第5輪 勇者召喚③
地の文の書き方が変わっていますが、ご理解ください。
「うぅぅ、ここは・・・?」
百合は額に滴る水で目を覚ました。天井の隙間から染み出し水が落ちてきているようだ。どうやら簡易的なベッドに寝ているようで、起き上がろうとすると体中がひどく痛んだ。
「目が覚めたか。」
声のする方を見ると、失意の底に沈んだクリスティーナが壁にもたれかかるように座っていた。目元は赤く腫れており、頬には涙の跡が残っている。状況を確認しようと周りを見ると、石壁に囲まれ、唯一空いている壁は鉄格子で閉ざされており、俗にいう牢屋のような場所にいることが分かった。
「あなたがここに寝かせてくれたの?」
「ああ。気が付くと私と貴殿が床に寝ていてな。それよりも運ぶときに貴殿の体を見たが、怪我がひどい。痛むか?」
「・・・かなり。」
身体に意識を向けると、全身がかなり痛い。もしかしなくとも骨の何本かは折れているかもしれなかった。
「その傷は近衛たちによるものだろう。セドリク・・・父上に代わり謝罪する。本当に申し訳なかった。」
クリスティーナは立ち上がると、百合に向かって腰を折り、頭を深く下げる。クリスティーナが『王女』と呼ばれ、セドリクが『陛下』と呼ばれていたことと、そのセドリクを父上と呼ぶことから、二人が親子関係にあると百合は推測した。
「謝罪はいらない。そんなことより、ここは何処で、私たちに何をしたの?」
「それについては俺から説明しよう。」
鉄格子の奥から会話に割って入る声は、百合が気を失う前の部屋でクリスティーナと死闘を繰り広げていた騎士であった。名前は確かアイゼンと言ったはずだ。
「貴殿、どういうつもりだ。」
アイゼンの登場に、クリスティーナは怒気をはらんだ声で鉄格子へ近づく。
「何故あの時セドリクを止めなかった!例え止めらなくとも、貴殿ほどの者ならばアリアを逃がすことが出来たはずだ!」
クリスティーナは鉄格子を両手で握りしめ、アイゼンに牙をむく。鬼神のような表情で怒り狂うクリスティーナに対して、アイゼンは落ち着いた声色で話し始める。
「アリア様を召喚の『代償』にするように陛下に進言したのは俺だ。そして、それを俺に提案したのはアリア様本人だ。」
「アリアが自ら『生贄』になっただと!ふざけるのも大概にしろ!そんなわけが・・・」
『あるわけがない。』と言いかけて、クリスティーナは昨日のアリアの様子を思い出す。
体調が優れないのに話続けていたこと。去ろうとしたクリスティーナをアリアにしては珍しく呼び止めたこと。 今にしてみれば、普段のアリアとは変わった行動だったと思ってしまった。
「・・・本当なのか。本当にアリアが望んだのか。」
消え入るような声で言葉を捻り出すクリスティーナは、アイゼンの言葉が嘘偽りが無いことなどわかっていた。それでも聞かずにはいられなかった。
「本当だ。それと、アリア様はこうも言っていたぜ。この国に『希望』を連れてくる、と。」
「『希望』・・・だと?」
クリスティーナは百合に視線を向ける。小柄で華奢な少女の体には全身に暴行による痣があり、あまりにも痛々しい。その姿は到底この国にとっての『希望』になり得るとは思えなかった。
「それに、姫さんだってわかってるんだろ。俺ではアリア様を助け出すことはできなかった。例え、俺と姫さんが協力したとしても結果は同じだってな。」
「・・・。」
クリスティーナはぐっ、と唇を噛みしめる。
(そうだ。そんなことは重々わかっている。私たちだけではセドリクから助けることなど、出来なかった。私たちに力があれば、とっくの昔にあの暴君を王位から引きずり降ろしている。)
「ねえ。いい加減説明して。こっちはずっと待ってる。有栖は無事なの?」
今まで静観していた百合は、表情を変えずに決して内心怒っているようには見えない顔で、刺々しい口調で会話に割って入る。
「悪かったな。アリスってのがあんたと一緒にこっちに呼ばれたあの女の子なら、うちの騎士団で預かることになったから安心しな。事情については今から説明を・・・っと、もう時間か。」
アイゼンが話し始めると、遠くから鐘の音が聞こえてきた。
「悪いが約束の時間だ。詳しい事情は道すがら姫さんたちから聞いてくれ。」
アイゼンは姿勢を正すと、百合とクリスティーナを正面から見据えて言い放った。
「陛下のお言葉だ。『異世界人を勇者として魔王討伐を命ずる。逆らうのであれば、お前と共に来た娘を処刑する。また、クリスティーナは勇者護衛の任に着き、魔王討伐をその命を懸けて補助せよ。』だそうだ。」
「アイゼン団長、例の件は言わなくてもよかったのですか。」
