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紅い約束と灰色の鎖は繋ぎとめて離さない  作者: 乃ノ木 ニトウ
序章~クレイの物語~
9/20

何かとイライラしている

気絶したクレイは夢を見ていた。当然の如くその内容は・・・。


「はっ!!」


クレイの意識が覚醒する。目覚めた時にいた場所は牢屋の中。石の壁にもたれ、手には見知らぬ枷がつけられている。きょろきょろと牢屋の中を見渡す。石でできた壁と床、そして藁の敷物。


「・・・お!起きたか?」


牢の外、階段から一人の男が上ってくる。男は牢屋の外からクレイに話しかける。


「今までのこと覚えてる?君はここの近くで倒れていたんだ。」

「ここはっ!っつ・・・!」

「ああ、あまり動かないほうがいいよ。酷い怪我だ。応急処置をしたが、そんな動くとまた開くよ。肩なんて後少しで動かなく・・・・・」


男の優しい言葉はクレイの耳には入っていなかった。最悪を考える。それはこのまま聖騎士に捕まること。


「・・・ちっ!」

「ちょ、ちょっと!」


血流操作を発動。男の制止を振り切って手枷を引き契り、檻を壊そうと立ち上がる。しかし男があるものを持っているのが見えて、足を止める。そしてその顔に憤怒の相を浮かべる。


「おい、それ、返せよ。」


その脅しのようなどす黒い声に男は慌ててその手に持っていた首飾りをクレイへと檻ごしに手渡す。


「わかった!これは返す!返すから!・・・ちょっと話を」

「何の音だ?」

「あ、せっ先輩!」


もう一人階段から上がってきたのを見て、クレイは首飾りをつけながら心の中で舌打ちをする。このまま檻を破り、逃げようとしていたクレイにとって敵の人数が増えるのは不利でしかない。


男は部屋を見渡した後、慌てた様子もなく口を開く。


「おい、こいつ解放していいぞ」

「・・・・・は?」


予想と違った言葉に先にいた男は間抜けな声を出す。そんな彼を無視して後から来た男はクレイの方へと近づく。


「元気そうじゃねえか。・・・まあいいや。さっきも言ったけど出ていいぞ、お前。通行許可出たからな。」

「・・・いいのか?」

「手錠壊して、門番脅迫して、今更何言ってやがる。勝手ながら荷物を調べさせてもらった。気になるモンが数個あったが、」


「確かにそうだが・・・」とクレイは本当に今更ながら自分が冷静さを失っていたことに気づく。そんなクレイを前に懐から一枚の紙を取り出す。


「まあこれだ。運送ギルド"デザート・キャリー"のメトリア王国入国申請書、印鑑入り。」


ギルドとは簡単に言えば同じ仕事を持つ人達や商団の団体だ。あの砂漠で会った商団が"デザート・キャリー"というギルドに入っていたらしい。


「知ってるかも知れないが、"デザート・キャリー"ってギルドはカムラン砂漠を横断してさまざまな国、そしてあの神聖国に入国できる数すくねえ団体で」

「どうでもいい」

「そうかよ。ま、早い話、そんな信頼されてる団体からの申請だからいいだろって話。中央に確認の連絡してるが、そんな厳しくねえから通るはずだ。荷物は入り口に置いてあるからとっとといっちまいな。」


ガシャン!と鍵の開く音で牢の扉が開く。クレイはゆっくりと牢を出る。


「悪いな。そんなとこに閉じ込めてよ。何しろこっちからしても」

「いい。それよりアッセンジョってのはどこにある?」

「斡旋所?それならまっすぐ道を進めばある。看板あるから分かんだろ」

「そうか」


クレイは脇を抜けて立ち尽くしている男に近づき、「悪かった。冷静じゃなくでな」と声をかけて階段を降りて行った。




「・・・よかったのですか?」

「ん?まあ、申請書は本物だったしな。許可でそうなら通していいだろ」

「しかし・・・」


今まで先輩である彼の決定に異論を唱えたことはなかった。ただ今回だけは違った。自分のうけた殺意ともとれる怒り、手錠を破壊する異常な力。そして何よりも神聖国の方向から歩いてきたという事実。引き留める理由は十分にあり、先輩の決定に素直に了承できなかった。


