振りかぶると、巨木に打ち込み始める。回数を重ねるごとに切り口が拡がっていき、切り口が幹の半分ほどまで到達したとき、大剣が根元の部分で折れてしまった。
「あっ・・・。別にいいか。」
百合はポイっと柄を投げ捨てると、深呼吸をして巨木に強烈な回し蹴りを放った。ドォォンと重厚な音とバキバキっと木の折れる音と共に巨木が魔王城の本棟への扉へ向かって倒れる。
「ほら、道が出来た。」
「何から何まで規格外な奴だ・・・な。」
百合の奇行を見届けると、クロエは引き攣った顔のまま根性で保っていた気を失った。百合は倒した巨木の幹に飛び乗ると、幹を伝って扉までたどり着いて魔王城本棟へ侵入していった。
魔王城の中はナイトたちが百合たちを待ち受けていた場所とは意匠が全く異なっていた。おどろおどろしい部分は一切なく、通路の装飾は煌びやかではないが嫌味も無く気品に溢れたものばかりで、こういった代物の知識がない百合であっても上等なものであることがわかる。
誰の気配もない通路に警戒をするも、百合の進行を妨げるものは終ぞ現れずに魔王城の中でも特に威圧感のある扉にたどり着いた。この扉の先に魔王がいることは容易に想像できた。百合は覚悟を決めると、扉を強く押し開いた。
今回でついに序章が終わりました。いつも読んでくださっている読者の皆様、本当にありがとうございます。読んでくれる人がいるということが書く糧になっています。
さて、今回のお話、どうだったでしょうか?『リリィと百合が出会ってないじゃん!タイトル詐欺だ!』と思ったそこのあなた、私も読む側だったらきっとそう思います。ですが、今後の展開がすでに決まっていて、今回は『出会いに繋がる回』にするのが一番区切りがいい形になったため、急遽出会わないことにしました。すみません。そのあたりは次回をお楽しみにお待ちください。
第一章は序章とはだいぶテイストが違う章になると思われます。どうかお楽しみに。