百合とクリスティーナがいなくなった地下牢で一人で立っているアイゼンに、ランジア王国騎士団副団長のリジルが声をかける。騎士としては細身であるが好青年で勤勉なリジルは、何かと適当なアイゼンの代わりに事務仕事を完璧にこなすアイゼンの右腕である。
「おう、リジル。言うわけがないだろうが。知ったら姫さんが気負っちまうだろ。」
「そうですね。クリスティーナ姫なら、きっとご自分のせいだと責めるでしょうね。」
「そういうことだ。姫さんが大変なのはこれからなんだ。余計な心配をさせるわけにはいかないだろ。・・・それよりもだ。例の件の準備はどうなっている?」
「急な命令だったため、騎士団内は混乱しています。まあ、実質騎士団全員への死刑宣告ですから、仕方がないでしょう。」
困ったように肩をすくめるリジルの肩にアイゼンは手を置く。
「すまねえな、俺のせいでお前らまで道ずれにしちまって。」
「何をいまさら。あなたのせいで割を食うことなんて、数えきれないでしょう。それにもとより私たちは何処までもあなたについていきますよ。」
リジルは、にかっ、と笑うとアイゼンに、左手の拳を握り左胸に当てる騎士団式の敬礼をする。
「はっはっは、嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。安心しな、お前たちを意味もなく死なせるつもりはねえさ。俺たちは俺たちでアリア様の遺志を継げばいい。・・・だからそっちは頼んだぜ、姫さん。」
アイゼンは魔王討伐に旅立ったであろうクリスティーナに思いを託すと、リジルと共に地下牢を後にした。
ミカリユ大聖堂のミカリユ像の前にシスハはいた。朝食を食べていると、聖女付きのセエビアに呼び出され、大聖堂で待つように言付かったのだ。用件はあとで伝えるとのことであったが、シスハとしては呼び出される原因がわからず、とりあえず日課の祈りを捧げていた。
祈りを捧げていると大聖堂奥の扉が開き、聖女マリーとセエビアが入室してくる。シスハが頭を下げると、こちらに気づいた二人はゆっくりとした歩調で近づいてきた。
「待たせてしまいましたか、修道女シスハ。」
「いえ、本日はどういったご用件でしょうか。」
シスハはマリーが苦手だった。町でのうわさもそうだが、シスハは教会に籍を置くようになってからマリーから受けた扱いは、シスハにとって良い記憶ではなかった。
マリーはシスハの冷淡な態度が気に入らないようであったが、咳ばらいをすると静かな口調で告げる。
「明朝にミカリユ様よりご神託がありました。」
嫌な予感がした。マリーの受ける信託がよい結果をもたらしたことなど、ほとんどなかったから。そして、シスハの予感が正しかったことがこの後すぐに分かった。
「修道女シスハ。あなたはこれより本日召喚された勇者と共に魔王討伐に向かいなさい。餞別として私からこの杖を授けましょう。」
あまりにも突然の宣告と共にセエビアから手渡されたのは、司教以上が持つことを許される儀仗杖であった。儀仗杖には濃い蒼色の魔石がはめ込まれていた。
「魔王討伐とはどういうことですか!?私は魔族であろうと、誰かを傷つけるために教会に入ったわけではありません!」
「ミカリユ様の信託に逆らうのですか。」
本当にミカリユ様の意思なのか、という言葉が出そうになるのをシスハは飲み込む。
「おや、ごらんなさい。勇者たちが来たようですよ。」
マリーの声に振り向くと大聖堂の入り口には、後ろから差し込む太陽の光のせいで二人のシルエットだけが見えた。
眩しい光に目を細めると、槍を片手に持ち頭以外の鎧を身に纏うクリーム色の長い髪が特徴的な女性と、身の丈ほどの大剣を背負った少女が隣の女性に支えられて立っていた。
「さあ、ミカリユ様に選ばれしシスハよ。かの者たちと共に旅立ち、神官としての責務を果たしなさい。そして、邪悪なる魔族を殲滅するのです。」
聖女の法衣の長い袖で口元を隠しながらシスハに告げるマリーの口元は、この世の邪悪を煮詰めたような笑みを浮かべて嗤っていた。
今回から地の文の書き方を変えました。というのも、以前から自分の文が非常に読みずらいな、と思っていました(文章力不足は今回は除く)。
そこで、他の方の小説を除いたところ、これだ!という書き方があったので、真似させていただきました。まあ、地の文を一行ずつ書かずにまとめるだけなのですが。人によってはこっちのほうがいい、前の方がいいなど意見はあると思いますが、今後はこの書き方で書こうと思っていて、前の作品も順次この仕様に変更する予定です。ご理解ください。
さて、長くなりましたが、次回「第6輪 運命の出会い(仮)①」は12/16(土)の予定ですが、今回はまったく書き終わっていないで、あくまで予定となります。変更する場合は活動報告とTwitterにて報告します。