「先輩は楽観的過ぎます。万が一・・・」

「まあ、そうかもな」


先輩は言葉を遮るように葉巻を取り出し、先を指でつまむ。フッと赤く光が灯ったそれを先輩は咥えてまるで自分の悩みを吐き出すように息を吐く。


「フーッ・・・だが楽観的にもなる。なぜならここには、()()()がいる。お前が恐れるほどのことにはならねえだろ」


言われてはっとする。この国には門番の自分達、下手すれば聖騎士すら超える人間がいた。


「今、ちょうどこの町に来てる。だから大丈夫だろう。」

「ちゃんと考えてたんですね。

「たりめーだろ」

「・・・それと先輩、職務中は禁煙してください。」


 



「さて、斡旋所は」


門を超え、建ち並ぶ住宅街にさほどの興味を示さず、クレイが斡旋所に向かって歩き出そうとすると、キューと音が鳴る。クレイの肉体が食事を求めていた。


周りを見渡して見つけた一つの出店に立ち寄る。どうやら肉を焼いていたようでクレイが近づいたのに気が付き、店の男はにこやかに笑う。


「いらっしゃい。旅人かい?」

「あぁ。・・・これは?」

「牛肉の串焼きだよ。一つどうだい?」

「一本いくらだ?」

「600キュアだよ。」


ピタっと財布を出しかけていたクレイが手を止める。600それはなんでも高すぎないか?とクレイは迷う。


(姉さんとの約束4つ目、お金は大事だから計画的に・・・いやでも)


迷うクレイに店員の男もまた悩んだ素振りを見せた後パン!と手を叩く。


「よっしゃ、じゃあ今回は500キュアでどうだ!」




「・・・結局買っちまった。美味いし。」


クレイは片手に串焼きを持って財布の中身のことを考えて憂鬱な気分になる。財布を革袋にしまい、肉を頬張りながら歩く。


姉との約束のこともあったが、元々クレイは今までの生活故か貧乏性なところがあった。「安い」や「割引」といった言葉に弱い貧乏性な性格は心核者になってもそのままだった。



串焼きを食べ終わった頃、クレイは大きな建物に到着した。看板に書いてあるのは『メトリア斡旋所 エスパ支部』と書かれている。


クレイは建物の扉を開ける。カランコロンとベルのなる音を立てて、扉を開けると多くの人が椅子に座って飲み物を飲んだり、奥の掲示板に貼られている紙を見たりしている。酒場のようにも見えたが少し違うようでその中の多くの人は武器や防具を装備していた。


扉の音を聞き、何人かがクレイの方を向く。クレイはその視線を無視して奥の窓口のような場所に歩いていく。窓口に行くと職員らしき女性が声をかけてくる。


「ようこそ、メトリア斡旋所エスパ支部へ。ご依頼ですか?それとも登録ですか?」

「あーいや、ここには死亡報告に」

「死亡報告ですか?・・・・・少々お待ちください。」


そう言うと職員の女性は奥に入っていき、少しした後カウンターに戻ってきた。


「えーっと、すみませんが遺品などをご提示できますか?」

「これでいいか?」


革袋から取り出した"権利証"をカウンターに置く。それをじっと見た女性は驚きからか目を丸くした。


「これは・・・フロイドさんの、」

「「「「フロイド!?」」」」


声を大きくしたのは職員の女性ではなく周りにいた人たちだった。どうやら聞き耳を立てていたようで、立ち上がり数人の男がクレイの方に近づいてきて、声をかける。


「おいおい、坊主。冗談はやめとけよ。」

「そうだぜ!あのフロイドだぞ。この町にいるならお前も知ってるはずだろ。あの"閃光"のフロイド。その突きがあたかも光のようだって恐れられた男だ。そいつが死んだって?」

「いたずらじゃ済まねえぞ。痛い目あいてえのか!?」


随分と親しかったのか、それともそれほど強い人だったのか。どちらにせよ死んだのは事実だし、約束の報告は終わったとクレイは斡旋所を立ち去ろうとする。


「おい!どこ行く気だ!?」

「逃げようってならこの場で・・・!」


しかし、そうはいかせないとひとりの男がクレイの左肩を強くつかんで引き留めようとする。その掴んだ位置はその"閃光"により貫かれた今なお激痛を発している部分だった。


男たちのうるさい物言いに僅かながらイライラしていたクレイに対してこの行動は致命的だった。


こと怒りに関してはブレーキの効かないクレイは持っていた串でその男の手を突き刺そうと・・・


「おいおい、うるせえな。何やってやがる。」


ギシィ、ギシィと一歩ずつ階段を踏みしめる音の出しながら二階から一人の男が降りてくる。


年は30半ばと思える顔立ちに筋骨隆々の体つき。腰に大剣を差したその男は、大きな声を出し、クレイと男たちのいざこざに口を挟む。


クレイは声をした方をちらりと見るがすぐに興味をなくしたようにその傷口に触れる手を串で刺そうとするが、


「小僧、悪いがここでの争いはご法度でな。」


階段にいたはずの男はカウンターのそばのクレイのそばまで一瞬にして近づき、声をかける。クレイの足元で何かが落ちる音がして見ると、持っていたはずの木の串はクレイの手の中にある部分を残して床に落ちていた。その表面は鋭利な刃物で切られたかのようだった。


