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紅い約束と灰色の鎖は繋ぎとめて離さない  作者: 乃ノ木 ニトウ
序章~クレイの物語~
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姉の亡骸からゆっくり手を放し、クレイは地面にへたり込んだ。体に力が入らない。腹部の傷からはいまだに血が流れ続けている。


(これからどうしよう・・・。姉さんの身体、このまま置いていきたくはないなあ・・・。)


そんなことを考えているとガシャッ、ガシャッといくつか足音が聞こえてきた。同時に話し声も聞こえる。


「本当にこっちか!?」

「はっ、はい。間違いなくコズキさんの反応はここらで、途切れています。」

「コズキはなぜこんな場所に来ているんだ!?」

「分かりません。こちらには今朝情報の来た異端者の処分をとしか・・・。」


二人が話しているのが聞こえる。コズキとは死んでいる聖騎士のことで異端者とは俺たちのことだろう。なぜ聖騎士がここに?そんなことをクレイがぼんやり考えていると三人目の声が聞こえる。


「そもそもそんなことありえるんですか?機器の故障とか・・・。」

「今までそんなことは起こったことがない。聖騎士の反応が神兵板しんへいばんから消えるのは国から出た時と()()()()()()()()!このような街中で消えることはあり得ない。なぜ一人で行かせた!?」

「そっ、それはコズキさんが平民だから一人でいいと・・・。」


神兵板とは、聖騎士の居場所を示す道具である。正確には聖騎士の心のある場所を常時示すものであるため、その反応が消えるということは脳の動いていない状態、つまり死を意味する。


クレイは立ち上がることもなくその場でただじっとしていた。。現れた聖騎士は全員で5人だった。リーダーらしき聖騎士は目の前の惨状を見て驚きつつ、クレイに気づき、剣を向け問い詰める。


「貴様っ、ここで何があった!?言え!!」


そんな言葉に何も答えないクレイにさらに近づこうとすると、聖騎士の一人がクレイを指差して叫んだ。


「たっ、隊長。こいつです!!こいつが例の異端者です!!」

「なんだと!?」


他の聖騎士もすぐに各々の武器を手にかけクレイに向ける。


「貴様がそこの聖騎士を殺したのか!!」

「・・・あぁ、そうだ。」


クレイが隠すこともせず答えた。当然、聖騎士たちは怒り出す。


「お前っ、何をしたのかわかっているのか!?」

「異端者め、今すぐにでも殺してやる!!」

「隊長!!今すぐにでも許可を!!」

「待てっ、コズキを殺したやつだ。どんな力を持っているかわからん。お前たちは手を出すな!!俺が、」


怒り、様々な言葉をクレイに投げかける聖騎士たちを隊長と呼ばれた髭面の聖騎士が抑えようとする。


クレイは黙ってその様子を見ていた。彼は血を流しすぎたため、頭が回っていなかった。そんなクレイの様子が見下しているようで気に障ったのか遂に一人の聖騎士がクレイに近づき蹴り飛ばした。


「がはっ・・・」


腹を蹴り飛ばされ、クレイは吐血する。


「異端者がっ、よくもコズキさんを!あの人はなぁ、今朝お前たちの顔絵が贈られてきたときに嫌そうな顔したんだ!!あの人は子供は守るもんだからっていつも言っていたんだ!!それでも俺たちにそういう事をさせたくないからって!!一人で!!それなのにっ・・・!!」


蹴り飛ばした聖騎士の言葉はほとんどクレイの耳には入っていなかった。


「落ち着け、お前たちの言いたいことは分かる。だが私たちがすることは感情で殺すことではない。私たちがすることはコズキの意志を継ぎ、この異端者を救済してやることだ。」

「…そうですね、すみません。」


髭面の聖騎士は部下たちを落ち着かせる。部下の聖騎士は「お任せします」と言って少し後ろに下がった。倒れたクレイの首に剣が向けられる。


「待たせたな、異端者よ。・・・一つ聞きたいのだが、お前はどのようにしてそこの聖騎士を殺した。」

「・・・さあ、覚えていない。怒りに任せて殺したからな。」


クレイは挑発するように笑う。その言葉にまたも憤慨する者たちを制止させ、髭面の聖騎士はクレイの首の横に剣を突き刺す。突き刺された剣はクレイの首を掠め、いともたやすく石畳の地面に突き刺さった。


