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魔王軍幹部は百合だらけっ!!  作者: 幻夢 霞
序章 運命の出会い編

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第5輪 勇者召喚②

(私は・・・)


 真っ暗な空間、前も後ろもわからない空間で百合は揺蕩(たゆた)う。身体と空間の境界線もあやふやで、体の感覚は無く、まるで魂だけが漂っている、そんな感覚だった。


(確か・・・、腕を掴まれて・・・、それから・・・)


 揺らぐ意識を漂わせ、薄れゆく意識を手放しそうになった時、唐突に頭の中に誰とも知れぬ少女の声が響く。


「お姉さまの力になってください。いつかまた相容れる日まで。」


 哀しみのこもった声が聞こえ、遠ざかっていく。何か返そうと口を開こうとするが、音を発することはできなかった。そうこうしていると、慈愛に満ちた先ほどとは別の女性の声が響く。


「この世界を頼みます。私の愛する世界を。」


(だ・・・れ・・・?)


 百合の疑問に答える者は無く、真っ黒な空間に一筋の光が差し込むとその光は急激に勢いを増し、今までいた空間と百合の意識を飲み込んだ。






「うぅ。」


 自分の口から漏れるうめき声で、百合は目を覚ます。どうやら自分は何処か冷たい床にうつ伏せで寝ているようだった。次にその状態のまま見える範囲を目視で確認した後、徐々に体の隅々に向けて全身の感覚を覚醒させてゆく。


(とりあえず体はある。ケガもたぶんないはず。)


 百合は体に異常が無いことを確かめると、その場でゆっくりと起き上がる。床には先ほど奇妙な更地に描かれていた、幾何学的な文字の羅列された円陣があること気が付いた。


「これはさっきの・・・。そうだ!有栖!」


 意識を失う前に有栖が自分を追いかけるように光の柱へ飛び込んでいたのを見ていたため、もしかしたらと思って有栖を探す。案の定、有栖は百合のすぐ隣に倒れていた。


「有栖!・・・よかった。気を失ってるだけ。」


 目立った外傷は無く、眠ったように横たわる有栖にほっと胸をなでおろす。


「だったら次は・・・」


 百合は自分の置かれた状況を確認するために、顔を上げると視界に映る光景にぎょっとする。目の前には、複数人の男性に押さえつけられながらも片腕をこちらに伸ばした姿勢のまま、絶望に染まった表情で涙を流す女性がいた。クリーム色の長い髪を一つにまとめ上げた女性が一言だけ、「ア・・・リア」とこぼした声が聞こえた。


「ふん、また(はずれ)か。」


 後方から聞こえる低い声に振り向くと、四十代半ばといったところだろうか、そこには周りの人間に守られるように囲われ、偉そうに豪勢な椅子に腰かける中年の男性がいた。自分たちを無関心そうに見下す態度に、百合は直感的にこいつが自分たちに起きたことの元凶だと悟る。


「何かに使えるかとここまで育ててはみたが、アリア(役立たず)は最期まで役立たずだったか。」


 実につまらなそうにその男が吐き捨てる。


()()()()だと・・・?訂正しろ!アリアは、アリアは貴様などとは違い、ランジアの名を関するにふさわしい真に民を想える立派な王女だった!」


 先ほどまで涙を流していた女性が大声を上げると、殺意に満ちた視線で、きっ、と男を睨みつける。


「この期に及んで『民を想う』だと?才能と理想のみ持てども何も為せねば、それは役立たずとしか言いようがなかろう。」


「セドリクゥゥゥゥ!!」


 女性は咆哮を上げると、沸き起こる怒りで自分を押さえつける男たちを力任せに振り払い、男たちが腰に下げた剣を奪い取る。


「クリスティーナ王女を止めよ!最悪殺しても構わん!」


 セドリクと呼ばれた男を守るように囲う男たちの中でも、特に勲章のような飾りを服のいたるところに付けた男が、クリスティーナ王女と呼ばれた女性を押さえつけていた、同じ服を着た男たちに命令を下す。命令を受けた男たちはすぐさま抜剣すると、クリスティーナに向かって襲い掛かる。


「貴様ら如きが私を止められるなど、思いあがるなぁぁぁ!」


 クリスティーナは女性とは思えない力強さで、男たちと刃を交えることなく切り伏せていく。クリスティーナが剣を振るうたびに鮮血が舞い、クリスティーナは頭からつま先まで返り血にまみれる。


「さすがに、王国でも指折りの実力者と言われるだけはありますね。ですが、次はこの私が相手です!」


 襲い掛かる他の者たちに命令を出していた隊長のような男が、身に纏う服と同様に、装飾が多く煌びやかな剣を抜くとクリスティーナに走り出す。それに気づいたクリスティーナは、百合たちの横を駆け抜けて、自分に向かってくるその男に相対する。横を駆け抜けられた際に吹いた風は鉄臭く、百合は目の前で繰り広げられる出来事が現実であると改めて実感する。