「グレイブ、お前」

「おう、ゲイル。悪いが手ぇ離してやれ。そこ怪我してるらしい。」

「あ、ああ。すまない。」


ゲイルと呼ばれた男はクレイの肩から手を離し、僅かにクレイから離れた。


「悪かったな、俺はグレイブ。お前名前は?」

「クレイ」


端的に答えたクレイに、グレイブは気を悪くした様子もなく声をかける。


「クレイというのか。それでこんなことになってる理由だが・・・」

「そうだ!グレイブ、この小僧がフロイドが死んだって・・・・!」

「お前には聞いて・・・・まて、フロイドが死んだ?小僧、本当のことか?」

「ああ、カムラン砂漠であいつのスケルトンと、」

「グレイブ!やっぱ嘘だろ!こんなヤツがカムラン砂漠なんて」


説明しようとしたクレイの言葉に興奮したようにゲイルが言葉を挟み、グレイブがそれをなだめる。


「言いたいことは分かるが落ち着け、ゲイル。・・・職員の嬢ちゃん、フロイドがなんの依頼受けてたか調べられるかい?」」

「へ?あ、はっ、はい。少々お待ちください。」


突然声をかけられた女性はグレイブの言葉に慌てて返事をして、またも奥の方へ入っていく。その間にクレイは気になっていたことをグレイブに尋ねることにした。


「フロイドってのは」

「ん?知らねえのか?フロイドは俺らの同業者だ。ここら辺では結構有名な方でな。最近は見てなかったが・・・。」

「分かりましたっ!」


グレイブの言葉の途中で女性が駆け足で戻ってきた。そして少しした後女性は一枚の書類を持ってきて、それを広げる。


「ええーっと、フロイドさんが受けていたのは”カムラン砂漠の神聖国への道の安全確保”の依頼ですね。依頼の受理は十日ほど前になっています。」

「そうかい。ありがとよ。・・・クレイよ、俺らから今教えられるのはこんなところだ。悪いが、教えてもらっていいか?権利証をどうやって手に入れたのか。」

「それはいいが・・・。」


クレイはそう前置きして話始める。出来るだけ簡潔に。もちろん自分が異端者であることをふせて。自分が砂漠を渡っていたこと。そこで鎧を着たスケルトンを見つけたこと。そのスケルトンが強かったこと。最後に自分に対していくつか言葉を残したこと。


話が終わるころには斡旋所の中にいくつかのすすり泣く音が聞こえていた。


「・・・とまあこんなとこだ。」

「な、なあやっぱり嘘なんじゃ・・・。」

「いや、嘘は言ってねえよ。辻褄もあってるしな。・・・じゃあ、あいつとの決着は死後の世界までお預けだな。」


グレイブはしんみりとつぶやいた後、職員の女性に「嬢ちゃん、死亡確認書を頼む。」と言うと女性はカウンターから一枚の書類を取り出し、書き始める。


「ありがとよ、クレイ。これであいつも少しは報われるだろう。」

「そうだといいな。それじゃあ俺はこれで。」

「ちょっと待て。何度も引き留めてすまないが、今度は少しお前に用が出来た。」

「?」

「俺と戦え、クレイ。死んでたとはいえフロイドを負かした実力を知りてえ。」


クレイが話を終えて斡旋所を出ようとするとグレイブから思いがけない提案を受ける。その提案に周りは少しざわめく。クレイはこの後の予定もなかったが、傷の件もありする必要はないと断ろうとする。


「・・・俺に利がない提案だな。」

「それもそうだが・・・。なら俺と戦って結果が良けりゃあ、お前に権利証の戦闘免許の推薦をしてやろう。」

「戦闘免許の推薦?」

「お前さん、本当に何も知らねえなあ。戦闘免許っつうのは・・・いやここら辺は本職に頼むのが早い。」


グレイブは職員の女性に「こいつの登録と説明を頼む。」と言うと、女性はカウンターからまた一枚新しい紙を取り出して、クレイの前に置く。ボソッと「仕事が多い」という女性の言葉が聞こえたが気にしない。


