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紅い約束と灰色の鎖は繋ぎとめて離さない  作者: 乃ノ木 ニトウ
序章~クレイの物語~
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ぜってぇ勝つ 前編


「"血器生成(けっきせいせい)"」


 どろり、とクレイの手元に赤黒い液体が現れる。それは形を剣へと変えると液体の揺らぐ面が光沢を放つ紅い結晶へと姿が変わる。後にクレイの手に握られるのは真っ赤な2本の短剣。


 「ふっ!」とクレイは双剣をブラックドラゴンの前足へと振るう、が黒い鱗によって防がれ肉体には届かない。むしろバキッと2本の刃は根元から折れ、地面へと落ちる。


「ちっ、鱗は無理か。なら・・・・・」


 "血器生成"で再び短剣を作り出す。しかしクレイはそれを握らず空中へと浮かべる。手を照準を合わせるようにまっすぐドラゴンへと伸ばす。想像(イメージ)するのは衝撃。瞬間的に力を加えて物体を前へと飛ばす。引き絞った弓を放つように。


「"念射(ねんしゃ)"」


 クレイは"念力(ねんりき)"を一瞬だけ発動。弾かれるように飛び出した紅い短剣は宙を駆け、ドラゴンの鱗のない首元を襲う。鱗がなければあるいは・・・というクレイの目論見は外れ、それすらも強靭な肉体に弾かれる。


クレイは手は休めず、次の手を繰り出す。右手を構え、集中。今から繰り出すのはグレイブの隠れて編み出した技その1。ギュウっと右手を握りしめる。想像するのは血の鎧。


「斬撃がダメなら打撃だ・・・・・"血装(けっそう)"っ!」


 弾けるようにクレイの腕から噴き出した血液がとぐろを巻くようにクレイの腕にまとわれる。まるで金属。飾り気のない紅い籠手、ガントレットをまとったその拳を黒い壁へと打ち込む!


「おらぁ!!」


 ドン!


 まるで大砲でも打ち込まれたかのような衝撃に周りの草木は揺れ、黒い壁は僅かに傾く。クレイ渾身の一撃は黒い巨体を揺らす・・・がそれでも黒い鱗は傷つかない。そしてドラゴンはクレイのほうに目もくれずズシン、ズシンとゆっくりと木々をなぎ倒しながら町の方へと歩みを続ける。


 そしてそれだけではない。ガサガサと草の揺れる音を聞き、クレイは見上げていた顔を音のする方へと向ける。そこから現れたのは・・・・


「ギギャギャーーァ!!」

「ワイドエイプ?・・・・面倒な!」


 声をあげながら現れたのは腕の長い猿型の魔獣、ワイドエイプ。しかも2体。目を血走らせ、長い腕を鞭のようにしならせ振りかぶってくるそいつらに対してクレイは"血装"を二振りの短剣へと変形させ、振るう。ブシャッと二匹のワイドエイプの首元から血が噴き出し、そのまま倒れ動かなくなる。クレイはその様子を見て考える。


(本で読んだことがある。自然災害や強い心獣の移動の気に()()()()()生物がパニックを起こして一時的な暴走状態になることがあるらしい。この森にはそこそこの数の心獣はいるがドラゴンより強いのなんざ滅多にいねぇ、とすると)


「・・・まずいな」


 一匹一匹は弱くても倒すのには時間がかかる。かといってブラックドラゴンをすぐに倒せるほどの技があるはずもない。力が、そして手が足りていない。


「だがやめるわけにはいかねぇ」


 守ると決めたから。そしてなによりこんなところで負けるようなやつが聖騎士相手に勝てるはずもない。ゆえに、逃げることはない。


 "血流操作"によって足を強化。地面を蹴って飛び上がる。飛び上がった先でクレイとブラックドラゴンは向かい合う。正確に言えばクレイが一方的に見ただけ。なにしろ目の前の自分の頭の大きさ程もある紅い目玉、その奥の瞳はクレイのことを見ていなかった。


「まずはこっちに目ェ向けさせてやるよ」


 そう言ってクレイは左手、その人差し指の指先をドラゴンの方へと向ける。そして"血流操作"によってその先へと血液を集中させる。


(いくぞ、グレイブ(あいつ)に隠していた奥の手!)


 クレイの体には短期間での"血流操作"の副作用によって血管と外部が繋がる肉眼で見えないほどの小さな穴が出来ていた。"血栓(けっせん)"と言えるそれは"念力"によって開かれる。"血器生成"も"血装"もこの穴から血液を取り出している。


 今までクレイは血液を使うためににじませるように血液を取り出していた。しかし今回は違う。膨れ上がった風船を割るように、蛇口を思い切り開くように"念力"で圧縮した血液を放つ。高圧で圧縮されたそれが極小の穴から噴出されたときすべてを切り裂く

斬撃(レーザー)となる!