「近衛隊隊長、ヌグリフ!どちらが強いのか、今こそ証明して見せましょう!」


 ヌグリフが口上を述べながら、騎士剣を両手で上段に構え、走る勢いそのままにクリスティーナに振り下ろす。


「邪魔をっ!」


 クリスティーナは振り下ろされる騎士剣を下段から切り上げてはじき返すと、ヌグリフは全体重をかけていたせいで派手に体勢を崩す。


「なんですって!?」


「するなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 クリスティーナは切り上げた時の回転を生かし、がら空きになったヌグリフの胴を横なぎに回し蹴りする。


「がっはぁ!」


 鎧などを着ていなかったヌグリフの横腹にクリスティーナの足が深々と食い込んだかと思うと、ヌグリフはものすごい勢いで壁まで吹き飛び叩きつけられる。ぴくぴく、と時折痙攣するものの、気を失ったようだった。


 クリスティーナはヌグリフを吹き飛ばすと、他人事のように椅子に腰かけて様子を眺めていたセドリクの元へ猛進する。あと数歩でセドリクを捉える距離まで詰めたクリスティーナは、体をひねり、剣を後方に構えた姿勢のまま地面を強く蹴り、セドリクへ飛びかかる。


 クリスティーナの殺意のこもった剣がセドリクを捉えたかと思えたその時、今まで事の様子をセドリクの傍で見守っていた男がクリスティーナの渾身の一撃を抜いたその剣で弾く。


「何故貴殿が邪魔をする!アイゼン殿!」


「すまないな、姫さん。これも俺の役目なんだ。」


 アイゼンを呼ばれた男は、クリスティーナとセドリクの間に入ると、クリスティーナに切っ先を向ける。


「邪魔立てするならば、たとえ貴殿であろうと斬るぞ!」


「だったら殺す気で来な。でなきゃ、俺には勝てないぜ。」


 その言葉を開始の合図に両者が激突する。激しい剣の打ち合いに、百合は呼吸を忘れて見入ってしまう。どれほど時間が経ったであろうか、何十合にも及ぶ剣戟の末、アイゼンはクリスティーナの剣を弾き飛ばした。


「しまった!」


「強くなったな。姫さん。」


 奇しくも前日の鍛錬でもかけた言葉を呟くと、アイゼンはクリスティーナの空いたみぞおちを突き上げるように殴る。


「ぐっ・・・。」


 クリスティーナはうめき声を僅かに上げると、突っ伏すように倒れこむ。


「ふむ、余興としては上出来だ。おい、貴様ら、そこの百合たち(ごみ)も始末しておけ。」


 セドリクは鼻を鳴らすと、ヌグリフと同じ服を纏った男たちに命令する。命令を受けた近衛隊と思われる男たちが騎士剣を片手に百合たちに近寄ってくる。急に命の危機が訪れたことを察した百合は、何とか助かる方法がないかとあたりを見渡す。唯一善人かもしれないと思えたアイゼンは、地に伏したクリスティーナの隣に立ち目を瞑り、こちらを助けてくれる様子はないようだ。


 次に出口を探すと、セドリクの近くの壁に上の階に続くと思われる階段が見えた。


(有栖を抱えて上がるしかない!)


 瞬時に決断し、未だに目を覚まさない有栖を抱えようとした時、すぐそばから、じゃり、と石畳を靴で歩く音が聞こえる。音の下方向を見ると、剣を振り上げる男がいた。その顔はこれから人を殺そうという人間とは思えない、弱く無抵抗なものを一方的に傷つけることが愉悦で仕方がないといった下種な笑みを浮かべていた。


「わりぃな、ガキ。死にな。」


 自分に向かって振り下ろされる刃が、まるでスロー再生したかのようにゆっくりに見えた。


(ここで死ぬんだ。)


 そう自覚すると、走馬灯のように今まで事が脳裏で高速に再生させる。


 楽しかったこと、嬉しかったこと、そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「私はまだ死ねないんだ!!!」


 心の奥にしまい込んでいた記憶から呼び起こされた怒りをそのまま、振り下ろされる刃の腹に向かって殴りつける。バキッッッ!、と何かが砕けた音が鳴り響くと、続いて、カラーン、と高い金属音が遅れて響く。


「は?」


 男は自分の半ばから()()()騎士剣を見て呆けた顔をする。百合もまた、自分の手をじっと見つめ、驚きを隠せずにいた。


「今の・・・私がやったの・・・?」


 あまりのことに理解が追い付かずにいると、男たちがおびえた様子で後ずさる。


「なんなんだよ、このガキは!素手で剣を折りやがった!この異世界人は他とは比べ物にならねえ化け物じゃねえか!」


「こっ、殺せ!全員でやれば殺せるはずだ!」


 男たちは恐怖引き攣った表情のまま、理解の及ばない強さの百合を排除しようと一斉に襲い掛かる。百合は急いで立ち上がり、向かってくる近衛隊に応戦する。


(この力が何なのかはわからないけど、今はやるしかない!)