「いいか?我々に与えられた”聖剣”も”聖鎧”も神に与えられしものだ。そう簡単に傷の付くものではない。・・・いや。」


髭面の聖騎士は何かに気が付いたようで懐から懐中時計のようなものを取り出し、それを見やる。そして彼は驚いた顔をしたが徐々に不思議そうな顔をする。


「どうしましたか?早くこいつを」


一人の聖騎士が怒りを含んだ声で尋ねる。髭面の聖騎士はクレイの方へ目を向ける。


「お前、()()()だな。」

「「「「!!」」」」

「・・・?」


横で聞いていた聖騎士全員がさらにクレイに警戒を強める。すべての剣の刃をクレイが動けないほどに近づけ、慌てた様子で背中や四肢を抑え、クレイを拘束する。またも話の内容が分からないのはクレイのみである。


「隊長、暴走する前に処分許可を。」

「・・・しかし、なぜだ?神気計は権能二人分は測定できるはず。しかも、こんな死にかけの少年が?なぜ・・・・・・、」

「隊長!!」


突然考え込んだ隊長に一人の聖騎士が怒鳴る。明らかに様子がおかしい。今までは異端や仇という理由で向けられていた感情が全く別のものに変わる。隊長の聖騎士はすぐに正気を取り戻し、「ああ。」と短く答えて剣を地面から抜き、今度はクレイの首に剣を構える。


「よくわかった。なぜお前のような子供がコズキを殺せたのかをな。お前達は離れていろ。」

「そうか。・・・俺には・・・分からねえが。早くしろよ、もう・・・疲れた。」

「もう一つ聞かせろ。あの女は・・・。」

「知らねえ、な。」


(ようやく死ねる)


「・・・そうか。断罪の時だ。主よ、彼の死に救いを。」



剣が振り下ろされ、クレイの頭蓋骨を石畳が如く貫く。その瞬間・・・・・




「隊・・・長!?」


後ろに立っていた一人の聖騎士の声に髭面の聖騎士が振り返る。首から金属の刃が飛び出した彼は驚きの表情のまま倒れた。そしてその後ろに立つ人影が一つ。


「悪いな。」


男の声だ。フードを被ったその男は突き立てた刃を引き抜いた。。


その後フードの男は頭に向かって再度刃を突き立てると死んだであろう聖騎士をクレイの上から蹴り飛ばした。鎧を着た聖騎士の体は宙を舞い、壁に当たってそのまま動かなくなってしまった。


目の前で起こることに対して、死ぬはずだったクレイもクレイを囲んで抑えていた聖騎士たちも黙って見ていることしか出きなかった。理解できなかった。しかし、状況を飲み込めた聖騎士たちは武器の矛先をクレイからフードの男に向け、問いかける。


「貴様!何者だ!」


フードの男はそれには答えず、腰から抜いた二本の大きめのナイフを手に持った。それに対して聖騎士たちも武器を構え直し、戦闘態勢をとる。



そこからはクレイにとっては一瞬のことだった。何が起きたのかも分からなかった。気がついた時には命を奪われ、倒れる聖騎士たちと今まさに最後の聖騎士に対して刃を振るおうとするフードの男の姿だった。


「きっ、貴様っ!何が目的だ!?」

「・・・知る必要はない。」


聖騎士の言葉に対して一言だけ答えるとフードの男はそのままナイフを振るい、聖騎士の頭に突き刺す。聖騎士は頭から血を流し、そのまま動かなくなってしまう。


その後フードの男は「終わった。」と言った後ナイフの血を払いそれを腰の鞘にしまう。そしてクレイに近づく。


「・・・困難だった、な。」


独り言のようにも語り掛けるようにも聞こえる声を発し、フードの男はクレイの前に立ち、クレイに話しかける。


「おい、お前。生きているな?そのままだとお前は死ぬ。死にたくなければ、」

「俺に生きる気はない。」


クレイはかすれた声で言う。目の前の男が何を言っているのかわからない。だがクレイは目の前の男が人を殺すのを見て自分のしたことがどれだけ恐ろしいことなのか再度理解した。


