姫様の料理指導
「ヴォルド、イモの皮剥きのやり方が違います!」
「はい!」
「ヴォルド、もっと小さく刻んで!」
「は、はいっ! 仰せのままに!」
「ヴォルド、違います! 今度はもっと大きく切らなければいけませんよ!」
「は、はいいっっ!!」
……なんてことだ。
姫様の料理指導は、とてつもなくスパルタだった。
何故だろう。討伐隊での鍛錬のほうがマシに思えてならない。
「ヴォルド! ああっ、もう見ていられませんわっ!」
指導に熱が入ってきた姫様が、ついに立ち上がり、俺の手から包丁を奪い取る。
「わたくしが手本を見せますから、ちゃんと覚えてくださいませ」
「承知いたしました!」
ビシリと敬礼し、俺はスープづくりの手ほどきを受けることになる。
「……高齢者や子供が食べやすいようにしなければいけません。イモは煮崩れするので少し大きめに、ニンジン嫌いな子供は多いですから、皮は厚めに剥いて、小さめに……」
なるほど。
俺のつくる大雑把な調理とまるで違う。
姫様は食べる者のことを考えているのだ。
改めて優しい御方だと感動する。
このような方が統治する国は、きっと穏やかで平和な世になるに違いない。
「ちなみにですが、切り落とした野菜の皮は、鶏の餌になるので捨てずにおくと喜ばれますわ」
「そうなのですか。お詳しいですね」
「いいえ。民の暮らしについては、まだまだ勉強しなければいけません」
会話をしながらでも、姫様は調理を進めていく。
俺は隣で見守りながら野菜の欠片を口にいれて毒味をする。問題はなさそうだ。
大きな鍋をふたつ用意し、ひとつにたっぷりと水をいれて火にかける。
沸騰したところで、湯のなかに、骨付きの鶏をまるまる放り込んだ。
「これで鶏の出汁をとります」
なるほど。
これが旨味のもとになるのか。
俺は骨ごとぶつ切りにした鶏肉を入れてしまっていた。どうやら色々と間違っていたらしい。