 百合は瞬時に覚悟を決め、襲い掛かる近衛隊を一人一人捌いていく。近衛隊の全ての攻撃がゆっくりとした動きに見えて、相手の攻撃に合わせて迎撃していくと、一分後にはそこに立っているのは百合だけだった。


「ふう。」


 肺に貯まった空気を一息に吐き出す。特に疲れもなく一掃した百合は、ここから脱出するため、戦闘のせいで離れてしまった有栖の元へ向かおうとする。


「そこまでだ。異世界の人間よ。」


 しかし、先ほどまで百合たちがいた場所に有栖はおらず、有栖はセドリクに抱えられ、その首元には刃物を突き付けられていた。


「ゆっ、百合ちゃん・・・。」


「有栖!有栖を離して。」


 怯えて歯をがちがちと鳴らす有栖を助けるためにセドリクへ一歩踏み出す。


「動くな。動けばこの者の命は無い。」


「痛い!」


 セドリクが刃物を持つ手に力を入れて、有栖の首にわずかに突き刺す。刃が刺さった個所から赤い血がぷくっと球を作り、限界を超えると溢れた血は刃に沿って流れた。


「・・・やめて。言うことを聞くから、有栖を傷つけないで。」


 百合は立ち止まりながらも、有栖を助け出そうと虎視眈々と隙を伺う。


「ふん、生意気な眼をした女だ。おい、貴様らいつまで無様な姿をさらしておくつもりだ。」


 セドリクの声に、百合にやられた男たちが苦しげに起き上がる。


「使えぬ奴らだ。今すぐにその百合(おんな)クリスティーナ(それ)を牢へ連れて行け。・・・抵抗されると面倒だ。()()痛めつけておけ。」


 セドリクがニヤリと笑うと、男たちがその意図を察しニヤニヤと笑みを浮かべる。


「かしこまりました。・・・さっきはよくもやってくれたなぁ!おらっ!」


 男たちは百合を取り囲むと、さっきのお返しとばかり殴り蹴る。


「やめて!百合ちゃんにひどいことしないで!」


 有栖は何とかセドリクの拘束から逃れようと暴れる。しかし、セドリクの人間業とは思えない圧倒的な腕力により微動だにせず、有栖の抵抗はまったく意味をなさなかった。気絶するまで抵抗しない百合を痛めつけて溜飲が下がったのか、男たちは手を止めると、気を失いぼろぼろになった百合とクリスティーナを抱えて、上の階に繋がる階段を上っていく。


 百合たちの姿が見えなくなると、召喚してからずっと顔を上気させていたブラドが恍惚とした表情で声を上げる。


「フフッ、フフフフフフフフ!なんと上質な演劇だったのでしょう!!!はぁはぁ、さいっっっっっっっこうの表情でしたねえ!そこのお嬢さんの自分の置かれた状況よりも友人を想うその顔っ!嬲られる友人を見つめる横顔はそそるものがありましたねえ!で・す・が、何といってもあのクリスティーナ(おんな)の絶望に満ちた顔といったら!わたくしはあれよりも深い絶望に相まみえることはあるのでしょうか!!!」


 奇声を上げながら興奮に体を震わせているブラドと対照的に、アイゼンは感情を押し殺し、セドリクの前で膝をつく。


「陛下、発言をお許しください。」


「よかろう、許す。要件は何だ。」


「はっ!陛下は姫殿下とあの異世界の少女はどうするおつもりでしょうか。」


クリスティーナ(あれ)は余の暗殺未遂で死罪とする。あの異世界人は本来なら始末したのち、マリー(女狐)にやるところだが、あの力をあのまま失うのは惜しい。そのため、()()()勇者として送り出す。この娘がいれば、いかようにも出来よう。あの異世界人が出立した後、この娘は女狐にくれてやろう。」


 セドリクの腕の中で有栖はもがく気力もなくなり、為す術なく恐怖に震えている。


 アイゼンは頭を下げたまま、唇を舐めて濡らし深く息を吸うと顔を上げる。アイゼンの瞳には、確固たる覚悟が宿っていた。


「でしたら陛下、私に提案がございます。」


この時のアイゼンの提案が、世界とランジア王国の行く末を大きく変えることは誰も知る由は無い。


 最近急に寒くなってきましたね。皆さん、風邪をひいたりしていないでしょうか?

 では、小説の話をしますと、現在絶賛スランプ中です。次の話(第6輪)が全然書けません。そのあとの話はどんどん思いつくのですが。

 と、泣き言を言っていても仕方ないので、毎日少しずつでも書いていこうと思っているのですが(現在進捗ゼロ)、遅くなったすみません。

 最後に話が変わりますが、登場人物が多くて「これ誰だっけ?」となっている方もいるのではないかと考えているので、第一章が始まったら、前書きに登場人物の簡単な紹介を載せていくつもりなので、それまでは『魔王幹部は百合だらけっ!!』の世界観を何となくわかってくれればと思います。

 『第5輪 勇者召喚③』は12/9(土)の18:00更新です。

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