第4輪 平和な世界③
久しぶりの登場のため
・セリカ(サキュバス隊隊長)
雲一つない空を幾多の星がこれでもかと埋め尽くし、星々をぎゅっと集めたかのような満月が魔王城を照らす夜、ナイトは音を立てないようにゆっくりと部屋のドアを押し開けた。
部屋の奥には天蓋付きのベッドでスヤスヤと眠るココナがいた。ココナを起こしてしまわないように、ナイトは息をひそめてゆっくりと歩き寄る。眠るココナの傍まで近づくと、ココナは体を丸めて可愛い寝息を立てていた。
よく見るとココナの両腕にはナイトキャップを被ったナイトを模した人形『おやすみナイトちゃん人形(サキュア作)』が大事そうに抱かれていた。ナイトはベッドに静かに腰掛けると、ココナの髪を手で持ち上げ、顔を近づけて軽く口づけをする。
「おやすみ、お姫様。」
優しく囁き、ナイトはココナの少しはだけた掛け布団をかけ直すと、静かにココナの部屋を後にした。
ココナは自室のドアがゆっくりと閉まるのを確認すると、うっすらと目蓋を開き、先程ナイトが口づけをした場所を愛おしそうに触れる。ナイトの先程の行為を思いだしたココナは、嬉しくて、でも恥ずかしくて顔を赤らめる。ココナはもう一度おやすみナイトちゃん人形を強く抱き締めると、静かにその瞳を閉じた。
「おやすみ、ナイト。」
また明日一緒にいることを想って。
魔王城へ続く道の途中、エルトナは一人、目を閉じ、神経を研ぎ澄ませていた。正体を隠すために何時も羽織っているコートを脱ぎ、若葉色を基調とした何処か『和』を感じさせる衣装を身に纏っている。腰に差した日本刀に手を掛け、自らの集中力が最高点に到達するその時を身動ぎひとつせず静かに待つ。
「っ!!」
口の端しから僅かに溢れる吐息と共に、己が出せる最高の速度で抜刀し、空に向かって居合う。風に漂っていた草葉を真っ二つに両断すると、慣れた動作で納刀する。最後に身体中に溜まった空気を吐き出すと、遥か遠方に見える魔王城の明かりを見据える。
「あそこまで後どのくらいかかるのかね。」
領内に発生した魔物を討伐したり、道に迷った末、未だに魔王城にたどり着いていなかった。連日の移動により身体には疲労が溜まっていたが、それがまたエルトナにとっては心地よかった。
「さて、今夜はもう少しだけ剣を振るうとしよう。」
エルトナは再び刀を抜くと、己の正面に構える。辺りを明るく照らす満月の明かりを白銀の刃が鋭く反射させていた。
「サキュア様、こちらにおられましたか。」
サキュアを探して城内を練り歩いていたセリカがサキュアを見つけた場所は、城下町を一望できる城のバルコニーだった。
「あらぁ、セリカちゃんどうしたの?私に何か用かしらぁ~?」
バルコニーの手すりに体を乗せるように預け城下町を見ていたサキュアは、セリカの声に反応し顔だけセリカのいる方へ僅かに向ける。
「はっ!本日の業務が終了致しましたので、ご報告に上がりました。」
「こんなに遅くまでおつかれさま。でも、ダメよぉ。セリカちゃんがこんな時間まで仕事をしてるってことは、また一人で全部やったのよね?」
「自分一人で処理した方が確実ですので。」
「セリカちゃんは仕事が人一倍できることは知っているけれど、それではセリカちゃんが疲れちゃうわぁ。ちゃんと他の子たちも頼ってあげないとダメよ?それと、今みたいな報告も通信魔法で済ませちゃって全然いいのよ?」
「いえ、城内の警備も兼ねておりますので。」
サキュアに報告に来てからずっと敬礼の姿勢を崩さないセリカに、サキュアは小さくため息を漏らす。
「と・に・か・く、今日はもう遅いから早くお風呂に入って寝ること。そして、明日からは他の子にもお仕事を振ること。わかったかしら~?」
「はっ!善処致します。」
(あっ、これは明日も同じことを言うことになりそうねぇ~。)
自分の頬に手を当て、サキュアは困ったように苦笑いする。
「では、自分は失礼致します。サキュア様もたまにはサキュバス隊に顔をお出しください。」
「えっ!?行かなきゃダメかしらぁ?」
「皆、会いたがっております。」
「でもぉ、あの子たちっていつも・・・、その・・・、し、してる・・・じゃない?私には刺激が強すぎるわぁ。」