しかしフードの男はクレイの言いたいことを理解していると言わんばかり話をする。


「お前は姉に言われていたではないか、生きろと。お前はそれに応えるべきではないか?」


クレイは自分は死ぬべきだと思いながらも、少しずつ男の言葉に惹かれていく。少しずつ生きたいと思い始めた。姉の分も生きると誓ったのだならば生きるべきではないか、そう思えてくる。それでも、


死にたいんだ。

「そうだろうな。」

罪を、償いたいんだ。

「わかっている。」


クレイは男の言葉を否定する。男はクレイを肯定する。

 

 殺してくれ

「それは出来ないな。・・・気乗りしないが」


見下ろすように立っていた彼はクレイの耳に口を近づける。


「それではお前の姉は無駄死にだぞ。」

「・・・なんだと?」


僅かに動いた口から発せられた言葉にフードの男は笑ったように思えた。


「お前は姉を犠牲にしてその力を得たのだ。しかしこんな()()()のために死ぬとはお前の姉は()()()()()()()のかもなあ。そう思わないか?」

「お前っ!!」


クレイの口から出ないはずの怒声が発せられる。この男を殴ろうと体を動かそうとするがピクリとも動かない。血の流れが速くなる。頭に血が上り、体がどんどん熱を持っていく。


「その通りだろう!?命をかけて守った男がこんな腰抜けで!一人で生きることが出来ない軟弱者であることも見抜けず!その命を無駄に散して!」


ドクン!ドクン!と心臓が強く脈を打ち続ける。


「死が罪滅ぼしになると本当に思っているのか!?さっきと一緒だ!目をそらして!己の弱さから逃げて!」


「姉の願いも!復讐も!なにも為せていないのに!なぜそんなことができる!?なぜっ!」

「ああああああああああっ!」


咆哮。クレイの肉体に熱が戻る。そして握りしめた拳を目の前の男に振るおうとし、

ガクン!と持ち上がりかけた体の力が抜ける。


「・・・ちく、しょう」


フードの男はクレイの傷口を見やる。血が止まったのを確認し、満足そうにニヤリと笑う。


「それでいいんだ。脈は・・・安定してるな。脳の酸素が足りてねえ。もっと血ィ回せ。おめえならできる・・・っとそろそろだな。」


フードの男はクレイの目の前に小さな水晶を落とす。


「そいつは死体を中に保存する道具だ。」


そういうと立ち上がり、自分のポケットから同じ水晶を取り出しクレイの横の聖騎士に当て、「収棺。」と小さな声で言う。

瞬間、死体を光が包むと、鎧ごと聖騎士が消えてしまった。フードの男は同じように周りの聖騎士たちを消していく。


「こうやって使う。死体以外を入れることはできない。完全に砕けば中のモノを出すことができる。こいつらは俺が処分する。姉はお前でどうにかしろ。」


クレイはそれを見て近くに置かれた水晶を拾おうとするが、砕けた手では拾うことが出来ない。それを見たフードの男は「ああ、それは出来ねえか。」と言って、クレイの前にしゃがむ。そしておもむろに砕けた右手を掴んだ。無理やり指を伸ばされ、あまりの激痛にクレイは短く悲鳴をあげる。暴れそうになるクレイをフードの男は空いた手で押さえつける。


「少し動くな。・・・”生育”。」


そうフードの男が言葉を発すると、痛みが少し和らぎ動くようになる。フードの男はクレイの左手にも同じように施す。


「治るのが早くしただけで完治したわけではない。あまり動かすな。」


「できるだけ早くこの国から出ろ。ここなら東の門が近い。門を出たらそのまま倒れるまでまっすぐ進め。できるだけ早くこの国から離れるんだ。」


フードの男は話しを終えると足早に去ろうとする。


「・・・なぜ、俺を助けた?」


クレイの言葉にフードの男は振り向き、少し考えるそぶりをした後フードを外した。黒い髪の男だった。振り返った目は赤く、右目をまたぐように一筋の傷跡があった。


「俺のためだ。それ以外に理由はない。」


そういうと深くフードを被った。


「それと、悪かったな。お前の姉はいい心を持っていた。」


そう言って男は消えた。



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