元同僚との再会
二年振りに、俺は王都へ帰ってきた。
故郷の変わらない風景に懐かしさを覚える。
ひとまず俺は、サイラスに言われたとおり、ある店へと向かっていた。
『この店に行ってオレの名前をだせば、協力してくれるはずだ』
──この店か……?
見上げた看板には「食堂 おおぐいや」と豪快な文字で書かれてある。
店内からなんとも香ばしい焼いた肉の匂いが漂ってきて、からっぽの腹がギュルルと鳴く。
だが、食べれずに辛い思いをしている姫様のことを考えると、腹の虫はぴたりと鳴くのをやめた。
昼すぎの閑散とした時間帯を狙って、俺はさっそく店に入る。
「いらっしゃい! って……、隊長ッ!?」
「おまえはっ……」
驚いたことに、エプロンを身につけ食器を片付けていた店員は、元同僚で騎士のロイだった。
どうして、こんなところに?
ロイは俺の後任として、姫様の護衛騎士をしているはずだが?
「おまえ、その恰好は」
「たいちょ〜〜! 会いたかったっすよぉ〜!」
「うわっ、おい、抱きつくなっ!」
大の男にがっちりと抱きしめられて、なんとも言えない気持ちになってしまう。
それに周りの視線も気になって仕方ない。
「あまり大声で俺を呼ぶな。そして離れろ」
「すんません……久しぶりに会えて、つい嬉しくなって……」
えへへ、とロイは笑いながら離れていく。
もしかしてサイラスがこの店に行けと言ったのは、ロイがいることを知っていたからだろうか。
「ロイ、おまえ……もしかして騎士を辞めて食堂で働いてるのか?」
「まさか。今日はたまたま非番なんで、手伝ってただけっす。ここ、姉ちゃんの店なんで」
「なら良かった。おまえまで騎士を辞めていたら、姫様の味方がいなくなってしまうからな」
「あ、やっぱ隊長は、王女様のことで戻ってきたんですね?」
そうだ、と俺は深々と頷いた。
店内の奥まったところにあるテーブルに案内され、俺は席についた。
「さっそくで悪いが、姫様の今の状況を聞かせてくれ」
「そのまえに腹ごしらえっすよ!」
ロイはそう言うと、軽い足取りで店奥にひっこんでしまう。
姫様のことが先だろう。……そう呆れたものの、確かに腹ごしらえも必要だと思い直す。
食べることとは、生きることだ。
その大切さを俺が忘れるわけにはいかない。
「お待たせっす〜。っとと、」
テーブルにつぎつぎと大皿が並べられていく。
「姉ちゃんに隊長がきたって言ったら、好きなだけ食っていけって……タダ飯なんで遠慮せず、たくさん食べてくださいね!」
「そうか、悪いな。あとで礼を言わせてくれ」
それにしても美味そうだな。
とくにこの、厚切りのビーフステーキ。
こんがりと表面に焼き色がついて、なかから肉汁が溢れ出している。
さっそくナイフで切り分けてから、口に入れる。
「んんっ、うまいな!」
思わず唸る。
そうだ……肉とは、こういう味だった。
討伐隊で食べる肉は、加工された干し肉ばかりだ。魔物生息地には狩れる動物はほとんどいない。運良く野うさぎや、鹿を見つけたらそれはご馳走だ。絶対に逃がさないよう、確実に仕留める必要がある。
やはり鮮度が良く、きちんと調理された肉はちがうな。
涙がでそうなくらい美味しい。
肉に添えてあるタマネギは甘く、イモもホクホクと優しい味わいで、幸せな気持ちになる。
「……隊長は痩せたっすね? 討伐隊の食糧事情は悲惨だって聞いたっす」
「誰にだ?」
「サイラス兄ちゃんに」
「おまえっ、サイラスの弟だったのか!」
「そうっす。いつも兄ちゃんが隊長の様子を手紙で教えてくれるんですけど、隊長は討伐隊でも活躍してるって聞いて、嬉しかったっす」
「そうか……」
「とくに隊長のつくる食事は『騎士メシ』ってよばれて、すげー美味いって兄ちゃん言ってましたよ」
「いまの俺は騎士じゃなく、ただの傭兵なのにな」
「王女様にも隊長のつくるメシの話をしたら嬉しそうにしてたっすよ」
「は? 姫様に話したのか!?」
なんてことだ。
まさか姫様に知られるとは。
恥ずかしさに、胸が苦しくなった。