「ここに名前と年齢と生年月日をお願いします。文字は書けますか?」

「おい、俺はやるとは・・・。」

「とりあえず書け」


グレイブに言われ、渋々クレイは出された紙にに名前と誕生日を書き込む。その要素を見て職員の女性は安心したようだった。


「良かった。最近は文字の書けない人も多くて・・・。十歳から申請できるのですが、誰でもなれる都合上学校に行ってない人や基本教育を終えていない方もいるんですよ。」

「ん」


興味なさげなクレイが書き終えた紙を渡すと女性は「少々お待ちください。」と言って奥で何か作業をした後、クレイに銀色の金属の板を手渡される。金属の板には名前と年齢の数字が彫られている。


「それではご説明させていただきます。今お渡ししたものが権利証になります。権利証がなければご依頼を受けることは出来ません。紛失された場合は十万キュアで作り直すことができます。」


十万という値段から絶対になくすな、というあちら側の意志を感じる。


「斡旋所のご説明をさせていただきます。ここは名前の通り仕事を斡旋する場所です。一般の方からご依頼を受け取り、冒険者たちが仕事を受け、成功した場合に限り、斡旋所が提示した報酬を受け取ることが出来ます。」

「斡旋所には様々な依頼が来る。害獣退治や日雇いの労働から引っ越しの手伝いとか子供でも出来そうなものまである。だから十歳から登録自体は出来るんだ。」

「おい、"冒険"なんてしてる暇俺にゃねえ。悪いがこの話は・・・。」


何とかやめる口実をクレイが作ろうとしていたので、その思いが伝わったのか女性は困った顔をして、グレイブの方を見る。グレイブもよい手が思いつかないのかポリポリと頬を掻き、職員の女性に「なんとか説明を」と目くばせ。女性はため息をついた。


「"冒険者"などと銘打っておりますが、実際は斡旋した仕事を受けるだけです。元々は、学者などとともに"冒険"する護衛兼雑用の人たちが由来で・・・。」

「おい、嬢ちゃん。悪いが少し早くしてもらえるかい。」


グレイブは彼女の言葉に待ったをかける。女性は「あなたが頼んだんでしょう・・・」と非難のまなざしを向けるが、すぐに仕事用の笑顔でクレイの方に向き直る。


「権利証には名前、年齢の他に免許が彫られます。」

「免許?」

「はい。免許とは言うなれば”自分の出来ること”です。人に勉強を教える教育免許や馬車の使用が出来る馬術免許、戦闘技能を持つことを示す戦闘免許など様々なものがあります。免許は斡旋所での試験か免許所有者の推薦で取得することが出来ます。」


「もちろん利得はある。そもそも、免許を持っていなければ受けることの出来ない仕事がある。例としては、馬術免許を持っていれば、急な荷物の搬送などの速い移動手段が必要な依頼を受けることが出来たり、戦闘免許を持っていれば、危険な狩猟依頼などの受理がしやすくなります。」


女性の話にここからが本題だと言わんばかりグレイブが口を挟む。仕事を奪われた女性は軽くにらむが、グレイブは何食わぬ顔をする。


「次に、信頼を得やすいということです。免許持ちはただ出来ると言っている人とは違います。大きな発言権を得ますし、こちらも安心して依頼を任せられます。また、戦闘免許で言えば素材の買い取りで出所を信頼できるのでわずかではありますが売却持の価格をあげることが出来ます。」

「その換金ってのはどこでもできるのか?」

「ええ、もちろん。斡旋所は神聖国を除いた多くの国に支店がありますので」


クレイの目の色が変わる。クレイのこの先の問題の一つは金銭だった。仕事の出来ない今の状況ではいずれ手持ちは尽きる。だが換金が出来るのならばそこら辺で素材を手に入れて売ればある程度の金が手に入る。旅をするにしても斡旋所がどこにでもあるならばなお戦闘免許とやらを持っておくのは十分に利がある。


悩んだ様子になったクレイに対してグレイブは「ここだ!」と言わんばかりに提案をする。


「そういうわけだ。俺と勝負すりゃあ、戦闘免許の推薦してやる。勝てなくてもいい。実力見せてくれりゃあな。」

「・・・・・」

「免許がありゃ、いいことづくめだ。斡旋所で優遇されるし、なによりこれだ。」


グレイブは太い親指と人差し指で丸の形を作る。それでも悩み続けるクレイにグレイブは今度はニヤリと笑って挑発を加える。


「で、どうする?それとも逃げるか()()()


その言い方があまりにもあの時のフードの男に似ていたがためにクレイの怒りを買った。バッ!とグレイブの目を睨みつけ、青筋の立った顔で答えた。


「いいぜ、アンタの誘いに乗ってやる。」

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