ちくわコミュニケーション
「ちくわって、どう?」
「何の質問???」
どうしたの急に。人生で初めてだよ、こんな状況でそんなこと聞かれたの。
「ほら、こう仮にも30年近く生きてきた訳でしょ。無感情ってことは、ないじゃん。あー、あなたは感情のないロボットだもんね」
「初耳だよ。歴っとした人間だし、僕は感情豊かな方だよ」
でも、ちくわにたいして特に何か思ったことはねえ。
「絶対嘘。一度は、ちくわの穴のなかを除いたら魚がダンスってたことあるでしょ?」
「普通に踊ってたっていえよ」
それと、CMネタはリスキーだぞ。
「あー、昔竹輪をストローみたいにして、鍋のスープをすすったことある」
「なるほどなるほどね、そうよそういうのでいいのよ」
「満足していただけたようで何よりだよ……」
そんなに深々と頷かれても、こっちは戸惑いしか返させないよ。
「つまり、ちくわ×あなたということね」
「何おぞましい計算式を成立させてくれちゃってんの!?」
「だって、ちくわの誘いぜ」
「言わせねーよ?」
というか、なんで僕が右側なんだよ。
「私、推しは右にしたいの」
「知ってたけど、知らんわそんな業」
そして、なんで有機物(非生物)と掛け算されなきゃならねえんだよ。しかも、なんでちくわ。
「あら、ちくわは嫌?なら、がんもどきとかゴボ天とかでも良いけれど」
「おでんの具材から離れろ!せめて、相手を生物にしてくれ…………はっ!」
にちゃあ、と彼女は笑った。こいつ、まさか言質とるために…………!
「今度の新刊は、任意の生物×あなたにするわね」
「ナマモノは、本人の見えないところでひっそり取り扱え!」
第一。
というか、そもそも。
「なんでこんな話してんのよ僕らは!ウェディングドレスの感想くらい言わせろよ!?めっちゃくちゃ綺麗だよ!!」
そう。今日は僕たちの結婚式の日であり、今は控え室にいるのだ。
彼女は、女性陣だけでドレスを決定してしまったので、完全に僕は今が初見だった。
普通に楽しみにしてたし、実際彼女はすげえ綺麗なんだけど、部屋に入るなり冒頭の質問が飛んできたのだ。
彼女は、
「あ、ありがと」
と小声でそっぽを向く。
ほー。
はー。
ふーん。
「ねえ、奥さん」
「誰のことかしら」
「先週、僕と一緒に市役所行った、君のことですねえ。もしかして、照れ隠しっすか?」
まあ、耳たぶの色が僕の質問を肯定しているわけなんだけど。
彼女は頑なに、こっちを向こうとしてくれない。
こういうとき、どんな言葉が正解なのだろうか。
意を決して、彼女の耳に口を寄せて。
「ありがとう」
一緒に生きる決心をしてくれて。僕を幸せにしてくれて。
奥さんは、ようやくこっちを向いてくれる。
「お礼をいうには、まだまだ早いでしょ?」
「それは、確かに」
「私は、再来月のイベントであなたが売り子をした後に、お礼をいうって決めてるから」
「趣旨変わってない???」
そして、まさか、ちくわ×僕なブツの売り子をさせられるの?
照れ隠しだよね、そうだよね、そうといえ奥さん。
またもや、目線をそらされたので。
世界一愛しい人の前髪をかきあげて、一つ口づけを落とした。
僕 男女カプ厨
彼女 掛け算マスター
ちくわ 練り物。おいしい。スープをすすると舌を火傷することになるので、個人の責任でお試しください