熟れたリンゴのように頬を染め、両手の人差し指を、つんつんと合わせるサキュア。そんなサキュアの様子を見て、セリカは改めて思う。
サキュバスにとって、相手の精気を吸う性交は食事と変わらないのに、どうしてこの方はサキュバスの頂点にありながら、生娘のように初心なのだろうかと。夜風に吹かれ乱れた髪を指で掬い耳にかけるサキュアを見ていると、その仕草だけで色気に溢れ、同性である自分ですらドキッとしてしまうほどなのに。
ちなみにサキュアは〈生命吸収〉で生命だけでなく精気も吸っているため性交の必要がなく、実際のところ生娘なのだが、そのことを知るサキュバスはいない。
「はあ、ところでリリィ様はどちらに?城中巡回致しましたが、見かけませんでしたが。」
「えっ!ええ。リリィちゃんはねぇ・・・。」
サキュアは魔王城から少し離れた森に少し哀しそうに視線を向けた。
「最近あんまり来れてなくてごめんね、お父さん、お母さん。」
サキュアが見つめた先の森の中。見渡す限り青々とした木々に囲まれる中に、ぽっかりと穴が開いたように花畑があった。多種多様な花が咲き誇り、花の蜜を求めて、あるいは羽根を休めるために蝶が花びらにとまる。空からは月の光が差し込み、一つの幻想郷のような光景が広がっていた。幻想的な景色の中、リリィは花畑の中に建つ二つの墓石の前にいた。
「お父さん、お母さん、この間ね・・・。」
リリィは墓石に向かって、こんなことがあったんだとか、あんなことがあったんだとか、リリィの身の回りにあったことを楽しそうに話す。リリィの両親の墓石はリリィが一生懸命話す言葉を静かに聞いていた。
「まだ、人間の人たちは私たちを殺したいみたいだけど、きっと、昔みたいに仲良くなりたい人だっていると思うから。お父さんとお母さんみたいに、魔族と人間が手をつないで生きていける場所をもう一度取り戻すから。だから、見守っててね。」
リリィは明るく告げると、魔王城へ帰還するため歩き出す。その時、ふと後ろから懐かしい視線を感じたような気がしたリリィは急いで振り返る。すると、春にしては暖かい一迅の風がリリィの髪を撫で、花びらを月へと舞い上げて空へと消えていった。
それぞれの想いと思惑が、人間と魔族が、そしてこの世界を舞台とした役者がこれで決まった。
アリアは『願う』。クリスティーナの未来と描く未来が光に溢れるものになることを。
クリスティーナは『探る』。国と民にとって最善となる未来を掴む方法を。
シスハは『祈る』。誰も飢えずに意味のある生を送れる世界を。
セドリクは『壊す』。自分が支配の頂点でない世界を。
マリーは『忌む』。自分より魔法の才を持つ魔族を。
サキュアは『歩む』。大切な親友を支え続ける道を。
ナイトは『誓う』。ココナを護り続けることを。
ココナは『描く』。夢を叶えた先の望んだ未来を。
エルトナは『挑む』。己の矜持を成し遂げることを。
リリィは『約束する』。もう一度人間と魔族が共存する平和な世界を。
そして、舞台に最後の役者が出揃った時、どんな世界が、どんな未来が訪れるかを知る者は、まだ誰もいない。
皆様。三日連続更新お楽しみいただけましたでしょうか。
さて、私がずっと書きたかった「平和な世界」。個人的にはかなり盛り上がる予定だったのが、読み返してみると、何故かしっくりこない『想い』のキャラが何名かおりました。
なんでかな~?と考えてみると、これまでの小説内では動機が分からない『想い』を持ったキャラが多かったんですね。失敗しました。
では、今度は何故自分は盛り上がっているのかと考えたところ、こちら、キャラの過去編が基盤になった『想い』であり、それを知っているのが私だけだからと気づいたのです。
書き直そうかと思いましたが、現在更新予定時間の一時間前ということで断念。
今後のストーリー内で各キャラの過去については触れていく予定ですので、その際にもう一度ここに戻ってきていただけると幸いです。
書きたいものと書けるものが違うとは誰かが言っておりましたが、実際書いてみると本当なのだと実感する今日この頃です。
とまあ、真面目なのはここまでだぁ!次回はついにあの子が登場予定!予定!大事なことなので二回言いました!確約はできませんが、お楽しみに!




