秘めた恋
腹が満たされると、気持ちまで前向きになるから不思議だ。
姫様のことが無事に終わったら、王都にある食材を買いまくり討伐隊にお土産として持ち帰ろう。きっと喜んでくれるはずだ。
……そう話すと、ロイは驚いていた。
「えっ、隊長は騎士団に戻るつもりはないんですか!?」
「ないな」
「いやいや、隊長が無実の罪をきせられたって、みんな分かってるっすよ!? 隊長が王女様相手に不貞をはたらくわけないって、誤解だと分かってるっす!」
確かに、あの一件は本当に誤解だった。
たまたま躓いてしまった俺がそばにいた姫様を押し倒す体勢になり、その場面を侍女に目撃されてしまったのだ。
だが……。
「俺は、討伐隊に戻るつもりだ」
「どうして!? 王女様のこと嫌いになったっすか!?」
「そんな訳無いだろう! 嫌いだったらそもそも此処にいない」
「じゃあ、どうして……」
「──……お慕いしてるからだ」
「え……」
ロイが、ぽかんと口を開いて俺を見ている。
無理もない。
俺は騎士としてあるまじき好意を姫様に抱いているのだからな。
──愛している。
だからこそ、おそばにはいられない。
気持ちの抑制がきかなくなって、いつか姫様を傷つけてしまうんじゃないか。それが怖くて俺は周囲の誤解をとかず、騎士を辞めた。後悔はしてない。
姫様のなかで、俺がいつまでも清廉な騎士のままであれば、それで良いと思っている。
「俺は姫様を愛している。……だから、すべてが終わったら討伐隊に戻るつもりだ」
***
次の日。
俺はロイとともに城に向かった。
本来なら、俺は城に足を踏み入れることすら許されない立場だ。そのため、ロイが手配した料理人だというこにして潜り込むことにした。
どうしようもなく気持ちが昂っていた。
二年ぶりに姫様に会えるのか……。
そんな俺にロイは釘をさす。
「王女様を見ても、絶対に驚いたりしないでくださいよ! 隊長がいた時とは、まるで別人なんですから」
「そうか……、気をつけよう」
長らくちゃんとした食事ができていないことで、だいぶ痩せてしまったのだとロイに説明を受ける。
今は一日に一度、果物を少量しか口にしないという。
昔からそばにいる侍女頭や、ロイが無理やり食べさせても、すぐに吐き出してしまうそうだ。
「昔から王位継承権をもつ姫様は、その身を狙われることはあったし、毒入りの食事を口にして倒れたこともあった。それでも元気になると、しっかり食事は摂っていたんだが……。何故、今回は食べれなくなってしまったんだ?」
「それは……」
ロイが悔しそうな表情で語る。
「ある日を境に、王女様の身辺は物騒になりました。ベッドには毒針がしこまれ、お茶会には毒入りのお菓子が、庭を歩いていれば毒矢が飛んでくる……日に何度もそういうことが続き、精神的に追い込まれていったっす……」
そばで護衛をしていたロイも、飛んできた矢から姫様を守って怪我をしたらしい。そのせいで何日も寝込んでしまったそうだ。
「王女様は今、まわりの全てが敵に見えてるっすよ……俺のことだって、信じてるかどうか……」
「そんな馬鹿な……」
「隊長が居てくれたら、こんな風にならなかったと思うっす。完全に俺の力不足っす……」
「自分を責めるな。おまえがいたから姫様は今、無事でいられるんだろう。よく頑張ったな、ロイ!」
「た、たいちょう〜……」
涙目で俺を見上げるロイの頭を撫でながら、心のなかで気合いを入れる。
姫様が食事を欲するように、いろいろと案を考えてきたが……。もしかすると、これは予想以上に難題かもしれない。