穿(うが)て、"()()"ッ!」


 シュパッ!と空気を破って放たれた血液はドラゴンへと一直線で向かっていく。狙うは鱗のない目玉。音速を越えた水圧の斬撃はこちらを見ない目を貫こうと・・・・・


「なっ・・・」


 ぐいっとドラゴンが首をひねらせる。指先から放たれた紅い斬撃は空を切り、後ろの巨木数本をズガガガガッと音を立てて削り、穴をあける。


(避けやがった!)


 避けられた奥の手。しかしこれでこちらに目を向けられたかと思ったその時、浮かび上がった右の前足がブウォン!と轟音を鳴らしながらクレイへと振るわれる。


「!っ、"血器変形(けっきへんけい)"!!」


 咄嗟にクレイは右手に持っていた短剣を丸盾へと変え、振るわれるドラゴンの腕へと構える。しかしそれで防げるはずもなく、クレイの拳の何倍かも分からない威力の衝撃とともにまるでハエでもはたくかのように吹き飛ばされる。吹き飛ばされたクレイはあっけなく地面へと叩き落とされる。


「がはっ!」


 数本の骨が折れ、空気を吐き出される感覚。しかしクレイの災難はそれだけに留まらない。


 待ち伏せていたかのように落下地にいたワイドエイプ数体に身体を抑えられる。振り払おうにも"血ノ矢"の反動で左腕がうまく動かない。ギャアギャアをわめくワイドエイプたち。


(くそっ、こうなったら暴走してでも・・・・)


 ここで終わるまいとクレイがこの状況への怒りから自分の理性のスイッチを切ろうとしたそのとき・・・


「"風鎌(かぜかま)"ぁ!」


 クレイの肌を撫でるように風が吹き、クレイを抑えていたワイドエイプの首が飛ぶ。残された毛むくじゃらの体を蹴り飛ばしてクレイの前に現れたゲイルは倒れるクレイを見下ろす。


「クレイ!こんなところでなにしていやがる!?メアリーちゃんが心配してたぞ!」

「それどころじゃ・・・・っ、ゲイル!後ろ!」


 生きているクレイが目障りだったのか今まで振るう事のなかったドラゴンの爪が二人へと振り下ろされる。しかし、そばからもう一つ人影が現れ、持っている大盾でその爪をガキン!と金属音を響かせ弾き返す。


「ゲイル!しゃべってる暇ねぇだろ!」

「うるっせえ、タング!おめえが歩くの遅ぇからこうなったんだろ!」


 遅れてやってきた大盾を持つ男性、タングの言葉にゲイルは喧嘩腰で返す。


「なんにせよ無事でよかったぜ。もうすぐ増援も来る。お前は、」

「いや・・・・そいつらは、町に向かう魔獣の対処に。こいつは俺らだけでやる」


 クレイはゲイルに支えられながら立ち上がる。そんな見るからにボロボロのクレイにゲイルは


「俺らだけってお前・・・・・」

「バッカ、お前。そんな体でどうしようってんだ!第一、ブラックドラゴンだぞ!?俺らだけでどうにかなるわけねえだろ!」

「分かってる。だがこいつは足は遅い。それより森の魔獣たちがドラゴン(こいつ)のせいでパニックになってんだ。さすがに同時にはできねぇ」


 実力差が見えていない訳ではないことに安心するゲイル。タングはなおクレイにつっかかる。無論嫌がれせではなく、クレイの体を気遣ってである。


「たとえ足止め出来たとしてその後はどうしようってんだよ!?」

「悔しいガ・・・・・あいつを頼る。あいつならこのことを知ればすぐにデも戻ってくるはずだ。それまで町に被害のデないところでとどめておケばいい」


 あの"人類最強"も俺と同じ、二度と同じ目にあうものかと思っているはずだから。


「あいつの代わりに俺がマモらなくちゃならネぇんだ」


 タングは「強情なヤツめ」と呆れたように言う。しかし一応は納得したようで文句はもう言わなかった。

 だが、ゲイルは違った。作戦に不満があるわけではない。むしろ敵との実力差を鑑みた正しい判断だとは思っている。ただ・・・・


(まずいな・・・・()()の予兆が出ていやがる)


 前しか見えていない目、浮かび上がる血管、歪んだように聞こえる言葉。クレイが暴走に近い状態なのは見えている。


(だがコイツ抜きでやれるか?いや、だが万が一暴走でもすれば・・・)


 今や数週で相当な実力になったクレイでもほとんど歯が立たない相手。思考の果てにゲイルは、はぁとため息をついて、クレイに言う。


「てめえはあと一撃だけだ。その怪我じゃあまともに動けないだろ。かといって軽い攻撃は意味がない。だから俺たちがひきつけるからお前は隙を見てあと一撃食らわせろ。もしそれでお前の方を向けば、おとりとして町とは逆側に。無視されれば町に戻り報告・・・・・これでいいな?」

「・・・・・・・・・・・分かった」


 渋々といった感じではあったがクレイの素直な返事に、突っ込むだけの馬鹿じゃないなと感心しながら腰の双鎌の柄を握る。




 




 

 

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